傀儡妃は幼馴染の王太子をひたすら愛する

田鶴

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第2章 傀儡の王太子妃

41.噂

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 ペトラは正式にルイトポルト付きの侍女になり、何度か例の香の耐性訓練の相手をした。ルイトポルトは、本当は耐性訓練という名の下でも妻以外と疑似性交をしたくなくてアントンに抗議したが、閨偽装とハニートラップ対策のためと言いくるめられてしまった。幸いな事に2回目以降、ルイトポルトは香を焚いていても徐々に正気を保てるようになり、ペトラに挿入する羽目にはならなかった。だが、ペトラが独りでルイトポルトの私室に出入りするのを誰かに見られたようで、ペトラが愛人だという噂が王宮に広まってしまった。

 パトリツィアの侍女は、以前の事があってからルイトポルトが慎重に選んでおり、ペトラの噂が王宮中に広まっても当初はパトリツィアの耳に入らなかった。だがそれも時間の問題だった。

 ある早朝、パトリツィアは思いがけず早起きしてしまって王宮の中を散策していた。王宮の下働きの者達は、高貴な人々の前に姿を現さないように努めているが、早朝は貴人との遭遇率が少なく、下働きの者達は気楽に噂話をしながら仕事をしている。その日の早朝もワゴンに山盛りのリネン類を乗せて運びながら、洗濯係の下女達が噂話に花を咲かせていた。

「ちょっと聞いて! 今朝も王太子様の寝室のシーツにべったりと精液と愛液が付いてたの!」
「せ、せ……キャー!」
「またまた、かまととぶって!」
「昨晩はお妃様と閨の日じゃないし、第一、王太子様はお妃様とはご夫婦の寝室でヤるから、昨晩は噂の愛人とだよね」
「王太子様もお盛んよねぇ。あんなに溺愛しているお妃様と結婚されたばかりなのに、平民の侍女ともセックスしてるなんて不思議ね」
「男のさがよ!」
「男なんて皆、高貴だろうと庶民だろうと変わんないって事だよね」
「あんたんとこの旦那と同じね!」
「違うわよ! そう言えば、お妃様との時ってシーツにそんなにべったり体液ついてないよね」
「本当はヤってないとか?」
「どうして? 溺愛してるんでしょ?」
「王太子様とお妃様のお父様の宰相閣下って犬猿の仲だっていうじゃない。もしかしたら王太子様は溺愛の振りしてるだけかもよ」
「そうなの? じゃあ、お妃様を溺愛してるってのは嘘なんだ?」

 パトリツィアは下女達の噂話を聞いて顔が真っ青になって立っているのがやっとになった。下女達にパトリツィアがその『王妃様』だと露見するのが嫌で隠れようと思ったのだが、足がガクガクしてしまって動かなかった。幸いにも、山盛りの洗濯物が下女達の視界を遮ってくれたのと、パトリツィアが簡素な服装をしていた事で下女達には気付かれなかった。

 この噂は宰相ベネディクトの耳にももちろんすぐに入り、ルイトポルトに苦言を呈しにまた執務室にやって来た。

「人払いをお願いします」
「アントンは私の信頼する側近だ。3人で聞いてもいいだろう?」
「だからこそ人払いをお願いします」

 ベネディクトはソファに座って腕組みしたまま黙っており、アントンが部屋を出ない限り無言で居座る姿勢を示した。ルイトポルトは仕方なくアントンに目配せし、退出させた。扉が閉まると同時に、ベネディクトは憤懣やるかたない様子でルイトポルトを激しく非難した。

「あの噂は何ですか?! 私のを抱かずにどこの馬の骨とも分からない平民の侍女風情を抱いているとは嘆かわしい! こんな話がパトリツィアの耳に入ったら……悲観して儚くなってしまうかもしれませんね」
「そ、そんな事はさせない!」
「そんな事に追い込んでいるのは殿下でしょう? 万一そうなったら悲しい事ですが、王国唯一の世継ぎの太子の妃として心が強くなかった証拠です。王太子殿下の妃に相応しくないでしょう。よろしければ後添えをご用意しますよ」
「それには及ばない! パトリツィアは生きている! 彼女が私の妃だ! もう帰ってくれ、次の予定がある!」
「それならパトリツィアを抱いて早く妊娠させるしかありませんね!」

 ルイトポルトは執務室の扉を開け、廊下にいたアントンと護衛騎士達に『宰相のお帰りだ』と告げてベネディクトに強制的に退室を促した。ベネディクトは、アントンをギロリと睨んでその場を去って行った。
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