傀儡妃は幼馴染の王太子をひたすら愛する

田鶴

文字の大きさ
72 / 72
第4章 逃亡

71.旅商人の危機

しおりを挟む
 盗賊が少女と男性に銃を突きつけたので、彼らの護衛達は抵抗をやめた。

 パトリツィアとラファエルは、息を呑んだ。パトリツィアは、思わず叫びそうになってしまったが、すぐに手で口をふさいで小声でナディーンに話しかけた。

「あ……! あの親子が危ないわ。一般人は銃の保有が禁止されているはずなのに」
「地下で流通しているのです。心配されなくても、盗賊達は貴重品と現金のありかを聞いて奪ったら、あの親子を解放すると思います。弾丸は高級品ですし、余計な人殺しを重ねれば、捕まった時に待っているのは死刑です」
「でも、本当にあの人達が生きたまま解放されるとは思えないわ。ねえ、ナディーン、ゲオルグ、お願い。あの親子を助けて」
「いいえ、ダメです。余計なことに首を突っ込んで人目についたら困ります」
「ナディーン、ゲオルグ、そんなヒドイよ。どうしてもダメなの?」

 ラファエルも目をウルウルさせてナディーンとゲオルグに訴えたが、ナディーンは頑なだった。それでパトリツィアは、良い考えを思いついた。

「そうだ! あの女の子の父親みたいな男の人は商人でしょう? あの人達を助けて隊商に入れてもらったら、国境を安全に超えられるんじゃないかしら? ねえ、お願い、ナディーン、ゲオルグ!」
「そうだよ、そうすれば皆、助かるよね? ねえ、そうしようよ!」
「早くしないとあの人達が危ないわ。お願い!」

 パトリツィアとラファエルのあまりの懇願にとうとうナディーンは根負けした。

「はぁ……お嬢様、仕方ありませんね。ゲオルグ、私が合図をしたら、左側の2人を立て続けに撃ってちょうだい。私も同時に人質を捕まえている男とその右側の男を狙撃するわ」

 ナディーンとゲオルグは、公爵家で銃の保有の許可を得ており、銃の扱いには慣れている。彼女は、表向き侍女として勤務していたが、実は息子のゲオルグ同様、公爵家子飼いの影だった。2人は、陰の任務をこなす一方、元宰相が父親の役割を放棄していた公爵家でパトリツィア姉弟の保護者のような役割を担っていた。

 盗賊達は、顔を布で隠しているが、最近国境付近で出没する盗賊団に違いない。だが意外にも大人数ではなく、ここにいるのはたったの4人だ。それでも商人の護衛らしき者達は2人だけなので、主人親子を守りながら戦うのは不利で、結局、2人を人質にとられてしまっている。

 ゲオルグは盗賊達を茂みの隙間から覗き見てナディーンに尋ねた。

「母上、急所を外すのか? それとも殺すのか?」
「一気にやってちょうだい。下手に急所を外したら、お嬢様と坊ちゃまが危ない」
「えっ、ナディーン、盗賊達を殺しちゃうの? それはちょっとやり過ぎよ」
「いいですか、お嬢様、どっちが生きるか死ぬかの瀬戸際なのです。自分達を殺そうとする人間に情けは不要です」
「でもあの盗賊達は、私達を殺そうとしてないわ」
「そうだよ、ナディーン。いくら盗賊でも殺すのはやりすぎだよ」
「私達が急所を外したら、反撃してくるでしょう。そうしたら、お嬢様とお坊ちゃまを守らなくてはならない私達が不利です」

 それでもパトリツィアとラファエルが納得する様子はなかった。

 その間にも盗賊達は、商人を脅して何かを聞いては荷馬車を物色していた。馬車ごと奪うのは人目につくため、小さくて価値の高い商品と現金を奪うのが彼らの定石だ。それが終わったら、もしかしたら彼らは人質を殺すかもしれない。

「お嬢様、こうして口論している間に人質が殺されるかもしれないのですよ。このままあの親子を見捨てていくのと同じことになってしまいます」
「でも盗賊達は商品を盗んだら、人質を解放するってナディーンは思うんでしょう? それなら、盗賊達を負傷させてあの親子が逃げられるようにしてあげるだけでいいじゃないの?」
「はぁ、お嬢様……どちらにしても盗賊があの親子を解放するなら、私達が介入する必要はないですよね?」
「え? だって商品やお金を取られちゃったら、かわいそうじゃない」
「お嬢様、これからの厳しい逃亡生活で赤の他人に情けをかける余裕はないのですよ」
「ナディーン?!」

 ナディーンは、もはやパトリツィアとラファエルを見ていなかった。彼女が何も言わずにゲオルグと目配せをした直後、発砲音が数発鳴り響いた。盗賊達は、続けざまに頭を打ち抜かれていた。人質の男性の頭に銃を突きつけていた盗賊は、銃を落としてばったりと倒れ、他の盗賊達も地面に転がっていた。

「ひいっ?! 盗賊が……! し、死んでいる! わ、私達は、助かった……のか?」
「お父様ぁ! 怖かったぁ!! うわああーん、ひっく、ひっく……」

 突然、どこからか弾丸が飛んできて目の前の盗賊達が殺されたのを見て人質の親子らしき2人は、震えあがった。だが、謎の助っ人が彼らを攻撃してこないのが分かると、脱力してその場にへなへなと崩れ落ちた。それに加え、娘と思しき少女は、緊張の糸が切れて大声で泣き出した。

「ご主人様、お怪我はありませんか?!」

 護衛達は、辺りを警戒しながら主人達に近寄って声をかけた。謎の助っ人の意図が分からなければ、彼らも警戒を解くわけにいかない。だが、しばらく経っても何も起きないので、謎の助っ人は隊商を攻撃するつもりはないらしい。それでも正体不明の助っ人は気味が悪い。

「どこかに隠れているんでしょう? 俺達を攻撃するつもりはないですよね? 出て来てくれませんか?」
「助けてくれてありがとうございました。お礼を言いたいので、出てきてくださいませんか?」

 護衛達も隊商の主人も辺りを見回して謎の助っ人に声をかけた。

「はい……」
「お待ちください!」

 護衛や商人の掛け声を聞いてパトリツィアが出て行こうしたが、ナディーンはとっさに彼女の腕を掴んで止めた。

------

 グダグダ言っている間に人質が殺されちゃうよとツッコミたくなるかもしれませんが、ご勘弁ください。
 射程距離もよく分からないので、銃に関してはふんわり設定です。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

あわま
2025.10.03 あわま

わがままなお願いにも関わらず掲載して下さり本当にありがとうございます!とっても嬉しいです♪
ルイトポルトとパトリツィアが大好きでずっと見守っていました。
気長にお話しを待っていますので、どうぞよろしくお願い致します^_^

2025.10.04 田鶴

こちらにもコメントありがとうございます。
主人公カップルを好きと言っていただけて作者冥利に尽きます。
今後も頑張って投稿しますので、よろしくお願いいたします。

解除

あなたにおすすめの小説

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

私を大切にしなかった貴方が、なぜ今さら許されると思ったの?

佐藤 美奈
恋愛
財力に乏しい貴族の家柄の娘エリザベート・フェルナンドは、ハリントン伯爵家の嫡男ヴィクトルとの婚約に胸をときめかせていた。 母シャーロット・フェルナンドの微笑みに祝福を感じながらも、その奥に隠された思惑を理解することはできなかった。 やがて訪れるフェルナンド家とハリントン家の正式な顔合わせの席。その場で起こる残酷な出来事を、エリザベートはまだ知る由もなかった。 魔法とファンタジーの要素が少し漂う日常の中で、周りはほのぼのとした雰囲気に包まれていた。 腹が立つ相手はみんなざまぁ! 上流階級の名家が没落。皇帝、皇后、イケメン皇太子、生意気な態度の皇女に仕返しだ! 貧乏な男爵家の力を思い知れ!  真の姿はクロイツベルク陛下、神聖なる至高の存在。

婚約した幼馴染の彼と妹がベッドで寝てた。婚約破棄は嫌だと泣き叫んで復縁をしつこく迫る。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のオリビアは幼馴染と婚約して限りない喜びに満ちていました。相手はアルフィ皇太子殿下です。二人は心から幸福を感じている。 しかし、オリビアが聖女に選ばれてから会える時間が減っていく。それに対してアルフィは不満でした。オリビアも彼といる時間を大切にしたいと言う思いでしたが、心にすれ違いを生じてしまう。 そんな時、オリビアは過密スケジュールで約束していたデートを直前で取り消してしまい、アルフィと喧嘩になる。気を取り直して再びアルフィに謝りに行きますが……

彼女よりも幼馴染を溺愛して優先の彼と結婚するか悩む

佐藤 美奈
恋愛
公爵家の広大な庭園。その奥まった一角に佇む白いガゼボで、私はひとり思い悩んでいた。 私の名はニーナ・フォン・ローゼンベルク。名門ローゼンベルク家の令嬢として、若き騎士アンドレ・フォン・ヴァルシュタインとの婚約がすでに決まっている。けれど、その婚約に心からの喜びを感じることができずにいた。 理由はただ一つ。彼の幼馴染であるキャンディ・フォン・リエーヌ子爵令嬢の存在。 アンドレは、彼女がすべてであるかのように振る舞い、いついかなる時も彼女の望みを最優先にする。婚約者である私の気持ちなど、まるで見えていないかのように。 そして、アンドレはようやく自分の至らなさに気づくこととなった。 失われたニーナの心を取り戻すため、彼は様々なイベントであらゆる方法を試みることを決意する。その思いは、ただ一つ、彼女の笑顔を再び見ることに他ならなかった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。