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「まずは宿探しからするか、まだ昼ちょい前位か
今のうちに宿を見付けとかないと後が大変だからな」
「分かった」
解析で探せば早いがここは定番通りに適当なところを目指す
なぜかって?そっちの方が面白いからに決まっている

二人で今日泊まる場所を探す
そこまで選択肢はないので早く決まる
「ここにしない?」
そこは新しく建てたばかりの建物なのか綺麗な建物だった
「確かにここならいいかもな。よし、入るか」
「二人でお泊りだね」
「部屋は別だけどな」
「そうなの?あんまり出費を出さないために二人同じ部屋の方がいいんじゃない?それにこれからの予定も話したいし、今まで話せなかった分いっぱい話したい」
そこまで言われるような事してないんだけどな。ボッチに話しかけて懐かれるなんて物語の中だけだろ

仕方がないので同じ部屋をとる、もちろんベットは別々だ
「同じでもいいのに」
部屋を取っているときに後ろから声が聞こえたが気にしないことにした

「さてと、じゃあこれからの予定を決めるか」
「はーい」
「俺たちはゆっくりと観光を楽しむからあんまり予定を入れないようにな。学校の修学旅行みたいに分刻みのスケジュールなんかごめんだぞ」
小学校や中学校の予定の組み方はなんであんなに変な組み方をするんだろうな

「なら、どこに行くっていうより行きたくない場所を調べた方が良いかもしれないね」
「確かにな、でも出来ればこの世界全部の国を回りたいって思ってるからな。近くから順に巡ろうぜ」
「了解。この近くからなら馬車で4日位の場所に鉱山都市があるんだって」
「鉱山都市?」
「いろんな鉱石の採れるダンジョンが何個かある都市みたいだよ」
ダンジョンが都市の中にあるのか、ならそこに行ってみるのも良いかな

「でも、今はこの村を観光しようぜ」
せっかくの農村だ、のんびりした雰囲気を体験するのもまた良いだろう
「じゃあ早速遊びにいこ」グイッグイッ
子供のように腕を引っ張りながら早く行こうとせがむ
「分かったから引っ張るな」
「行こ行こ」
結局腕を組んで観光を始めることになってしまった、何度か離すように言ったがその度に寂しそうにするのでこのままで良いかと思うようになった

村に出て気づいたのは野菜の育て方が随分違うことだ
この世界の食べ物は結構日本と似ていた。野菜は日本の方が美味しいが肉や魚は圧倒的にこっちの方が美味しい

その野菜はトマトやナスなどが枝から出来ているのは分かるが、根菜類である人参やじゃがいもなんかもすべて枝からできていた

あんなんで育つんだからやっぱり異世界の野菜ってことか
見た目や味はほとんど同じなのに世界が違えば違うもんだな

「やっぱり気になるよね。あんな風に野菜が成るんだからビックリだよね」
御堂も同じことを思っていたようだ
「あっ!見てみて!あれ!」
ん?
指差した先に居たのは、小さなライオンだった

「ライオン?なんでこんなところに」
「可愛いね!こんなに小さいライオン見たことないよ!」
そのライオンのサイズは大人の小型犬位しかなく、でも|鬣(たてがみ)はしっかりしているので大人なのだろう
「おいでーおいでー」
しゃがんで手招きをする御堂、その手には干し肉を持っていた。って餌付けか!!

「来たよ!ほーら、お食べー」
来たのかよ!普通に干し肉食ってるし!
小さなライオンは御堂の手から干し肉を食べている。下に置かなくても手ずからでも良いなんて人馴れしているようだ
「可愛いね~」
「うるさい雌だな」
「「え!?」」
「ふん、我と初めて会うものは必ずその反応をするな」
小さなライオンは普通に話せるライオンだった
「ちなみに我はライオンではない!魔物の頂点に立つ王だ」
器用に後ろ足だけで立ち、胸を張るポーズをとる
「百獣の王ってことかな?」
御堂の話し方が小さな子供に話すような口調になっている
目線を合わせようとしているのか小さく屈んでいる

「その言い回し、気に入った
百獣の王か……なかなかセンスが良いではないか人間の雌よ」
ずっと胸を張った格好で直立しているので足がプルプルし始めている。それでもやめずに上から目線にものを言うのは威張りたいからだろうか
御堂がすっと立ち上がり耳元に顔を近づけて
「百獣の王って言わない方がよかったかな?」

いきなり近づくな、思わずドキッとするだろうが!
いかんな。今まで女子とここまで接することなんか無かったから刺激が強いな
「別に良いんじゃないか?それで何かが変わるわけでもないしな」
「そうだよね。よかった
お名前はあるの?百獣の王君」
完全に扱いが小さな子供と一緒だな。それにしても案外面倒見は良いのかもしれんな

「ふん、我の名を聞きたいと言うか。よかろう
我が名はウルイ。すべてを支配出来るガウの一員だ」
ガウ?なんだそれ
「ウルイ君ガウってなに?」
おおー、御堂が俺の代わりに聞いてくれるので随分楽ができるな。仲間にして正解だったかもしれんな
そんな御堂にとってはショックなことを考えていたら
「ガウすら知らんとはな、人間は無知よの」
ちょっと腹立ってきたなぶっ潰すか?
「ごめんね無知で、教えてくれる?」
本当慣れてるな

「良いだろう。ガウとは様々な種族の強者達を集めた反魔族連合の総称だ
我はここに新たな同士を探しに来ていたのだ」ペタン
限界がきたのか二足から四足に戻った。しかし、後ろ足が疲れすぎたのかおしりを地面におろし座っているので見た目は完全に犬のお座り状態になった

「そっかー偉いねー」ナデナデ
「フッフッフッ。そうだろうそうだろう、我は王だからな」
王なら手下を動かせば良いだけなんだが……言わないでおいてやるか、何か威張りたいみたいだし。御堂に撫でられてる時点で威厳もくそもない気がしなくもないが
「王様は一人なの?お仲間たちは?」
「うぐっ」
精神ダメージが入ったのか、足を大きく開きお腹が地面に着くポーズになった
あーあ、言っちゃったよ。あえて言わなかったのに言っちゃったよ
「う、うるさい!我は心優しき王だから配下をむやみに動かしたりなどしないのだ!」
それは配下としてはどうなんだ?そもそもこんな奴が本当に王なのかどうかすら怪しいが

「ちょっとこっち来い」
御堂を引っ張り少し離れたところで話す
「なに?」
「なに?じゃない!多分あいつはガウって所でも仲間がいないんじゃないかって思ってな。あんまりそう言うこと言ってやんな、いいな?」
「はーい」
これで大丈夫だろ。そろそろ観光の続きをしたいから早く終わらせてもらおう
「御堂そろそろ終わりだ次に行くぞ」
「分かったよ。じゃあそろそろ私たちは行くね。ま「決めた!」た‥ね?」

突然ウルイが叫びだした。地面に突っ伏した格好のままだが
「お主達をガウの本拠地に案内する。ついてこい」
何とか立ち上がって移動を開始した
「どうする?」
「ついてってみようよ。不思議な体験は観光の醍醐味でしょ?」
「そうなのか?」
「そうなの!」
言い切られてはしょうがないのでついて行くことにする

ウルイの後をついていくと
「ここから行けるぞ」
道の端に置いてある祠のようなものの石の扉を尻尾を使って器用に開けると青い光を放つ魔方陣があった
「さあ、我がガウの本拠地へいざ行かん」
魔方陣に触れると一瞬で姿が消えた
「私たちも行こっか」「ああ」
魔方陣に触れる

一瞬の浮遊感のあとに目を開けると、そこには凄まじい数の生物[人間、亜人、魔物、等々]がいた
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