上 下
3 / 3

人魚

しおりを挟む
すみませんねお客さん、もう閉店の予定なのですよ。水が欲しい?まぁ水くらいなら出せますけど、ってお客さんどうしてそんなにずぶ濡れに?私人じゃないの、ってまたまたご冗談を。ふむ、なにやら思い詰めてるようですね。とりあえず座りましょうか。ではお客さんには閉店後特別メニュー『涙』でも提供しましょうかね。なに、心配いりませんよ、お代は結構です。今宵の『涙』はそうですね『人魚』なんてどうでしょう。


『人魚』
私ね、人間じゃないのって言ってもみんな信じてなんかくれないけどね。でも確かに私にはヒレだった過去があるのよ?まだ人魚だった時、私は好きな人がいたの。でも物語の人魚姫みたいに人間ではなくてよ。私が好きだったのは海の魚だったの。彼の泳ぐ姿がたまらなく好きでね。どうしても彼を手に入れたいと恋焦がれてたのよ。
 でもね彼は食べられたの。人間に。私は彼が網にかかるのを見るしかできなかった。だって私は人魚がいるとばれる訳には行かないし、何も助けられなかったの。彼は死ぬ直前に教えてくれたわ。人間の存在を。
 だからね私人間になろうと思ったの。復讐をしようと。でもねいざ行ってみると人間って優しいものね。家も貸してくれるしご飯もくれる。ただそれでも彼らは魚を食べるから許せなくてね。そのことを許せない自分も許せなかったわ。
 だから私死ぬことにしたの。
 人間になった人魚はどうなるか知らなかったけど私は泡になったわ。
不思議よね。人間を愛した彼女と復讐することにした私。まったく逆なのに泡になったのよ。
だけどね後悔はないわ
さようなら、愛する人


いかがでしたか?随分さっぱりした顔をしてますね。またのご来店お待ちしてますよお客さん。今宵、海の泡が増えないことを祈ってます。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...