吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

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雪女と濡れ女

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「一応これも仕事なんですが、あの娘もう完全に私怨で動いていますね」

元々、今回の依頼は断波海水浴場で頻発している不自然な水難事故の原因究明及びその解決。

眼の前の金髪爆乳が一連の事件の犯人であるといった確証が有る訳では無いが、恋人(っぽく見える人物)と二人でいる所を襲われるという事前に聞かされていた状況に合致している。

その点から見ても十中八九あの金髪爆乳が関わっているものと思われるが、その辺りも直接本人に確認したい所なのだが。

「いやぁ、つーかあれやりすぎなんじゃ…………。まだあの金髪からなんの話も聞いてないんだけど」

「そういう心配なら必要ないかと」

「え?」

金髪痴女には及ばないがそれでも充分に豊満な肉体を持つ璃亜が二人の激突を指し示す。

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一言で表すならば真っ二つ。

四字熟語で表すなら一刀両断、といった具合だ。

今まさに瑞々しい肌を無残にも引き裂かれた金髪の女。

唯の人間なら当然。たとえ妖怪だったとしても何かしら特別な性質をしていない限り身体を両断されるというのは致命的な損傷になりうる。

そして確かに金髪痴女は氷剣によって上半身から下半身、ヘソの辺りで上下に寸断された。

「はっはっはー! ざまぁ見なさい。これでまた一歩! 少しばかり大きいだけで持て囃される。そしてその煽りを受けて平均ラインのサイズが皆貧乳と虐げられる歪んだ世界を正すことが出来たわ!! 結局あんたが何者で何が目的だったか分からずじまいだったけど今となってはそんな事どうだってい―――――い?」

へそから下を失った金髪痴女の上半身、その切断面から夥しい量の液体が溢れていく。

だがそれは赤黒く鉄錆臭いものでは無く透明で微かだが潮の香りがするものだった。

そして海面へと流れ落ちる液体が、切断された下半身に代わりその肉感的なボディを支える柱となっていた。

「あぁんもう、お姉さんR18指定な展開は好みだけどグロは専門外だって…………いやでもこれはこれで自分の下半身がイイように弄ばれているのを正面から見ながらアレやコレやを咥えたりっていうのもなかなか面白そうかもしれないわね」

だが当の本人はなにやら新境地の発見に心踊らせているらしい。

自らをその状況に追い込んだ氷柱の事は既に意識から外れているのか、妄想世界にトリップしたまま戻ってくる気配が無い。

「どうやら単純な物理攻撃では効果が薄いようですね」

「海辺で女の妖怪っていうと濡れ女や磯女、大穴で海女房あたりか」

恍惚の表情を浮かべる全裸の爆乳(上半身)を氷剣で滅多斬りにする雪女。

「ちょっとアンタら呑気に分析してる場合か!!」

両手の氷剣を振り回しながら鬼の形相で睨みつけてくる。

「そうは言っても――――っと!!」

言われたからには仕方なくという体で海パンのポケットから愛用のスマホを取り出した。防水加工はもちろんの事、防火防弾防塵に加え耐熱耐電磁波耐衝撃と普通の使い方をしていれば決して役立つ事は無いだろう無駄にハイスペックなスマホの液晶を指でなぞる。

デフォルトの待受画面がチカリと瞬くと同時、高速で伸びる伸縮自在の光鎖が標的目掛けて飛び出した。

ギュルン!! といつの間にか分裂した上半身と下半身が元通りにくっついていた金髪女の全身をくまなく縛り付けるように光鎖が巻き付いていく。

「あら? 今度はこういう趣向でイクのかしらぁ? お姉さんどっちかというと縛られるより縛る方が好みなんだけど」

豊満な肉体を鎖で縛り付けられて尚、その余裕を崩さない金髪女に相一が問いかける。

「なあおいそこのアンタ。言葉は通じるみたいだから一応聞くけどここ最近、この海水浴場での事件は全部アンタの仕業なのか? だとしたらなんでそんな事…………」

「あっ…………んッ…………もう、そんなに強く縛りあげられたらお姉さんの自慢のコ・コ、零れちゃうじゃない。それとも、縛る鎖の間からちらりと覗くおっぱいに興奮する質なのかしら?」

「はぁ!? そこまでキツく縛ってねえだろ! そもそもこんな拘束、体を自在に液体化できる奴になんの効果も有る気がしねえよ! だからお前らそんな蔑んだような目で俺を見るのは絶対に間違ってると思わんか!?」

全身を相一のスマホから伸びる鎖に戒められたままもぞもぞと胸部を強調するように身をくねらせる金髪女。そして思いがけず家族の性癖を発見してしまったようななんとも言えない視線を相一に向ける璃亜と氷柱。

「そんなことよりこっちの質問に答えろよ! 大体さっき一度殺されかけてんだ。アンタが違うと言ってもどのみちとっちめる気ではいるけどな!!」

「もう、そんなに熱っぽい視線を向けられたらお姉さん興奮して大事な所が疼いちゃうかも」

「ああクソ! 言葉は通じても話が通じないタイプか!!」

スマホを持っていない方の手で頭を掻きむしる相一と継続してなんとも言えない視線を投げかける女性陣二人。

「あ、お姉さん濡れ女やってる水張雫っていうんだけど。最近すごぉく悲しい事があってね? その悲しい事っていうのがぁ…………」

よいしょと、椅子から立ち上がるくらいの気軽さであっさりと鎖の拘束から抜け出した金髪爆乳(痴女)改め、水張雫と名乗った妖怪の言葉は最後まで続く事は無かった。

原因は一本の氷剣。

覗き込めばその顔が反射しそうな程の距離、水張雫の鼻先にガラス細工の様にどこまでも透明な刃がつきつけられる。

「悪いけどアンタの都合なんか知ったこっちゃないわ。個人的な感情はまッッッたく無いけどこっちも仕事だし、これ以上ここらで悪さを続けるようなら容赦しないわよ」

ギラついた視線で水張雫を、正確には顔より少し下の部分を睨め付けるツインテールの少女。

「いやあの顔どう考えても個人的な感情…………具体的には嫉妬寄りの憎悪で動いてんだろ」

「さっきからずっとあの濡れ女――――水張と言いましたか、彼女の胸元を凝視したままですからね。…………そのうち私もあの娘の標的リストに入ったりしませんか」

璃亜がちらりと視線を落とした。組んだ両腕に乗せられた二つの膨らみを見下ろしながら溜息をこぼす。

「そんなにいいモノでも無いんですが。肩が凝るのはもちろん、足元が見えづらかったり服の選択肢が減ったりとこれはこれで苦労も有るんですよ?」

「うん。お前の言いたいことも分かるがその辺にしとかないと。そろそろ氷柱の表情が険しいってレベルを通り越して般若みたいになりかけてるぞ」

一応を気を使って抑え気味だった筈の璃亜の言葉はしっかり拾われていたのか、額に青筋を浮かべている氷柱。

「別に、私は、特に何を気にしている訳でもないけど?」

周囲の気温が急激に低下していく。

相一の足元からパキパキと海水が凍り付く音が響きだし、彼が足をつけている氷の足場が徐々にその範囲を広げていく。

その原因は一目瞭然だった。

「そりゃあ確かに? 人と比べてすこぉしばかり控えめな体型をしていることは自覚しているつもりよ?」

いや、だから少し…………? と揃って首を傾げる二人には気づいていないのか、刺すような視線で氷剣の切っ先を睨みつける。

「あらあらそんなに眉間にしわ寄せちゃって。いいのぉ? そっちの彼氏にそんな顔見せちゃって。幻滅されちゃっても知らないわよぉ?」

「おーい、氷柱サンや…………?」

鼻先三寸には鋭い凶器を突きつけられているにも関わらず、緊張感を欠片も感じさせない声色と表情で水張雫は続ける。

「まぁ、お姉さんとしては? そうなっちゃったらそれはそれでフリーになった彼を頂くチャンスでもあるから全然構わないんだけどねぇ」

「だっ、誰がアンタなんかに! ………………ていうか! そもそもこいつは彼氏でもなんでもないし欲しけりゃどうぞご勝手にって感じなんだけど!?」

「あらそうなの? あれだけ仲良さそうにイチャイチャしてたものだからお姉さんてっきり二人はそういう関係なんだとばかり」

意外そうに目を丸くし、相一と氷柱二人の顔を見比べる。

「まあ、駄目って言っても頂いちゃうけど」

ゾバァ!! と、その言葉を合図にしたのか相一と璃亜の二人が足場としている小型氷山を四方から囲むように海面から水柱が上がった。

一本一本が電柱程の太さの水柱、その全てがそれぞれ意思を持った蛇の様に大きくうねりながら二人の頭上から襲い掛かろうとしたその時。

ドパァン! と、巨大な水柱の一つが音を立てて弾けた。

「だからって、ハイそうですかとすんなり渡す訳にもいかないでしょうが」

飛び散る飛沫を頭から浴びながら、小柄な雪女は嘲る様に吐き捨てる。

その背後には、海面から立ち上る水柱にも引けを取らない大きな氷の塊が幾つも浮かんでいた。

「あなた……面倒臭い性格ってよく言われないかしらぁ?」 

「余計なお世話よ淫乱乳袋!!」

それを合図に雪女と濡れ女、二人の女妖怪が激突する
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