吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

文字の大きさ
69 / 72

狼男と女子高生

しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「――――って飛び出して来たのはいいけど秘書さん達どっちにいったんだろう」

前橋さんに用意してもらったあるモノをバッグ一杯に詰め込み海の家を飛び出した所で途方に暮れていた。

こんなことなら千里ちゃんの地図を写メっとけば良かったかな…………。

「でも確か海沿いの洞窟って言ってた気がするし、右か左かどっちかにいけばその内辿り着く…………筈だよね、方向があってれば」

夕日が照らす無人の浜辺、気温も下がり頬を撫でる潮風も涼しくなってきた時間帯。辺りを見渡しても目に入るのは早めの店じまいを決め込んだ他の海の家の従業員だけである。

偏見だけどこういう所の従業員って皆色黒でムキムキのお兄さんが多いイメージなんだけど例に漏れず隣の海の家で店じまいの準備をしているお兄さんも………………あれ?

黒くて短いツンツン髪、大柄で筋肉質な体、極めつけはその頭から覗く一対の耳。ぴょんと伸びた三角形のそれはツンツン髪に殆ど埋もれていて見えないがふさふさの獣毛に覆われた獣、いわば狼の耳と同じものだった。

「あの………………もしかして銀月さん?」

わたしの言葉に海パンとぴちぴちのティーシャツで筋肉を覆った狼男はめんどくさそうな顔を隠そうともせずこちらを振り返った。

「なんだやっぱり嬢ちゃんか」

「やっぱり銀月さんだ。何やってるんですかこんな所で」

いやほんとに何やってるんだろこの人。大妖怪と謳われる吸血鬼と正面から張り合える同レベルの大妖怪『狼男』銀月大牙その人が、なんで海の家の店じまいを手伝っているんだろうという疑問が生まれるのは当然だよね。

「見りゃわかんだろバイトだバイト、仕事してんの。これでも群れ一つ預かってる身なんでな、下のもんまで腹一杯食わせられねえ奴に群れの長は務まらねえんだよ」

「あーつまりお仲間の狼さん達の食事代の為に一生懸命働いている、と」

ぎらついた目つきに獰猛そうな口元から覗く鋭い犬歯、そんな野性味溢れる容貌からはちょっと想像できないけど

「やっぱり…………悪い人じゃないんですよねー」

「だから何でそうなる」

怪訝そうな顔浮かべる銀月さんを無視して先ほどから気になっていた事を尋ねてみる。

「それはそうとさっきから引っかかってたんですけど、わたしに気づいた時やっぱりなとか言ってましたよね? なんでわたしだと分かったんですか?」

「そりゃ簡単だ、匂いだよ」

匂い…………って、え? わたしの? 待って今のわたしってそんなに臭――――

「何考えてるか大体見当はつくがちげえよ、嬢ちゃんの体臭が殊更きついってわけじゃねえ。俺が何の妖怪か考えてみろ、狼と同じ嗅覚を持ってんだ一度嗅いだ匂いなら数キロ先でも追いかけられる。――――まあ、この辺は潮風がきつくてはっきりとは分からなかったんだけどな。昼辺りから漂ってた最近嗅いだ覚えのある匂いはお前らんとこの連中だった訳か」

「昼間から気づいてたんですか!? だったら声くらいかけてくださいよ!?」

「あのな、俺と嬢ちゃんは家族か?」

「え、違いますよね」

残念ながらわたしにはモフモフの耳もしっぽも生えていない。

「なら恋人か?」

「絶対違いますね」

銀月さんも確かに男前の部類には入るけどわたしのタイプじゃないんだよね。

わたしはもっとシュッとしているというかスマートな方が好みで…………って今はそんな事どうでもいいんだった!

「そして俺と嬢ちゃんは友達でもねえ、だろ? 」

「えー! でも一緒に晩御飯食べた仲じゃないですか!」

「あのな一緒に飯食っただけで友達になるなら学校で毎日一緒に給食食ってる人間のガキは皆仲良しこよしのお友達か?」

「うぐっ―――――な、中々痛い所ついてきますね」

銀月さん的には深い意味は無く言葉通りの意味のつもりで言ったつもりなんだろうけど、どちらかというと友達が多い方ではないわたしの胸には必要以上に突き刺さったなぁ…………。

「――――――って! こんな呑気に話してる場合じゃなかった! 探偵さん達が大変なんですよ!」

怪訝な表情を浮かべる銀月さんに駆け足で状況を説明する。

「――――つまり、あのクソ人間が濡れ女とかいう妖怪に攫われてそれを吸血鬼の姉ちゃん達が助けに行ったけど嬢ちゃんは放っていかれた、と」

「そうなんです!! しかもその濡れ女切っても殴っても効かない反則みたいな相手で―――――」

「あー分かった分かった」

ツンツン髪をがしがし掻きながら銀月さんがめんどくさそうに言う。

「やった! じゃあ一緒に来てくれるんですね!! 銀月さんなら匂いで皆の居場所もすぐに――――」

「おい待て嬢ちゃん、誰が着いていくなんて言った」

「――――え?」

銀月さんの予想外の言葉に思考が固まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

はい!喜んで!

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のシリルは、婚約者から婚約破棄を告げられる。  時を同じくして、侯爵令嬢のリエルも、婚約者から婚約破棄を告げられる。  彼女たちはにっこりと微笑んで答えた。 「はい。喜んで」

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

処理中です...