吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

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火前防

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午後4時

夕日に照らされたグラウンドから部活動に打ち込む学生らの声が聞こえてくる。放課後の喧騒を耳にしながら正面玄関に向かう。

「さて、学校についたのは良いんだけどいきなり探偵だって言っても入れてくれないだろうし、いつもの手でいくか」

たまたま通りがかった女子生徒に怪しまれないよう明るく声をかける。

「ちょっといいかな? 校長室がどこにあるか教えてくれない?」

案内された部屋では目的の人物が書類に目を通しているところだった。

「相変わらず便利なもんだな『天柳』の名前は」

結果から言えば校長との交渉は一分で終わった。

天柳家の者だけどちょっと気になる事があるので校内うろついても良い? って聞いただけで二つ返事でOK出してくれたからな。

「これで気兼ねなく調査できるな。手始めに自殺したとされている日谷みのりのクラスメイトにでも話を聞いてみるか」

予め依頼主に聞いていた一年二組の教室を目指す。…………って言ってももう放課後だし、教室に残っている人いるのかな。多少の不安を抱えながら教室の扉に手をかけた時、扉の向こうから話し声が聞こえてきた。幸い人はいるようだ。

「お邪魔しまーす」

外から聞き耳を立てていても仕方ないので扉を開けて教室に踏み込んだ。中にいたのはそばかすが特徴的な女子生徒と教師と思われる若い男性が一人、机を挟み向かい合って座っていた。

「え……っと、ウチの生徒……じゃないようだね。君は?」

こちらに気づいた若い男性が先んじて口を開いた。

「天柳探偵事務所、所長の天柳相一だ。先に言っとくけど別に教師と生徒の恋愛に口を出すつもりも、学校側にチクるつもりも無いぞ。今日来たのは別の用事だ。ちゃんと学校側の許可もある」

少し警戒した様子を見せたが、俺の首にかかった来客用のプレートに気づくと少し気を抜いたようだった。

「あはは、確かにそう取られても仕方ない状況だったね。僕は刈谷雅紀、最近この学校に来た臨時教師でこのクラスの副担任をしている。用事っていうのは――」

「あの、先生……」

そこでそばかす少女が自分の存在を主張するようにおずおずと声を上げた。

「ああごめんごめん、話の続きはまた今度にしよう、今日はもう帰りなさい」 

「……はい、失礼します」

そばかす少女は荷物を手早く纏めると軽く会釈をして教室から出て行った。

「じゃあ改めて、探偵さんがこの教室に一体何の用だい?」

改めて刈谷教員を観察する。端正な顔立ちに清潔感のある髪型と女生徒からの人気が高そうな人だ。

「話が早くて助かるよ。聞きたいのはある生徒についてなんだけど」

「……もしかして日谷さんの事かい?」

「本当に話が早いな」

「わざわざ探偵さんが聞きに来るような事だからね、少し前までは警察の人も何度か来ていたよ」

「その日谷さんについて、事件直前の様子とかどんな小さい事でもいいんだ。何か気になった事があったら教えてくれないか?」

刈谷教員は物悲しげな視線を花瓶が置かれた机に向ける。そこが亡くなった少女の席なのだろう。

「日谷さんは……とても自殺、まして家族まで巻き込んで心中を図ろうとするような子じゃありませんでした。どこか思い詰めた様子も全く……いえ、もしかしたら所々で助けを求めるサインを出していたのかもしれません。僕達教師がいち早く気づいてあげるべきなのに、副担任という立場でありながら、彼女の気持ちに気づいてあげられなかった自分が情けないですよ」

刈谷教員の言葉は次第に嗚咽へと変わっていた。

「仕方ないんじゃないか。親しい友人にもそんな気配を感じさせなかったらしいし、あんまり考え過ぎて今度はアンタが思い詰めちまっても良くないだろ」

「はは、見苦しい所を見せてしまったね。こんな姿生徒達には見せられないな」

「溜め込みすぎるよりはいいんじゃないか」

「そう言ってもらえると多少気が楽になるよ」

ここまでの刈谷教員と依頼主の言葉を比べてみても、日谷さんが自殺をするような人間では無いということや、そんな素振りを見せていなかった事など周囲の人間がそう思っていたことは確かなようだ。そこで俺の考えを断ち切るように校内放送が響いた。

『刈谷先生、刈谷先生。至急、職員室まで来てください。繰り返します……』

「おっとそろそろ行かないと。君と話ができて良かったよ」

「こちらこそ調査に協力してくれてありがとう」

刈谷教員は軽く手を振ると教室から出て行った。

「俺も一回事務所にもどるとするか。あーでもその前にスーパー寄ってかないと」

夕方の日差しが差し込む教室を後にする。

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