吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

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静かな夜

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時計の短針が頂点を通り過ぎた頃、疲れ切った様子の相一が事務所の扉を開けた。所長に続き他のメンバーも事務所に入る。詩織も本来事務所の一員では無いものの、時間が時間なので今日は事務所に泊まって行くという運びとなった。

「うだぁー、疲れたー」

相一が来客用のソファに身を投げ出す。その体は糸の切れたマリオネットの様にだらりと脱力している。
簡単に言うと、屋台は大成功だった。人が噂を、噂が人を呼び売り子目当ての客で常にごった返した状態が続く事となり結果として大繁盛につながった、ということである。

「ちょっとー、そこは私の特等席なんだから、アンタは向こうに……あー無理、もう限界、立ってらんない」

どさー、と氷柱の線の細い身体が相一を下敷きにする。

「ぐえっ」

相一の口から潰れたカエルのような声が漏れる。

「アンタねぇ、こんな美少女にのしかかられてるんだからもうちょっと嬉しそうな反応できない訳?」

どうでも良さそうに氷柱が抗議の言葉を口にするが気にかける者はいない。現在進行形で鏡餅の一段目みたいになっている相一ですら、何の抵抗も無い。

「所長、服が皺になってしまいますよ」

璃亜が全員分の冷えた麦茶を持ってくる。彼女も相当疲れているはずなのだが、普段と変わらず凛とした態度を保っているのはさすがと言うべきだろう。

「あ、秘書さんありがとー。今日は友だちの家に泊まるって言っておいて正解でしたよ。今から家まで歩いて帰るなんて絶対無理、途中で力尽きちゃいます」

「私も……今日は……、もう……動けません」

詩織と千里はもうひとつのソファでお互い寄りかかる様に脱力している。

「詩織ちゃーん、一応お客さんだし先にシャワー浴びて来たら?」

雪女に潰されたままの相一が詩織に声をかける。

「あうーそんな元気も残ってないですよー、氷柱ちゃん先どうぞ」

「あたしもまだいいわー、ちびっ子アンタ先に入りなさいよ」

「……眠い……です。……璃亜さん、……先に」

全員疲れきっていて動こうとしない。

「もう、皆さんしっかりしてください。夏祭りは花火の上がる二日目が本番なんですよ、お客さんも今日より多いでしょうし」

「えぇー、……あたしパスしよっかなぁ」

相一の上で脚をパタパタさせる氷柱。おかげで短いスカートが思いっきりめくれ可愛らしい縞々が丸見えになっているのだが、唯一の男性である相一が文字通り自分の下敷きになっているためか気にしている様子は無い。

「……氷柱さん」

璃亜の静かな、それでいて威圧感を覚える声にビクぅ! と肩を震わせる。

「あ、あははー、冗談よ冗談よ」

普段は傍若無人な雪女も、吸血鬼には敵わない。それは別に種族としての力差だけから来るものではないのだが。

「とにかく、みんなよく頑張ってくれたな。この調子で明日も……日付的には今日だけど、よろしく頼むよ」

所長として、威厳もへったくれも無い状態の相一の言葉に皆が応えた。

「そーですねー、明日もがんばりましょー。あ、探偵さんコレってバイト代とか出たりします?」

皆がそれぞれ就寝のための準備を終え床につく。普段は寝室に四人並んで寝るのだが、今日は詩織がいるので相一が来客用ソファで寝る事になった。璃亜は最後まで自分がソファで休むと言って聞かなかったが、さすがに女子高生と同じ部屋で一夜を過ごすのはいかがなものかということで相一が押し切った。当の詩織本人はまったく気にしていなかったが、相一曰くそこら辺は気分の問題なのだとか。

そうして全員が眠りに就いたのは午前1時を回る頃だった。
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