吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

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ああいうテンプレ仕様のチンピラってまだどこかに生息しているんだろうか

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「まいった」

銀月大牙という男は道に迷っていた。部下に教えられた道を教えられた通りに進んできたはずだった。
黒い短髪をツンツンに尖らせ、革ジャンとジーンズに包まれても尚、はっきりと分かるほどの筋肉質な身体。路地裏の喧嘩が趣味のそこらの不良程度なら目を合わせることさえ躊躇いそうなギラついた眼光は肉食獣を連想させる。そんな男が眉をへの字に曲げて、顎をかき、人通りが少なく薄暗い道の真ん中で立ち往生していた。

(どこだここ? 方角はあってるはずなんだが……、しょうがねェ次通りがかった奴に聞いてみるか)

彼にしては珍しく、自分一人での解決を諦め他人に助けを求めようと決心したのだが、如何せん誰もいないし誰も通らない。当面の目標が目的地への到着から、通行人との接触に変化しているこに若干の苛立ちを覚えながら適当に歩を進める。何度か角を曲がった所で、彼の鼻がひくりと動き、顔をしかめる。

(こりゃァ、柑橘類の……いや、柑橘系の匂いか……?)

彼の鼻は普通の人間に比べ何百倍というレベルで優れている。柑橘類ではなく柑橘系と訂正したのは、柑橘類の果実そのものの匂いではなく、香水や整髪料、または飲料として加工されたものの匂いだと判断したためである。つまり、柑橘系の香水か整髪料を使用している人間が近くにいるということになる。

「こっちか!」

折角見つけた案内人(予定)を逃すわけには行かないと、自慢の嗅覚を頼りに狭く薄暗い道を駆け抜ける。常人なら気づかないような微かな匂いを正確に辿り、見事匂いの元に辿り着いた銀月大牙が見たものは。


「柑橘系の匂いに混じって発情した雄の匂いがすると思ったらそういう事か」

銀月が匂いの元へ辿り着いた際に目に入ってきたのは、今まさに貞操の危機に瀕しているであろう一人の少女と彼女を衣服を乱暴に引き剥がそうとする少年の群れだった。

「あぁ!? なんだテメェ、飛び入り参加希望者ですかぁ?」

「したいっつっても入れてやんねーけどな! ぎゃはは」

銀月は人間の性事情に明るい訳ではないが、落ちかけとは言えまだ陽のあるうちから野外で、それも一匹の雌に対して雄は群れで行うのがスタンダードな交尾だとは思っていない。

思っていないが、

「お前ら、この辺の人間か? 天柳探偵事務所ってのを探してるんだが知ってるやつがいたら教えてくれ」

見知らぬ人間が、いつ、どこで、だれと交尾していようが自分には関係ない。そもそも彼はただ道を訪ねたくてここまで来たのだ、必要な情報さえ手に入ればここに長居する必要も、彼らの行為の邪魔するつもりも無い。故に、少年達にとっての最善の選択とは知っているいないに関わらず素直に彼の質問に応えるべきだった。

そうすれば彼は返答の内容がどうであれ、お礼の言葉と、もしかすれば交尾の邪魔をして悪かった、という謝罪すら残していったかも知れない。だが、全身からオレンジジュースの香りを漂わせる少年は自分達にとっては最悪の、逆に少女にとっては最良の選択をしてしまった。

「はあぁ? バッカじゃねえのかオマエ? この状況でナニ普通に道尋ねてんだよ、つーかなにオマエ迷子? だったらオマワリサンのとこにでも――」

ひとつ、銀月大牙という男はもともと気の長い方では無かったということ。
ひとつ、ここまで散々迷っておきながら必死に目をそむけていた『迷子』という言葉。
ひとつ、彼はオレンジジュースの匂いが嫌いだったということ。 
最後にもうひとつ、彼の一番キライなものは猫だということ。

少年の言葉が最後まで続く事はなかった。
ゴッ! と、人間の頭を鈍器でぶん殴った様な音がした。実際には鈍器などではなく、銀月が己の額を柑橘系少年の額に叩きつけた音なのだが。そして、どさり、という何かが地面に倒れる音が続く。一瞬、その場が静寂に包まれるがすぐに少年達の怒号が爆発する。

「て、めぇ!! ナニしやがる!!」

「ふざけんじゃねぇぞ!!」

「ブッコロス!!」

体格なら既に大人と遜色ない少年達が一斉に銀月に襲いかかる。

その数は7。それに対し彼がとった行動はシンプルだった。腕を軽く一振り、拳も握らず、腰も入れていない、ただ虫を払う様な動作だけで7人全てが吹き飛んだ。漫画のヤラれ役のような見事な吹っ飛びっぷりを見せ付けられた他の仲間は、捨て台詞を残す余裕もなく蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「ったく、知らねぇなら最初からそう言いやがれ」

フン、と鼻を鳴らしその場を立ち去ろうとする銀月だったが、この場に一人残っている事を思い出す。

「おい、そこのオマエ、天柳たん――」

「あの!! 助けてくれてありがとうございます!! いや、ホントにあなたが来てくれなかったらどうなっていたことか」

いつの間にか、今しがた襲われていた少女が目の前に立っていた。ビクゥ! と、予想以上に近距離での対面に少々驚く。

「うおぉう、脅かすんじゃねぇよ。つか、礼はいい、天柳探偵事務所って所に行きたいんだが……」

「はい! それなら丁度今から向かう予定だったので喜んで案内して……、ってぎゃあ! 時間が!?」

「なんだ、急いでるのか? だったら……ホレ」

「え? わ、うわわ」

銀月は戸惑う少女を無視して小脇に抱えダンッ! と、強く地面を蹴りつけた。一瞬で地面との距離が離れ、ついでに少女の意識も遠のいていく。

「きゃぁあああぁあああああ!?」

「おら、愉快な悲鳴あげてないで道案内頼むぜ」

夕日に照らされ朱色に染まった街の大通り、正確には並び立つ建物の屋上を風の様に疾走していく。

「た、確かにコレなら間に合いそうですけど! 私の精神衛生上良くないというかなんというかー!?」
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