吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

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手癖の悪い負けず嫌い

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砂埃が晴れる前、もやの中でのやりとりがあった。

「所長、またこんなに…………ボロボロになるまで無茶をして…………」

そこには、満身創痍の所長を抱きかかえた秘書が座り込んでいる。その姿は、先ほどまでとは似て非なるものだった。まず目につくのがその髪。腰まである長さはそのままに、艶のある黒髪だったものが今は白、穢れの無い初雪のような純白になっている。その瞳は真紅、静かに揺れる炎のような儚げな赤に染まっている。そしてその口元からは小さな牙が覗いている。

「あ痛ッ、……お前はウチの大事な秘書で、俺は所長だ。所長が秘書を助けるのは当たり前だろ」

「私なら大丈夫ですと、今まで何度も…………」

「聞いたよ、何回も。お前が半分吸血鬼で、大抵の事は一人で何とか出来るから自分のために傷を負うのはやめてくれっていうのも――――いてッ」

璃亜の腕の中で、無理やり笑顔を作ろうとするが、全身の痛みでその笑みはすぐに崩れてしまう。

「だったら……!!」

「だったら。逆に聞くけど俺や事務所のみんなが今回みたいな目に合った時、お前は助けてくれないのか?」

「…………っ」

悪戯っぽい笑みを浮かべた相一対して、璃亜は一瞬言葉を詰まらせる。

「…………それは詭弁です! 私が所長を、皆を見捨てる事など絶対にありません!!」

「な? それと一緒だって」

「それとこれとは…………、ああもう! あなたという人は、ああ言えばこう言う! 大体何が一泡吹かせてやるですか!? こんなにひどくやられて、あなたは正真正銘ただの人間なんですからあまり無茶をされると…………心配でおかしくなってしまいそうです」

最早泣き出してしまいそうな璃亜の様子に相一がたじろいでいる間に、辺りに漂っていた砂埃は完全に収まっていた。

「それにほら、あれだ! やられたらやり返さないと気が済まない質だし――――」

「それに失敗してこんな状態になってるんじゃないですか!!」

「誰が失敗したって?」

「…………え?」

砂埃が晴れ、二人の姿がはっきりと見える。先ほどまでとはまるで異なる璃亜の姿に目を丸くする銀月。

「まさか、ねーちゃんが吸血鬼だったとはな。ハーフって奴か? ま、細かい事はどうでもいいがよ、ここまで待たされたんだ俺の期待に応える程度には――――」

「おい、狼男」

「あ? 何だ生きてたのか人間、てっきり今ので死んだかと」

「その腰につけてるの、洒落たアクセサリーだな。いい趣味してるぜ」

「あん?」

銀月のミスは二つ。一つは、吸血鬼の圧倒的な気配にばかり集中し、己のベルトにされた細工に気付かなかった事。もう一つは、相一の声に反応し無意識に視線をベルトに落としてしまったこと。

そこには、子供の拳一つに収まるサイズの小さなスプレー缶が括りつけられていた。ラベルには『痴漢撃退用』と印刷されている。

ブシュッ。

スプレー缶から血の様に真っ赤な内容液が霧状になって噴出する。

「ッ!? ――――――ぐ、っああああああああ!!」

スプレーの中身を顔面で受け止めた銀月が身悶えする。

「クソ! んだコリャ、鼻がイカれちまう!」

それは何の変哲も無い痴漢対策用の催涙スプレーだった。その主成分は唐辛子エキスで、人間相手に使ってもただ防犯グッズ以上の効果しか無いものだ。

だが、人間より遥かに優れた嗅覚を持つ人狼が浴びれば、人間には想像もつかない程のダメージを負うことになるだろう。

「いつの間にあんなものを…………」

「さっき蹴り飛ばされる瞬間に、ちょいっとな」

未だ痛むであろう、脇腹を抑えながら得意げに笑う相一。

「何にしろ、これであいつに一杯食わせるっていう俺の目的も達成出来た訳だ」

「でしたら」

真っ白な髪を揺らしながら、璃亜がゆっくりと立ち上がる。

「ここから先は私に任せてもらいます」
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