吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

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その正体は

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「――――所長!!」

扉を開け真っ先に璃亜の姿を確認する。手足を縛られてはいるものの目立った外傷もなく特に何かされたような形跡は無い。すぐそばには璃亜を攫った張本人である、銀月大牙がしゃがみこんでいた。その表情は失望と苛立ちを混ぜ合わせたような色をしている。

「…………おいおい、俺は吸血鬼を連れて来いって言った筈だよなぁ? なあんで唯の人間のお前が出張って来てんだよ、そもそもさっき俺に半殺しにされたのもう忘れたのか?」

「璃亜! 大丈夫か!? そいつに一泡吹かせてそっち行くから、もうちょっと待っててくれよ」

「おい、人を無視して盛り上がってくれんなよ」

見やれば、完全な四足歩行である狼の姿に変身を終えた銀月が獲物に飛びかかるため、その身を低く構えた所だった。

次の瞬間には璃亜の元を離れ、相一の眼前へと接近していた銀月。迫る脅威に対して、既に相一の体は反応していた。愛用の携帯端末を寸分狂わず操り、野獣の突進に耐えうる結界を目の前に展開し終える。
その後に来るであろう衝撃に備えその体を強ばらせた、だが――――。

とん、とまるで猫が塀から飛び降りたぐらいの感触が訪れた。

接触の瞬間、その獣特有のしなやかさで勢いを殺した銀月は、猫の様な軽やかさでもってコード2の結界の上へ着地したのだ。

「な――――――ッ!?」

予想を超える銀月の動きに、ほんの一瞬動きが固まった。その一瞬で結果は変わる。

相一の身動きが止まった、その一呼吸の間に人型へと姿を戻した銀月がその場で小さく跳ねる。空中で一回転した銀月がその踵で獲物を叩き潰そうとする。辛うじて、結界の位置をずらし振り下ろされる脚を受け止める。が、そこで銀月は止まらない。

「だから、唯の人間が俺の前に出張るからこうなるんだよ」

そのまま着地する事なく放たれた地面に並行な回し蹴りが、相一の脇腹に吸い込まれる。

ミシリ、と骨の軋む音が辺りに響く。呻き声を上げる間も無かった。サッカーボールの様に蹴り飛ばされた相一が、顔を真っ青にしている璃亜の元に吹き飛び、彼女ごと廃材の山に突っ込んだ。

ガッシャァ!! と長い間放置されていたであろうそれは、広い工場の片隅を覆う程の砂埃を巻き上げる。

「やべ、勢い余って人質のねーちゃんごとふっ飛ばしちまった。…………おーい、生きてるか?」

銀月が砂埃の中に呼びかけるが、返事は無い。大人しくしている間は手荒な事をするつもりも無かったため、少しのばつの悪さを感じながら、未だ漂う砂埃に近づこうとする。

――――――――――――そこで。

ゾグン!! と、場の空気が一変したのを肌で感じた。肝が冷える、などというレベルではい。今まさに心臓を握りつぶされている様なプレッシャーがこの場を埋め尽くしていた。

「なっ――――――――な、んだ!?」

その時彼の自慢の嗅覚が捉えたのもは、匂いだった。

確かに、あの女には吸血鬼の匂いが染み付いていた。だからこそ、普段から吸血鬼と接触している可能性があるとして人質に選んだ。璃亜と呼ばれる少女が頻繁に吸血鬼と接触していると考え、彼女を人質に選んだ訳だ。

だが……………………。

「まさか…………あのねーちゃんが…………」

砂埃が、晴れる。
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