吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

文字の大きさ
34 / 72

吸血鬼と狼男③

しおりを挟む

「クは、それがアンタの隠し球か? いいな、プレッシャーがさっきまでとは比べ物にならねえ程に膨れ上がってやがる。そうじゃなきゃ吸血鬼と闘う意味がねえよなあ!!」

雪のような白い髪に炎のような赤い瞳、本気の吸血鬼を前にして尚銀月の余裕は揺るがない。相手がなんであれ満月の下にいる限り己が負ける筈など無いという確固たる自信の表れである。

「こちら準備が整うのをのんびり待っていた事を後悔させてあげましょう」

「まさか、全てを出し切ったアンタを倒してこそ、この戦いに意味が生まれるんだ。それに…………これでも弱いものいじめをするのは好きじゃないんだ。さっきのままだと間違いなくそうなってただろうよ」

「…………口の減らない戦闘狂ですね」

二人の間に開いた距離はおよそ10メートル。お互い手足が届く距離ではないが、吸血鬼の反応速度と人狼の瞬発力を持った二人にとっては0にも等しい10メートルだ。

重心を少し落とし拳を軽く握って構えをとる璃亜とは対照的に、力を抜き鋭い爪を携えた両腕をだらりと下げて棒立ちを続ける銀月。

先に動いたのは銀月だった。

ッッッドン!! 

己の肉体を砲弾にし、音を置き去りにしてしまいそうな速度で真っ直ぐ璃亜に突っ込んだ。

対して璃亜は『回避』や『防御』のための行動は取らなかった。その圧倒的なスピードに反応出来なかった、訳ではない。

「とりあえずコレは――――」

一歩踏み出し上半身を弓のようにしならせ

「――――――さっきの分です!!」

既に眼前へと迫っていた銀月に向けて、吸血の効果で傷が癒えたばかりの己の額を叩きつけた。

今度は銀月が吹き飛ぶ番だった。

銀月はビデオの逆再生のように元来た軌道を綺麗に戻っていった。それは璃亜が吹き飛ばされた時の勢いを数段上回るものであった。

その勢いは瓦礫の塊にぶつかった程度で止まるものではなかったようで、廃工場の敷地の外へ突き抜けていった。

電車一車両分ほど地面を転がった銀月は近くに積んであった廃材の山にぶつかった所でその動きを止めた。

「クはは、コイツはマジに驚いた。この姿で誰かにぶっ飛ばされるなんて初めてだ!!」

地面に仰向けで転がったままの銀月。

「あーやっぱいいな、最高だアンタ。今、最高に愉しいぜ」

「お褒めに預かり光栄です、と言いたいところですが犬畜生の称賛などそれこそ犬の糞ほどの価値もありませんね」

「なかなか口の悪いねーちゃんだな」

そう言ってゆっくりと銀月が立ち上がる。月明かりに照らされたその姿には目立った傷は見当たらない。

「回復が早いのか、それともただ単純に硬いだけなのか。どちらにしても面倒くさい事この上ないですね」

パキパキと指を鳴らしながら銀月との距離を詰めていく吸血鬼。対して人狼もジーンズから伸びるぼさぼさの尾を揺らしながら歩みを進ませる。

「さあ、続きだ」

「…………はぁ」

新しいおもちゃを与えられた子供のような歓喜の表情を浮かべている(と思われる)銀月とは対照的に、璃亜はうんざりした様子を浮かべる。

「私は早く所長の手当を――――」

「だったらここで俺に殺される訳にはいかないんじゃねえのか!?」

二人の距離は近づき続ける。その距離10メートル。そこで二人は止まらない。一歩、さらに一歩とお互いの間合いに入って尚無防備に相手へ接近する。

ぴたり、と吸血鬼と人狼は示し合わせたかのように同じタイミングで立ち止まる。

お辞儀でもすれば相手の体に頭をぶつけるぐらい二人の間に距離は無かった。

満月が浮かぶ夜空の下、大妖怪と評される二つの存在が衝突しようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

はい!喜んで!

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のシリルは、婚約者から婚約破棄を告げられる。  時を同じくして、侯爵令嬢のリエルも、婚約者から婚約破棄を告げられる。  彼女たちはにっこりと微笑んで答えた。 「はい。喜んで」

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...