異世界転移 山田世界の異世界英雄譚

ダークエルフの隠れ里②

　『生贄だ、生贄だ。』里中から恐ろしい言葉が聞こえてくる。僕は勇気を振り絞りリリムさんに話しかけた。

　「すいません最後に僕の話を少し聞いてもらえませんか？」

　「ごめんなさい、生贄にささげられてしまうあなたとこれ以上話していると情が移ってしまいそう。もう行くわ。さようなら、あなたのことは絶対忘れない。」

　そんなー、話を聞く前に行ってしまわないで！せめて、手の縄をほどいて！それがだめならこの目隠しを取ってあなたの顔を拝ませて。

　「リリムさん、リリムさーん！」

　必死に叫んだがもう彼女はいないようだ。くそっ、こうなったら門番の男でもいいからだれか僕の話を聞いてくれそうな人はいないものか。

　必死に以前学校の図書室で読んだ生き残るためのサバイバル術という何とも胡散臭い本に書かれてあった縄抜けの方法を試していると、誰かが近づいてくる足音がする。

　「リリムさん？戻ってきてくれたんですか？」

　「リリムじゃなくて悪かったな。俺は牢屋番のリロと言う。とは言っても忘れてくれ。あと三日もすればお前とはおさらばだ。お前には何の恨みもない。逆に里のために犠牲になってもらうことに対して申し訳なくも感じている。」

　ちっ、男か。でもチャンスだ。話を何とかして聞いてもらってこのピンチから抜け出してやる。

　「リロさんと言いましたか。ぜひあなたに聞いてもらいたい話があります。この縄をほどいてぜひ僕の話をモガッ」

　「すまない、生贄になるやつの話を聞いていると情がわいてしまいそうだ。」

　話の途中でさるぐつわを噛ませるなんてなんて奴だ！この里にはまともに人の話を聞いてくれる奴が一人もいないのか！
　僕は残りの三日間で何としてでもあのうさん臭い本に載っていた縄抜けの術を成功させなければならない。僕のとりえはピンチをチャンスに変えること。

　普段考えもしないことを必死に考え、軽い現実逃避をしながら必死に縄抜けの術をしていると、あっという間に二日かが経過した。

　牢屋の外から何か声がする。

　「とうとう明日だな、あの人族をオアシスの主であるダイダロス様の生贄にささげるのは。」
　
　「ああ、何も関係ない奴を犠牲にするのは心が痛む。しかし、この里を救うためだ。仕方ないさ。」

　なんて会話をしてやがる。それにダイダロス様ってなんだ！僕は何かに食われるっていうことか！女神様―、あんまりだ。

　そんなことを考えていると何やらおいしそうなにおいが漂ってくる。

　「リリム、それは？」
　
　「長が最後の晩餐に、彼に食べ物を食べさせるようにと。」

　「そうか、最後の晩餐か。それなら仕方がないな。ちょっと待ってろ。」

　そして、僕のさるぐつわが外された。何たる奇跡。食べ物をあーんの状態で女の人から食べさせてもらう今までに味わったことのない何たる幸運。

　しかし、今はそれよりも優先させることがある。

　「せめて、目隠しを取って僕の話を聞いてもらえませんか？」

　僕は必死に訴えた。

　思いが通じたのか、目隠しを取ってくれるという。

　目隠しを取ってもらうとそこにはさっちゃんに並ぶとも劣らない絶世の美少女がいた。