幽霊のユーコさん!

るちぇ。

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第1章 光るバッハ

第9話 ショパンの奏でって、馬鹿じゃないの!?

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3日後の深夜。
校長先生は警備員の代わりに見回りを始める。
左手に懐中電灯。
右手に木刀を持っていた。

「校長先生ってば、さぞ気合十分のようね」

ユーコには美味しそうに思えるらしい。
ペロリ、と舌なめずりをして見せた。

「Hahaha! 流石は校長先生だ。まるで軍人みたいな厳つさだねぇ」
「先行は譲ったんだから、さっさと恐怖のどん底に叩き落してみせなさいよ」
「あぁ、言われなくとも!」

光るバッハは音楽室で待ち構える。
言うまでもなく、ここも見回りのルートに組み込まれている。
スルーされるということはあり得ない。

ほら、
音楽室の扉のノブが回った。

来た、
校長先生だ。

「歓迎するよ、校長先生! 七不思議の一角、この光るバッハが!」

手始めに、光るバッハはギロリと目を動かした。
暗闇だというのに、
まるで猫の目のようにはっきりと見えたことだろう。

だが、

「異常無し」

校長先生、これを華麗に見落とす。
老眼か。
はたまた注意力不足か。

「く……っ! 手強いね、ならば!」

ポロン。
ピアノの音が、深夜の音楽室で鳴った。
光るバッハだ。
その絵画から伸ばした触手のような手で、
ピアノの鍵盤を弾いたのだ。

「……ピアノの故障か?」

何と校長先生、
まさかの故障と誤認した。
あの厳つい見た目とは裏腹に、何というお惚け振りだろう。
早く退官された方が良いのではないだろうか。

「ば、馬鹿なっ!? で、でもこれならば!」

1回弾いただけだから駄目。
それならばと、光るバッハは渾身の策に出る。
2本の手を伸ばしてポジションを取ると、
ポロン、ポロンと音を鳴らし始める。

「……む、これは」

音を鳴らす。
それは不適切な表現だった。
正確には奏でる。
どこか悲し気な曲が演奏される。

曲名はフレデリック・ショパンのノクターン第20番 嬰ハ短調(えいはたんちょう)
悲しみとは物静かにすすり泣くことだけではない。
ゆっくりとした出だしから徐々に、
ところどころに慟哭のような激しさが折り混ざる。

「……どうだ、私の渾身の一曲は!?」

校長先生はというと、
大粒の涙を流しながら拍手していた。
その悲しみに共感したとでもいうのだろうか。
もしくは、過去の思い出に浸っていたのだろうか。

とにもかくにも、
光るバッハの攻撃は終了した。
結果はご覧の通り。
大失敗である。

「……あいつ馬鹿なんじゃない?」
「なんて素晴らしい曲なんだ……」
「あぁ、こいつも馬鹿だったわね」

死神も泣いていた。
禍々しい顔が歪んで、それはもう酷いことになっている。

そんなコンサートホールと化した中、
ユーコだけが盛大な溜め息を吐くのだった。
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