魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第16話 会議をします 4

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 見方を変えて何がわかるというのか。上下さかさまにすればいいのだろうか、それとも鏡写しにでもしてみればいいのか。いやいや、冗談を言っている場合ではない。そんな物理的な見方の違いがあるのなら、カルマは最初からそうして見せてくれるだろう。

「なぁ、ウロボロスにはわかったか?」
「はい、私には最初からわかっておりましたよ」

 小声で聞いてみると、衝撃的な発言が飛び出した。最初からわかっていた、だと。馬鹿な。まさか、カルマからこっそり事前に聞いていたとでもいうのか。いや、それはないだろう。あのウロボロスが、俺と話す機会になりそうな内容を知っておきながら黙っておける性分だろうか。絶対に教えてくれる。拒んでもすり寄って来たに違いない。
 だから、つまり、あの画像を見た瞬間に気付いていて、俺の言い付けを守って何も言わないでおいたと。そういうことなのか。そうなのか。なんだ、この敗北感は。こうなるんだったら、フェンリスも呼んで話がわからない会を作るべきだった。

「我が君は聡明でいらっしゃいますから、私などよりも早く気付かれたのでしょう? ふふ、そう必死にならずとも、我が君が一番だとわかっておりますよ」

 うぐ、そういう角度から打ち込んでくるとは予想外だった。でも、なるほどね。ウロボロスの中ではこのくらい気付いて当然らしい。だからなのか。例えこの場であろうとも俺と話す機会を得たはずなのに、喜々として耳打ちしてこなかったのは。何だよ、このハードルを上げて逃げ場をぶっ壊していくスタイルは。しかも一切の邪念が無いから余計に困る。どう返せばいいんだよ。

「そ、そうか。それは良かった、うん、安心した」
「心から尊敬しております、我が君」

 うっとりとした表情のウロボロスに腕組みをされてしまう。要らない見栄を張ってしまったがために、こんなドキドキする状態になってしまうとは。俺の口から聞かせてくださいと言われないか、とか、他の皆が暴走しないか、とか、余計な心配事ができてしまった。頼む、頼むから穏便に済んでください。

「我にはわからぬな。アザレア、聞かせてくれないか?」

 なんて絶妙なタイミングなんだ。ナイスフォローだ、ムラクモ。やっぱりお前が一番頼りになるよ。なんて口が裂けても言えないから、心の中で手を合わせて感謝の言葉を述べておく。ありがとう、ムラクモ様。

「人さ、ムラクモ。よく見てみるといい」

 人だと。人がどうかしたのだろうか、と、目を凝らしてみて電流が走った気がした。そうだ、何の変哲もない家が並んでいる村や街だなぁ、としか思っていなかった。でも、それがそもそもおかしいじゃないか。
 これらの画像はカルマの使役するファントム・シーカーたちの視覚情報から得たもの。撮影するからといって住民全員を退けるようなことはしていない。それにも関わらず、画像には一切人の姿が無い。これも、これも、これも。どれもこれも村や街しか写っていないではないか。

「どこもかしこも、揃って夜逃げでもしたかのような所ばかりじゃ。初めは偶然かと思ったのじゃが、こうも続くと流石にのう。まぁ、イース・ディードの総人口も首都もわからない以上、何とも言い難いのじゃ。一斉に退去させられたかもしれぬし、大災厄で死滅してしまったのかもしれぬ」

 そうか、確かに気になる点ではある。だからといって手がかりになるかどうかは今のところ判断しにくい。もっと調査してから報告したかった。そう言いたい気持ちもわかる内容だった。

「つまり、それはまだ不明ということかい? 一斉に調査したのだから、何かしら判断材料になるものが見付かっていそうな気もするけどね」
「それがのう……どういう訳か、一切の痕跡が残っておらぬのじゃ。そもそも足跡が無いからのう。忽然と、それこそ魔法で消えたとしか考えられぬ。もしくは……」

 原因不明。だが、これでひとつだけ繋がったものがある。夜逃げにしても、殺し尽くされたにしても、これだけたくさんの村や街が物抜けの殻になっているんだ。どう頑張ったって痕跡は少なからず残るはずなのに、画像を見る限り、そんなものは見付からない。いや、むしろ無い方が俺の考えは信ぴょう性を帯びてくるというものだ。
 はっきり言っておこう。そんな大移動は俺には無理だ。イース・ディードの総人口はわからないものの、この画像に写っている家1軒につき1人が住んでいるとして数えてみても、その半分でさえ眩暈がする。というのも、何の痕跡も残さずに人を消すなんて転移魔法以外に考えられない。
 できるじゃないか、と思うだろうか。ちょっと待って欲しい。その魔法は基本的に人にかけるのではなく、空間を指定して、そこに立つ者全てを飛ばすようになっている。だから一か所にまとめてからでないと一気に飛ばせない。一か所にまとめれば村人たちの足跡が不自然に固まってできてしまうし、反対に一軒一軒回って魔法をかけて行ったのなら、全ての家々を回っている術者の足跡が残ってしまう。痕跡を残さないようにと魔法で浮いていたのなら条件を全てクリアできるが、誰がやるものか、そんな非効率的なことを。
 だから、考えられるのはひとつ。人が溶け出すあの現象。これしかない。ロアたちがそうだったように、何の痕跡も残さずに1人残らず消し去ることができるのは、現状これしかないのだ。

「あの人が溶け出す現象だろう?」
「うむ、流石は魔王様じゃ」

 そう考えればまたひとつ繋がらないだろうか。なぜ、アデルの村が襲われたのか、というところに。いや、もっとはっきり言おう。あの村にだけ人間がいたのはどうしてだろう、というところに。
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