コトレットさんの不思議なお仕事~こちら異世界管理局~

胡散臭いゴゴ

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封鎖区~破局の因子~

40.マーノ・エ・マーノ~僕の右手と君の左手~

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【“封鎖区~破局の因子~”(9/10話)】



 ***********************************

 気がつくと俺は、カルーシアと“封鎖区セラド”の出入り口のある、旧市街ヴェリオの袋小路に立っていた。時刻は定かではないが、暗い。
 行き止まりは“封鎖区”への下り階段ではなく、壁だ。近寄って確かめてみても、まやかしではなく、正真正銘石積みの壁だった。そこに張ってある既に終わってしコメディア・まった芝居物デッラルテのポスターに見覚えがある。

 手に握っていた桜花おうかは、いつの間にかさやに収まっていた。
「……戻って、きたのか……」
思わずひとりごちた。“封鎖区セラド”は、きちんと破壊されたのだろうか。なら、この壁の向こうにあった“世界”は、今はもうない・・ということだ。
「……ルシウ……」
石壁に手袋を触れて、俺はようやく我に返った――と。


 「なーふ。何とか終わったなー、ユーマあ」


 弾かれたように振り返ると、ルシウが、いつもの小生意気そうな幼女フィーユの姿で、よそん家の上がり段に尻を下ろし、ひらひらと手を振った。
「るああ。お疲れさん」
白い歯を見せてにっと笑うルシウには、あの“美しい人”であった時の、神々しさは微塵みじんもなかった。
「ルシウ……ちゃんと終わった・・・・・・・・のか?」
桜花の柄を撫でつつ、そう問うと、
「ああ。ちゃんと終わった・・・・・・・・よ。お前のおかげさ」
ルシウが頷いた。

 ちゃんと、終わるコレクト・エンデ

 ひとつの”世界”、一人の“人間”にとって、それはどういうことを意味するのだろう? “あの子”にとって、“封鎖区”、あの心の映し絵はいったい何のためにったのだろう? 

 俺は結局、“あの子”に何をしたんだろう……?

 ……――少し疲れたな。
 俺は壁に寄り掛かると、そのままずるずると腰を落とし、膝の間にうつむいた。


 そうしていると、肩に小さな手が置かれた。見せられる顔じゃなかったので、上げずにいると、
「あの子のために泣いているのか……」
ルシウはそう言って、俺の頭を抱き寄せた。
「るああ。ユーマ、お前の“世界”は優しいな」
少女の手が、革頭巾越しに俺の頭をゆっくりと撫でた。傍目には、大の男が幼女に慰められるよしよしされるの図、だと承知しているが、ルシウの柔らかいお腹に顔を埋めているのは、とても心が安らいだ。“あの子”も、こんなふうに抱かれて眠れたんだな。
 それは……良かったな。本当に良かったなあ。閉じた目から最後のひと筋、涙が頬を伝った。


 お母さんマテル、か……



 ***********************************

 どれくらい時間が経っただろう。俺は少女の抱擁ハグから身を離して、鼻をすすり、ふうと大きな息を吐いた。ルシウは俺を間近に見下ろし、ぽんぽんと頭のてっぺんを叩いた。
「るああ。落ち着いたか?」
「うん……いい匂いがしたし、柔らかかった」
「るあっ?!」
幼女の隙を突き、腰に腕を回して、再び引き寄せて深呼吸クンカクンカする。
「はああ……いやされる……」
「るああああっ! ヘンタイ! お前、これハンザイだぞ、ヘンタイっ!」
きゅうと丸めた拳でぽかぽか叩かれたが、うん、安いものだ。

 堪能たんのうしてから監視人クストーデを解放すると、爪先で正確にレバーを射抜かれた。そろそろ最後かと思うと、これも名残なごり惜しくある。ルシウは頬を紅潮させて、ちょっと涙目で俺をにらむ。解る
「うーぷす……照れ隠しのタチが悪過ぎる……」
ぶつぶつ文句を言うのを尻目に、立ち上がり、空を見上げる。

 さっきより、薄明るくなってきたようだった。

 東の空には古都の街影が、濃紫を背景に浮かび上がる。
夜明けサリタか……」
長かったような短かったような、不思議な夜が終わった。ちゃんと、終わった。たぶん、一生に二度はない、そんな一夜だったと思う。

 そう感慨かんがいふけっている、と。


 「あ……」

 同じく夜明けを見上げていたルシウが、口を開いた。
「あれ……? 何か、10日くらい経ってるよーな気がする……」
首を傾けて、妙にデカい懐中時計を引っ張り出した。横から覗くと小さい文字盤インダイアルが幾つもあり、針も何だか多い。読み方が判らない。
「えーと……Oopsうーぷす。今、“封鎖区”に入って9日目の朝だ」
「マジ?」
「なーふ。あっちとこっちで時間の流れ方が違ったらしいな。うーん、まあ、何十年とズレなくて良かったと言うべきか……」
それって、そういう可能性もあった、ってことだよな?

 ……まあいいや、深く考えるのはよそう。


 呆れることで衝撃をおおって、俺は革頭巾の上から頭をさすった。
「やれやれ、何も言わずに来たから、アーシャ、心配してるかカンカンか……」
ルシウの赤い目が、薄明かりにきらりとした。
「こっちで出来た、いい人かい? 済まねーな、心配掛けさせて」
「大事な家族さ。まあ、大丈夫だろう」
俺は真面目くさった顔でこう言った。
「彼女は幾ら怒っても、曲刀スパーダ両手で追っかけて来るような、おっかない女じゃあないから」
ルシウが吹き出した。

 俺も笑顔を返すと、腰の剣帯に手を伸ばして――
「異世界に飛ばされて来てもさ、大事なものは少しずつ増えて、それで時々手を離したりして、生きていくんだよ、きっと。カッコつけたようなこと言うようだけどさ、何か、そう思うよ」
下げ緒を解くと、天羽緋緋色“アマハヒヒイロ“ア荒神切”桜花ラガミキリ”オウカ――その鞘をつかんで、監視人クストーデに差し出した。
「とうとう、こいつからも手を離す時が来たかー」
ルシウは捧げ持つように、朱塗りのさやを受け、俺の顔をじっとうかがった。

 名残惜しさと、心からのありがとうオーリ・アーチェ笑ってさようならローヴェ・オータ。そして、ちょっぴりの未練を残しつつ、指を開く。

 ルシウが微笑み、頷くと――……

 ”死せる剣聖Deadman‘s 帝の贖い” Cllectionの宝刀達と同じく、本来るべき場所へかえっていった。最後に、りん――……微かな音を聞いたのは、或いは気のせいか。


 「ありがとうな、桜花……」



 ***********************************

 幾許いくばくかの腰の寂しさがありつつ、俺は白みつつある空に両手を突き上げる。
「んッ……よォし! 終わった終わった」
己の中にひとつ、区切りをつけるために声に出し、大きく足を踏み出す。
 ルシウと擦れ違い様、黎明竜れいめいりゅうレーゼの革頭巾を外して、
「るあ?!」
少女のフードの上からかぽんと被せる。
「さあて、帰りますか。それぞれの“世界オルト”ってやつに」
異世界監視人オルト・クストーデ異世界の高校生オルト・トランジッテ、ここから帰る場所は、別の“世界”アルタ・オルトだ。同じカルーシアにいるとしても、俺と彼女は、異なる”世界観イマジカ”のカルーシアにいる。

 道々でティラトーレの鎖衣シリヨン黎明竜レーゼアマネセル・ドラギオの手袋を外せば、今度こそ、もう会うことはないだろう。


 と、服の裾が、後ろからきゅうとつかまれた。


 つんのめって振り向くと、うつむいたルシウの顔が、黒頭巾で半分隠れている。
「なーふ。その……何だ。10日近くもこんだけ遅くなっちまったら、その、もーちっとくれー遅くなっても一緒じゃなくねえ? つうか……」
「……?」
もごもご言ってよく聞き取れないので、身を屈めると、幼女は視線を外し、唇をとがらせて言った。
珈琲カフエス1杯くらい、飲んでく時間あるくない?」
だから、そういう顔をされたら……
「そうだな……」
お兄ちゃん、断れないじゃないか。


 「じゃ、朝の1杯、御馳走になってくか」


 そう言うと、俺はルシウの手を取って走り出した。後ろから「わっ」とか「るあっ」とか聞こえたが、すぐに悪戯っぽいいつもの「いひひ」笑いに変わった。
 夜明け直前の街を、二つの足音が駆け抜ける。別々アルタの道を来て、別々アルタの道を行く二つの足音は、今だけは同じリズムを響かせて。
「るああ。異世界管理局オルト・クーストースまで――……」


 「もうちょっとだけ、アタシのマーノを離すなよな――……」



               ~“封鎖区~破局の因子~”・完、次章へ続く~

 ***********************************

【次章“封鎖区~エピローグ”】

“封鎖区”での冒険を終えて、カルーシアでの日常に戻ったユマ。監視人の依頼の報酬“三つの願い事”で、ユマが叶えたこととは……?


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