【R18】一肌脱いだら、泣きを見た。

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序.さようなら、日常。*

「ぁ、あ、いや、いや、それ」
 セラフは、ベッドにうつぶせになったままで、いやいやと首を横に振った。
 もがくようにしながら、シーツにきつく爪を立て、ぎゅううと握りしめる。
 今のセラフは、伸びをする猫のような体勢だ。


「セラフさん、、好きだよね…」
 一糸まとわぬセラフの腰――尾てい骨のあたりを、背後で膝立ちになった青年の指先が撫でていて、震える。
 ここ、と言われたのが、セラフの尾てい骨のあたりなのか、セラフの身体の中心――…奥なのか、わからなかった。
 脚を広げたセラフの臀部から、秘めたる場所まで、一糸まとわぬ青年の下半身が密着しているような状態だ。
 否、青年の脚の間から起ち上がった、灼けそうなくらいに熱い杭で、セラフの身体の中心は貫かれ、揺さぶられている。


 セラフは、混乱していた。
 どうして、どうして、こんなことになっているのだろう。


 つい、半日ほど前まで、セラフは平凡な日常の中で、ぬくぬくとしていたのだ。
 日が昇れば、目を覚まし、朝食を摂って、ちょっとした作物の手入れをする。
 昼食を摂って、その日の気分で読書やお菓子作りもする。
 街に出かけることもある。
 注文が入れば、昔取った杵柄で、衣装を作りもする。
 そうしているうちに日が暮れて、夕食を摂り、湯に浸かり、眠りに落ちるのだ。


 亡き夫の遺言のおかげで、セラフは夫の兄――…義兄である、ホワイトクロス侯爵の庇護を受けて、彼の敷地内にある離れで、のんびりと、穏やかに暮らすことができていた。
 自分の状況にも、日々の暮らしにも、満足していたのだ。
 それが、どうして、五つも年下の、義甥にあたる青年に、背後から組み敷かれているのだろう。


「…セラフさん、本当に、いや? …いやなんて、傷つく」
 背後から、甘い声が悲しげな艶を纏って囁く。
 熱い吐息が耳朶を撫でれば、ゾワリと肌が泡立つようで、意図せずセラフの身体は反応してしまう。
 その間にも、彼の腰の動きは止まらないから、尚更だ。

 ぎゅっと目を瞑って、きつく眉根を寄せる。
「あ、ねぇ、まって、まって、おねがい」
 ほとんど涙声でセラフが懇願すれば、彼はぴたりと動きを止めた。


「…あ、はあ」
 過ぎ去った嵐に安堵したセラフは、深く息を吸い、吐いたけれど。
 身体の中心に感じる違和感は、去らない。


 なぜ、どうして、と起き上がることもできずに、ベッドに突っ伏したままで目を白黒させていると、つー…っと触れるか触れないかの絶妙なタッチで、背筋を腰までなぞられた。


「ぁっ…」
 また、ぎゅっと目を瞑って、身体を震わせると、背後で、何か含みを持たせたような、何とも言えない居心地の悪さを感じる声が揺れる。
「私としては、もう、十分、待ったつもりなのだけれど…。 まだ、待たないといけない?」


 何を、十分、待ったというのか。
 そこで、セラフは、急速に理解し、衝撃を受けた。


 セラフの口にした、「待って」は「やめて」と同義だったのだが、彼は本当に、「待っている」だけ、らしい。


 いや、動くことをやめた、という点では、確かにセラフの意を汲んでくれては、いる。
 もう一超え、セラフのなかから出て行ってくれれば、完璧なのに。


 そんなことを考えて、身じろぎしたのがいけなかったのだろう。
 甘く、痺れるような刺激が、身体の奥から脳へと駆け抜け、セラフは一度大きく、ぶるっ…と震えた。
「…あ、んぅ」


 這って、前進して、その刺激から逃げようとしたのだが、彼――…ラファエルの手が、ぐっとセラフの腰を押さえ、彼の身体に引き寄せるほうが早かった。
 ちか、と目の前で、何かが光ったような錯覚さえ、覚える。


「あ、だめ、それ、だめ」
「ん…、セラフさん、すごく、甘噛みしてきて、気持ちいい…。 何が、だめ? 待って、とお願いされたから…、私はじっと我慢して、待っているのに」
 まるで、セラフが悪いような口ぶりだ。

 確かに、セラフが悪いのかもしれない。
 気持ちがよすぎて、怖くて、逃げようと身をよじると、それが更なる刺激になる。
 彼は、動かずに、待ってくれているのに。


 でも、こんなの、気持ちよすぎて、無理だ。


「あたってる、だめなところ、あたってるの、ぅ、あ、ぁっ…」
 身体が、跳ねて。
 腰が、何度も、大きく前後に動き、それがまた刺激となって、気持ちよく、なって、しまう。


「…あ…、セラフさん、すっごい、噛んでくる…、そんなにされたら、我慢、できない…」
 ずる…、とセラフの身体から、熱い杭が引き抜かれていく。
 セラフが気づかなかっただけで、セラフが達している間に、ラファエルも達してくれたのだろうか。
 そんな風に、安堵したのがいけなかった。


「…え、ぁっ!」
 再び、押し込まれてきた熱杭が、奥にぐうっと押し付けるように刺激を加え、喉の奥から、声が迸るのを、止められなかった。
 気持ちいいのが止まらなくて、お腹の奥から、彼を受け入れているところが、きゅうきゅうと彼を締め付けているのがわかる。


 セラフは、シーツに顔を埋めながら、必死にかぶりを振った。
「ラファエル、今、だめ、ほんとうに、今は、だめ」
「ん…。 セラフさん、気持ちよくなったばかりだものね。 私で気持ちよくなってくれて、嬉しい。 もっと気持ちよくなっていいからね…」


 本当に、今は、だめなのに。
 何一つ伝わっていないことが、歯がゆい。


 彼は、ゆったりとだが、正確に、セラフが「だめ」と言っているポイントに自身を押し当て、ぐっぐっと押し込むようにしながら、刺激する。
 こんなの、続けられては、また、あっという間に気持ちよくなってしまう。
 そして、セラフの懸念は、すぐに現実のものとなったのである。


 ぐうっと奥を刺激されて、目の前に星が散った。


「は、だめ、だめ、ぅ、んうっ…、っ…!」
「セラフさん、すき、だいすき、っ、くっ…」


 セラフの腰が逃げないようにと手で掴みながら、奥へと突き込んで、ラファエルの腰が止まった。
 かと思えば、数度小さく、震えたか、動いたか、しているのがわかる。


 きっと、彼の欲望が、セラフの体内に吐き出されている。


 また、出されてしまった。
 絶望した、わけではない。
 だからといって、喜んだ、わけでもない。
 心は、もっと、もっと、複雑だった。


 疲労感に襲われ、全身が重い。
 身じろぎするのも億劫で、動けずにいるセラフの背面に、熱と、重みが伝わった。
 彼の身体が、セラフを背後から抱きしめるようにして、密着しているのだ。

 何とか顔だけ動かして、背後を見ると、そこにあったのは、熱で潤んだ瑠璃の瞳。
 目元をうっすらと染めた彼は、今まで情事に耽っていたことが、ありありとわかるような、艶っぽい表情をしていた。


「セラフさん、舌、出して…。 キスしよう…?」
 そう、しよう、と思ったわけではない。
 けれど、なぜかセラフは、操り人形のように口を開き、そっと舌を差し出していた。

 目を細め、満足そうに微笑んだ彼は、そっとセラフの舌に舌を合わせて、絡めてくる。
「ん、ん」


 怜悧さと穏やかさの調和した、不可思議な雰囲気と、端正に整った容姿を持つ彼は、品行方正で、清廉。
 誰にでも平等に対等に接するがゆえに、彼にとっては誰も特別ではなく、俗世のあれこれとは一線を画していると思っていた。


 穢れなき、天使のような存在だと。
 今日、までは。


 彼の、赤い舌は、こんなに蠱惑的だっただろうか。
 瑠璃の瞳に宿る熱に、肌がさらされるだけで、落ち着かない。
 彼の身体の、重みも、熱も、全部、全部、知らないものだ。


 今まで、セラフが知っていると思っていた彼は、すべて、幻想だったのだろうか。
 ひとしきりセラフの舌と唇を味わって満足したのか、そっとラファエルの顔が離れる。
 背中に感じていた熱も、重みも。


「セラフさん、一度、離れるね…」
「ん…」
 彼が、身体の中から出ていく感覚に、小さくふるりと震える。

 セラフは身体を支えられなくなって、すぐに腰を落とした。
 どろり、と自分の中を、液体がつたって、こぼれ出ていくのがわかり、泣きたくなる。


 見なくても、わかる。
 白濁色をした、彼の、欲望、だ。


 本当に、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 疲れ切ったセラフは、瞼の重さに抗えずに、瞳を閉じ、ベッドに身体を沈ませる。
 堕天使とは、彼のような存在なのかもしれない、と思いながら。

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