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7.手探りの接触
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ラファエルの右手が、セラフの顎を捕らえた。
かと思えば、その親指が、セラフの下唇を掃くように、動く。
ラファエルの視線が、自分の唇に注がれているのがわかって、セラフは全身が熱を持つのを感じる。
もう一度、彼の親指がセラフの唇を掠めるように動けば、甘い痺れが走るような気がした。
「…キスは、したら、いや?」
そっと、穏やかに、静かに、ラファエルは尋ねてくる。
いつも優雅で、どこか余裕を感じさせるが、今日の彼にその余裕はない。
どこか硬い表情に、セラフはやっと気づいた。
彼は、女性経験がない。
初めて、なのだ。
きっと、自分よりもずっと、緊張しているのだろう。
セラフは、意を決して、少しだけ前に、顔を倒す。
唇に触れていた、ラファエルの親指の先を、軽く吸うようにして、キスをした。
びくり、と彼の手が引きそうになったので、セラフは咄嗟に両手でその手を包み込む。
「…大丈夫。 いやでは、ありません」
真っ直ぐに、ラファエルの瞳を見つめて告げる。
彼は、空いている左手を、セラフの右頬に添えた。
今度こそ、予感がして、セラフは彼の右手を離す。
そうすれば、右手もセラフの左頬に添えられて、そっと上向かされた。
やはり、彼は緊張しているのかもしれない。
触れた手が、冷えているように感じて、セラフはその手に手を重ねる。
ゆっくりと、彼の顔が近づいてきて、瑠璃の瞳を長いまつ毛が、瞼が覆い隠す。
だから、セラフも、それに倣った。
唇に、そっと触れる、あたたかくてやさしい感触に、胸の奥がぽっと温かくなる。
けれど、すぐに唇が離れてしまい、訝しく思ったセラフは瞼を持ち上げた。
ラファエルは、何とも言えないような表情をしていた。
目元を染めて、目を潤ませ、唇を真一文字に引き結んでいる。
嬉しそうでいて、困ったような、そんな表情だ。
もっと、キスはしないのだろうか。
そんな疑問は、別の言葉となって、唇から零れていた。
「…わたくしから、キスをしたら、いや?」
自分の声が、自分の耳に届いて、セラフはぎょっとする。
また、一瞬で体温が上がった。
何ということを、口走ったのだろう、とか。
どんなに慣れていると思われただろう、とか。
頭の中で思考がぐるぐると渦巻いている。
その、思考の渦を止めてくれたのは、ラファエルの声だった。
「…いやなわけ、ない」
見れば、ラファエルは頬を染めて、瑠璃のきれいな瞳を潤ませ、忙しなく動かしている。
その様子が、思いのほか可愛らしくて、セラフはちらとベッドを見る。
「…座って、いただけます? 貴方、背が高いから」
セラフが背伸びをして、彼が屈んでくれればキスはできるが、それを長く続けるのは厳しいだろう。
そう計算して、促した。
ラファエルは、靴を脱いでベッドに上がる。
続いて、自分もベッドに上がれば、ベッドが沈む感覚に、どきりとする。
セラフは、ベッドの中心に座った、彼の太もものあたりを跨ぐようにして、膝立ちになった。
今度はセラフが彼の頬に手を当てて、そっと上向かせながら、顔を傾ける。
彼の唇に、唇を合わせて、軽く吸うと、ちゅ…という小さな音が生じて、恥ずかしくなる。
「ん…」
ラファエルの鼻の奥から、音が漏れた。
彼の身体がぴくりと反応した気がして、セラフはすぐに離れる。
「今の、いやですか?」
間近に瞳をのぞき込むと、きれいな瑠璃の瞳に、自分が映っているのがわかる。
彼の瞳に、自分はどう見えているのか、そんなことを考えた。
彼は、すぐに目を逸らして、右の手の甲を、自分の唇を当てる。
心なしか、彼の頬は赤い。
「…気持ちよかった、だけ、だから、…やめないで」
その言い方が、思いがけず可愛らしくて、セラフの胸の奥がきゅんとする。
こんな感覚、いつ以来だろう。
セラフは、再び顔を近づけて、彼の唇に、唇で触れた。
上唇と、下唇をそれぞれ、そっと吸えば、また、小さな音が生じる。
ラファエルも、同じように吸う動作を繰り返してくれて、その、ぎこちなさが可愛い、なんて思ってしまった。
刺激が強すぎるだろうか、と考えながら、セラフはそろりと舌先を差し出して、彼の唇の間をなぞる。
口を、開いて、と言うべきだろうか、と考えている間に、熱く濡れて柔らかいものが舌先に触れた。彼が、舌先を覗かせてくれたのだろう。
今度はセラフがピクリと反応してしまったが、ラファエルが気づかなかったようなので、彼の舌先をちゅっと吸う。
すぐに、ラファエルは同じように、セラフに返してくれた。
背中から腰にかけてが、ぞわぞわとする。
唇を、先ほどよりも大きく開いて彼の唇に合わせながら、舌を彼の舌に合わせる。
同じように唇を開いてくれた彼の口内に舌を滑り込ませれば、彼は小さく反応したが、受け入れて、同じようにしてくれる。
それが、気持ちよくて、心地よい。
零れそうになる唾液を、飲み下しながら、深い口づけを交わす。
どれくらい、そうしていただろう。
セラフが、彼の舌を吸いながら離れれば、ラファエルは両手で顔を覆ってしまった。
その様子が視界に飛び込んできた瞬間、冷や水を浴びせられたような気分になる。
やってしまった。
セラフが懸念していた通り、やはり、品行方正で、清廉な、女性経験のない若者には、刺激が強すぎたらしい。
「ラファエル、ごめんなさい。 いやでした?」
慌ててセラフがラファエルに語り掛けると、ラファエルの顔を覆っていた両手が、そろそろと下がって、彼の目元だけがあらわになった。
「いや、違う。 今、きっと、すごくだらしのない顔をしているから、セラフさんに見せたくない」
口元は手で覆われているので、もごもごとくぐもった声での主張だったが、何を言っているのかは正確に理解できた。
あらわになった瞳は潤んでいて、眉間には微妙に皺が寄っているが、目元には朱が差している。
また、セラフは、可愛い、と思ってしまい、ラファエルに提案していた。
「…キスとは、違うことをします?」
「…そのほうが、いいかも」
少し間があったが、ラファエルはセラフの身体を引き寄せながら抱きしめ、首元に顔をうずめた。
「…あ」
彼の熱い呼気が首筋を撫でて、セラフはビクリと反応してしまう。
「セラフさんのキス、すごく気持ちよくて、びっくりした…。 キスって、あんなに気持ちいいんだ」
言いながら、彼の唇が、セラフの肌に触れ、口づけて、軽く吸っていく。
時折、熱くて柔らかい舌で舐め上げられれば、震えずにはいられない。
きっと、キスが気持ちのいいことだと認識して、それをセラフにも与えようとしてくれているのだろう。
そう考えると、余計にくすぐったくて、落ち着かない気分になるのだった。
かと思えば、その親指が、セラフの下唇を掃くように、動く。
ラファエルの視線が、自分の唇に注がれているのがわかって、セラフは全身が熱を持つのを感じる。
もう一度、彼の親指がセラフの唇を掠めるように動けば、甘い痺れが走るような気がした。
「…キスは、したら、いや?」
そっと、穏やかに、静かに、ラファエルは尋ねてくる。
いつも優雅で、どこか余裕を感じさせるが、今日の彼にその余裕はない。
どこか硬い表情に、セラフはやっと気づいた。
彼は、女性経験がない。
初めて、なのだ。
きっと、自分よりもずっと、緊張しているのだろう。
セラフは、意を決して、少しだけ前に、顔を倒す。
唇に触れていた、ラファエルの親指の先を、軽く吸うようにして、キスをした。
びくり、と彼の手が引きそうになったので、セラフは咄嗟に両手でその手を包み込む。
「…大丈夫。 いやでは、ありません」
真っ直ぐに、ラファエルの瞳を見つめて告げる。
彼は、空いている左手を、セラフの右頬に添えた。
今度こそ、予感がして、セラフは彼の右手を離す。
そうすれば、右手もセラフの左頬に添えられて、そっと上向かされた。
やはり、彼は緊張しているのかもしれない。
触れた手が、冷えているように感じて、セラフはその手に手を重ねる。
ゆっくりと、彼の顔が近づいてきて、瑠璃の瞳を長いまつ毛が、瞼が覆い隠す。
だから、セラフも、それに倣った。
唇に、そっと触れる、あたたかくてやさしい感触に、胸の奥がぽっと温かくなる。
けれど、すぐに唇が離れてしまい、訝しく思ったセラフは瞼を持ち上げた。
ラファエルは、何とも言えないような表情をしていた。
目元を染めて、目を潤ませ、唇を真一文字に引き結んでいる。
嬉しそうでいて、困ったような、そんな表情だ。
もっと、キスはしないのだろうか。
そんな疑問は、別の言葉となって、唇から零れていた。
「…わたくしから、キスをしたら、いや?」
自分の声が、自分の耳に届いて、セラフはぎょっとする。
また、一瞬で体温が上がった。
何ということを、口走ったのだろう、とか。
どんなに慣れていると思われただろう、とか。
頭の中で思考がぐるぐると渦巻いている。
その、思考の渦を止めてくれたのは、ラファエルの声だった。
「…いやなわけ、ない」
見れば、ラファエルは頬を染めて、瑠璃のきれいな瞳を潤ませ、忙しなく動かしている。
その様子が、思いのほか可愛らしくて、セラフはちらとベッドを見る。
「…座って、いただけます? 貴方、背が高いから」
セラフが背伸びをして、彼が屈んでくれればキスはできるが、それを長く続けるのは厳しいだろう。
そう計算して、促した。
ラファエルは、靴を脱いでベッドに上がる。
続いて、自分もベッドに上がれば、ベッドが沈む感覚に、どきりとする。
セラフは、ベッドの中心に座った、彼の太もものあたりを跨ぐようにして、膝立ちになった。
今度はセラフが彼の頬に手を当てて、そっと上向かせながら、顔を傾ける。
彼の唇に、唇を合わせて、軽く吸うと、ちゅ…という小さな音が生じて、恥ずかしくなる。
「ん…」
ラファエルの鼻の奥から、音が漏れた。
彼の身体がぴくりと反応した気がして、セラフはすぐに離れる。
「今の、いやですか?」
間近に瞳をのぞき込むと、きれいな瑠璃の瞳に、自分が映っているのがわかる。
彼の瞳に、自分はどう見えているのか、そんなことを考えた。
彼は、すぐに目を逸らして、右の手の甲を、自分の唇を当てる。
心なしか、彼の頬は赤い。
「…気持ちよかった、だけ、だから、…やめないで」
その言い方が、思いがけず可愛らしくて、セラフの胸の奥がきゅんとする。
こんな感覚、いつ以来だろう。
セラフは、再び顔を近づけて、彼の唇に、唇で触れた。
上唇と、下唇をそれぞれ、そっと吸えば、また、小さな音が生じる。
ラファエルも、同じように吸う動作を繰り返してくれて、その、ぎこちなさが可愛い、なんて思ってしまった。
刺激が強すぎるだろうか、と考えながら、セラフはそろりと舌先を差し出して、彼の唇の間をなぞる。
口を、開いて、と言うべきだろうか、と考えている間に、熱く濡れて柔らかいものが舌先に触れた。彼が、舌先を覗かせてくれたのだろう。
今度はセラフがピクリと反応してしまったが、ラファエルが気づかなかったようなので、彼の舌先をちゅっと吸う。
すぐに、ラファエルは同じように、セラフに返してくれた。
背中から腰にかけてが、ぞわぞわとする。
唇を、先ほどよりも大きく開いて彼の唇に合わせながら、舌を彼の舌に合わせる。
同じように唇を開いてくれた彼の口内に舌を滑り込ませれば、彼は小さく反応したが、受け入れて、同じようにしてくれる。
それが、気持ちよくて、心地よい。
零れそうになる唾液を、飲み下しながら、深い口づけを交わす。
どれくらい、そうしていただろう。
セラフが、彼の舌を吸いながら離れれば、ラファエルは両手で顔を覆ってしまった。
その様子が視界に飛び込んできた瞬間、冷や水を浴びせられたような気分になる。
やってしまった。
セラフが懸念していた通り、やはり、品行方正で、清廉な、女性経験のない若者には、刺激が強すぎたらしい。
「ラファエル、ごめんなさい。 いやでした?」
慌ててセラフがラファエルに語り掛けると、ラファエルの顔を覆っていた両手が、そろそろと下がって、彼の目元だけがあらわになった。
「いや、違う。 今、きっと、すごくだらしのない顔をしているから、セラフさんに見せたくない」
口元は手で覆われているので、もごもごとくぐもった声での主張だったが、何を言っているのかは正確に理解できた。
あらわになった瞳は潤んでいて、眉間には微妙に皺が寄っているが、目元には朱が差している。
また、セラフは、可愛い、と思ってしまい、ラファエルに提案していた。
「…キスとは、違うことをします?」
「…そのほうが、いいかも」
少し間があったが、ラファエルはセラフの身体を引き寄せながら抱きしめ、首元に顔をうずめた。
「…あ」
彼の熱い呼気が首筋を撫でて、セラフはビクリと反応してしまう。
「セラフさんのキス、すごく気持ちよくて、びっくりした…。 キスって、あんなに気持ちいいんだ」
言いながら、彼の唇が、セラフの肌に触れ、口づけて、軽く吸っていく。
時折、熱くて柔らかい舌で舐め上げられれば、震えずにはいられない。
きっと、キスが気持ちのいいことだと認識して、それをセラフにも与えようとしてくれているのだろう。
そう考えると、余計にくすぐったくて、落ち着かない気分になるのだった。
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