【R18】サンドリヨンの秘密

環名

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第1章 サンドリヨンが王子様に捕まるまで

7.サンドリヨンは舞踏会に連行されます。

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「これで、私以外の目に、君が君として映ることはないよ。 思い切り舞踏会を満喫してくるといい」

 美女の言葉に、アシュリーは思わず目を瞬かせてしまった。
 それは、継母ままはは継姉ままあねたちを含めた知り合いと顔を合わせても、アシュリーがアシュリーではない別の誰かに見える魔法、ということでいいだろうか。
 アシュリーにとって、これ以上に有難いことはない。

 だが美女は、まるで業務連絡でも告げるように、淡々としている。
 あまりに素っ気なく、さっぱりとした言い方だったため、だろうか。 アシュリーの考えすぎかもしれないが、わざと彼女がそのように言っているのではないかと感じた。
 アシュリーの為にしてくれたことなのに、不思議なほどにアシュリーの為にしてあげた感が言葉からは窺えない。 それは、きっと、彼女の配慮。

「…ありがとう、ございます」
「礼を言われるようなことは何もしていないよ。 私は君に、私の為に舞踏会へ行ってもらうのだから」
 あくまで、アシュリーの為のことではなく、自分のためのことだと強調する美女に、アシュリーは確信を強くする。 だから、言った。

「でも、それを貴女は私に言ってくださる。 それは、私のためのことでしょう?」

 美女の、黒曜石の瞳が、凝らされる。
 凝視されたアシュリーは、何かまずいことを言ったのだろうかと不安になる。
 美女はまじまじとアシュリーを見つめたまま、右肘に左手を添えるようにして、その右手を顎にそっと当てた。

「…君が女性だったら、惚れていたかもしれないね」
「ぅえっ…!?」
 にこりともせずに、真顔で言葉が呟かれるので、アシュリーは思わず声を上げてしまった。
 呻きのような声が出た気がする。

 アシュリーが脳を空回りさせながら美女を見返していると、美女はやはり表情ひとつ変えずに頷く。
 なぜだかわからないが、美女の中では何から何まで納得がいっているらしい。
「でも、君は男だから。 私たちはいい友人になれると思うよ」

 どうしてこの女性が、本当は男のアシュリーに、アシュリーが女性だったら惚れていたかもしれないと言うのだろう。 そして、どうしてアシュリーが男だから、良い友人になれると言うのか。
 何だかもう、全くもって訳がわからない。

「それから、身につけているものは必ず持ち帰っておいで」
 おそらく、マイペースなのだろう。
 美女は、アシュリーの混乱などおかまいなしで話を先に進める。
 うっかり聞き流してしまったが、さて、何だっただろうか。

「身につけているもの?」
 耳が拾った音だけを繰り返すと、美女は今一度アシュリーの頭の天辺から足のつま先まで視線を行きつ戻りつさせて、【身につけているもの】に該当するものを挙げてくれた。
「例えば、そうだね。 髪飾りとか、靴とか」
「髪飾りと、靴ですか?」
「これは、借り物だから借り主に返さないとね。 例えば、返さなかったことを理由に、あれこれと難癖をつけられるのは嫌だろう?」

 国庫の補助で、国家予算で用意されたものだ。
 それは、自分のものになるとは思っていないけれど、不慮の事故で返せなかった場合にもあれこれと言われるらしい。
 上手い話には裏があるというが、やはり本当のようだ。
 そう思って、ハッと気づく。
 こっそりと視線を上げて、目の前の美女を見つめた。

 上手い話には、裏がある。
 果たして、この美女には本当に、裏はないのだろうか。

 アシュリーの視線をどう受け取ったのだろう。
 瞬きひとつの間に、目の前に美女の手の平が現れ、拳が握られたかと思うと開かれる。
 その手の中には不思議な光沢の黒い薔薇があった。

「はい、これが君の招待状だ」
 言いながら、最後の仕上げとばかりに、美女はその黒い薔薇をドレスに添えた。
 そういえば、継姉たちの着ていたドレスにも黒い薔薇があしらわれていた気がする。

 コサージュか何かだと思っていたが、これが招待状だったということは何らかの魔法がかけられているのだろう。 魔力のないアシュリーにはわからないが、きっとそうに違いない。
 あまり触れないようにしようと誓うアシュリーの耳に、美女の声が届く。
「さて、では行こうか」

 差し出された手を見、美女の顔を見る。
 伸べられた手は、まさしく白魚のようで、アシュリーのようにあかぎれていたり細かな傷がついていたりはしない。 それを見て、ふと気づく。
 アシュリーが着けている肘よりも長い手袋は、これを隠すための効果もあるらしい、と。

 何となくだが、美女の手を取ったらお別れなのだろうと思った。
 だから、アシュリーは声を上げる。
「あの、貴女は」
 誰、と問えばいいのか、その名だけが知りたかったのか、自分でも図りあぐねて言葉は不自然に切れる。
 先の言葉を美女が拾ったとも思えない。 それでも彼女は頷く。

「ああ、そうだ。 帰りの合図を忘れていたね。 オリヴィエ、とそう呼べばいい。 私の名だ」
 アシュリーがいいとも悪いとも、わかったともわからないとも言わないうちに、美女――オリヴィエはアシュリーの手を取る。
 その瞬間、アシュリーは自身があたたかい光に包まれるのを感じた。

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