【R18】サンドリヨンの秘密

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第1章 サンドリヨンが王子様に捕まるまで

6.嗜好について問われています。

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「それで君は、男が好きなの? 女が好きなの?」

 アシュリーに淡いブルーのドレスを着せ終えて、髪を梳いてくれながら美女がアシュリーに尋ねてきた。
 アシュリーが身につけている、喉元まで隠れるような露出の少ないそれが、クラシックタイプと呼ばれるドレスだということは知っている。 一昔前に流行したスタイルではあるが、時代遅れの印象を与えないのは、どこか流行のスタイルも取り込まれているせいか。 品のある、清楚な感じの仕上がりだと思う。

「どうなのでしょう。 父は好きです。 母も好きです。 …けれど、女性は怖いと思います」

 間近に継母ままはは継姉ままあねを見てきたから、だろうか。 女性は怖いと思う。
 だからといって、男が好きなのかと問われれば、それもわからない。 そもそもアシュリーはまだ、恋をしたことがないのだと思う。

 恋をしたこともなければ、恋愛や結婚など、アシュリーに訪れるものとは思えなかったから、考えることすらなかった。 ただ漠然と感じていたのは、このままこの家で一生を終えるのだろうということだけ。

「男に戻りたいとは思わないの?」

 アシュリーに問う声は、今までの質問の中で、一番静かだったと思う。
 男に、戻りたいか。
 戻ったとしても、問題は山積みだろう。
 きっと、魔力なしの自分が男児であることは、伯爵家の跡継ぎ問題へと発展する。
 女として育てられた自分が男だった、なんて、伯爵家の名に泥を塗りかねない。 そうすれば、困るのは父だ。 亡き母だって、もっと悪く言われるのは目に見えている。
 そんなこと、アシュリーが耐えられない。

 ただ、確信しているのは、アシュリーが今の自分を気に入っているということ。
 装うことは好きだし、自分には男物よりも女物のほうが似合うのも知っている。 不都合や不自由なことはあるけれど、不便ではない。

「…もしかしたら、私には、性別という概念が薄いのかもしれません。 どちらでも結果はあまり変わらないように思えますし、むしろ女のままの方が不便はないかもしれません」
「…そう。 終わったよ。 あとは少し、メイクをしてあげる。 目を閉じて」
 美女に求められるままに、アシュリーは目を閉じた。

 ドレスだけかと思いきや、ドレスに合わせた長手袋や髪飾りも用意されていた。
 ハイヒールはまるでガラスでできているようにひんやりとしていたが、ガラスではなく特殊な素材だと美女は言っていた。
 微妙に不透明なのに、光を吸い込んで、あるいは反射して、七色に煌めく様をオーロラのようだと思う。 ああ、それよりも、もしかすると、アシュリーの髪の色に似ているかもしれない。
 ドレスも靴も、驚くくらいにアシュリーの身体にぴったりだった。 体型に合わせて形を多少補正する魔法でもかかっているのかもしれない、と思う。

 髪は美女が結い上げてくれて、お化粧まで施してくれている。
 お化粧なんて、するのは初めてだった。
 男なら、する必要のなかったこと。
 女として生きてきた今までも、アシュリーは化粧をしたことがなかった。

 そうやって出来上がって、姿見に映された自分は、本当に自分なのかと信じられないほどだった。
 ドレスも、装飾具も、靴も、アシュリーのためだけに作られたかのように、アシュリーに似合っている。

「うん、よく似合っている」
「ありがとう、ございます」
 美女の言葉に、素直に微笑むことができた。

 美女は、じっとアシュリーを見下ろしていた。
 アシュリーは男にしては小柄な方だが、女性としてみると背の高い部類に入る。 だが美女は、ハイヒールを履いたアシュリーよりも背が高かった。

「私は君のことも気に入ったから、あいつには内緒で魔法をかけてあげる」
「え」
 思いも寄らない言葉に、アシュリーは目を瞬かせてしまった。

 美女がすらすらと紡いでいく言葉は、アシュリーには耳慣れないもの。
 何らかの意味は成すのだろうが、アシュリーにとっては意味を成さない。

 ああ、そう。 まるで、異国の言葉のようだ。
 これが、魔法の呪文。 これが、完全詠唱魔法。

 そう気づいたのは、何か薄黒い光の帯のようなものが身体に纏わり付くようにして消えたときだった。

 怖れに支配されたのは一瞬。
 だが、どこが痛いわけでも苦しいわけでもなく、何も変化が感じられなくて、アシュリーは安堵し緊張を緩めた。
 けれど、何かされたことはわかるし、アシュリーにわからないだけで、アシュリーの身に何らかの変化が起きたような気もする。

「あの、…何を、なさったのですか?」
 疑われていると知れれば、いい気はしないだろう。
 一応、控えめに尋ねれば、美女は気分を害した様子もなく応じてくれる。

「これで、私以外の目に、君が君として映ることはないよ。 思い切り舞踏会を満喫してくるといい」

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