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第2章 サンドリヨンが王子様に捕まってから
おかしなお茶会の続き。(上)
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あれから、数か月。
アシュリーの身の回りの世話をしてくれる人間の選定も済んで、アシュリーの心労はとりあえず一つ減った。
クレイディオに、あれこれと世話を焼かれる必要がなくなったからだ。
とはいっても、クレイディオはまだ、アシュリーの世話について未練があるらしく、アシュリーのあれこれを手伝おうとしては年嵩のヘルガに追い出される日々が続いている。
アシュリーは今まで自分のことは自分でやってきたし、これからもヘルガたちの手を極力借りずに過ごしたい、と思っている。
だが、衣装の着脱は一人では難しいものも多く、現在進行形で王子サマの婚約者としてのお勉強中なアシュリーには、意外と自由になる時間が少ない。
時間をかければ、掃除・洗濯などは自分でもできるのだが、その時間が惜しいのが今の状況だ。
加えて、魔力のないアシュリーがする掃除・洗濯は全て手作業で時間がかかる。
ヘルガたちに任せれば、魔力にものを言わせてちょちょいのちょいで終わるらしいのだから、アシュリーが下手に手を出すわけにもいかなくなった。
ヘルガとヴィーラ、セブリナがアシュリーの身の回りを担当することになった女性たちで、アシュリーの事情を何もかも知っている。 というのに、彼女たちはアシュリーに偏見は全く持っていないらしい。
クレイディオと国王夫妻がそういう人間を選んでつけてくれた、と言ってしまえばそれまでなのだが、彼女たちはアシュリーについてとても肯定的で、アシュリーはそのことにも驚いている。
ついでに言えば、彼女たちはクレイディオよりもアシュリーの味方であるらしく、着替え中に乱入して来るクレイディオを撃退してくれるのも有難い。
王太子を王太子とも思わない扱いではあるのだが、ヘルガなどは幼い頃からのクレイディオを知っているらしく、クレイディオとしてもなかなかに反発しにくいようだ。
まあ、そういうわけで、アシュリーとしては安定して日々を過ごせていたわけなのだが…。
目の前のこの光景は、一体どういうことなのだろう。
サロンに足を踏み入れたアシュリーは思わず動きを止めてしまった。
アシュリーをもう少しふくよかにする、というよくわからないクレイディオの目標のもと、アシュリーは毎日午後三時のお茶の時間を、サロンで過ごすことを義務づけられているのだが…。
ティーカップを口に運んでいる王妃様の機嫌がすこぶる悪いことだけは、わかる。
それから、既に席についているクレイディオの様子も芳しくない。
そして、これが常との最大の違いなのだが、クレイディオの隣に陣取って、クレイディオの腕に腕を絡ませている美少女がいる。
この美少女は、誰だろう。
この、空気の悪さに気づかないのだろうか。 すごい強者だ。
アシュリーが半ば呆然としていると、王妃様がアシュリーに気づいたらしく、微笑みかけてくれる。
「アシュリー、お勉強は順調かしら? お義母様の隣にいらっしゃい」
今まで、王妃様がアシュリーの前でご自分のことを【お義母様】だと口にすることはなかったと記憶しているのだが…。
これは、敢えて主張した、ということでよいのだろうか。
とにかくとりあえず、今の王妃様には逆らわない方が賢明だ。
そう、アシュリーの生存本能が訴えているので、アシュリーは王妃様の言葉に従い、丸いテーブルに対角線上に置かれていただろう椅子を動かしながら王妃様に寄った。
「では、失礼します」
「アシュリーは、私の隣に」
「お黙りなさい、クレイディオ。 まずはそのお嬢さんをどうにかしてから言うのが道理でしょう」
アシュリーが王妃様の隣に腰かけようとすれば、クレイディオが声を上げる。
だが、それを王妃様がぴしゃりと遮った形だ。
驚いて、アシュリーが一度動きを止めたのにも王妃様は気づいたのだろう。
「気にせずお掛けなさい、アシュリー」
王妃様がアシュリーには微笑んでくれたので、アシュリーは安堵しつつ腰を下ろした。
そしてアシュリーは、ちらりとクレイディオとクレイディオの隣にぴったりと寄り添い、腕に腕を絡めている美少女を見る。
栗色の緩く波打つ髪に、藍色の瞳。 容貌は大人しめで、可愛らしい系の美少女だ、と思うが、外見と中身はイコールではないのだろう。
王妃様――クレイディオの母親を前にしても、クレイディオにべったりとくっついていられるくらいだ。
アシュリーについては、クレイディオの婚約者であると、認識していない可能性もある。
でも、だからといって、クレイディオもクレイディオで、どうしてその美少女を好きなようにさせておくのだろう。 アシュリーは一応、クレイディオの【婚約者】なのだ。
さしものアシュリーでも、全く何も感じないわけではない。
彼女について、クレイディオに尋ねるのは、なんとなく憚られた。
だから、アシュリーは、クレイディオにではなく王妃様に尋ねたのだと思う。
「あの、そちらの御令嬢は…?」
「ユロー公爵家のクラリス嬢ですよ、北のセプトゥリオネスに留学していたらしいのですが…」
王妃様が微妙なところで言葉を濁せば、その後をクラリス嬢が引き継いだ。
「だって、納得できません! わたくしがいない間に、お妃様選びの舞踏会が開催されていて、婚約者が決まってしまったって…どう納得しろというのですか?」
憤慨するクラリス嬢にも、クレイディオは無言だ。
「ご縁がなかったのでしょうねぇ」
王妃様は淡々と口にして、そっとティーカップに口をつけた。
アシュリーの身の回りの世話をしてくれる人間の選定も済んで、アシュリーの心労はとりあえず一つ減った。
クレイディオに、あれこれと世話を焼かれる必要がなくなったからだ。
とはいっても、クレイディオはまだ、アシュリーの世話について未練があるらしく、アシュリーのあれこれを手伝おうとしては年嵩のヘルガに追い出される日々が続いている。
アシュリーは今まで自分のことは自分でやってきたし、これからもヘルガたちの手を極力借りずに過ごしたい、と思っている。
だが、衣装の着脱は一人では難しいものも多く、現在進行形で王子サマの婚約者としてのお勉強中なアシュリーには、意外と自由になる時間が少ない。
時間をかければ、掃除・洗濯などは自分でもできるのだが、その時間が惜しいのが今の状況だ。
加えて、魔力のないアシュリーがする掃除・洗濯は全て手作業で時間がかかる。
ヘルガたちに任せれば、魔力にものを言わせてちょちょいのちょいで終わるらしいのだから、アシュリーが下手に手を出すわけにもいかなくなった。
ヘルガとヴィーラ、セブリナがアシュリーの身の回りを担当することになった女性たちで、アシュリーの事情を何もかも知っている。 というのに、彼女たちはアシュリーに偏見は全く持っていないらしい。
クレイディオと国王夫妻がそういう人間を選んでつけてくれた、と言ってしまえばそれまでなのだが、彼女たちはアシュリーについてとても肯定的で、アシュリーはそのことにも驚いている。
ついでに言えば、彼女たちはクレイディオよりもアシュリーの味方であるらしく、着替え中に乱入して来るクレイディオを撃退してくれるのも有難い。
王太子を王太子とも思わない扱いではあるのだが、ヘルガなどは幼い頃からのクレイディオを知っているらしく、クレイディオとしてもなかなかに反発しにくいようだ。
まあ、そういうわけで、アシュリーとしては安定して日々を過ごせていたわけなのだが…。
目の前のこの光景は、一体どういうことなのだろう。
サロンに足を踏み入れたアシュリーは思わず動きを止めてしまった。
アシュリーをもう少しふくよかにする、というよくわからないクレイディオの目標のもと、アシュリーは毎日午後三時のお茶の時間を、サロンで過ごすことを義務づけられているのだが…。
ティーカップを口に運んでいる王妃様の機嫌がすこぶる悪いことだけは、わかる。
それから、既に席についているクレイディオの様子も芳しくない。
そして、これが常との最大の違いなのだが、クレイディオの隣に陣取って、クレイディオの腕に腕を絡ませている美少女がいる。
この美少女は、誰だろう。
この、空気の悪さに気づかないのだろうか。 すごい強者だ。
アシュリーが半ば呆然としていると、王妃様がアシュリーに気づいたらしく、微笑みかけてくれる。
「アシュリー、お勉強は順調かしら? お義母様の隣にいらっしゃい」
今まで、王妃様がアシュリーの前でご自分のことを【お義母様】だと口にすることはなかったと記憶しているのだが…。
これは、敢えて主張した、ということでよいのだろうか。
とにかくとりあえず、今の王妃様には逆らわない方が賢明だ。
そう、アシュリーの生存本能が訴えているので、アシュリーは王妃様の言葉に従い、丸いテーブルに対角線上に置かれていただろう椅子を動かしながら王妃様に寄った。
「では、失礼します」
「アシュリーは、私の隣に」
「お黙りなさい、クレイディオ。 まずはそのお嬢さんをどうにかしてから言うのが道理でしょう」
アシュリーが王妃様の隣に腰かけようとすれば、クレイディオが声を上げる。
だが、それを王妃様がぴしゃりと遮った形だ。
驚いて、アシュリーが一度動きを止めたのにも王妃様は気づいたのだろう。
「気にせずお掛けなさい、アシュリー」
王妃様がアシュリーには微笑んでくれたので、アシュリーは安堵しつつ腰を下ろした。
そしてアシュリーは、ちらりとクレイディオとクレイディオの隣にぴったりと寄り添い、腕に腕を絡めている美少女を見る。
栗色の緩く波打つ髪に、藍色の瞳。 容貌は大人しめで、可愛らしい系の美少女だ、と思うが、外見と中身はイコールではないのだろう。
王妃様――クレイディオの母親を前にしても、クレイディオにべったりとくっついていられるくらいだ。
アシュリーについては、クレイディオの婚約者であると、認識していない可能性もある。
でも、だからといって、クレイディオもクレイディオで、どうしてその美少女を好きなようにさせておくのだろう。 アシュリーは一応、クレイディオの【婚約者】なのだ。
さしものアシュリーでも、全く何も感じないわけではない。
彼女について、クレイディオに尋ねるのは、なんとなく憚られた。
だから、アシュリーは、クレイディオにではなく王妃様に尋ねたのだと思う。
「あの、そちらの御令嬢は…?」
「ユロー公爵家のクラリス嬢ですよ、北のセプトゥリオネスに留学していたらしいのですが…」
王妃様が微妙なところで言葉を濁せば、その後をクラリス嬢が引き継いだ。
「だって、納得できません! わたくしがいない間に、お妃様選びの舞踏会が開催されていて、婚約者が決まってしまったって…どう納得しろというのですか?」
憤慨するクラリス嬢にも、クレイディオは無言だ。
「ご縁がなかったのでしょうねぇ」
王妃様は淡々と口にして、そっとティーカップに口をつけた。
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