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第2章 サンドリヨンが王子様に捕まってから
おかしなお茶会の続き。(下)
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…整理すると、クラリス嬢はクレイディオの妃の座を狙っていたが、お妃様選びの舞踏会が開かれるとき国内にはおらず、出席することができなかった。 クラリス嬢が出席していない舞踏会で決まった婚約者など、到底納得できないとクラリス嬢は抗議をしに来て、今に至る、というところだろうか。
でも、どうやらクレイディオは、アシュリーがアシュリーだったから、アシュリーのことが気に入って婚約者にしようと思ったらしい。
ということは、クラリス嬢がいてもいなくても結果は変わらないと思うのだが、それを言ったら顰蹙を買うだろう。 そう判断したアシュリーは、無言でティーカップに口をつける。
クレイディオのことは、見られなかった。
そうすれば、クレイディオの溜息を纏わせた甘い声が、アシュリーの耳に届く。
「あのね、クラリス。 君が認める認めないではなくて、彼女は私が望んで決めた婚約者だ。 本来、彼女以外には誰の許可も必要としない。 君ではないんだ、クラリス」
そう、きっぱりと、断言してくれた。
それが嬉しくて、嬉しさのあまり緩む口元を隠したくて、アシュリーはティーカップに口をつけたままにした。
だが、バン! ガタン! と続けざまに音が聞こえて、ビクリとする。
見れば、テーブルに手をついて立ち上がったクラリス嬢が、キッとアシュリーを睨みつけていた。
「っ…それでもわたくし、認めませんから!」
そう、捨て台詞を残して、ばたばたとサロンから出て行ったクラリス嬢に、呆気にとられながらもアシュリーは身震いする。
見た目があんなに可愛い美少女であっても、やっぱり女性は怖い。
痛感し、再確認した瞬間だった。
その隣で、王妃様はのんびりと紅茶を啜っている。
「…あの子は、クレイの話を聞いていなかったのかしら?」
あの子、と王妃様がクラリス嬢について口にしたことが気にかかった。
何か、親しい間柄のようにも聞こえる。
「あの、王妃様とクラリス嬢は、お知り合いなのですか?」
「母と、彼女の母は、従姉妹同士だし、私も含めて交流はあったよ。 昔から、彼女は私のお嫁さんになると言っていて、私はその都度、断っては来たんだけど…」
クレイディオにしては珍しく、深い溜息が漏れた。
それは、あれだけきっぱりと断っているのに、諦めてもらえず、「認めない!」と叫ばれてはどうしていいかわからなくなるのも無理はない。
「年を取ってからできた娘だからって、公爵が甘やかしすぎたのですよ」
王妃様の声には苛立ちと棘がある。
辛辣だ、とは思うが、それだけアシュリーのことを大切な【嫁】だという認識でいてくれているという証なのだろう。 そのこと自体は、嬉しい。
家族の一員だと、認めてもらえているようで。
「だからね、アシュリー。 貴女は堂々と、クレイディオの婚約者だという顔をしていればいいの。 何かあったらわたくしにお言いなさい。 ね?」
「はい…。 ありがとうございます、王妃様」
眩しいばかりの微笑みでアシュリーを励ましてくれる王妃様が有難い。
だから、アシュリーはその気持ちを言葉に換えたのだが、その目の前でクレイディオは複雑そうな顔をしていた。
「…私の台詞を取らないでもらえますか、母上」
でも、どうやらクレイディオは、アシュリーがアシュリーだったから、アシュリーのことが気に入って婚約者にしようと思ったらしい。
ということは、クラリス嬢がいてもいなくても結果は変わらないと思うのだが、それを言ったら顰蹙を買うだろう。 そう判断したアシュリーは、無言でティーカップに口をつける。
クレイディオのことは、見られなかった。
そうすれば、クレイディオの溜息を纏わせた甘い声が、アシュリーの耳に届く。
「あのね、クラリス。 君が認める認めないではなくて、彼女は私が望んで決めた婚約者だ。 本来、彼女以外には誰の許可も必要としない。 君ではないんだ、クラリス」
そう、きっぱりと、断言してくれた。
それが嬉しくて、嬉しさのあまり緩む口元を隠したくて、アシュリーはティーカップに口をつけたままにした。
だが、バン! ガタン! と続けざまに音が聞こえて、ビクリとする。
見れば、テーブルに手をついて立ち上がったクラリス嬢が、キッとアシュリーを睨みつけていた。
「っ…それでもわたくし、認めませんから!」
そう、捨て台詞を残して、ばたばたとサロンから出て行ったクラリス嬢に、呆気にとられながらもアシュリーは身震いする。
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痛感し、再確認した瞬間だった。
その隣で、王妃様はのんびりと紅茶を啜っている。
「…あの子は、クレイの話を聞いていなかったのかしら?」
あの子、と王妃様がクラリス嬢について口にしたことが気にかかった。
何か、親しい間柄のようにも聞こえる。
「あの、王妃様とクラリス嬢は、お知り合いなのですか?」
「母と、彼女の母は、従姉妹同士だし、私も含めて交流はあったよ。 昔から、彼女は私のお嫁さんになると言っていて、私はその都度、断っては来たんだけど…」
クレイディオにしては珍しく、深い溜息が漏れた。
それは、あれだけきっぱりと断っているのに、諦めてもらえず、「認めない!」と叫ばれてはどうしていいかわからなくなるのも無理はない。
「年を取ってからできた娘だからって、公爵が甘やかしすぎたのですよ」
王妃様の声には苛立ちと棘がある。
辛辣だ、とは思うが、それだけアシュリーのことを大切な【嫁】だという認識でいてくれているという証なのだろう。 そのこと自体は、嬉しい。
家族の一員だと、認めてもらえているようで。
「だからね、アシュリー。 貴女は堂々と、クレイディオの婚約者だという顔をしていればいいの。 何かあったらわたくしにお言いなさい。 ね?」
「はい…。 ありがとうございます、王妃様」
眩しいばかりの微笑みでアシュリーを励ましてくれる王妃様が有難い。
だから、アシュリーはその気持ちを言葉に換えたのだが、その目の前でクレイディオは複雑そうな顔をしていた。
「…私の台詞を取らないでもらえますか、母上」
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