【R18】お猫様のお気に召すまま

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【2】猫ではないキアラの新生活

14.マタタビの力を借りて**

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 キアラも嬉しくて、ふわふわする。
 そう、にこにことしていたのに、次の瞬間ご主人様はキアラの期待を裏切るようなことを口にした。


「仕方ないなぁ、キスだけだよ?」


 キアラは一時停止して、目を見張る。
 ご主人様のパジャマの裾を引っ張ていた手をそろそろと引っ込めた。
「…なんれ、きす、らけれすか…?」


 しょぼんとなったキアラにますます困り顔になったご主人様だけれど、その困り顔を消して優しい笑顔でキアラの瞳を覗き込んでくる。
「判断力低下してる子と色々する趣味ないの、俺は。 酒のせいとか薬のせいにしてほしくないからさ」

 なでなで、と頭を撫でてくれるご主人様の手が優しくて気持ちいいが、そのやり方が猫のときのキアラを相手にするようで、それもキアラの不満だ。
 その不満が、口から出ていた。
「きあら、ちゃんろわかっれやってまひゅ!」

 ご主人様の目が丸くなった。
 キアラの反応にびっくりした様子だ。
 でも、そんなことに構ってはいられない。
 キアラの気持ちを、ご主人様にわかってもらわないといけない。
 そう、キアラは必死だった。

「ごしゅじんさまにきすしてほしいれす、さわってほしいれす…。 れも、はじゅかしいから、またたびに、ゆうき、もらったたけれす…」
 勇気を出して、決心しての行動だったのに、ご主人様はキスしかしてくれないと言う。
 キアラがしたことは間違いだったのだろうか。
 そう、悲しくなっていると、ご主人様の声が耳に届いた。


「…そっか」
 落とすような、優しい声に、キアラは耳を動かして顔を上げる。
 ご主人様の手が、キアラの顎の付け根へとすっと差し込まれる。
 視線を前に向けたときには、顔を傾けたご主人様の顔が、目と鼻の先にあった。

「じゃあ、ちゃんと覚えててね」
 キアラの唇を、ご主人様の吐息が撫でた。
 ほとんど条件反射で軽く口を開いて舌を出したキアラだったが、その反応は合っていたらしい。
 ご主人様の舌がぬるりとキアラの舌に触れて、唇と唇が触れ合った。


「んんっ…」
 鼻から抜けて耳に届いた自分の声は、自分でも驚くくらいに甘い。
 ご主人様にキスをしてもらうことを、キアラは本当に、本当に待ち望んでいたのだ。

 舌を擦り合わせて、吸って、唇を合わせるだけではなくて、吸って、呼吸を重ね合い、唾液を飲み込む。
 ずっとしてほしかったキスをしてもらえて、キアラは浮かれていた。
 自分からご主人様の舌を吸って、ご主人様の唇が離れようものならば、啄むようなキスをしてもっととねだる。


「…本当、可愛いなあ…」
 呟いたご主人様は、ぐいとキアラの身体を抱き寄せて、膝の上に横抱きにした。
 そして、上からかぷりとキアラの唇にぴったりと唇を合わせてくれる。


「ん、ん」
 ご主人様の舌を伝って、ご主人様の唾液がキアラの口の中に落ちてくる。
 目を閉じて、ご主人様の舌を噛まないように気をつけながら、ご主人様の唾液を飲み下していたキアラだが、カッと目を見開いた。
「んっ!?」

 キアラの背に回されたご主人様の左腕、その手が、ぐるりとキアラの前面に回ってキアラのささやかな胸の膨らみに触れているのだ。
 そして、ご主人様の右手は、ノーガードだったキアラの脚の間を撫でている。
 望んでいたこととはいえ、展開が早くてキアラは動揺する。


「ご、ごひゅひんはま、」


 呼んだ唇を、ちゅっと吸われた。
 間近で微笑むご主人様が素敵で、胸の奥も、お腹の奥も、脚の間もきゅんきゅんする。
 ご主人様のロイヤルブルーサファイアの瞳は、キアラの動揺などきっと、お見通しだ。


「何? 触ってほしい、って言ったよね、キアラ。  もう、花、枯れたから、誘ってくれたんじゃないの?」
 ぐっとキアラは言葉に詰まった。

 ご主人様はキアラの動揺などお見通しだ、と思ったがどうやら違うらしい。
 キアラの動揺だけでなく、キアラの考えていることも全部、お見通しなのだ。


 微笑んだままで、ご主人様の唇がキアラの唇を軽く吸う。
 ご主人様に身を委ねて、キスを交わしていると、ご主人様の指先がキアラの脇腹を撫でた。
 ぞわぞわするのを我慢していたキアラだが、どうやら脇腹を撫でられているだけではないことに気づいて声を上げる。


「にゃ!」
 ご主人様の指は、キアラが身に着けているぴったりとした薄手のTシャツの裾に指を引っ掛けて、脇腹を撫でながらたくし上げていたのだ。
 お腹はほとんど露になっていたのだが、ご主人様はぐいと更にたくし上げる。
 しかも、Tシャツと一緒に下着も上げられてしまったので、キアラのささやかな胸の膨らみがご主人様の目に晒されることとなる。


 キアラは最近、少し変なのだ。
 猫から人猫族になって初めの頃は、ご主人様に裸を見られても何とも思わなかったのに、今はご主人様に裸を見られるのが恥ずかしい。
 今だって、ささやかな胸の膨らみを見られるのが、その中央で存在を主張する小さな尖りに視線を注がれるのが恥ずかしくて堪らない。


「…可愛い。 そういえば、キアラ、猫のときからここ、可愛いピンクだったよね」
 目を細めたご主人様は、キアラの胸の尖りには直接触れずに、その周囲を指先で丸く辿る。
 まるで、円を描くような動きだ。
 恥ずかしいし、目で追っていたら目が回りそうで、キアラは自分の胸から視線を上げてご主人様を見つめる。

「ん…、ごしゅじんさま、ねこのきあらにも、こういうことしたかったれすか?」
 キアラの問いに、きょとんとしたご主人様は、キアラの胸の上で滑らせていた指もぴたりと止めた。
 そして、何を言うんだ、とでも言うような様子で、ふっと笑う。


「まさか。 猫のときは、ただ可愛くて可愛かっただけだよ」


 ご主人様はキアラの瞼にキスをくれる。
 その間にも、キアラはご主人様の言葉の意味を考えていた。

 ご主人様は、人猫族のキアラのことも可愛いと言ってくれるが、猫のキアラも可愛いと言うのだ。
 むしろ、猫のときのほうが、ご主人様はキアラのことを可愛いと言ってくれていた。
 人猫族のキアラに対する可愛いと、猫のキアラに対する可愛いの違いが、キアラにはよくわからない。


「んにゃ、あ、な、にがちがいますか?」
 再びキアラの胸の上で踊りだしたご主人様の指に身体を跳ねさせつつ、キアラは尋ねた。
 ご主人様は、嬉しそうに、楽しそうに微笑みながら、「そうだな」と呟く。


「今は、目で愛でて、触れて愛でたいって思うな。 一番は、舌で愛でたい、味わいたいって思うことかも」


 舌で愛でたい。
 味わいたい。

 キアラが頭の中でその言葉を繰り返している間に、ご主人様の顔がすっと下がる。
 次の瞬間には、胸の先にぬるりとした感触があって、キアラはびくっと身体を跳ねさせた。
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