【R18】お猫様のお気に召すまま

環名

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【2】猫ではないキアラの新生活

13.魔法の粉を嗅ぎました

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 ご主人様がお風呂に入っている間に、キアラは決心をした。
 もう、ほとんど使うことのなくなった猫の頃のキアラの部屋だが、キアラの花が落ちている間だけ、キアラはキアラの部屋で眠るようにと言われた。 ご主人様が、魔法で、客間のベッドを移動させて入れたのである。

 キアラの花が落ちている間、いってらっしゃいとお帰りなさいのキスをキアラからすることは嫌がられなかったが、ご主人様からはキスをもらえなかった。
 我儘を言ってはご主人様を困らせると思ったので黙っていたが、キアラはすごく寂しかったし、不満だった。


 その、花が枯れて、今日からキアラはようやくまた、ご主人様と一緒のベッドで眠れる。
 キアラはかなり浮かれているし、ご主人様からキスをしてもらえるんじゃないかとか、触ってもらえるんじゃないかとか期待もしている。

 ご主人様にキスをしてもらうのも、触ってもらうのもキアラは好きだ。
 触り方が優しくて、キアラのことを大切にしてくれているのが、わかるから。


 キアラは先にお風呂を済ませて、ご主人様の寝室に行く前に、キッチンに立ち寄った。
 キッチンの上の方にある収納を開けて、キアラは猫の絵が描いてある箱を取り出した。
 猫のときには届かなかった場所にも手が届くようになり、キッチンを使用するようになって知ったこと。
 ご主人様が、猫のキアラに触らせたくないものは、どうやらここに仕舞ってあったらしい。

 キアラはその箱の中から使いかけの小袋を取り出して、開けた。
 鼻をくっつけて匂いを嗅ぐまでもなかった。
 開いた瞬間に舞い上がった粉末、その匂いを嗅いだだけでくらりとして、慌てて小袋を閉じた。
 そして、何事もなかったかのように、元の場所に戻す。


 ご主人様の寝室へと向かいながらも、足元がふわふわとしていて、とても楽しい。
 地に足がついていないような心許なさではなくて、まるで雲の上を歩いているような浮遊感に心も浮き立つ。


 ご主人様の寝室の扉を開ければ、ご主人様の香りがして、ますますふわふわとした気持ちになった。
 キアラは、扉の閉まる音を背後に聞きながら、小走りで助走をつけてご主人様のベッドに飛び込む。


「にぁあ…、ごしゅじんさまの、におい…」
 寝具から、ご主人様の匂いがして、ご主人様に抱きしめられているみたいだ。


 ご主人様の寝室に入るのも、ベッドに入るのも一週間ぶりだからだろうか。
 ご主人様の匂いが強くて、くらくらする。

 キアラはシーツに顔を埋めて夢中で頬ずりしていたので気づかなかった。
 背後で静かに扉が開いて、静かに閉まったことに。
 ベッドが沈んだのに気づいて、はっと顔を上げるとご主人様が隣にいた。
 そして、キアラの頬を、折り曲げた人差し指の背で優しく撫でてくれる。


「何してるんだ、キアラ?」
 揶揄するようではなく、愛しさに満ちた視線を向けられているのがわかったから、キアラの胸はきゅうう、となるのだ。
 大好きなご主人様が目の前にいることに、胸のきゅんきゅんが治まらなくて、キアラはご主人様に抱きつく。
「ごしゅじん、さまぁ…」
 ご主人様の唇にちゅっちゅっと口づけていると、ご主人様がキスの合間に目を細めて笑ってくれる。

「…熱烈」
「…いや、れすか?」
 嫌そうな表情ではなかったけれど、今のキアラは頭もふわふわしているので、言葉を理解できても、ご主人様の意図したことまで思考が及ばない。
 だから、確認した。
 そうすると、ご主人様は微笑んでくれる。

「嫌じゃないよ。 可愛くて、興奮する」
 ご主人様の笑顔がきれいで素敵で、ご主人様の言葉が嬉しくて、キアラはもう一度キスをしようとしたのだが、ご主人様は「でも」と続けた。


「でも、キアラ、呂律回ってないね。 俺のこと欲しくてえっちな気分になってくれてるのかと思ったんだけど…何か変なもの食べたり飲んだりした?」


 図星を指されて、キアラは思わずびくりとしてしまった。
 耳や尻尾の反応から、ご主人様はそれに気づいたのだろう。
 にっこりと微笑んだままで、じっとキアラの言葉を待っている。
 キアラは悪くないと思うのだが、ご主人様がそんな反応をするものだから、後ろめたい気持ちになりながら、キアラは応じた。
「またたび、かいららけれす…」

 マタタビは、気持ちがよくなって、気持ちが大きくなる魔法のお薬だ。
 そう教えてくれたのは、ご主人様だ。
 猫のときのキアラが、嫌なことを我慢するとき、我慢できたときにご褒美としてご主人様が与えてくれたものだった。
 だから、今回ご主人様と一緒に寝られなくて、キスもしてもらえず、触ってももらえなかった、嫌なことを我慢できたキアラはマタタビをもらっていいと思ったのだ。


「あ…そっか、マタタビ見つけちゃったか…」
 そんな呟きを落とすご主人様の意識が、逸れたのがわかった。
 きっと、キッチンの収納にしまってあるマタタビのことを考えているのだろう。


 今、目の前にいるのはキアラなのに。
 だから、キアラはキアラのことを見てほしくて、ご主人様にねだる。


「ごしゅじんさま、きす、しますぅ…」
 くいくいと、ご主人様が身に着けているパジャマの裾を引っ張って、ご主人様の唇以外の顔面にちゅっちゅっとキスをする。
 キアラからキスをしたのでは、花が咲いている期間と同じだ。
 だから、ご主人様からキスがほしい。 触ってほしい。

 そう伝えると、ご主人様は少し頬を染めつつ、目を伏せて眉も下げる。
 嬉しそうなのに困り顔なのが不思議だ、と思って見ていると、ご主人様はようやくキアラの瞼にキスをくれた。
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