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本編
《0》ここに辿り着くまで…
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登場人物の見た目の特徴をほぼ書いていない状態です。
思い付いたら予告無く書き足すかもしれません。
主人公は色々な意味(心情や生きてきた環境等)で雑な言葉遣いをしています。
ご了承ください。
‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥
そこは壇上。王立学園の学園長や偉い方々が皆に指示、発言する為に50㎝程高くなっていて三段程の階段がある。そこに数名の者共が殺気のようなものを放ちながら此方…学園の生徒達が集うホールの方を向いている。
「ベアトリス・アコニット侯爵令嬢!聖女であり我が愛するリリアン男爵令嬢に対しての数々の暴虐により私との婚約を破棄!並びに極刑に処す!」
学園のパーティー会場に響き渡るこの国の第2王子フリデリック・ジャンヴィエール殿下の声は激しさと威厳を伴ってはいるが、余りの内容にこの場の誰もが…いや、あの男爵令嬢に関わりを持たない者達が嘲りの感情を抱いていた。
勿論、この私もである。
「お待ちください!フリデリック様!一体どういう事ですの!?何故私が婚約破棄に?!それに極刑だなんて!」
殿下の横暴にも困ったものである。内情説明がほぼ無い上にこんな場で断罪とはこれ如何に。
「当たり前だろう!聖女である彼女を罵倒し、教科書を捨て、今年の学習披露会で使う筈の衣裳を破き、階段から突き落とし、彼女の食べ物に毒を仕込んで殺そうとまでした毒婦め!」
「なっ?!何を仰っているのですか?!毒?!」
ツッコミ処もそうですが…隣りでビクビクしながら殿下に撓垂れかかっている売女が聖女の称号持ちとは…何とも世も末だね。その後ろで横暴に王子と売女…いや、売女にも失礼だな。売女改めゴミを囲むように立っている騎士団総長の息子や宰相の息子は一体どういう立場で彼処にいるのか…。
「聖女である彼女がお前に怯えながらも全て教えてくれた!最早言い逃れは出来ん!衛兵よ!この毒婦を牢屋へ連れていけ!」
ほらぁ…学園の警備兵の皆さんを戸惑わせて…いい加減にしてほしい。馬鹿馬鹿しいにも程がある。
けれど、アレでも一応この国の王子だ。無下には出来ないだろう。
此処等が潮時かな。
「ちょっと横からよろしいですか。いえ、許可は要りませんが」
前以て言いませんでしたが、私は今断罪されかけている悪役令嬢ではありません。
この学園に通っているイチ生徒です。
ですがまあ、『只の』ではありませんが。
「君は確か…ミシュリーヌ・クアトル伯爵令嬢。今は取り込み中です、関係無い方は―――」
「クロード・フェブリエ侯爵令息様、少々黙ってていただけますか?例え宰相閣下のご子息でもこの現状を把握出来ない者は発言する権利を持ち合わせておりませんよ?」
「はっ?!」
は?はこっちの台詞です。この国一番の知謀家と謳われるバチスト・フェブリエ宰相閣下の息子だというのにこの体たらく。そもそも何の権力も無い者がこの場で発言する訳ないだろうが。仮にもこの国の王子の前で。あれか、あの男爵令嬢が基準になってきてるのか。一緒にしないでほしい、切実に。
私はスッと後ろへ回した右手でファンタジー作品で有名な『無限収納』から書簡を取り出し、王家の印の入った封蝋を手早く半分外して書状を広げ読み上げる。
「この書状を現国王陛下より受け取り読み上げし者、王命を賜った特別王国審問官である。この者の発言はアンスタン王国の王、枢機卿、宰相、騎士団元帥の許可を得ているものとする。第5代国王リュドヴィック・ジャンヴィエール国王陛下、以下3名」
ごめんなさい、枢機卿モルガン猊下、バチスト宰相閣下、騎士団元帥オディロンお義祖父様。長いから略させてもらいました。
書状を壇上で呆けている色ボケポンコツ共へ向け、それから後ろの生徒や教師達にも向ける。
何故さっき態々後ろ手で書簡を出したかって?その方がカッコいいかなって思ったんですスルーしてください。
「学園長、ご確認を」
壇上近くの上手端でオロオロしていた白髪初老の優しそうなオジ様モリス・ギソール学園長に封蝋の付いた書状を渡すと、受け取った彼は封蝋を見てから中身に目を通した。
「間違いなく、国王陛下よりの書状ですな」
「馬鹿な!私にも見せろ!」
こらこら、例え王子でも今はこの学園の生徒で学園長を敬う立場だぞ。この学園では教えを請う相手には敬意を持って接するという校則があるんだけど、何故に命令口調かな。
溜め息を一つ吐いて渋々という風に壇上に上がる学園長。王子が取りにこいよ!と言いたい処だが、あれね、腕を掴んでる粗大ゴミが邪魔なんだね、そういう事にしといてあげよう。
奪うように受け取った色ボケ王子は書状を食い入るように見つめている。そんな長い文章じゃないんだからすぐ読み終わるでしょうよ。
「因みに、破られないよう術式が組み込まれております。あと『国王陛下より受け取り』と書かれております通り、陛下より直接拝命している方のみその書状を行使できますので悪しからず」
私から効力についてのリスクを言っているのに疑っている眼差しを向けてくるとは。壇上の色ボケ子息共、何故あのゴミ令嬢の事は疑わないのか…魅了魔法の可能性も調べたけれど何も出なかったんだよね。アイツでも感知出来ない魔法なんて無いと思うしホントに只のポンコツなのか。
確認し終えた殿下は何となく冷静さを取り戻し(?)学園長に書状を渡すと此方に目を向けた。
「それで?クアトル嬢、今何用で割って入ってきたのだ?」
「はい。そちらのリリアン・トゥルネソル男爵令嬢が婚約者のいる高位貴族の子息へ秋波を送っているのを多数目撃し、更に学園へ視察にいらしたパトリック・ジャンヴィエール王太子殿下への秋波も確認しましたので陛下へご報告の為に調査しておりました」
「「なっ、何(だと)(ですって)?!」」
声をあげたのは殿下と宰相ご子息。騎士団総長ご子息は驚愕し、ゴミ令嬢は一瞬青ざめてから私を睨み、また怯えた表情に戻った。器用だなぁ、流石泥棒猫ですね。
というか、男性陣のその驚きは調査されてた事に関してみたいなんだけれど。秋波の方はスルーですか?いいんですか?それで。
「秋波だなんて…私はただ、お友達になりたくて喋りかけただけで…」
何言ってんだコイツは。
「下位貴族から話しかける事も、婚約者のいる方の体に安易に触れる事も、してはならない行為だとトゥルネソル男爵からもアコニット侯爵令嬢からも再三注意された筈ですよね?」
「私が許可したのだ、問題あるまい」
「第2王子殿下は黙っていてください」
「何だと?!」
「殿下にも陛下から注意がお有りになった筈です。この事、暴露してよろしかったんですか?」
「…くっ…」
陛下、言ってくれてはいたみたいですが、全く効力無いですよ、嘗められてますね。
「他のご子息もご両親から注意を受けていると報告をいただいておりますが、ご自重なさいませんでしたね」
「っ………!……」
…黙るのかよ。何だ歯応えの無い。
「そんなの…そんなの可笑しいです!ただお話しするだけで、仲良くするだけで、何がいけないんですかっ?」
おっと、ゴミ令嬢が反撃してきたぞ!全くの無意味な内容だがポンコツ令息共に比べたら骨のある奴だ。
いや、このままだと自分の立場が危うくなるのが解っているから味方を増やしたいのか。
しかし、そんなに甘くないぞ、お前の仕出かした事は。
「仲良くなるだけ?仲良くとは何処までの事を言うのですか?」
「え?」
「私、言いましたわよね?調査したと。それに、殿下も仰っていたではありませんか。『我が愛するリリアン男爵令嬢』と。そういう仲である事は明白。殿下、貴方はこの後、彼女と婚約…いいえ、結婚を宣言するおつもりだったのでしょう?」
どよっと会場が響めいた。そりゃそうだ、高位の令嬢達を差し置いて下位の男爵令嬢と第2でも王子が結婚するなんて大問題。『国王が高位貴族を蔑ろにした』と王家への不信を助長させる機会を与える行為だからね。別の理由で宰相ご子息と騎士団総長ご子息も目を剥いて口をあんぐり開いて…まるで人に群がる池の鯉!
さて王子、ゴミ令嬢とどういう関係なのか言えるかな?
「た…確かに、彼女を愛していると言ったが」
「不貞ですわね」
「い、言ったが、私の…一方的な恋情であって…」
お、庇ったのか?庇っちゃったのか?腕をそんな風に掴んでる女の横で?せめて離れさせろよ馬鹿め。
まあ意味無いですが。
「確かにトゥルネソル男爵令嬢が殿下含め複数の令息と口付けを交わしているのは周知の事実なので殿下だけと恋仲とは言い難い、ですが――」
「は?」
「え?」
「…!?」
おっと、其々自分だけだと思っていたんですか?というか殿下の腕をあんな風に掴んでる女を自分のモノだとよく思えたもんだな。
これも慣れか。慣れによる麻痺か!こんな令嬢ばかりだったら不貞を常に疑わないといけなくなるだろうがポンコツ共!
おっと、殿下がゴミ令嬢の両肩を掴みましたよ。
「リリアン…他の者とも口付けしたのか…?」
「あ…あの…その…そんなつもりじゃ…」
「リリアンさんっ、私との口付けは…っ合意では無かったと?!」
「リリアン…!」
おっとここで初めて騎士団総長子息が声を発したぞ!(名前呼んだだけだけど)おおっ修羅場に突入しそうだ!
進まないから止めてもらいますが。
「痴話喧嘩は後にしてもらうとしまして。婚約者のある方に秋波を送り近付く行為も、婚約者以外のご令嬢と逢い引きする行為も以ての外です。その中の一人になってしまった殿下の婚約者であられる、ベアトリス侯爵令嬢の罵倒の件ですが…」
振り向いたら、皆の時が止まっていた。
あ、ホントには止まってないよ。ゴミビッチの不貞に驚きすぎてフリーズしてるだけなんで。
ベアトリス侯爵令嬢は口に両手を当てて目を剥いた状態で固まっている。可愛い。ツンとした娘のこういう顔はギャップがあって良い。ただ、ゴミビッチを罵る時に尻軽女と言っていたんだけど…あまり意味を意識せずに使ってたのかな?あるよね~曖昧な知識で使っちゃう事。後で恥ずかしい目に会うヤツ。
おっと私が脱線してどうする。
「確かにベアトリス侯爵令嬢は厳しい言い方をなさっておいででした。ですが、婚約者を持つ子息に対して不貞を働こうとする行為を厳しく言及されたとしても致し方ないものと思われます」
「しっ、仕方なくなど無い!リリアンはきっと無理矢理口付けされていたに違いない!」
「殿下、無理矢理したのですか?」
「わ、私は合意だ!」
「私だって合意でしたっ」
「俺…私もそうでした…女性に力ずくで口付け等…騎士道に反する」
「皆様こう仰っておられますが、トゥルネソル男爵令嬢、どの方が合意なのですか?」
「それは…」
「それとも、全員合意でしたか?」
「何を言う!!」
何を言うって…事実をまだ受け止めない気か?
ボンクラは黙っとけよ。
「今尋ねているのは殿下ではありませんので黙っていてください」
「何だと?!」
「こっ、こんな大衆の前で訊かなくてもいいでしょう」
「こんな大衆の前を選んだのは貴殿方です。めでたい学園創立記念パーティが始まり、これから皆様楽しい時を過ごす筈でしたのに、か弱い令嬢を殿方が寄って集って貶める行為。許されるとお思いになりまして?自分達が正義だとでも?」
自分達の行動を棚にあげて何言ってんだ?
だが、お前等の愚かさはこんなもんじゃないだろ?
「トゥルネソル男爵令嬢、無回答という事は全員と恋愛関係があると見なして良いですね?」
ついに言い返せなくて唇噛み締めているよ、ゴミビッチさん。後で開き直る予感がありますが、こちらはどんどん追い詰めさせていただきますよ。
「そういえば、教科書が捨てられていたという話ですが――」
「そっ、そうだ!彼女が捨てている所をリリアンが見たのだ!」
ビシッと私の斜め後ろにいるツン令嬢に指を指すポンコツ1(王子)。
「お可哀想に…怖くて咎められなかったと泣いていました…」
「ああ…」
何を思い出しているのか知らんが…それ、三人同伴の時か?二人きりか?てか怖くなかったら咎めんのかよ。
まあいい。にしても、ま~だ庇うのかこのポンコツトリオ。いや、もうさっきのは考えない事にしたのかもなぁ。現実逃避すれば楽だし。
だがな…そんな幻想、私がブチ壊すっ!!(笑)
「犯人は彼女ではありませんでしたよ」
「「「え?」」」
さっきからいい感じにゴミビッチが青ざめてる。
どんどん暴露されるからな。つか何故バレないと思ってるし。ヒロイン補正でもあると思っていましたか?
ねえわ、んなもん。
「教室から不審な動きで出てこられた令嬢がおられたのを複数の方が目撃していらしたので、その令嬢を問い質した処、トゥルネソル男爵令嬢の教科書を捨てたと白状いたしました。」
「どういう事だ?!」
「そのご令嬢はどなたですか?!」
「貴殿方にお教えする必要はございません」
「「「なっ!?」」」
「少し調べれば解る事。それを怠りたった一人の証言を信じた貴殿方にお教えする必要性を感じません」
自分達の怠慢を私に尻拭いさせようとか上司にしたくないランキングがあったらお前等1~3位独占だよ。
「勿論、学園側からの罰を受けていただきましたので、今は反省し清く正しい生徒として過ごしていらっしゃいます」
「私!謝ってもらってない!」
お、ちょっと復活したかゴミビーッチ!
しかしだ、残念ながら謝られる事はないんだな。
「学園側の方から貴女への謝罪はしなくてよいとの判断が下されました」
「それは可笑しいでしょう!」
「そうだそうだ!」
何だ?急に殿下が付いて回る小者の定番『そうだそうだ』を放ったぞ。そこまで成り下がったかポンコツ1…憐れな。
「その生徒が過ちを犯した理由ですが、そこのトゥルネソル男爵令嬢に罵倒されたり、見目の麗しい殿方に媚びを売りながら体を密着させるはしたない様が許せず学園に相応しくないと彼女の本を思わず捨ててしまったそうです」
「え…?」
「それを訴えたとして貴殿方3人が必ずそこのご令嬢の肩を持つだろうと思い詰めての事だったそうですわ」
本人に直接問い質した訳じゃないけどゴミビッチは攻略対象のイベント回収の為に急いで行動している。廊下を走り回っていますから。
その時に進行方向を塞いでいる子息令嬢に苛立って罵倒してしまうんでしょうけど…ゴミビッチ、お前が色々やらかしてるんだからな。現実でも逆ハーを目指すなんて愚行をして迷惑をかけ、モブ扱いしてる周りの人達にも嫌われてるから悪役令嬢の入る隙間がないんだよ。
「他にも、衣裳の件もまた別の女性の仕業でしたし、階段を突き落としたという話ですが、最後の一段で男性によるものでしたの。詳しく聞けば彼女の方からぶつかってきたそうです。転ける事なく抱き止めれば頬を染めながらお礼を言われたので悪い気はしなかったと仰っておられましたよ。目撃者もおりましたわ」
話を聴いた時、まさか攻略対象外のイケメンにも粉かけるとは…と驚愕したのを思い出す。
因みに別の女性と表現したのは平民だったからだけど、このポンコツトリオ…略してポコリ(ありゃ可愛い?)は果たして気付くだろうか………ないな。
他にもあるけど気付くでしょうか…。
「…だが、教科書や階段の件はソイツ等とは別であった事かもしれない」
なんと!まさかの騎士団総長子息が気付いた!おい宰相子息、負けてんじゃねえか、脳ミソ機能してんのか?
「さっきの教科書の件で補足ですが、捨てられたという教科書を回収しようと教室に生徒相談もなさっている救護担当のグレゴワール・ジュワン先生と向かった処、丁度トゥルネソル男爵令嬢ご本人がゴミ箱から拾う様子に遭遇し、それはそれは恍惚とした笑顔を浮かべていらしたのでその余りの不気味さも踏まえ、この件は当事者同士を会わせないという結論に至ったのです」
「「「不気味…?」」」
ゲームと同じだったのがよっぽど嬉しかったんでしょうか。あの時の彼女の顔はヤバかった…自分の教科書が捨てられてるってのに恍惚としてるとか、同伴してたジュワン先生には確実に変態ドMと思われたよ、ゴミビッチさん。まさかの笑顔一つで実は攻略対象のグレゴワールのフラグへし折るとは、私も予想だにしませんでした。
「不気味なんて…どうしてそんな酷い事が言えるの?」
え?そこ食いついちゃう?すまないがどうでもいいのでスルーするよ。
「教科書の件も階段の件も他に無かったという保障はありません」
「なら―――」
「ですが他にあったという証拠もありません」
「リリアンが言っているのだっ」
「そのご令嬢の何が信用に足るのか私共には解りかねるのですが」
「リリアンさんは聖女です!気遣いが出来、聡明で無邪気で可愛らしい…」
「彼女はいつも笑顔で分け隔てなく皆に優しい守るべき――」
「その彼女から罵倒されたという方々が大勢いらっしゃるのに皆に優しいとは何の話ですの?一体いつ皆に優しくしている処を見たと?」
「…っ、いつも皆が幸せになるよう祈っていたし――」
「口だけならどうとでも言えます」
「孤児院のチャリティーにも参加していましたし!」
「彼女は顔を出しただけで出資は一切なさっていません」
「せ、聖女は金を出すものではない!」
「い…、いるだけで、癒してくれる、それが聖女だ」
いるだけでって…夢見る騎士が好きそうな内容だなぁ。
というか、孤児院に行っても一切子供と触れ合わなかったそうだね。私が直接偵察に行った時もポコリの内の誰かの腕を掴んで撓垂れかかって喋ってただけだったし。
…何か近付く子供に嫉妬して引き離してたポンコツ1の姿がふと思い起こされたんだけど誰か幻と言ってくれ。
「それは貴殿方だけです。それに、貴殿方が同伴していない日のチャリティーには一切参加なさっていませんのでそこはお間違いなきようお願いしますね」
「そ、それは偶々行けなかっただけだろう、なぁリリアン」
「はいそうです!」
丁寧語で速答したよゴミビ…これも長いのでゴビで。
自分を守る言葉は早い早い。
けれど、私言ってますよね?調査したと。
「貴女の行動は全て調査済みですよ、チャリティーに参加していない日に何処で何をしていたのかも」
「なっ…ぷ、プライバシーの侵害よ!」
「プライ……何ですか?」
「あっ……何でもない…」
思いっきり前世のルール持ってきましたが、勿論この世界にそんなものはありません。
というか、まさか前世の知識がある事を隠していたつもりじゃないですよね?あんなあからさまにハーレムエンド目指していたら、他に転生者が居てこの世界と疑似設定の乙ゲーをやっていた場合モロバレですよ?
まぁ私は今のところは其処に触れる気は無いので普通に追い詰める方へ話を戻します。
「…トゥルネソル男爵令嬢、貴女は見目の麗しい殿方には分け隔てなく口付けてお優しくなさる限定の聖女、なのですわね。…っと、分け隔てない訳でもありませんか」
と、ここで最高の爆弾へチラリと目を向ける。ほら、出番ですよ。
「私とは蜜月も交わしたよ、ね?」
「「「…は?」」」
「セヴラン様…っ!」
生徒の中から登場しましたるや、枢機卿モルガン・アヴリール猊下の孫であり辺境伯の息子であらせられるセヴラン・アヴリール様。この国の主だった宗教はトゥールヌソル教。本来ならゴビさんが卒業後に聖女として所属する所です。
このトゥールヌソル教、法王にあたる位は神になります。その次が最高神官長で国王に匹敵する権力を携えている。現最高神官長であるモルガン猊下の血筋であるセヴランをあの女が狙わない訳が無い。
ただ、この枢機卿の孫、タラシ要員攻略対象の筈なんだけど…何故かヒロインに心を奪われなかった。ヒロインというゴミなビッチが逆に釣られたという…。
壇上の近くまで寄っていくが登らない。彼は混ざりたい訳じゃないからね。
「彼女の中はまぁ、なかなかのモノでしたよ。一応私が初めてのようだったし。その後は知りませんが。」
「酷い!私、セヴラン様としかしてない!」
「本当に?」
「ホントだよ!セヴラン様だけだもん!」
隣の王子を振り切って訴えるゴミビッチ、勇気あるな。
そして周りのポコリ…唖然として完全なるポンコツと成り果ててるファッハ!
実はゴミビッチさん、タラシ要員の色香に負けて身を捧げてしまったんですねえ。まんまと罠に掛かってくれました。というか駄目な男に引っ掛かるが如くドハマりしてますね。彼が彼女を抱いたのは愛情でもなければ女性としての魅力からの戯れですらないのに。
彼は、コチラ側ですから。
ゴミビッチさん、我を忘れて言い訳言ってますが良いんでしょうかね?ポコリの目が死んでるように見えますが。
まあ丁度静かになったので話を戻そうか。
「チャリティーに出向いておらず、貴殿方とも出逢っていない日は他の見目の麗しい殿方、特にそのセヴラン・アヴリール様とお逢いになられていた事が確認されています。ですので、本命はセヴラン・アヴリール様で、他の殿方はお遊びだった、これが今代の聖女の実態です」
やっと、聖女だって俗物だと知らしめる事ができました。
これを世間に知らしめる事は、私にとって悲願でした。
聖女には癒しの力がある。それなのにこの女はその力をイケメン達に好かれる為だけにソイツ等の前だけで使っていた。それもゲームのスチルであったであろうシチュエーションの時だけ。この力に自分の寿命が縮まるようなリスクは無い。それでも彼女は、私利私欲の為だけに使い続けた。
私は知っている。イベント攻略の為に走り回っていた彼女が中庭で女性徒とぶつかり怪我をさせたのにも関わらず放置して走り去ったのを。
右膝と額の右側を砂地で打ち、丁度頭部辺りに転がっていた掌程の石によって、その娘は膝と額に3~4㎝程目立つ傷を残してしまいました。所謂ケロイド痕です。今も彼女は教会にある治療院に通い、少しずつだけれど治そうと皆尽力している。それでも、完全に消せるかどうかは解らない。聖女の力と治癒院にいる治癒術師の力は根本的に治し方が違うのだ。
女性の顔に傷が残る。
婚姻が重要なこの世界でどれ程致命的なことか。
ゴミビッチは聖女とは名ばかりの正真正銘の毒婦だ。
だから、貴女の嘘をもっと暴いてあげる。
「そして、殿下が最後に仰っていた毒の件、そもそもそんな事件、あったのでしょうか?」
「あ…あり…ました…」
力なく言葉を紡ぐゴミビッチ。
セヴランに暴露されてボロボロのようですが、身から出た錆でしょう?逆ハーやる気なら一人だけに体許すなんてやっちゃいけない。特別を作れば他が蔑ろになるからだ。それでも特別が欲しい場合、ハーレム内でよく話し合い全員の合意が得られて初めて手に入る。
そもそも、他とも関係がある事を内緒するのもやってはいけない。皆を愛する事を全員に了承してもらわなければ逆ハーレムは築けないのだ。
結局、現実で出来るのは余程の魅力のある、惹き付ける側の人間だけ。イベントイベント…と、必死になって男の尻を追いかけているような者には到底出来はしない。
また思考を脱線させてしまいましたね。戻しましょう。
「いつ、どういった状況で何に毒が使われていたのですか?」
「わ、私が家で作ってきたパウンドケーキを学園の中庭のベンチで食べたんです。そうしたらだんだん意識が遠くなっていって…気付いたら救護室にいましたっ。グレ様が知ってます!」
おっとっと、先生を前世の愛称で呼んじゃったよ。ジュワン先生はゴビさんとそういう関係にはなっていないのにそんな呼び方をしたらジュワン先生の不貞まで疑われるでしょうが。
「はい、中庭に通りかかった生徒がジュワン先生にお伝えし数人で救護室のベッドに運んだと聞き及んでおります。あと、ご本人に許可無く愛称ともとれる呼び方をしてはいけませんよ。貴女との不貞が疑われご迷惑をお掛けすると思わない…のでしょうね、これは私の思慮不足でしたわ。そこに気付く方が今までの行いをする筈がありませんもの」
「…さっきから…さっきから何なのよ!今は毒を盛られた話でしょ!私は毒を盛られたの!被害者なのっ!」
ぅおふ、キレたキレた。ちょっと意地悪でしたかね。でも、当たり前でしょう?無関係の人を巻き込むなんて許さない。そのクセ自分を擁護しようとする姿勢、苛つく。
「貴女が毒と言っているものは眠り薬でした」
「それが何?!」
「確かに大量摂取すれば危険を伴いますが、貴女に使用された量は約1時間眠る程度の量でした」
「それでも盛られてんじゃない!」
「いつ混入されたというのでしょうか」
「っ…、そんなのっ犯人しか解んないし!」
「そうですね、犯人しか解りません。それは誰が犯人かも解っていないという事。それなのに何故、アコニット侯爵令嬢がやったなどと発言したのですか第2王子殿下」
さっきからずっと黙っているので話を振ってみましたよ。打ち拉がれていないでさっさと質問に答えてほしいものですね。勿論、答えは解っていますが。
「リリアンが…ベアトリスを犯人だと…」
「おかしいですね、たった今彼女は解らないと仰っておりましたが」
「リリアン…?」
「リリアンさん…」
「リリ…アン…」
「…だって…私ずっとあの人に虐められてて…」
「罵倒気味でも注意されていただけで犯人扱いですか?それは余りにも横暴ですね。しかも高位貴族に対する冤罪。それは殿下、貴方も他人事ではありません」
「わた…しも、だと?」
「ロクに検証もせずに自分の婚約者に有らぬ罪を着せた事、トゥルネソル男爵令嬢と結ばれる為に邪魔になった彼女に冤罪をかけたと思われても仕方がないかと」
「わ、私は冤罪などかけていない!」
「それは後程他の審問官の方々と共にお聞きします。まだ、彼女に問わなければならない事がありますので。トゥルネソル男爵令嬢」
「っ…!」
ゴビに睨まれても少しも怖くありませんよ。
それに、貴女は罪人なのですから。
「とある薬屋で、最近なかなか眠れないという貴女に眠り薬を売ったと証言が取れています。…貴女には王族含む高位貴族並びに学園の生徒を謀ったクーデターの嫌疑がかかっています」
『クーデター』の言葉が出た途端、凍りついていた空間にザワザワとした人の気配が戻ってきました。勿論、動揺の。
ポコリは逆に凍りましたね。その真っ青な絶句顔はまるで兄弟のようにそっくりです。
「ク、クーデターっ?!ふざけないでっ!それこそ冤罪よ!」
「あくまで嫌疑です。しかしながら、もし毒を自作自演で仕込み、アコニット侯爵令嬢を犯人に仕立てあげ陥れようとしていたとしたなら…王家を支える侯爵家の力を削ごうという企みと思われてもおかしくないのですよ」
「そ…そんな…っ」
因みに自作自演なのは薬屋の件が無くても私は貴女を疑ってましたよゴビさん。
何せ、本来毒を入れる筈の人が絶対しないのですから。
「王族の婚約者を蔑ろにするというのはそういう危険な行為なのです。他の高位貴族令息に手を出すのとは訳が違う。だから、私のような特別審問官に調べられる事になるのです。…ただの男遊びでは済みませんよ。それに…」
「まだあるの?!」
これは彼女にとって本当に致命的な事。
彼女だけが受ける罰への布石。
「貴女、聖女の力をもう充分に使えないのでは?」
わあ、見事に今のポコリと一緒の表情!
『何で解ったの?!』って顔だけで言ってる。
周りの動揺がより一層大きくなりました。
当たり前です。聖女だからこそ、彼女は数々の非道な行いを見逃されてきたのですから。
「貴女がで聖女の力を最後に使用したのを目撃されているのは7ヶ月前の中央区孤児院で行われたチャリティーまで。それ以降、全く使われていない可能性が調べで出ています」
「つ、使う機会が無かっただけよ!」
「いいえ、貴女は最近学園長に聖女の力を貸してほしいと何度も呼び出されている筈です。…殿下に頼み色々理由を付けてはずっと拒否なされているそうですね」
そう、例の顔に傷の出来たご令嬢を治してもらう為、学園長からゴビに依頼を打診してもらっていたんです。
それなのに!この女は自分のせいで怪我をさせた責任も取らずに調子が悪いだの忙しいだの言い訳を並べ、その裏でのらりくらりとイベント攻略に勤しんでいた。
ですがあまりに断り続けるので不審に思い、既に彼女を虜にしていたセヴランに頼んでゴビが爆睡してる隙に私の特殊能力の一つ、左目にある『サリエルの瞳』を使って聖女の癒しの力『ラファエルの癒し手』の能力の確認をしました処、スキル名の後に〈現在使用制限中〉と書かれていました。
因みに、この世界は処女でなくても聖女の力は行使できます。歴代の聖女様も結婚・出産後であろうと力を使い尽力なさっておいでだったそうですから。
聖女の力は清き心の持ち主に使う権利が与えられる。
神は彼女に穢れる恐れを感じ、私を遣わしたのでしょうか…
「心の穢れは聖女の力を抑制していきます。私利私欲で能力を使い、人を陥れようとした代償に聖女の力を失う事になったのですわ」
「リリアン…本当なのか?本当に聖女の力を使えないのか…?」
「リリアンさん…?」
「リリアンが…聖女じゃ…なくなった…?」
正確にはまだ聖女ですけどね。
ですが、それも時間の問題。
何故なら、私が聖女の称号を剥奪するから。
おっと、丁度良いタイミングですね。
「リュドヴィック・ジャンヴィエール国王陛下がご到着いたしました!」
学園の警備兵の声に我に返ったホール内の皆が入ってきた近衛兵と陛下を見て一斉に片膝を折り臣下の礼をとっ…おいポコリ!!臣下の礼しろ!!王子は知らんが(王が臣下扱いにしていればやらなければならないね)宰相子息と騎士団総長子息は絶対だろ!!ボーッとしてんじゃねえよ!!
ゴビっ!!お前もだよ!!…って何王様見てちょっと赤くなってんだよ!確かにリュドヴィック王はダンディーイケオジだけど!激しく同意だけど!!
「………クアトル特別王国審問官、大義であった」
「はっ!勿体ないお言葉でございます」
はうっ!そっちで呼びますか!存在を認められた感じでキュンとしましたよ!これからも私は貴方の臣下です!
にしても…王子達見てスルーしてからこっちに声かけたよ…こりゃ見限られたね、ポコリ…
「後は、審問(尋問)室で聞かせてもらおう。リリアン・トゥルネソル、並びにフリデリック・ジャンヴィエール、クロード・フェブリエ、ヴィクトル・マルースを連行しろ」
「「「「「はっ!!」」」」」
副音声が聞こえた気がする……っていうか、今爵位関係抜いて呼んでたよね?これゴビとポコリの立ち場かなりヤバイって事だよね?
「おっ、お待ちください父上!!」
「儂を父上と呼ぶな!!…あれだけ言っても聞かぬとは…お前にもクーデターの疑いがある」
「何を言うのですか?!」
「嫌疑が晴れるまで、儂はお前を息子だとは思わん!!」
「そんなっ!クーデターなど企んでいません!父上!」
「まだ呼ぶか!!」
「申し訳ありません陛下、連行する前にちょっと横からよろしいですか?」
まだ最後の仕上げが残っているんです。
少々お待ちくださいな。
「…うむ、発言を許そう。」
「感謝いたします。」
臣下の礼を解き立ち上がった私は階段を登り壇上へ上がった。
因みに陛下や近衛兵達は裏から入ってきたので既に壇上にいます。かっこよくホール中央扉からバーン!とかそういうのじゃなくて内心ちょっとガッカリでした。
では最後の仕上げ、実行です。
先ずは殿下から。
「殿下、貴方は王族でありながら婚約者でも無い男爵令嬢一人の妄言を信じ唆され、陛下のお言葉さえ蔑ろにした。それは王族としてあるまじき行為です」
「何をっ…くっ…」
陛下が睨みを利かせてくれました。ありがたや。
「クロード・フェブリエ侯爵令息様、貴方は宰相閣下のご子息でありながら真実を調べようともせず、同じく婚約者ではない令嬢に簡単に唆されて…政略結婚の意味、解っておいでの筈ですよね?宰相閣下は大変お怒りです」
「………むぅ」
…不覚にもちょっと可愛いと思ったじゃないですか。
今度バチスト様にも言ってもらおうかな。
「ヴィクトル・マルース伯爵令息様、貴方も同様、明らかに怪しい彼女の行動を疑いもせず冤罪でご令嬢を断罪しようとし、ひたすら婚約者を裏切る行為、騎士道に反していると思わなかったのですか?父親である騎士団総長の顔に泥を塗ったのですよ」
そういえば、陛下が呼んだことでやっと騎士団総長の息子の名前が出ましたね。
伯爵位なのですよ。もしかしたら監督不行き届きで子爵になるかもしれませんが。又は騎士爵の剥奪か。可哀相ですねマルース伯。南無三。
あ、クアトル伯爵家とは一切関係ありません。騎士団元帥は騎士団総長の上司…まぁ端的に言えば騎士団という会社の会長と社長の違いです。
「そもそも、王命で婚約した殿下ならまだしも、他のお二方は本気で彼女を正妻にする気があれば両親、両家と話し合い違約金でも何でも用意して婚約を解消なされば良かったのです。妾にでもするおつもりだったのですか?それでも正妻の許可は要りますが」
「妾になどしません!!」
反論してきたのは宰相ご子息のみ。
騎士団総長ご子息は自分の愚かさに気付いて反省したご様子。
もうね、この二人は立ち場入れ替わったらいいよ。
「ではどうするおつもりだったのです?」
「そ…それは…」
「もし違約金を出し渋っていたのなら彼女とはそれくらいの関係だったと諦めるべきでしたね」
「違う!ただ父上も母上も彼女を…」
「よく思っている訳が無いじゃありませんか、再三言いますが、評判悪いですからその方。それすら乗り越え説得出来ないのにダラダラと関係を続けて。決断出来ぬ者に宰相は務まりませんよ」
「ぐぬぅ…!」
はぁ…これでホントに解ったのかなぁ…審問室では取り調べはあっても注意はしないと判断して一人一人に言ったけど…後はご両親の采配に任せよう…
さて、後は、ゴビさんですか。
彼女の前に立ち、真っ直ぐ顔を見つめる。
「リリアン・トゥルネソル男爵令嬢、私、個人の意見としては、貴女が大勢の殿方に秋波を送るのを悪いだなんて思っておりませんのよ」
「……え…?」
あは、恐らく他の方々も私の発言に驚いてるでしょうね。
「だって、殿方が相手にしなければいいんですもの。勿論、婚約者の方がいらっしゃらない殿方限定の話ですよ?私なら婚約者のいる方からハンカチをお借りしたら直接返さずお礼状と共に新しいハンカチを従者か婚約者の方にお渡しし『見知らぬ婦女子にも優しく出来る素敵な婚約者をお持ちで羨ましいです』と心底憧れる顔でお礼状の中身まで確認してもらい潔白を証明しますが。結局は礼儀のなっていない女性に引っ掛かる見る目の無い殿方も悪いのです」
「ん?え?え?」
あら、もしかして貶されてるのか擁護されてるのか判断できない、というリアクションですか?
どう考えてもほぼ貶してますよ?
でも、私が一番言いたいのはこっち。
「ですが、人を傷付け、陥れようとした行為は聖女ならば尚更許されません。今も貴女によって付けられた傷痕に苦しめられている方がいる。それを治す力がありながら、その力を失う行為を続け、心を穢した。聖女として一番やってはいけないのは、自分の幸福を優先し、他人の不幸を願う事でしたのに。だから貴女は聖女の力を使えなくなった」
「そ…、そんなの聞いてない!」
「当たり前です、聖女は本来そんな事を考えません」
「じっ、自分の幸せ願って何が悪いの?!」
「自分の幸せだけを願う事がいけないのです。自分の利益を優先し人を陥れるのが悪いという事です」
「……ゲームではそんなの言ってなかったのに……」
「ご理解いただけましたか?」
ゲーム内では言わないでしょうね。悪役令嬢が自分で堕ちてくれるんですから。陥れる必要の無いお膳立てされたヒロイン自身の心は穢れない。まぁ、それでも婚約者を奪ってるんだから悪女だと思うけど。
言いたい事も言ったし、そろそろ彼女にも罪悪感が少しは芽生えたでしょうかね。
そろそろ私の右目の力を使いましょう。
ポンコツ1の殿下もやってましたが…ビシッとゴビに指差して。
「貴女には、聖女の資格はありません!」
『ウリエルの瞳』発動!
裁きの時はきた!懺悔せよ!
リリアン・トゥルネソルの聖女の称号を剥奪する!
あ、これ心の中だけで言ってますからね。こんな中二病な台詞恥ずかしくて皆様には聞かせられません。
…いえいえ、私が神の使徒だという事実を隠す為です。
もしかしたら私の右目が光ったかもしれませんが、私の顔なんてゴビくらいしか見てませんから。
「今…何したの…?」
おっと、気が付きましたか?
目を見たからなのか、それとも称号を剥奪すると体に変化があるのか。
「何の事でしょう?」
もうやるべき事はやったので、不敵な笑顔をゴビに向けてみた。
「……っ、ミ…シェ、ル…?」
よく気付いたな!リアルミシェルに気付くとは!普通は声で気付くか気付かないかでしょうに!
そう、俺は隠れ攻略対象、ミシェル・ジュイエ。
全ての攻略対象者を攻略し、初めて選択可能になる隠しキャラ、悪役令嬢が雇う闇ギルドの暗殺者。
云わずもがな、性別は男だ。
紆余曲折あって、今はミシュリーヌ・クアトル伯爵令嬢として学園に通っている。
今までこの学園の誰にも気付かれた事はなかったんだが…流石イベント全部覚えていると思われるトゥルっ厨(トゥールヌソル~愛の本能のままに~をやりこんでハマってる人)はリアルになっても気付くのか…ゲームとこの世界を結び付けて考えてるからこそ俺が攻略対象だと直感したんだろうな。
気付いたご褒美にミシェル…いや、暗殺者ヤコブとして話しかけてやろう。
驚愕の表情を浮かべる彼女に近付き、そっと耳打ちする。勿論低い声で。
「何で俺の過去を知ってる?」
「!!!!!」
真っ赤になるゴビ。
自分を断罪してきた相手にそのリアクション…もしかして、あれだけ走り回ってイベント回収してたのは俺を攻略する為…?
うん、違うと思いたい。
「クアトル特別王国審問官、もう良いか?」
「はい陛下、長々と時間をいただきましてありがとうございました」
「うむ。では、連行せよ!」
「「「「「はっ!!!」」」」」
ゴビは真っ赤で、ポコリは真っ青で近衛兵に連行され壇上の奥へと消えていった。
「皆の者、礼を解かずにすまなかったな、顔を上げよ」
あ、皆様の事すっかり忘れてました。
もしかすると、陛下は私の能力がバレないように皆様の顔を上げさせないでいてくれたのかも…過保護だから。
辛かったですよね、ごめんなさい。声には出さないけど。陛下直々にすまなかったって言ったからそれで許してください。
「皆、礼を解くが良い」
限りなく静かに布の擦れる音のみがする中、跪いていた方々が一斉に立ち上がる。
何て美しい所作。貴族たる者、こうでなくては。
揺れてる人?ミエナイミエナイミエテナイ。
「此度の件、顛末は追って報告の場を設けよう。本来なら今日はめでたい学園創立記念日だ。どうか気分を一新し大いに楽しんでほしい。――学園長」
…陛下から楽しめと言われたら楽しむしかない。
「ありがとうございます陛下。私共の教育が至らぬ故起こった事…もう二度とこのような事は起こさせません。皆もよくよく理解したでしょう。では、曲を」
いつの間にか壇上に楽団が…いや、ポコリ達が捌けさせていたから、例の書状が殿下に渡されてからコッソリ準備し始めてたのかな?
「あ、書状…」
「これの事かな?」
書状を渡してきたのはセヴラン・アヴリール。
今回の断罪の為に一肌(も二肌も三肌も…)脱いでくれた立て役者だ。
「ありがとうございます、アヴリール辺境伯令息様」
「君と僕の中だろう?」
言いながら尻を触ろうとするから思いっきりその手の甲を抓ってやった。イケメンが苦痛の表情を我慢してる様も萌えですね。
「こんな場所で触らないでください」
「ここじゃなきゃいい…?」
「…約束ですから…」
「っしゃっ…!!」
「ちょっと…!大人しくしてください…っ!」
ゲームのセヴランと随分違う…まあ学園入学前からの知り合いなので、転生者でないことは確認しているのですが…喜ぶ仕草が前世っぽいというか…
「貴方、本当に前世の記憶ありませんよね?」
「うん、僕はね」
「あ~…どっから影響受けたのか解った…」
うん、心当たりがありました…
「そんな事いいからさ、これから二人で脱け出さない?」
「嫌です♡」
「わぁ~良い笑顔」
「…夜になったらいいですよ」
アヴリール家の能力をとことん駆使してもらいましたから、労うのは吝かではありません…し。
「マジで?!…ヤバイ…夜が待ち遠し過ぎる…!」
「何か誤解なさっていませんか?」
「え?…嘘、合ってるよね?ね?」
「さて、食事でも摘まみに行きましょうかね」
「合ってるでしょ?夜でしょ?」
「静かにしてください五月蝿いですよ」
「ね~え~…」
態と解ってないフリをしてるのか知りませんが、この後少し学園長と話したら私達も審問室に行くんですけど。
何時まで取り調べという名の訊問をするか解らないですよ?
そう、夜は此処を(既に)脱け出しているんだから、嘘じゃありませんよね?
こうして、ヒロインざまぁイベントは幕を閉じました。
断罪返しをされた彼等のその後については追々話すとしましょう。ま、そんなに酷い事には…ならない…よね?
悪役令嬢は…何も問題無いでしょう。
途中からずっと『ゴビ砂漠』が頭から離れなくなりました…(合掌)
思い付いたら予告無く書き足すかもしれません。
主人公は色々な意味(心情や生きてきた環境等)で雑な言葉遣いをしています。
ご了承ください。
‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥
そこは壇上。王立学園の学園長や偉い方々が皆に指示、発言する為に50㎝程高くなっていて三段程の階段がある。そこに数名の者共が殺気のようなものを放ちながら此方…学園の生徒達が集うホールの方を向いている。
「ベアトリス・アコニット侯爵令嬢!聖女であり我が愛するリリアン男爵令嬢に対しての数々の暴虐により私との婚約を破棄!並びに極刑に処す!」
学園のパーティー会場に響き渡るこの国の第2王子フリデリック・ジャンヴィエール殿下の声は激しさと威厳を伴ってはいるが、余りの内容にこの場の誰もが…いや、あの男爵令嬢に関わりを持たない者達が嘲りの感情を抱いていた。
勿論、この私もである。
「お待ちください!フリデリック様!一体どういう事ですの!?何故私が婚約破棄に?!それに極刑だなんて!」
殿下の横暴にも困ったものである。内情説明がほぼ無い上にこんな場で断罪とはこれ如何に。
「当たり前だろう!聖女である彼女を罵倒し、教科書を捨て、今年の学習披露会で使う筈の衣裳を破き、階段から突き落とし、彼女の食べ物に毒を仕込んで殺そうとまでした毒婦め!」
「なっ?!何を仰っているのですか?!毒?!」
ツッコミ処もそうですが…隣りでビクビクしながら殿下に撓垂れかかっている売女が聖女の称号持ちとは…何とも世も末だね。その後ろで横暴に王子と売女…いや、売女にも失礼だな。売女改めゴミを囲むように立っている騎士団総長の息子や宰相の息子は一体どういう立場で彼処にいるのか…。
「聖女である彼女がお前に怯えながらも全て教えてくれた!最早言い逃れは出来ん!衛兵よ!この毒婦を牢屋へ連れていけ!」
ほらぁ…学園の警備兵の皆さんを戸惑わせて…いい加減にしてほしい。馬鹿馬鹿しいにも程がある。
けれど、アレでも一応この国の王子だ。無下には出来ないだろう。
此処等が潮時かな。
「ちょっと横からよろしいですか。いえ、許可は要りませんが」
前以て言いませんでしたが、私は今断罪されかけている悪役令嬢ではありません。
この学園に通っているイチ生徒です。
ですがまあ、『只の』ではありませんが。
「君は確か…ミシュリーヌ・クアトル伯爵令嬢。今は取り込み中です、関係無い方は―――」
「クロード・フェブリエ侯爵令息様、少々黙ってていただけますか?例え宰相閣下のご子息でもこの現状を把握出来ない者は発言する権利を持ち合わせておりませんよ?」
「はっ?!」
は?はこっちの台詞です。この国一番の知謀家と謳われるバチスト・フェブリエ宰相閣下の息子だというのにこの体たらく。そもそも何の権力も無い者がこの場で発言する訳ないだろうが。仮にもこの国の王子の前で。あれか、あの男爵令嬢が基準になってきてるのか。一緒にしないでほしい、切実に。
私はスッと後ろへ回した右手でファンタジー作品で有名な『無限収納』から書簡を取り出し、王家の印の入った封蝋を手早く半分外して書状を広げ読み上げる。
「この書状を現国王陛下より受け取り読み上げし者、王命を賜った特別王国審問官である。この者の発言はアンスタン王国の王、枢機卿、宰相、騎士団元帥の許可を得ているものとする。第5代国王リュドヴィック・ジャンヴィエール国王陛下、以下3名」
ごめんなさい、枢機卿モルガン猊下、バチスト宰相閣下、騎士団元帥オディロンお義祖父様。長いから略させてもらいました。
書状を壇上で呆けている色ボケポンコツ共へ向け、それから後ろの生徒や教師達にも向ける。
何故さっき態々後ろ手で書簡を出したかって?その方がカッコいいかなって思ったんですスルーしてください。
「学園長、ご確認を」
壇上近くの上手端でオロオロしていた白髪初老の優しそうなオジ様モリス・ギソール学園長に封蝋の付いた書状を渡すと、受け取った彼は封蝋を見てから中身に目を通した。
「間違いなく、国王陛下よりの書状ですな」
「馬鹿な!私にも見せろ!」
こらこら、例え王子でも今はこの学園の生徒で学園長を敬う立場だぞ。この学園では教えを請う相手には敬意を持って接するという校則があるんだけど、何故に命令口調かな。
溜め息を一つ吐いて渋々という風に壇上に上がる学園長。王子が取りにこいよ!と言いたい処だが、あれね、腕を掴んでる粗大ゴミが邪魔なんだね、そういう事にしといてあげよう。
奪うように受け取った色ボケ王子は書状を食い入るように見つめている。そんな長い文章じゃないんだからすぐ読み終わるでしょうよ。
「因みに、破られないよう術式が組み込まれております。あと『国王陛下より受け取り』と書かれております通り、陛下より直接拝命している方のみその書状を行使できますので悪しからず」
私から効力についてのリスクを言っているのに疑っている眼差しを向けてくるとは。壇上の色ボケ子息共、何故あのゴミ令嬢の事は疑わないのか…魅了魔法の可能性も調べたけれど何も出なかったんだよね。アイツでも感知出来ない魔法なんて無いと思うしホントに只のポンコツなのか。
確認し終えた殿下は何となく冷静さを取り戻し(?)学園長に書状を渡すと此方に目を向けた。
「それで?クアトル嬢、今何用で割って入ってきたのだ?」
「はい。そちらのリリアン・トゥルネソル男爵令嬢が婚約者のいる高位貴族の子息へ秋波を送っているのを多数目撃し、更に学園へ視察にいらしたパトリック・ジャンヴィエール王太子殿下への秋波も確認しましたので陛下へご報告の為に調査しておりました」
「「なっ、何(だと)(ですって)?!」」
声をあげたのは殿下と宰相ご子息。騎士団総長ご子息は驚愕し、ゴミ令嬢は一瞬青ざめてから私を睨み、また怯えた表情に戻った。器用だなぁ、流石泥棒猫ですね。
というか、男性陣のその驚きは調査されてた事に関してみたいなんだけれど。秋波の方はスルーですか?いいんですか?それで。
「秋波だなんて…私はただ、お友達になりたくて喋りかけただけで…」
何言ってんだコイツは。
「下位貴族から話しかける事も、婚約者のいる方の体に安易に触れる事も、してはならない行為だとトゥルネソル男爵からもアコニット侯爵令嬢からも再三注意された筈ですよね?」
「私が許可したのだ、問題あるまい」
「第2王子殿下は黙っていてください」
「何だと?!」
「殿下にも陛下から注意がお有りになった筈です。この事、暴露してよろしかったんですか?」
「…くっ…」
陛下、言ってくれてはいたみたいですが、全く効力無いですよ、嘗められてますね。
「他のご子息もご両親から注意を受けていると報告をいただいておりますが、ご自重なさいませんでしたね」
「っ………!……」
…黙るのかよ。何だ歯応えの無い。
「そんなの…そんなの可笑しいです!ただお話しするだけで、仲良くするだけで、何がいけないんですかっ?」
おっと、ゴミ令嬢が反撃してきたぞ!全くの無意味な内容だがポンコツ令息共に比べたら骨のある奴だ。
いや、このままだと自分の立場が危うくなるのが解っているから味方を増やしたいのか。
しかし、そんなに甘くないぞ、お前の仕出かした事は。
「仲良くなるだけ?仲良くとは何処までの事を言うのですか?」
「え?」
「私、言いましたわよね?調査したと。それに、殿下も仰っていたではありませんか。『我が愛するリリアン男爵令嬢』と。そういう仲である事は明白。殿下、貴方はこの後、彼女と婚約…いいえ、結婚を宣言するおつもりだったのでしょう?」
どよっと会場が響めいた。そりゃそうだ、高位の令嬢達を差し置いて下位の男爵令嬢と第2でも王子が結婚するなんて大問題。『国王が高位貴族を蔑ろにした』と王家への不信を助長させる機会を与える行為だからね。別の理由で宰相ご子息と騎士団総長ご子息も目を剥いて口をあんぐり開いて…まるで人に群がる池の鯉!
さて王子、ゴミ令嬢とどういう関係なのか言えるかな?
「た…確かに、彼女を愛していると言ったが」
「不貞ですわね」
「い、言ったが、私の…一方的な恋情であって…」
お、庇ったのか?庇っちゃったのか?腕をそんな風に掴んでる女の横で?せめて離れさせろよ馬鹿め。
まあ意味無いですが。
「確かにトゥルネソル男爵令嬢が殿下含め複数の令息と口付けを交わしているのは周知の事実なので殿下だけと恋仲とは言い難い、ですが――」
「は?」
「え?」
「…!?」
おっと、其々自分だけだと思っていたんですか?というか殿下の腕をあんな風に掴んでる女を自分のモノだとよく思えたもんだな。
これも慣れか。慣れによる麻痺か!こんな令嬢ばかりだったら不貞を常に疑わないといけなくなるだろうがポンコツ共!
おっと、殿下がゴミ令嬢の両肩を掴みましたよ。
「リリアン…他の者とも口付けしたのか…?」
「あ…あの…その…そんなつもりじゃ…」
「リリアンさんっ、私との口付けは…っ合意では無かったと?!」
「リリアン…!」
おっとここで初めて騎士団総長子息が声を発したぞ!(名前呼んだだけだけど)おおっ修羅場に突入しそうだ!
進まないから止めてもらいますが。
「痴話喧嘩は後にしてもらうとしまして。婚約者のある方に秋波を送り近付く行為も、婚約者以外のご令嬢と逢い引きする行為も以ての外です。その中の一人になってしまった殿下の婚約者であられる、ベアトリス侯爵令嬢の罵倒の件ですが…」
振り向いたら、皆の時が止まっていた。
あ、ホントには止まってないよ。ゴミビッチの不貞に驚きすぎてフリーズしてるだけなんで。
ベアトリス侯爵令嬢は口に両手を当てて目を剥いた状態で固まっている。可愛い。ツンとした娘のこういう顔はギャップがあって良い。ただ、ゴミビッチを罵る時に尻軽女と言っていたんだけど…あまり意味を意識せずに使ってたのかな?あるよね~曖昧な知識で使っちゃう事。後で恥ずかしい目に会うヤツ。
おっと私が脱線してどうする。
「確かにベアトリス侯爵令嬢は厳しい言い方をなさっておいででした。ですが、婚約者を持つ子息に対して不貞を働こうとする行為を厳しく言及されたとしても致し方ないものと思われます」
「しっ、仕方なくなど無い!リリアンはきっと無理矢理口付けされていたに違いない!」
「殿下、無理矢理したのですか?」
「わ、私は合意だ!」
「私だって合意でしたっ」
「俺…私もそうでした…女性に力ずくで口付け等…騎士道に反する」
「皆様こう仰っておられますが、トゥルネソル男爵令嬢、どの方が合意なのですか?」
「それは…」
「それとも、全員合意でしたか?」
「何を言う!!」
何を言うって…事実をまだ受け止めない気か?
ボンクラは黙っとけよ。
「今尋ねているのは殿下ではありませんので黙っていてください」
「何だと?!」
「こっ、こんな大衆の前で訊かなくてもいいでしょう」
「こんな大衆の前を選んだのは貴殿方です。めでたい学園創立記念パーティが始まり、これから皆様楽しい時を過ごす筈でしたのに、か弱い令嬢を殿方が寄って集って貶める行為。許されるとお思いになりまして?自分達が正義だとでも?」
自分達の行動を棚にあげて何言ってんだ?
だが、お前等の愚かさはこんなもんじゃないだろ?
「トゥルネソル男爵令嬢、無回答という事は全員と恋愛関係があると見なして良いですね?」
ついに言い返せなくて唇噛み締めているよ、ゴミビッチさん。後で開き直る予感がありますが、こちらはどんどん追い詰めさせていただきますよ。
「そういえば、教科書が捨てられていたという話ですが――」
「そっ、そうだ!彼女が捨てている所をリリアンが見たのだ!」
ビシッと私の斜め後ろにいるツン令嬢に指を指すポンコツ1(王子)。
「お可哀想に…怖くて咎められなかったと泣いていました…」
「ああ…」
何を思い出しているのか知らんが…それ、三人同伴の時か?二人きりか?てか怖くなかったら咎めんのかよ。
まあいい。にしても、ま~だ庇うのかこのポンコツトリオ。いや、もうさっきのは考えない事にしたのかもなぁ。現実逃避すれば楽だし。
だがな…そんな幻想、私がブチ壊すっ!!(笑)
「犯人は彼女ではありませんでしたよ」
「「「え?」」」
さっきからいい感じにゴミビッチが青ざめてる。
どんどん暴露されるからな。つか何故バレないと思ってるし。ヒロイン補正でもあると思っていましたか?
ねえわ、んなもん。
「教室から不審な動きで出てこられた令嬢がおられたのを複数の方が目撃していらしたので、その令嬢を問い質した処、トゥルネソル男爵令嬢の教科書を捨てたと白状いたしました。」
「どういう事だ?!」
「そのご令嬢はどなたですか?!」
「貴殿方にお教えする必要はございません」
「「「なっ!?」」」
「少し調べれば解る事。それを怠りたった一人の証言を信じた貴殿方にお教えする必要性を感じません」
自分達の怠慢を私に尻拭いさせようとか上司にしたくないランキングがあったらお前等1~3位独占だよ。
「勿論、学園側からの罰を受けていただきましたので、今は反省し清く正しい生徒として過ごしていらっしゃいます」
「私!謝ってもらってない!」
お、ちょっと復活したかゴミビーッチ!
しかしだ、残念ながら謝られる事はないんだな。
「学園側の方から貴女への謝罪はしなくてよいとの判断が下されました」
「それは可笑しいでしょう!」
「そうだそうだ!」
何だ?急に殿下が付いて回る小者の定番『そうだそうだ』を放ったぞ。そこまで成り下がったかポンコツ1…憐れな。
「その生徒が過ちを犯した理由ですが、そこのトゥルネソル男爵令嬢に罵倒されたり、見目の麗しい殿方に媚びを売りながら体を密着させるはしたない様が許せず学園に相応しくないと彼女の本を思わず捨ててしまったそうです」
「え…?」
「それを訴えたとして貴殿方3人が必ずそこのご令嬢の肩を持つだろうと思い詰めての事だったそうですわ」
本人に直接問い質した訳じゃないけどゴミビッチは攻略対象のイベント回収の為に急いで行動している。廊下を走り回っていますから。
その時に進行方向を塞いでいる子息令嬢に苛立って罵倒してしまうんでしょうけど…ゴミビッチ、お前が色々やらかしてるんだからな。現実でも逆ハーを目指すなんて愚行をして迷惑をかけ、モブ扱いしてる周りの人達にも嫌われてるから悪役令嬢の入る隙間がないんだよ。
「他にも、衣裳の件もまた別の女性の仕業でしたし、階段を突き落としたという話ですが、最後の一段で男性によるものでしたの。詳しく聞けば彼女の方からぶつかってきたそうです。転ける事なく抱き止めれば頬を染めながらお礼を言われたので悪い気はしなかったと仰っておられましたよ。目撃者もおりましたわ」
話を聴いた時、まさか攻略対象外のイケメンにも粉かけるとは…と驚愕したのを思い出す。
因みに別の女性と表現したのは平民だったからだけど、このポンコツトリオ…略してポコリ(ありゃ可愛い?)は果たして気付くだろうか………ないな。
他にもあるけど気付くでしょうか…。
「…だが、教科書や階段の件はソイツ等とは別であった事かもしれない」
なんと!まさかの騎士団総長子息が気付いた!おい宰相子息、負けてんじゃねえか、脳ミソ機能してんのか?
「さっきの教科書の件で補足ですが、捨てられたという教科書を回収しようと教室に生徒相談もなさっている救護担当のグレゴワール・ジュワン先生と向かった処、丁度トゥルネソル男爵令嬢ご本人がゴミ箱から拾う様子に遭遇し、それはそれは恍惚とした笑顔を浮かべていらしたのでその余りの不気味さも踏まえ、この件は当事者同士を会わせないという結論に至ったのです」
「「「不気味…?」」」
ゲームと同じだったのがよっぽど嬉しかったんでしょうか。あの時の彼女の顔はヤバかった…自分の教科書が捨てられてるってのに恍惚としてるとか、同伴してたジュワン先生には確実に変態ドMと思われたよ、ゴミビッチさん。まさかの笑顔一つで実は攻略対象のグレゴワールのフラグへし折るとは、私も予想だにしませんでした。
「不気味なんて…どうしてそんな酷い事が言えるの?」
え?そこ食いついちゃう?すまないがどうでもいいのでスルーするよ。
「教科書の件も階段の件も他に無かったという保障はありません」
「なら―――」
「ですが他にあったという証拠もありません」
「リリアンが言っているのだっ」
「そのご令嬢の何が信用に足るのか私共には解りかねるのですが」
「リリアンさんは聖女です!気遣いが出来、聡明で無邪気で可愛らしい…」
「彼女はいつも笑顔で分け隔てなく皆に優しい守るべき――」
「その彼女から罵倒されたという方々が大勢いらっしゃるのに皆に優しいとは何の話ですの?一体いつ皆に優しくしている処を見たと?」
「…っ、いつも皆が幸せになるよう祈っていたし――」
「口だけならどうとでも言えます」
「孤児院のチャリティーにも参加していましたし!」
「彼女は顔を出しただけで出資は一切なさっていません」
「せ、聖女は金を出すものではない!」
「い…、いるだけで、癒してくれる、それが聖女だ」
いるだけでって…夢見る騎士が好きそうな内容だなぁ。
というか、孤児院に行っても一切子供と触れ合わなかったそうだね。私が直接偵察に行った時もポコリの内の誰かの腕を掴んで撓垂れかかって喋ってただけだったし。
…何か近付く子供に嫉妬して引き離してたポンコツ1の姿がふと思い起こされたんだけど誰か幻と言ってくれ。
「それは貴殿方だけです。それに、貴殿方が同伴していない日のチャリティーには一切参加なさっていませんのでそこはお間違いなきようお願いしますね」
「そ、それは偶々行けなかっただけだろう、なぁリリアン」
「はいそうです!」
丁寧語で速答したよゴミビ…これも長いのでゴビで。
自分を守る言葉は早い早い。
けれど、私言ってますよね?調査したと。
「貴女の行動は全て調査済みですよ、チャリティーに参加していない日に何処で何をしていたのかも」
「なっ…ぷ、プライバシーの侵害よ!」
「プライ……何ですか?」
「あっ……何でもない…」
思いっきり前世のルール持ってきましたが、勿論この世界にそんなものはありません。
というか、まさか前世の知識がある事を隠していたつもりじゃないですよね?あんなあからさまにハーレムエンド目指していたら、他に転生者が居てこの世界と疑似設定の乙ゲーをやっていた場合モロバレですよ?
まぁ私は今のところは其処に触れる気は無いので普通に追い詰める方へ話を戻します。
「…トゥルネソル男爵令嬢、貴女は見目の麗しい殿方には分け隔てなく口付けてお優しくなさる限定の聖女、なのですわね。…っと、分け隔てない訳でもありませんか」
と、ここで最高の爆弾へチラリと目を向ける。ほら、出番ですよ。
「私とは蜜月も交わしたよ、ね?」
「「「…は?」」」
「セヴラン様…っ!」
生徒の中から登場しましたるや、枢機卿モルガン・アヴリール猊下の孫であり辺境伯の息子であらせられるセヴラン・アヴリール様。この国の主だった宗教はトゥールヌソル教。本来ならゴビさんが卒業後に聖女として所属する所です。
このトゥールヌソル教、法王にあたる位は神になります。その次が最高神官長で国王に匹敵する権力を携えている。現最高神官長であるモルガン猊下の血筋であるセヴランをあの女が狙わない訳が無い。
ただ、この枢機卿の孫、タラシ要員攻略対象の筈なんだけど…何故かヒロインに心を奪われなかった。ヒロインというゴミなビッチが逆に釣られたという…。
壇上の近くまで寄っていくが登らない。彼は混ざりたい訳じゃないからね。
「彼女の中はまぁ、なかなかのモノでしたよ。一応私が初めてのようだったし。その後は知りませんが。」
「酷い!私、セヴラン様としかしてない!」
「本当に?」
「ホントだよ!セヴラン様だけだもん!」
隣の王子を振り切って訴えるゴミビッチ、勇気あるな。
そして周りのポコリ…唖然として完全なるポンコツと成り果ててるファッハ!
実はゴミビッチさん、タラシ要員の色香に負けて身を捧げてしまったんですねえ。まんまと罠に掛かってくれました。というか駄目な男に引っ掛かるが如くドハマりしてますね。彼が彼女を抱いたのは愛情でもなければ女性としての魅力からの戯れですらないのに。
彼は、コチラ側ですから。
ゴミビッチさん、我を忘れて言い訳言ってますが良いんでしょうかね?ポコリの目が死んでるように見えますが。
まあ丁度静かになったので話を戻そうか。
「チャリティーに出向いておらず、貴殿方とも出逢っていない日は他の見目の麗しい殿方、特にそのセヴラン・アヴリール様とお逢いになられていた事が確認されています。ですので、本命はセヴラン・アヴリール様で、他の殿方はお遊びだった、これが今代の聖女の実態です」
やっと、聖女だって俗物だと知らしめる事ができました。
これを世間に知らしめる事は、私にとって悲願でした。
聖女には癒しの力がある。それなのにこの女はその力をイケメン達に好かれる為だけにソイツ等の前だけで使っていた。それもゲームのスチルであったであろうシチュエーションの時だけ。この力に自分の寿命が縮まるようなリスクは無い。それでも彼女は、私利私欲の為だけに使い続けた。
私は知っている。イベント攻略の為に走り回っていた彼女が中庭で女性徒とぶつかり怪我をさせたのにも関わらず放置して走り去ったのを。
右膝と額の右側を砂地で打ち、丁度頭部辺りに転がっていた掌程の石によって、その娘は膝と額に3~4㎝程目立つ傷を残してしまいました。所謂ケロイド痕です。今も彼女は教会にある治療院に通い、少しずつだけれど治そうと皆尽力している。それでも、完全に消せるかどうかは解らない。聖女の力と治癒院にいる治癒術師の力は根本的に治し方が違うのだ。
女性の顔に傷が残る。
婚姻が重要なこの世界でどれ程致命的なことか。
ゴミビッチは聖女とは名ばかりの正真正銘の毒婦だ。
だから、貴女の嘘をもっと暴いてあげる。
「そして、殿下が最後に仰っていた毒の件、そもそもそんな事件、あったのでしょうか?」
「あ…あり…ました…」
力なく言葉を紡ぐゴミビッチ。
セヴランに暴露されてボロボロのようですが、身から出た錆でしょう?逆ハーやる気なら一人だけに体許すなんてやっちゃいけない。特別を作れば他が蔑ろになるからだ。それでも特別が欲しい場合、ハーレム内でよく話し合い全員の合意が得られて初めて手に入る。
そもそも、他とも関係がある事を内緒するのもやってはいけない。皆を愛する事を全員に了承してもらわなければ逆ハーレムは築けないのだ。
結局、現実で出来るのは余程の魅力のある、惹き付ける側の人間だけ。イベントイベント…と、必死になって男の尻を追いかけているような者には到底出来はしない。
また思考を脱線させてしまいましたね。戻しましょう。
「いつ、どういった状況で何に毒が使われていたのですか?」
「わ、私が家で作ってきたパウンドケーキを学園の中庭のベンチで食べたんです。そうしたらだんだん意識が遠くなっていって…気付いたら救護室にいましたっ。グレ様が知ってます!」
おっとっと、先生を前世の愛称で呼んじゃったよ。ジュワン先生はゴビさんとそういう関係にはなっていないのにそんな呼び方をしたらジュワン先生の不貞まで疑われるでしょうが。
「はい、中庭に通りかかった生徒がジュワン先生にお伝えし数人で救護室のベッドに運んだと聞き及んでおります。あと、ご本人に許可無く愛称ともとれる呼び方をしてはいけませんよ。貴女との不貞が疑われご迷惑をお掛けすると思わない…のでしょうね、これは私の思慮不足でしたわ。そこに気付く方が今までの行いをする筈がありませんもの」
「…さっきから…さっきから何なのよ!今は毒を盛られた話でしょ!私は毒を盛られたの!被害者なのっ!」
ぅおふ、キレたキレた。ちょっと意地悪でしたかね。でも、当たり前でしょう?無関係の人を巻き込むなんて許さない。そのクセ自分を擁護しようとする姿勢、苛つく。
「貴女が毒と言っているものは眠り薬でした」
「それが何?!」
「確かに大量摂取すれば危険を伴いますが、貴女に使用された量は約1時間眠る程度の量でした」
「それでも盛られてんじゃない!」
「いつ混入されたというのでしょうか」
「っ…、そんなのっ犯人しか解んないし!」
「そうですね、犯人しか解りません。それは誰が犯人かも解っていないという事。それなのに何故、アコニット侯爵令嬢がやったなどと発言したのですか第2王子殿下」
さっきからずっと黙っているので話を振ってみましたよ。打ち拉がれていないでさっさと質問に答えてほしいものですね。勿論、答えは解っていますが。
「リリアンが…ベアトリスを犯人だと…」
「おかしいですね、たった今彼女は解らないと仰っておりましたが」
「リリアン…?」
「リリアンさん…」
「リリ…アン…」
「…だって…私ずっとあの人に虐められてて…」
「罵倒気味でも注意されていただけで犯人扱いですか?それは余りにも横暴ですね。しかも高位貴族に対する冤罪。それは殿下、貴方も他人事ではありません」
「わた…しも、だと?」
「ロクに検証もせずに自分の婚約者に有らぬ罪を着せた事、トゥルネソル男爵令嬢と結ばれる為に邪魔になった彼女に冤罪をかけたと思われても仕方がないかと」
「わ、私は冤罪などかけていない!」
「それは後程他の審問官の方々と共にお聞きします。まだ、彼女に問わなければならない事がありますので。トゥルネソル男爵令嬢」
「っ…!」
ゴビに睨まれても少しも怖くありませんよ。
それに、貴女は罪人なのですから。
「とある薬屋で、最近なかなか眠れないという貴女に眠り薬を売ったと証言が取れています。…貴女には王族含む高位貴族並びに学園の生徒を謀ったクーデターの嫌疑がかかっています」
『クーデター』の言葉が出た途端、凍りついていた空間にザワザワとした人の気配が戻ってきました。勿論、動揺の。
ポコリは逆に凍りましたね。その真っ青な絶句顔はまるで兄弟のようにそっくりです。
「ク、クーデターっ?!ふざけないでっ!それこそ冤罪よ!」
「あくまで嫌疑です。しかしながら、もし毒を自作自演で仕込み、アコニット侯爵令嬢を犯人に仕立てあげ陥れようとしていたとしたなら…王家を支える侯爵家の力を削ごうという企みと思われてもおかしくないのですよ」
「そ…そんな…っ」
因みに自作自演なのは薬屋の件が無くても私は貴女を疑ってましたよゴビさん。
何せ、本来毒を入れる筈の人が絶対しないのですから。
「王族の婚約者を蔑ろにするというのはそういう危険な行為なのです。他の高位貴族令息に手を出すのとは訳が違う。だから、私のような特別審問官に調べられる事になるのです。…ただの男遊びでは済みませんよ。それに…」
「まだあるの?!」
これは彼女にとって本当に致命的な事。
彼女だけが受ける罰への布石。
「貴女、聖女の力をもう充分に使えないのでは?」
わあ、見事に今のポコリと一緒の表情!
『何で解ったの?!』って顔だけで言ってる。
周りの動揺がより一層大きくなりました。
当たり前です。聖女だからこそ、彼女は数々の非道な行いを見逃されてきたのですから。
「貴女がで聖女の力を最後に使用したのを目撃されているのは7ヶ月前の中央区孤児院で行われたチャリティーまで。それ以降、全く使われていない可能性が調べで出ています」
「つ、使う機会が無かっただけよ!」
「いいえ、貴女は最近学園長に聖女の力を貸してほしいと何度も呼び出されている筈です。…殿下に頼み色々理由を付けてはずっと拒否なされているそうですね」
そう、例の顔に傷の出来たご令嬢を治してもらう為、学園長からゴビに依頼を打診してもらっていたんです。
それなのに!この女は自分のせいで怪我をさせた責任も取らずに調子が悪いだの忙しいだの言い訳を並べ、その裏でのらりくらりとイベント攻略に勤しんでいた。
ですがあまりに断り続けるので不審に思い、既に彼女を虜にしていたセヴランに頼んでゴビが爆睡してる隙に私の特殊能力の一つ、左目にある『サリエルの瞳』を使って聖女の癒しの力『ラファエルの癒し手』の能力の確認をしました処、スキル名の後に〈現在使用制限中〉と書かれていました。
因みに、この世界は処女でなくても聖女の力は行使できます。歴代の聖女様も結婚・出産後であろうと力を使い尽力なさっておいでだったそうですから。
聖女の力は清き心の持ち主に使う権利が与えられる。
神は彼女に穢れる恐れを感じ、私を遣わしたのでしょうか…
「心の穢れは聖女の力を抑制していきます。私利私欲で能力を使い、人を陥れようとした代償に聖女の力を失う事になったのですわ」
「リリアン…本当なのか?本当に聖女の力を使えないのか…?」
「リリアンさん…?」
「リリアンが…聖女じゃ…なくなった…?」
正確にはまだ聖女ですけどね。
ですが、それも時間の問題。
何故なら、私が聖女の称号を剥奪するから。
おっと、丁度良いタイミングですね。
「リュドヴィック・ジャンヴィエール国王陛下がご到着いたしました!」
学園の警備兵の声に我に返ったホール内の皆が入ってきた近衛兵と陛下を見て一斉に片膝を折り臣下の礼をとっ…おいポコリ!!臣下の礼しろ!!王子は知らんが(王が臣下扱いにしていればやらなければならないね)宰相子息と騎士団総長子息は絶対だろ!!ボーッとしてんじゃねえよ!!
ゴビっ!!お前もだよ!!…って何王様見てちょっと赤くなってんだよ!確かにリュドヴィック王はダンディーイケオジだけど!激しく同意だけど!!
「………クアトル特別王国審問官、大義であった」
「はっ!勿体ないお言葉でございます」
はうっ!そっちで呼びますか!存在を認められた感じでキュンとしましたよ!これからも私は貴方の臣下です!
にしても…王子達見てスルーしてからこっちに声かけたよ…こりゃ見限られたね、ポコリ…
「後は、審問(尋問)室で聞かせてもらおう。リリアン・トゥルネソル、並びにフリデリック・ジャンヴィエール、クロード・フェブリエ、ヴィクトル・マルースを連行しろ」
「「「「「はっ!!」」」」」
副音声が聞こえた気がする……っていうか、今爵位関係抜いて呼んでたよね?これゴビとポコリの立ち場かなりヤバイって事だよね?
「おっ、お待ちください父上!!」
「儂を父上と呼ぶな!!…あれだけ言っても聞かぬとは…お前にもクーデターの疑いがある」
「何を言うのですか?!」
「嫌疑が晴れるまで、儂はお前を息子だとは思わん!!」
「そんなっ!クーデターなど企んでいません!父上!」
「まだ呼ぶか!!」
「申し訳ありません陛下、連行する前にちょっと横からよろしいですか?」
まだ最後の仕上げが残っているんです。
少々お待ちくださいな。
「…うむ、発言を許そう。」
「感謝いたします。」
臣下の礼を解き立ち上がった私は階段を登り壇上へ上がった。
因みに陛下や近衛兵達は裏から入ってきたので既に壇上にいます。かっこよくホール中央扉からバーン!とかそういうのじゃなくて内心ちょっとガッカリでした。
では最後の仕上げ、実行です。
先ずは殿下から。
「殿下、貴方は王族でありながら婚約者でも無い男爵令嬢一人の妄言を信じ唆され、陛下のお言葉さえ蔑ろにした。それは王族としてあるまじき行為です」
「何をっ…くっ…」
陛下が睨みを利かせてくれました。ありがたや。
「クロード・フェブリエ侯爵令息様、貴方は宰相閣下のご子息でありながら真実を調べようともせず、同じく婚約者ではない令嬢に簡単に唆されて…政略結婚の意味、解っておいでの筈ですよね?宰相閣下は大変お怒りです」
「………むぅ」
…不覚にもちょっと可愛いと思ったじゃないですか。
今度バチスト様にも言ってもらおうかな。
「ヴィクトル・マルース伯爵令息様、貴方も同様、明らかに怪しい彼女の行動を疑いもせず冤罪でご令嬢を断罪しようとし、ひたすら婚約者を裏切る行為、騎士道に反していると思わなかったのですか?父親である騎士団総長の顔に泥を塗ったのですよ」
そういえば、陛下が呼んだことでやっと騎士団総長の息子の名前が出ましたね。
伯爵位なのですよ。もしかしたら監督不行き届きで子爵になるかもしれませんが。又は騎士爵の剥奪か。可哀相ですねマルース伯。南無三。
あ、クアトル伯爵家とは一切関係ありません。騎士団元帥は騎士団総長の上司…まぁ端的に言えば騎士団という会社の会長と社長の違いです。
「そもそも、王命で婚約した殿下ならまだしも、他のお二方は本気で彼女を正妻にする気があれば両親、両家と話し合い違約金でも何でも用意して婚約を解消なされば良かったのです。妾にでもするおつもりだったのですか?それでも正妻の許可は要りますが」
「妾になどしません!!」
反論してきたのは宰相ご子息のみ。
騎士団総長ご子息は自分の愚かさに気付いて反省したご様子。
もうね、この二人は立ち場入れ替わったらいいよ。
「ではどうするおつもりだったのです?」
「そ…それは…」
「もし違約金を出し渋っていたのなら彼女とはそれくらいの関係だったと諦めるべきでしたね」
「違う!ただ父上も母上も彼女を…」
「よく思っている訳が無いじゃありませんか、再三言いますが、評判悪いですからその方。それすら乗り越え説得出来ないのにダラダラと関係を続けて。決断出来ぬ者に宰相は務まりませんよ」
「ぐぬぅ…!」
はぁ…これでホントに解ったのかなぁ…審問室では取り調べはあっても注意はしないと判断して一人一人に言ったけど…後はご両親の采配に任せよう…
さて、後は、ゴビさんですか。
彼女の前に立ち、真っ直ぐ顔を見つめる。
「リリアン・トゥルネソル男爵令嬢、私、個人の意見としては、貴女が大勢の殿方に秋波を送るのを悪いだなんて思っておりませんのよ」
「……え…?」
あは、恐らく他の方々も私の発言に驚いてるでしょうね。
「だって、殿方が相手にしなければいいんですもの。勿論、婚約者の方がいらっしゃらない殿方限定の話ですよ?私なら婚約者のいる方からハンカチをお借りしたら直接返さずお礼状と共に新しいハンカチを従者か婚約者の方にお渡しし『見知らぬ婦女子にも優しく出来る素敵な婚約者をお持ちで羨ましいです』と心底憧れる顔でお礼状の中身まで確認してもらい潔白を証明しますが。結局は礼儀のなっていない女性に引っ掛かる見る目の無い殿方も悪いのです」
「ん?え?え?」
あら、もしかして貶されてるのか擁護されてるのか判断できない、というリアクションですか?
どう考えてもほぼ貶してますよ?
でも、私が一番言いたいのはこっち。
「ですが、人を傷付け、陥れようとした行為は聖女ならば尚更許されません。今も貴女によって付けられた傷痕に苦しめられている方がいる。それを治す力がありながら、その力を失う行為を続け、心を穢した。聖女として一番やってはいけないのは、自分の幸福を優先し、他人の不幸を願う事でしたのに。だから貴女は聖女の力を使えなくなった」
「そ…、そんなの聞いてない!」
「当たり前です、聖女は本来そんな事を考えません」
「じっ、自分の幸せ願って何が悪いの?!」
「自分の幸せだけを願う事がいけないのです。自分の利益を優先し人を陥れるのが悪いという事です」
「……ゲームではそんなの言ってなかったのに……」
「ご理解いただけましたか?」
ゲーム内では言わないでしょうね。悪役令嬢が自分で堕ちてくれるんですから。陥れる必要の無いお膳立てされたヒロイン自身の心は穢れない。まぁ、それでも婚約者を奪ってるんだから悪女だと思うけど。
言いたい事も言ったし、そろそろ彼女にも罪悪感が少しは芽生えたでしょうかね。
そろそろ私の右目の力を使いましょう。
ポンコツ1の殿下もやってましたが…ビシッとゴビに指差して。
「貴女には、聖女の資格はありません!」
『ウリエルの瞳』発動!
裁きの時はきた!懺悔せよ!
リリアン・トゥルネソルの聖女の称号を剥奪する!
あ、これ心の中だけで言ってますからね。こんな中二病な台詞恥ずかしくて皆様には聞かせられません。
…いえいえ、私が神の使徒だという事実を隠す為です。
もしかしたら私の右目が光ったかもしれませんが、私の顔なんてゴビくらいしか見てませんから。
「今…何したの…?」
おっと、気が付きましたか?
目を見たからなのか、それとも称号を剥奪すると体に変化があるのか。
「何の事でしょう?」
もうやるべき事はやったので、不敵な笑顔をゴビに向けてみた。
「……っ、ミ…シェ、ル…?」
よく気付いたな!リアルミシェルに気付くとは!普通は声で気付くか気付かないかでしょうに!
そう、俺は隠れ攻略対象、ミシェル・ジュイエ。
全ての攻略対象者を攻略し、初めて選択可能になる隠しキャラ、悪役令嬢が雇う闇ギルドの暗殺者。
云わずもがな、性別は男だ。
紆余曲折あって、今はミシュリーヌ・クアトル伯爵令嬢として学園に通っている。
今までこの学園の誰にも気付かれた事はなかったんだが…流石イベント全部覚えていると思われるトゥルっ厨(トゥールヌソル~愛の本能のままに~をやりこんでハマってる人)はリアルになっても気付くのか…ゲームとこの世界を結び付けて考えてるからこそ俺が攻略対象だと直感したんだろうな。
気付いたご褒美にミシェル…いや、暗殺者ヤコブとして話しかけてやろう。
驚愕の表情を浮かべる彼女に近付き、そっと耳打ちする。勿論低い声で。
「何で俺の過去を知ってる?」
「!!!!!」
真っ赤になるゴビ。
自分を断罪してきた相手にそのリアクション…もしかして、あれだけ走り回ってイベント回収してたのは俺を攻略する為…?
うん、違うと思いたい。
「クアトル特別王国審問官、もう良いか?」
「はい陛下、長々と時間をいただきましてありがとうございました」
「うむ。では、連行せよ!」
「「「「「はっ!!!」」」」」
ゴビは真っ赤で、ポコリは真っ青で近衛兵に連行され壇上の奥へと消えていった。
「皆の者、礼を解かずにすまなかったな、顔を上げよ」
あ、皆様の事すっかり忘れてました。
もしかすると、陛下は私の能力がバレないように皆様の顔を上げさせないでいてくれたのかも…過保護だから。
辛かったですよね、ごめんなさい。声には出さないけど。陛下直々にすまなかったって言ったからそれで許してください。
「皆、礼を解くが良い」
限りなく静かに布の擦れる音のみがする中、跪いていた方々が一斉に立ち上がる。
何て美しい所作。貴族たる者、こうでなくては。
揺れてる人?ミエナイミエナイミエテナイ。
「此度の件、顛末は追って報告の場を設けよう。本来なら今日はめでたい学園創立記念日だ。どうか気分を一新し大いに楽しんでほしい。――学園長」
…陛下から楽しめと言われたら楽しむしかない。
「ありがとうございます陛下。私共の教育が至らぬ故起こった事…もう二度とこのような事は起こさせません。皆もよくよく理解したでしょう。では、曲を」
いつの間にか壇上に楽団が…いや、ポコリ達が捌けさせていたから、例の書状が殿下に渡されてからコッソリ準備し始めてたのかな?
「あ、書状…」
「これの事かな?」
書状を渡してきたのはセヴラン・アヴリール。
今回の断罪の為に一肌(も二肌も三肌も…)脱いでくれた立て役者だ。
「ありがとうございます、アヴリール辺境伯令息様」
「君と僕の中だろう?」
言いながら尻を触ろうとするから思いっきりその手の甲を抓ってやった。イケメンが苦痛の表情を我慢してる様も萌えですね。
「こんな場所で触らないでください」
「ここじゃなきゃいい…?」
「…約束ですから…」
「っしゃっ…!!」
「ちょっと…!大人しくしてください…っ!」
ゲームのセヴランと随分違う…まあ学園入学前からの知り合いなので、転生者でないことは確認しているのですが…喜ぶ仕草が前世っぽいというか…
「貴方、本当に前世の記憶ありませんよね?」
「うん、僕はね」
「あ~…どっから影響受けたのか解った…」
うん、心当たりがありました…
「そんな事いいからさ、これから二人で脱け出さない?」
「嫌です♡」
「わぁ~良い笑顔」
「…夜になったらいいですよ」
アヴリール家の能力をとことん駆使してもらいましたから、労うのは吝かではありません…し。
「マジで?!…ヤバイ…夜が待ち遠し過ぎる…!」
「何か誤解なさっていませんか?」
「え?…嘘、合ってるよね?ね?」
「さて、食事でも摘まみに行きましょうかね」
「合ってるでしょ?夜でしょ?」
「静かにしてください五月蝿いですよ」
「ね~え~…」
態と解ってないフリをしてるのか知りませんが、この後少し学園長と話したら私達も審問室に行くんですけど。
何時まで取り調べという名の訊問をするか解らないですよ?
そう、夜は此処を(既に)脱け出しているんだから、嘘じゃありませんよね?
こうして、ヒロインざまぁイベントは幕を閉じました。
断罪返しをされた彼等のその後については追々話すとしましょう。ま、そんなに酷い事には…ならない…よね?
悪役令嬢は…何も問題無いでしょう。
途中からずっと『ゴビ砂漠』が頭から離れなくなりました…(合掌)
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