[BL]ちょっと横からよろしいですか

青ヌメ

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本編

《3》刻まれた穢れを晒すまで…

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前世の記憶が戻ってから主人公の心情は起伏が激しい状態になっております。

主人公が《0》話のようになるのはまだまだ先です;
少年と成人女性が混ざってまだ安定しない期間ですな。
安定…しなかったなぁ……




‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥∽‥





 そもそも、私は何故ミシェルになっているんだろう。
 神様、ちゃんと顔見せて説明してくれませんか?






 只今、イケオジ神官長にお姫様だっこで教会の奥に運ばれております。

 抵抗して万が一顔に傷でも付けたら…あ、でも顔に傷のある枢機卿とか寧ろ萌えるかも…!いやいやダメダメ!人傷付けるの嫌って思ったばかりで萌えの為にこのご尊顔を傷モノにしようなんて発想しちゃダメだから!


 このままじゃいけないって判ってる。だって相手は闇ギルドだもん…いくら英雄でも……モルガン様って対人戦闘した事あるのかな?攻略本にはモブオジの人物背景殆ど書いてなかったし。


 トゥールヌソル教の最高神官長の服は白地に袖口や端々に細い別布の銀の刺繍が入っているローブに青地に豪華な金の刺繍が入った荘厳なケープ、その上から白地に銀の刺繍が入り青と金の線で端を縁取った大きめのストールを巻いて、顔の前面以外を白い布で隠した司教冠(これも白地に金銀青が使われている)を被るスタイルなんだけど、今のモルガン様は普通のトゥールヌソル教神官服を着ていらっしゃる。うん、これも格好いい。ローブにフードが着いてるから白魔導師みたい、萌え!

 で、この格好で戦う姿…悪くないけど防御性が…魔法で強化できるのかな?枢機卿の正装なんて絶対動きにくいし。

 う~ん…対人戦闘する神官…か。リアルでかぁ~、この世界ならありえない事もなさそうだけど…


 …ってこれどんどん教会の奥に入って行ってるけど何処まで行くの?


 「あ、あのっ…枢機卿―――」

 「モルガンです」


 おうふっ!笑顔で喰い気味圧力名前呼び強要ごちそうさまです!


 「う…モ、モルガン様…?」

 「様も要りません」

 「うぅ……モルガン、さん…」

 「クスッ…何でしょう?」


 あう…笑われた……かつて笑われてこんなに嬉しく思った事があっただろうか…無い、前世から無い。

 いやいや萌えてる場合じゃなかった。


 「一体何処に向かってるんですか…?」

 「体を清める為に聖泉水の間ですよ」

 「せい…せん…すい?」


 そそそそれってまさか…


 「心配は要りません。人肌に合った温度になっていますから、冷たくありませんよ」


 お風呂場直行コースうぅぅぅぅうっ?!!

 待って待って待って!!そんなまだ心の準備が!
 あ!でも一人で入るんだよね?そうだよね?やだ何か変な妄想しちゃった!てへ♡


 「綺麗にして差し上げますからね」


 洗われるの確定ですかあぁぁぁあああっ?!


 「ひとっ、一人で入れますっ!」

 「初めての場所で勝手も解らないでしょう?丁度私もまだ入っていませんでしたし、遠慮なさらず」


 という事は…モルガンさんも…は…だ…


 「えええええ遠慮じゃなくてぇぇぇ…!」

 「はい?」


 また……有無を言わさぬ圧力スマぁぁあイル……




 こうして俺達は『聖泉水の間』なる所に着いた。
 所々に魔力で点ける灯りがあって結構明るい。
 脱衣所も着替えを置く棚もあって(ロッカーは無いから盗難とか…ってそれ心配する教会なんて問題か)何だか銭湯や旅館の大風呂を思い出す。
 履き物を脱いで乗る簀みたいのまである…
 ブーツを脱いで乗ってみると、スベスベに鑢をかけた滑らかな木の感触がする。気持ちいい。

 さて………脱ぐのか……。
 俺の体には無数の傷痕の他に、現頭目の付けたキスマークやらちょっとした歯形もある…。今日は夜の仕事だからって昼前までヤラれてさ、仕事行く時は結構な頻度で歯形を付けられてんだよ…。出発する頃には痛くないから付いてんの忘れるんだよなぁ…
 ついでに言えば、奴隷になった時に付けられた焼き印も左肩にまだ付いてるし…やだな…


 脱ぐのを躊躇いつつチラリと横目でモルガンさんの居る方を見ると…

 はうっ!思ったより筋肉付いてる!細マッチョ系!結構身長もあるし腹筋も割れてるからそれなりの迫力が!え、何その若々しい肉体!モルガンさん今は何歳なんだろ?!後で聞こう!

 にしても、俺ほどじゃないけど上半身に数ヶ所傷痕がある。そりゃ、大規模スタンピードとか経験してるんだし、この世界で悪意の持った人と対峙する事も偉くなればなる程あるだろうし、傷痕があるのは当たり前だよね。

 萌え要素的には有りだ!

 ってもう脱ぎ終わって腰に布巻いてる!
 あ…足の方にも傷跡がある。今はどの傷も塞がって古傷として刻まれている。でも痕が残ってるのはそれくらい深い傷だったって事だ。流石にもう傷そのものによる痛みは無いだろうけど部位によっては引き攣る感覚があったっておかしくない。
 治癒師が常駐している教会の最高神官長でさえ、こうして負った深い傷の痕跡を消す事は聖女にしか出来ない。

 はぁ…私が聖女に生まれ変わってたら喜んで治すけどな…贔屓でじゃなくて、当たり前に。
 もしヒロインが聖女に相応しい人だったら治してほしいな、こうやって過去の傷痕が付いてる人も。
 そりゃ、傷は男の勲章ってのも判るし格好いいけどそれはあくまで見た目や矜持(と萌え)の話で。
 例え今困ってなくても、もしかしたら体に響いてて後々そこから悪くするかもしれない。
 モルガンさんには長生きしてほしいし……


 「どうかしましたか?」

 「あ…」


 いけない、物思いに耽っていた。
 う~ん…どうしよう…


 「…脱がせて差し上げましょうか?」

 「へっ?やっ、あの、その……お、お見苦しいモノをお見せする事になるん…ですが…」

 「気に病む事はありません。…傷痕が、あるのでしょう?」

 「それは……まぁ…」


 それ以外の方が…ねえ…


 「大丈夫です、ほら」

 「ぁうぷっ…」


 男同士だからかちょっと遠慮無しにシャツの裾を掴まれ上に引き揚げられた。
 俺が来ていたのは小汚ない黒の七分袖シャツ。流されるまま服を脱がされ、上半身を顕にされた。
 恥ずかしさに目を強く瞑り顔を背けると、余計に沈黙が身に染みる…うん、こうなりゃ観念して下も脱ごう。そんでさっさと入ってさっさと上がろう。
 下に履いている黒の七分丈ズボンをさっと脱いだ。
 この世界の殆どの種族の男性ってズボン直穿きなんだよね…今度自分用にトランクス作ろうかな…

 あれ…?さっきからモルガンさん喋ってないな…

 恐る恐る見上げると―――



 人を殺さんばかりにお怒りの顔したモルガン様がいました……
 俺の体凝視されてる!えっ?えっ?どうしよう?!


 「モ…モルガンさん…?」

 「……さ、入りましょう」


 俺を大事そうに優しく左腕で子供だっこの形に抱き上げたモルガンさんは優しい笑顔に戻っていたけど、腕が強張っているように感じたから…きっと怒ってるんだ…


 「嫌なモノ見せてごめんなさい…」


 13歳の男子にしては少し小さい自分の体がこんなにも酷かったら気分を悪くするし、憤るよな…


 「っ?!貴方のせいではありませんっ、謝る必要なぞ全く無いのですよ?…申し訳ありません…大丈夫だと言っておきながら…こんな歳にもなって動揺を隠せず貴方にそんな言葉を言わせてしまうとは…」

 「ううんっ!いいのっ!誰だってこんなの見たら冷静じゃなくなるよ!でも大丈夫だから!痛くないよ!ホントだよ?」


 思わず丁寧な口調にするのも忘れて宥めてしまうくらいモルガンさんの顔が沈んでしまった。
 俺の今までがこの姿を見ればある程度予想付くしなぁ…でもモルガンさんがやったんじゃないんだから落ち込まないでほしい。

 じっとモルガンさんの顔を見つめる。
 モルガンさんの髪は艶を少し抑えた白銀色で肩に付かないくらいの長さをオールバックにしている。枢機卿の正装時に被る司教冠や神官のフードの為に邪魔にならない髪型をするのが定番みたいだ。イケオジにオールバックはマストだね!風呂揚がりに垂れた前髪を掻き揚げる仕草が見られるかも……おし、滾ってきたぁっ!!
 目の色は灰青色で、ほんの少し目尻が下がっている。イラストでも確かに少し垂れ目で孫がいるにも関わらず女性を誑かしそうな感じだった。
 まぁ、タラシ要員のセヴランが孫だしね!そういえば父親の顔知らないや。3代続けてこの顔かな?

 想像して思わずふふっと笑ってしまった。

 すると、沈んでいた顔を驚きの表情に変えたモルガンさんが、そっと俺の頬を右手の甲と指で優しく優しく撫でた。


 「っ?モルガンさん?」


 今度は俺の方が驚いて目を見開いた。
 何?!しなやかな手つきにドキドキする。てか抱っこされてるから顔近いし!意識したら顔に熱が集まってきた!
 こんな近くでお次は蕩けるような笑顔を向けてきたし!
 ぐはっ!!クリティカルヒットだよ!


 「…貴方は………貴方の笑顔は魅力的過ぎますね、こんな痕を付けて自分のモノだと誇示したくなる気持ちも解ります」

 「……ななななななっ?!」


 何で言い淀んでからその台詞が出てくるんですか?!
 笑顔が魅力的とかそれ言うの躊躇ったらそのまま止めるヤツ!!
 …って、あれ?今何か不穏な内容が聞こえた気がするんだけど…気のせいだよね?


 「でも……貴方の真珠のような肌は、傷一つ無い姿が似合っています」


 ズクリ……

 そんな事を言われるなんて思ってなかった。
 どう返事をすればいいか判らないよ。だって、真珠のような肌なんて言われても信じられない。
 俺に見えるのは、人を殺す為に修練を重ねそのせいで付いた見るも無残な穢らわしい体だけ。
 傷跡の上から更に傷が付けられもう染み付いたように消えはしない。

 聖女の力でもない限り。


 「っ!………その悲しい顔は、私がさせてしまったのですね…」


 首を横に振って否定した。誰かを責める必要なんて無い。
 修行をすると言われた時、嫌だと一言だって言わなかった。
 そりゃ、言える立ち場じゃなかったし、殆どの傷跡は現頭目が俺に独占欲を向けてからだ。
 けど思えばどうせ捕まるなんて言い訳して一度も逃げ出した事がなかった気がする。
 モンストルだけしか、あの場所だけしか俺には居場所が思い付かなくて…
 そして、たくさんの命を奪った。この穢い体はその罰なんだ。


 「…大丈夫ですから。さ、入りましょう」


 また大丈夫と言ったモルガンさんの顔は、ただただ優しい笑顔だった。









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