魔女リリアの旅ごはん

アーチ

文字の大きさ
1 / 185

1話、魔女の朝食

しおりを挟む
「それでは師匠、今までお世話になりました」
「んー……おー……がんばってねぇ……」

 早朝。私は玄関口で弟子のリネットを見送っていた。
 しかし私はさっき起きたばかりなのでどこか意識がはっきりとしない。
 弟子が独り立ちする日だというのに、師である私は情けないくらいにあくびをかいていた。

「……師匠、もうちょっと感動的にお別れするつもりはないんですか?」
「ないよ。だってあんたでもう三回目だもん。この状況」
「はぁ……」

 弟子のリネットは呆れたように溜息をついた。

「じゃあもう私行きますね。……あ、朝食は準備してテーブルの上に置いてありますから」
「うん、わかった」
「ちゃんと一人で食べられますか?」
「食べられるに決まってるよ。弟子の癖に子ども扱いしないで」
「子供扱いというより、おばあちゃん扱いしてるつもりなんですけど……」
「誰がおばあちゃんだよっ。私はそんな年じゃないって!」

 憤慨する私を見てリネットはひとしきり笑い、ふっと決意したような顔をする。

「あっちで落ち着いたらお手紙書きますから、ちゃんとお返事くださいね」
「ん、分かってる」
「はい、それじゃあ……行ってきます、師匠」

 リネットは名残惜しそうだったが、私に背を向けて歩いていく。
 私の家は森の中にあるので、彼女の姿は段々と木々に隠されていった。

「私、師匠みたいな立派な魔女になりますからー!」

 もう遠目になったリネットが、振り返って大きな声でそう言った。
 そしてそのまま彼女の姿は見えなくなった。

「はぁ……最後の弟子も行っちゃったか」

 私の名はリリア。森の中で魔法薬を売っている魔女だ。
 年齢は……以前不老不死の薬をがぶ飲みして年を取らなくなったので、永遠の十五歳ということでごまかしている。断じておばあちゃんではない。
 魔法薬店を営むかたわら、三人ほど弟子を取っていたのだが、今日三人目の弟子リネットが巣立っていってしまったのだ。

 私は玄関を閉めて、朝食を取ろうと椅子に座った。
 テーブルの上にはリネットが作ってくれた朝食が並んでいる。目玉焼きにサラダ、そしてパン。普段の朝食と一緒だ。

 パンを一口かじる。小麦のほんのりとした甘さを感じるが、食べなれたものなので格別美味しいとは思わない。
 目玉焼きやサラダも同じだった。リネットが作ってくれるいつもの朝食。いつもの味。
 特に感動もないけど、だからって嫌いなわけではない日常の味。

「あー……もうリネットもいないのかぁ……」

 朝食を全部たいらげて、私は閑散とした家の中を見回した。
 ほんの少し前までは私の他に生意気な弟子が三人もいたのに、一人巣立っていってはまた一人巣立ち、ついには最後の弟子リネットまでいなくなってしまった。
 静かで落ち着くけど、どこか物足りない空間。
 もともと魔法薬店としてもそんなに人が来ないから、弟子もいなくなった今とてつもなく暇になってしまった。

「はぁ……お昼までなにしようかな。もう一度寝なおすってのもなぁ……あっ」

 お昼と自分で言って、私はとんでもないことに気づいた。
 ……そう、お昼ごはんはどうしよう。というか今日からごはんをどうしよう。
 実は弟子が出来てからは毎日弟子に三食用意させていた私。
 もともと面倒くさがりということもあって、毎日ご飯を準備するなんてとてもじゃないけどやってられない。
 これはまずい。今日からなにを食べたらいいんだろう……?

 別に自分で作らなくても、外食するという手もある。でもここは森の中で、近くの町に行くのにも結構歩くのだ。
 これでもし毎日外食するということになったら、必然毎日外に出るということになる。なんだか考えただけで面倒だ。
 そこまでするなら、いっそのこと旅でもして毎食外で食べてしまうほうが性に合ってるかもしれない。

「……いや、そうか。そうすればいいんだ」

 そうだ、旅に出よう。
 思えば弟子を取ってから外出することなんて減っていき、段々引きこもり気味になっていた私だ。
 この機会に、ちょっと長旅をするのもいいんじゃないか?
 世界には私が食べたことない美味しい料理も色々あるだろうし、美味しいごはんを求めて旅をするというのも悪くない。
 弟子がいなくなった今、長旅に出てもなにも問題ないしね。

 思い立ったが吉日。私は早速準備をすることにした。
 身支度を整えて魔女服姿となり、魔女帽子を被る。そして愛用の手提げ鞄を引っ張り出し、着替えを詰めていった。
 私の鞄はちょっとした魔術がかけられている。だから見た目以上に物がはいるし、中に入れた物の保存状態もそこそこ良好に保つ。長旅には必需品だ。

 ちなみにこの鞄にはネコのアップリケが入っていた。これは昔、二番目の弟子が勝手につけたやつだ。
 私はネコよりカラス派なのでこれには大いに怒った。他の弟子たちも巻き込んだ口喧嘩になった。
 そしてその結果、私以外皆ネコ派だということが判明したのだ。あの時の衝撃は忘れられない。
 ……いけない。余計なことを思いだしてしまった。
 さっさと旅立ちの準備を済ました私は、戸締りを確認して家の外に出た。

「ククルちゃん、起きてる?」

 外に設置してある鳥小屋に住む使い魔、カラスのククルちゃんに呼びかける。
 ククルちゃんはすぐにクァーと可愛らしい声で返事してくれた。

「私ちょっと旅してくるから、留守の間よろしくね」
「クァー」

 ククルちゃんはとても頭が良いし私の弟子たちと違って優しい。こういう突然の頼み事も快く受け入れてくれるのだ。

「ええと、箒はどこだ?」

 旅なんだからできるだけ歩くつもりだが、地面がぬかるんでたり、急遽家に戻る必要ができた場合のため、魔女の箒も持っていくことにした。
 魔女の箒は魔力を込めれば浮き上がるので、魔女の交通手段としては一般的なのだ。
 箒も無事見つけ、これで準備はオッケーだ。
 それでは、美味しいご飯を求めて出発しよう。
 最後の弟子が巣立ってからわずか数時間。私もまた、新たな旅立ちをする事となった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...