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1話、魔女の朝食
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「それでは師匠、今までお世話になりました」
「んー……おー……がんばってねぇ……」
早朝。私は玄関口で弟子のリネットを見送っていた。
しかし私はさっき起きたばかりなのでどこか意識がはっきりとしない。
弟子が独り立ちする日だというのに、師である私は情けないくらいにあくびをかいていた。
「……師匠、もうちょっと感動的にお別れするつもりはないんですか?」
「ないよ。だってあんたでもう三回目だもん。この状況」
「はぁ……」
弟子のリネットは呆れたように溜息をついた。
「じゃあもう私行きますね。……あ、朝食は準備してテーブルの上に置いてありますから」
「うん、わかった」
「ちゃんと一人で食べられますか?」
「食べられるに決まってるよ。弟子の癖に子ども扱いしないで」
「子供扱いというより、おばあちゃん扱いしてるつもりなんですけど……」
「誰がおばあちゃんだよっ。私はそんな年じゃないって!」
憤慨する私を見てリネットはひとしきり笑い、ふっと決意したような顔をする。
「あっちで落ち着いたらお手紙書きますから、ちゃんとお返事くださいね」
「ん、分かってる」
「はい、それじゃあ……行ってきます、師匠」
リネットは名残惜しそうだったが、私に背を向けて歩いていく。
私の家は森の中にあるので、彼女の姿は段々と木々に隠されていった。
「私、師匠みたいな立派な魔女になりますからー!」
もう遠目になったリネットが、振り返って大きな声でそう言った。
そしてそのまま彼女の姿は見えなくなった。
「はぁ……最後の弟子も行っちゃったか」
私の名はリリア。森の中で魔法薬を売っている魔女だ。
年齢は……以前不老不死の薬をがぶ飲みして年を取らなくなったので、永遠の十五歳ということでごまかしている。断じておばあちゃんではない。
魔法薬店を営むかたわら、三人ほど弟子を取っていたのだが、今日三人目の弟子リネットが巣立っていってしまったのだ。
私は玄関を閉めて、朝食を取ろうと椅子に座った。
テーブルの上にはリネットが作ってくれた朝食が並んでいる。目玉焼きにサラダ、そしてパン。普段の朝食と一緒だ。
パンを一口かじる。小麦のほんのりとした甘さを感じるが、食べなれたものなので格別美味しいとは思わない。
目玉焼きやサラダも同じだった。リネットが作ってくれるいつもの朝食。いつもの味。
特に感動もないけど、だからって嫌いなわけではない日常の味。
「あー……もうリネットもいないのかぁ……」
朝食を全部たいらげて、私は閑散とした家の中を見回した。
ほんの少し前までは私の他に生意気な弟子が三人もいたのに、一人巣立っていってはまた一人巣立ち、ついには最後の弟子リネットまでいなくなってしまった。
静かで落ち着くけど、どこか物足りない空間。
もともと魔法薬店としてもそんなに人が来ないから、弟子もいなくなった今とてつもなく暇になってしまった。
「はぁ……お昼までなにしようかな。もう一度寝なおすってのもなぁ……あっ」
お昼と自分で言って、私はとんでもないことに気づいた。
……そう、お昼ごはんはどうしよう。というか今日からごはんをどうしよう。
実は弟子が出来てからは毎日弟子に三食用意させていた私。
もともと面倒くさがりということもあって、毎日ご飯を準備するなんてとてもじゃないけどやってられない。
これはまずい。今日からなにを食べたらいいんだろう……?
別に自分で作らなくても、外食するという手もある。でもここは森の中で、近くの町に行くのにも結構歩くのだ。
これでもし毎日外食するということになったら、必然毎日外に出るということになる。なんだか考えただけで面倒だ。
そこまでするなら、いっそのこと旅でもして毎食外で食べてしまうほうが性に合ってるかもしれない。
「……いや、そうか。そうすればいいんだ」
そうだ、旅に出よう。
思えば弟子を取ってから外出することなんて減っていき、段々引きこもり気味になっていた私だ。
この機会に、ちょっと長旅をするのもいいんじゃないか?
世界には私が食べたことない美味しい料理も色々あるだろうし、美味しいごはんを求めて旅をするというのも悪くない。
弟子がいなくなった今、長旅に出てもなにも問題ないしね。
思い立ったが吉日。私は早速準備をすることにした。
身支度を整えて魔女服姿となり、魔女帽子を被る。そして愛用の手提げ鞄を引っ張り出し、着替えを詰めていった。
私の鞄はちょっとした魔術がかけられている。だから見た目以上に物がはいるし、中に入れた物の保存状態もそこそこ良好に保つ。長旅には必需品だ。
ちなみにこの鞄にはネコのアップリケが入っていた。これは昔、二番目の弟子が勝手につけたやつだ。
私はネコよりカラス派なのでこれには大いに怒った。他の弟子たちも巻き込んだ口喧嘩になった。
そしてその結果、私以外皆ネコ派だということが判明したのだ。あの時の衝撃は忘れられない。
……いけない。余計なことを思いだしてしまった。
さっさと旅立ちの準備を済ました私は、戸締りを確認して家の外に出た。
「ククルちゃん、起きてる?」
外に設置してある鳥小屋に住む使い魔、カラスのククルちゃんに呼びかける。
ククルちゃんはすぐにクァーと可愛らしい声で返事してくれた。
「私ちょっと旅してくるから、留守の間よろしくね」
「クァー」
ククルちゃんはとても頭が良いし私の弟子たちと違って優しい。こういう突然の頼み事も快く受け入れてくれるのだ。
「ええと、箒はどこだ?」
旅なんだからできるだけ歩くつもりだが、地面がぬかるんでたり、急遽家に戻る必要ができた場合のため、魔女の箒も持っていくことにした。
魔女の箒は魔力を込めれば浮き上がるので、魔女の交通手段としては一般的なのだ。
箒も無事見つけ、これで準備はオッケーだ。
それでは、美味しいご飯を求めて出発しよう。
最後の弟子が巣立ってからわずか数時間。私もまた、新たな旅立ちをする事となった。
「んー……おー……がんばってねぇ……」
早朝。私は玄関口で弟子のリネットを見送っていた。
しかし私はさっき起きたばかりなのでどこか意識がはっきりとしない。
弟子が独り立ちする日だというのに、師である私は情けないくらいにあくびをかいていた。
「……師匠、もうちょっと感動的にお別れするつもりはないんですか?」
「ないよ。だってあんたでもう三回目だもん。この状況」
「はぁ……」
弟子のリネットは呆れたように溜息をついた。
「じゃあもう私行きますね。……あ、朝食は準備してテーブルの上に置いてありますから」
「うん、わかった」
「ちゃんと一人で食べられますか?」
「食べられるに決まってるよ。弟子の癖に子ども扱いしないで」
「子供扱いというより、おばあちゃん扱いしてるつもりなんですけど……」
「誰がおばあちゃんだよっ。私はそんな年じゃないって!」
憤慨する私を見てリネットはひとしきり笑い、ふっと決意したような顔をする。
「あっちで落ち着いたらお手紙書きますから、ちゃんとお返事くださいね」
「ん、分かってる」
「はい、それじゃあ……行ってきます、師匠」
リネットは名残惜しそうだったが、私に背を向けて歩いていく。
私の家は森の中にあるので、彼女の姿は段々と木々に隠されていった。
「私、師匠みたいな立派な魔女になりますからー!」
もう遠目になったリネットが、振り返って大きな声でそう言った。
そしてそのまま彼女の姿は見えなくなった。
「はぁ……最後の弟子も行っちゃったか」
私の名はリリア。森の中で魔法薬を売っている魔女だ。
年齢は……以前不老不死の薬をがぶ飲みして年を取らなくなったので、永遠の十五歳ということでごまかしている。断じておばあちゃんではない。
魔法薬店を営むかたわら、三人ほど弟子を取っていたのだが、今日三人目の弟子リネットが巣立っていってしまったのだ。
私は玄関を閉めて、朝食を取ろうと椅子に座った。
テーブルの上にはリネットが作ってくれた朝食が並んでいる。目玉焼きにサラダ、そしてパン。普段の朝食と一緒だ。
パンを一口かじる。小麦のほんのりとした甘さを感じるが、食べなれたものなので格別美味しいとは思わない。
目玉焼きやサラダも同じだった。リネットが作ってくれるいつもの朝食。いつもの味。
特に感動もないけど、だからって嫌いなわけではない日常の味。
「あー……もうリネットもいないのかぁ……」
朝食を全部たいらげて、私は閑散とした家の中を見回した。
ほんの少し前までは私の他に生意気な弟子が三人もいたのに、一人巣立っていってはまた一人巣立ち、ついには最後の弟子リネットまでいなくなってしまった。
静かで落ち着くけど、どこか物足りない空間。
もともと魔法薬店としてもそんなに人が来ないから、弟子もいなくなった今とてつもなく暇になってしまった。
「はぁ……お昼までなにしようかな。もう一度寝なおすってのもなぁ……あっ」
お昼と自分で言って、私はとんでもないことに気づいた。
……そう、お昼ごはんはどうしよう。というか今日からごはんをどうしよう。
実は弟子が出来てからは毎日弟子に三食用意させていた私。
もともと面倒くさがりということもあって、毎日ご飯を準備するなんてとてもじゃないけどやってられない。
これはまずい。今日からなにを食べたらいいんだろう……?
別に自分で作らなくても、外食するという手もある。でもここは森の中で、近くの町に行くのにも結構歩くのだ。
これでもし毎日外食するということになったら、必然毎日外に出るということになる。なんだか考えただけで面倒だ。
そこまでするなら、いっそのこと旅でもして毎食外で食べてしまうほうが性に合ってるかもしれない。
「……いや、そうか。そうすればいいんだ」
そうだ、旅に出よう。
思えば弟子を取ってから外出することなんて減っていき、段々引きこもり気味になっていた私だ。
この機会に、ちょっと長旅をするのもいいんじゃないか?
世界には私が食べたことない美味しい料理も色々あるだろうし、美味しいごはんを求めて旅をするというのも悪くない。
弟子がいなくなった今、長旅に出てもなにも問題ないしね。
思い立ったが吉日。私は早速準備をすることにした。
身支度を整えて魔女服姿となり、魔女帽子を被る。そして愛用の手提げ鞄を引っ張り出し、着替えを詰めていった。
私の鞄はちょっとした魔術がかけられている。だから見た目以上に物がはいるし、中に入れた物の保存状態もそこそこ良好に保つ。長旅には必需品だ。
ちなみにこの鞄にはネコのアップリケが入っていた。これは昔、二番目の弟子が勝手につけたやつだ。
私はネコよりカラス派なのでこれには大いに怒った。他の弟子たちも巻き込んだ口喧嘩になった。
そしてその結果、私以外皆ネコ派だということが判明したのだ。あの時の衝撃は忘れられない。
……いけない。余計なことを思いだしてしまった。
さっさと旅立ちの準備を済ました私は、戸締りを確認して家の外に出た。
「ククルちゃん、起きてる?」
外に設置してある鳥小屋に住む使い魔、カラスのククルちゃんに呼びかける。
ククルちゃんはすぐにクァーと可愛らしい声で返事してくれた。
「私ちょっと旅してくるから、留守の間よろしくね」
「クァー」
ククルちゃんはとても頭が良いし私の弟子たちと違って優しい。こういう突然の頼み事も快く受け入れてくれるのだ。
「ええと、箒はどこだ?」
旅なんだからできるだけ歩くつもりだが、地面がぬかるんでたり、急遽家に戻る必要ができた場合のため、魔女の箒も持っていくことにした。
魔女の箒は魔力を込めれば浮き上がるので、魔女の交通手段としては一般的なのだ。
箒も無事見つけ、これで準備はオッケーだ。
それでは、美味しいご飯を求めて出発しよう。
最後の弟子が巣立ってからわずか数時間。私もまた、新たな旅立ちをする事となった。
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