魔女リリアの旅ごはん

アーチ

文字の大きさ
7 / 185

7話、魔女と占いとクレープと2

しおりを挟む
「はい、どうぞ」

 私は魔女見習いの子が買ってきてくれたチョコと生クリームのクレープを受け取る。
 薄い生地を折り畳んだ中に、チョコクリームと生クリームがたっぷりと入っていた。見るからに甘くておいしそうだ。

「あの、私あちらの方で占いをしているので、そこで座って食べましょう」

 うながされるまま、私はクレープ片手に彼女の後をついていった。
 連れられてきたのは、道路の隅っこに小さいテーブルとイスが二つ設置されている場所だ。ここで彼女は占いをしているのだろう。
 イスはテーブルを挟んで向かい合わせに置かれていたので、私と魔女見習いの子は向かい合って座り合った。

 ひとまず、クレープが生ぬるくなる前に一口食べてみる。
 チョコクリームと生クリームが薄いクレープ生地の中にたっぷり入っているので、一口食べた瞬間生地の隙間から溢れ出た。慌てて生クリームがはみ出た部分を食べる。
 チョコと生クリームの甘さがすごいが、クレープ生地のほんのりとした甘みも負けていない。

 やっぱり甘いものっておいしい。そう改めて確認する私だった。
 と、クレープに夢中でかぶりつく私は、ふと我に返って正面に座る魔女見習いの子に話しかける。

「それでなんだっけ? 占いの話?」
「ん……あ、はい、そうです」

 魔女見習いの子もクレープに夢中になっていたのか、私が問いかけるとびっくりしたように顔を上げた。
 ちなみに彼女が食べているクレープはイチゴがメインのようだ。生クリームの中に、カットされたイチゴがたくさん入っている。あれもとてもおいしそう。

「……でも変な話だよね、通りがかりの魔女にアドバイスを求めるなんて」
「ですよね……」
「あなたには……あー、そういえば、お名前なに?」
「あ、私はカルラと言います」
「カルラちゃんかー。私はリリア、よろしくね」

 思えば自己紹介すらまだだったので、私たちは軽く握手を交わした。
 カルラちゃんは三つ編みで、可愛いけどちょっと内気そうな雰囲気だ。

「それで、カルラちゃんにはお師匠様とかいないの?」
「いえ、いるにはいるんですけど……」

 どことなく困ったような顔で小首を傾げるカルラちゃん。

「実は弟子入りしてすぐに、まずは一か月ほど実際に魔女として活動してみろと言われまして」
「それでこんなところで占いしてお金稼いでるの? 大変だね」
「あ、でもちゃんと生活費はいただいているんです。なので、占いがうまくいかなくても一か月くらいなら過ごせるんですが……」

 カルラちゃんは全身に力が入ったのか、ぎゅっとクレープを握った。わずかに生クリームがはみ出たが、気にする余裕もないらしい。

「……どうせやるなら、ちゃんとやりたいんです。たまにお客さんが来ても私うまく占えなくて……悔しいんです」
「ふーん、なるほど……」

 カルラちゃんはどうやら占いがうまくできなくて悩んでいるようだ。
 でもそれはしょうがないことだ。いきなりやって上手く行くはずがない。特に魔女の扱う占いは、普通の占いとは少し感覚が違うのだ。

「占いってどんな方法でやってるの?」
「師匠から占い用の品をいただいてるので、それを使っています」

 カルラちゃんは持っていたカバンをごそごそ漁り始める。
 そして中から色とりどりの丸い石とカードを取り出した。

「この石を使った占いと、カードを使った占いをやってるんです」
「ふーん」

 私は色とりどりの石とカードを触って、じっくりと眺めていく。

「石はお客さんに好きなのを投げてもらって、落ちた石の種類と位置で占う石占い。そしてカードの方は伏せてからお客さんに選択させて、その絵柄で占うんでしょ?」
「そうです。もしかしてリリアさんは占いに詳しい魔女さんなんですか?」
「ううん、私は魔法薬の方が専門。ただ昔弟子がこんな占いを練習していたなーって思いだしてね」

 私は手に取った石をテーブルの上にころんと投げる。

「カルラちゃんがうまくいかないのは当然だね。これ、占われる対象の魔力が関わってるもん」
「占われる対象の……魔力、ですか?」
「そう。カルラちゃんはまだ分からないだろうけど、基本的に魔女の技能は全部魔力が関わってくるの。魔法薬を調合する時も、自分の魔力を混ぜ込んでいくんだよ」
「へえー……」
「この石もカードも、魔力を込めると……ほら」

 私の持つ石の数々は次々に色を変え、カードは絵柄を変化させていく。この光景は占いというよりも、もはや手品に見えるかもしれない。

「わっ、すごい……」
「私は魔女だから、魔力を調整して自在に色や絵柄を変えられるけどね、一般の人の場合はその時の調子によって魔力の波長が変わるの。つまりこれは、相手の魔力の波長をとらえるグッズってわけ」
「これってそういう物だったんですか……」
「で、これらは相手の魔力が必要になる占いなんだけど、訓練してない一般人だと魔力の波長が弱いんだよ。だから、こっちの魔力をまずはこの石やカードに込めて、相手の魔力をより感じ取れるように調整する必要があるの」

 そこまで言って、私はカルラちゃんの師匠はスパルタだな、と思った。
 こんな占い、魔女見習いの子がいきなりできるはずがないのだから。

「魔力を扱えないとただの石とカードでしかないから、出る絵柄とかはランダム。つまり適当な占いにしかならないってこと」
「ええー……そんなぁ。私まだ魔力なんて扱えませんよ」
「だろうね。自分の魔力を感じ取る修行だけでも半年くらいかかるよ普通」

 だというのに、いきなり実践させるなんて……なんというかまあ、厳しい師匠のようだ。
 カルラちゃんは自分の師匠の意地悪さに気づいて半泣きになっていた。

「おそらくカルラちゃんのお師匠さんは、魔女の修行は簡単にいかないぞって教えたかったんじゃないかな? それか実際の場で魔力を感じ取れるか期待してたのかも。まあ悪気があってのことじゃないと思うよ」

 カルラちゃんを慰めるように言うが、私もちょっとこのやり方は強引だなって思ってたりする。せめて一言くらい説明するべきだろう。

「うぅ……イヴァンナ師匠ひどいですよぉ」
「え……イヴァンナ?」

 聞いたことのある名を聞いて、私の頬がひくっと動いた。

「イヴァンナって、まさかイヴァンナ・リベル?」
「え? は、はい、そうです……リリアさん、イヴァンナ師匠のことを知ってるんですか?」
「……多分それ、私の一番弟子じゃないかな」
「ええっ!?」

 なんていうことだ……世間は狭い。
 まさか独り立ちしたイヴァンナの弟子と、偶然こんなところで出会うなんて。
 いや、それよりも驚きなのは、もうイヴァンナが弟子を取っていることだ。確かにあの子は飲みこみも良かったし、独り立ちして大分立つからそれくらいの魔女にはなっているかもしれない。
 でも……なんだろう、元弟子がもう弟子を取っているというのは、ちょっとしっくりこない。

「イヴァンナの奴……弟子にはもうちょっと優しくすればいいのに」

 むぅ、と唸る。でも、これはなかなかあの子らしいやり方だと思った。
 とりあえず弟子にやらせて、そして今度は自分がやってみせて、最後にやり方を教える……という感じなのだろう。天才肌のイヴァンナらしい指導方法だ。
 でも、何の説明もなしにやらせるのは、やっぱりちょっとひどい。

「ねえカルラちゃん、とりあえず明日になったらイヴァンナのところに戻りなよ」
「え……いいんですかね?」
「イヴァンナの師匠の私が良いって言ってるからいいのいいの。それで、魔力が使えない状態でこんな占いできるわけないって言っちゃえ」
「え、ええー……そんなこと言ったら怒られそうですけど」
「多分大丈夫だよ。おそらくイヴァンナはそれに気づいて欲しかったと思うから」

 魔力を扱えなければ魔女としてやっていけない。イヴァンナは自分の弟子にまずはそのことを気づかせたかったのだろう。多分。

「だから占いはもうこれでお終い。それでさ……」

 私はイタズラな笑みを浮かべて、カルラちゃんに身を寄せた。

「……イヴァンナの面白い話、聞きたくない?」
「し、師匠の面白い話……ですか?」
「そうそう。カルラちゃんの知っているイヴァンナって、多分師匠としての姿でしょ? 私の弟子としてのイヴァンナがどんな子だったのか、知りたくない?」

 カルラちゃんはなにを想像しているのだろう、私の言葉を聞いて思案するように俯く。
 そして顔をあげた時には、その表情は好奇心に染まっていた。

「興味は……あります」

 私とカルラちゃんは、しばし見つめ合って、すぐに笑いあった。
 よし、この機会にカルラちゃんにイヴァンナのあることないことを教えてしまおう。
 まだ魔女見習いの弟子に無茶させた罰だ。というのは建前で、カルラちゃんにイヴァンナのことを色々話したいだけだったりする。

 久しぶりにイヴァンナのことを思いだしたせいで、色々と思い出が蘇ってきてしまったのだ。
 しかし、自分の弟子が偶然自分の師に会ったと後で知ったら、イヴァンナもびっくりするだろうな。

 ……そして、私とカルラちゃんは夜になるまでお話をした。
 イヴァンナのことだけじゃなく、私の魔女としての知識とかそれはもう色々と。
 当然クレープ一個では話の供にはならなかったので、私たちは話しながらクレープを食べては新しく買い、食べては買いを繰り返した。
 チョコと生クリームのクレープ以外に、イチゴと生クリーム、バナナとアイス、ブルーベリーとヨーグルトのクレープとか、とにかく食べに食べまくった。

 カルラちゃんも食べていたイチゴと生クリームは当然のようにおいしかったし、バナナとアイスのクレープはバナナの強い匂いがバニラアイスでうまく中和されて、これもやはりおいしかった。
 ブルーベリーとヨーグルトのクレープは、甘酸っぱさがとても良いアクセントとなっていて最高の一言だ。

 結果、カルラちゃんとお話を終えて解散した頃には、もうお腹いっぱいになっていた。
 カルラちゃんといっぱいお話もできたし、お腹もいっぱいだしで、もう大満足。
 さすがにここから夕飯を食べる気にはならないので、私は大人しく宿に帰ることにした。

 空は暗くなっているが、私の心は偶然の出会いと蘇った思い出によって晴れ晴れとしている。
 一番弟子のイヴァンナ。二番弟子のエメラルダ。そして最近巣立った三番弟子リネット。
 三人とも、元気でやっているのだろうか。夜空を見上げて、そんなことを思った。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...