57 / 185
57話、ペペロンチーノと妖精のダンス
しおりを挟む
イルミネーションツリーをぼけっと眺めていたら、すっかり夜になってしまっていた。辺りは濃い闇に包まれ、その中でイルミネーションツリーが眩く発光している。
ここから町まではもう目と鼻の先だが、すっかり夜になってしまった今、初めて訪れる町で宿を探すとどれほどの時間がかかるか分からない。
ということで私は野宿をすることに決めた。幸い町のすぐ近くなので地形はなだらか。明日の朝まで過ごすのに特に問題は無いだろう。
イルミネーションツリーがある公園から離れ、また街道へとやってきた私は、野宿の場所を探すためそこから少し街道を外れて歩いてみた。
すると、こんな濃い闇の中でも分かるくらい、一面の花畑に出くわす。町の近くだからか、こういった景観もあるようだ。
ここはもう寒い気候の地域にさしかかっているが、当然花にも寒さに強い品種がある。この花畑で生えているのはそういった草花たちだろう。
しゃがみこんで花びらをつぶさに観察する。どうやらここら一帯で生えている花は、プリムラのようだ。
プリムラはかなり多くの種類があり、花びらの色数も多い。夜闇の中でも白や赤、黄色に青など、様々な色合いが見て取れる。
「すごい、こんな場所もあるのねっ」
ライラは妖精だけあって花が好きなのだろうか、花々の上を嬉しそうに舞い飛んでいた。
辺りを見回すが、ここには人が全くいなかった。すぐ近くにイルミネーションツリーがあるから、ここは隠れた名所になっているのかもしれない。
そもそも夜に花畑を見に来る人もいないだろうし、昼は花畑、夜はイルミネーションツリーがこの近くの町の観光地となっているのかも。
月明かりもあまり無い濃い夜の中、この花畑は妙な哀愁と美しさをかもしだしている。
ライラも喜んでいるし、花畑を見て楽しいのは私も一緒だし、ここで野宿をするとしよう。
花畑の隅っこ、ちょうど花が生える場所との境界線に座った私は鞄をおろし、ひとまず夕食の準備に取り掛かることにした。
明日の朝にはすぐ近くの町に行くつもりなので、今日の夕食は軽めがいいだろう。と言っても野宿の際の夕食はいつも簡単なものだけど。
鞄をあさってミルライクの町を出る際に買っておいた食材を見た私は、夕食のメニューを決めた。
今日はパスタにしよう。ちょうど作ってみたい物があったし。
そう決めた私は、さっそく魔術で火を起こした。もちろん花畑から少し離れて、燃え移る草花がほとんどない所でだ。そもそも魔術による火なので、周囲に燃え移らないようにコントロールできるけど……注意しないに越したことは無い。
まずは調理用ケトルに水を入れ、テレキネシスで火の上に固定しお湯を沸かす。お湯が沸いたら乾燥パスタを入れて茹でていく。この時そのままだと入りきらなかったので、半分に折ってみた。まあ、折っても大丈夫だろう、多分。
そしてパスタが茹で上がるまでに七分か八分ほど。この間に、パスタ用の調味液を作ろう。
小瓶を用意し、蓋を開けておく。この小瓶はミルライクで買っておいた調理器具の一つだ。
そしてその小瓶にオリーブオイルを入れ、更にその中に細かく刻んである乾燥玉ねぎと乾燥ガーリックを入れていく。この乾燥玉ねぎとガーリックは、以前訪れた町で買っていた調理用セットの残りだ。今回これで全部使い切ってしまう。
見事小瓶にオリーブオイルと乾燥玉ねぎ、ガーリックが入ったが、これで終わりじゃない。
次に私は鞄から小さなまな板と小型ナイフ、赤唐辛子一本と乾燥ベーコン一切れを取り出した。
まな板に赤唐辛子と乾燥ベーコンを並べ、小型ナイフで適当な小ささにカットしていく。必要以上に細かくはしない。面倒だもん。
私は魔術で食材を大雑把に切ることができるので、しっかりとした包丁はもっていない。だけど、チーズを削ったりとかそういう細かい作業のために小型ナイフはもっていた。
やろうと思えば食材をテレキネシスで空中に固定し、風の刃を渦上にして切り刻む、という芸当もできるだろうけど……そういう細かい魔術の調整は中々大変なのだ。そこまでくるとこうやってナイフを使う方が楽だと思う。
それにこうして物を使って食材を切っていると、何だか料理をしている感が出る。それはきっと、私が料理初心者だからそう感じるのだろう。料理慣れてる人はこういうのにこだわらなそうだもん。
とにかく、赤唐辛子とベーコンを小さく切った後は、また小瓶に詰めていく。すると小瓶の中はオリーブオイルで満たされ、その中に玉ねぎ、ガーリック、赤唐辛子にベーコンが沈んでいた。
これでパスタ用調味液の完成だ。パスタを茹でた後この調味液を熱して絡めれば、ペペロンチーノ風パスタが出来上がるはずである。
これは調味液というよりも、パスタソースと言うべきかもしれない。でもこれをパンにつけて食べてもおいしいだろうから、何もパスタだけに用途は限られないか。
折よくパスタも茹で上がり、一端取り皿にパスタをうつし、中のお湯は捨てる。
そして空いた調理用ケトルに先ほど作った調味液を適量入れ、熱していく。ケトル自体がもう十分に温まっていたからか、中に残った水分と温まるオリーブオイルがすぐに反応し、パチパチと音がなっていた。
同時に香ばしい匂いも漂ってくる。調味液に入れた食材はどれもそのまま食べられる物だが、熱したことでより味を深めているのかもしれない。
その匂いに惹かれたのか、花畑を見て回っていたライラが戻ってきた。
「おいしそうな匂い……お腹空いちゃったわ」
「もうすぐできるよ」
ライラは私の魔女帽子のつばにちょこんと座り、料理を待ち始めた。
私自身すぐできると言った通り、あとは熱した調味液にパスタを戻して絡めれば完成だ。
まだ茹で汁を少し纏っているパスタを入れると、更にパチパチと水分がはねていく。
「あっ、あつっ、危なっ」
料理初心者の私からすれば油はねはかなり恐ろしい。ちゃんと水分を切っておくべきだった。
しかしそう後悔しても、もう遅い。私は油はねするケトルから離れ、テレキネシスで思いっきり左右に揺らして強引にパスタと調味液を絡めていった。
ある程度絡んだろうと当たりをつけ、ケトルを火から放す。そして取り皿にパスタを盛った。
ほかほかと湯気が上がるパスタからは、同時に香ばしいオリーブオイルの匂いが漂ってくる。
「結構うまくできたんじゃないかな」
調味液自体が変な仕上がりになっていることは無いだろうし、味はちゃんとしているはずだ。
ライラと一緒に、熱々のパスタを口に運んでみる。出来立てなのでとても熱いが、ガーリックの風味に赤唐辛子の辛さ、ベーコンの香ばしさが感じられ、ちゃんとペペロンチーノ風になっていた。
これはおいしい。自分で作ったから採点は甘目だけど、ピリっとくる辛さのおかげで次々口に運びたくなるおいしさだ。
辛くて香ばしくて、でもオリーブオイルの柔らかな風味もちゃんとあって。それがしっかりパスタに絡んでいるのだから、おいしくない訳がなかった。
この調味液、乾燥玉ねぎやベーコンも入っているから、色んな食材に絡めるだけで一品料理が完成するんじゃないだろうか。我ながら、野外料理で色々活用できそうな良い物を作ったものだ。なんて自分を褒めてしまう。
私とライラはあっという間にパスタを食べ終えてしまう。食後のお茶を淹れるべく再度お湯を沸かしながら一息ついた。
「今日のは明らかにおいしかったわよ、リリア。前のビスケットとは違って、すごく料理してるって感じだったわ」
「でしょ。自分でも驚いている。やっぱり意外に料理の才能があるのかな私」
「それはないと思うわ」
ばっさりと切り捨てられ、私は苦笑を返した。
今回は紅茶でなくハーブティーを淹れることにした。ハーブは、リラックス効果のある匂いが特徴的なラベンダーだ。食後のなごりにぴったりだろう。
ラベンダーはその紫色の花びらが特徴的だが、市販のラベンダーティーだと色抜きをしていて薄黄色をしていることが多い。でも今回は私が摘んで乾燥させていたラベンダーの花びらをそのまま使ったので、鮮やかな薄紫色をしている。色の濃さが違うが、いつぞやのリリスのハーブティーっぽい見た目だ。
でも当たり前だが匂いは全然違う。リリスの花で作ったハーブティーは変な匂いがしたが、ラベンダーは落ち着くいい香りがする。
しかし飲んでみると……味はそんなに大差なかったり。でもリリスの時より苦みも渋みも少ないので、まだ飲みやすい。やっぱり匂いがメインかな、この手のお手製ハーブティーは。
「こういうお茶もいいわね。私は好きよ」
ライラは以前リリスのハーブティーを喜んでいたので、ラベンダーティーも結構好きなようだ。もしかして花で抽出してたら何でも喜ぶんじゃないかこの子。妖精って花が好きだろうし。
「ん……? なんだろう、あれ」
ラベンダーティーを飲みながら夜の花畑を眺めて目と鼻を楽しませていると、花畑の一角がほのかに発光しているのに気付く。
まさかイルミネーションツリーのように花畑もライトアップされるのだろうかと思って目を凝らしたら、そこには妖精が数人舞い飛んでいた。
淡い光を放つ妖精三人ほどが、花畑の一角の上でくるくると舞い飛んでいる。驚いてそれを見ていたら、どこからか次々と妖精たちが集ってきていた。
数人が十数人になり、更に数を増し数十人に。小さな妖精がこの広い花畑に突然集まりだして、楽しげにダンスをしていた。
「……ライラ、何あれ。妖精がいっぱい集まってるんだけど」
「珍しいものを見られたわね、リリア。あれはダンスパーティーよ。妖精はたまに、素敵な花畑に集って踊り合うの」
なるほど、ダンスパーティーか。確かに花畑の上で舞う妖精たちは互いに息を合わせてダンスのセッションをしているように見える。
一人がくるりと輪を描くように回れば、もう一人がその輪の中を進み、その二人が向かい合って片手を合わせてくるくる回りだす。
同時に舞い合う妖精たちは数を増し、数十人規模に及ぶ複雑なダンスを繰り広げていた。
花畑で繰り広げられる幻想に、魔女の私もさすがに驚いて見守るしかない。
「……もしかしてあの中にライラの友達とかいるんじゃない?」
妖精に友達という概念があるのか分からないけど、私は聞いてみた。
「どうかしら? 見知った子は結構いるけど」
さすがに数十人もの妖精の群れから友達がいるか探すのは難しかったのだろう、ライラは首を傾げてダンスパーティーを見やる。
ライラはしかし、突然思いついたとばかりに目を見開き、私を真っ直ぐ見つめた。
「そういえばリリアって魔女のお友達はいるの? 弟子以外で」
私がライラに妖精の友達がいるのか疑問を持ったように、彼女もその疑問を思いついたようだ。
ふと、私の脳裏にとある二人の顔が浮かぶ。
「魔女の友達か……うーん、一応いるかな」
「なんだかあいまいな言い方ね」
「友達っていうか……幼馴染が二人いるんだよね。子供の頃からの付き合いだし、友達って言うのがむしろしっくりこないかも」
そういえば、あの二人は今どうしているのだろうか。急に旅を始めたせいもあって、連絡を取る機会は無かった。そもそも私もそうだが、皆魔女として立派にやっていっているから、簡単に会えたりはしない。最後に会ったのは数年前くらいだろうか。
「……ライラ、せっかくだから一緒に踊ってきたら? 友達いるかもしれないんでしょ?」
「え? ええ、そうね。偶然居合わせただけとはいえ、挨拶するのもレディのたしなみかしら」
ライラは赤い髪をなびかせながら羽ばたき、妖精たちの集いに向かう。だが、その途中ではたと振り向いた。
「リリアは行かないの?」
「いいよ、妖精ってあれで警戒心強いから、びっくりさせるかもしれないし。ここで見てる」
「ふーん、別に大丈夫だと思うけどね、リリアなら」
ライラは気を取り直して妖精たちの輪へ入っていった。たくさんの妖精の中、ライラの姿はすぐに見失ってしまう。だけど、光の渦の中でライラは友達と一緒にダンスしているのだろう。
花畑で繰り広げられる妖精たちのダンスパーティー。それを見ながら、私は幼馴染二人の顔を思い出していた。
ここから町まではもう目と鼻の先だが、すっかり夜になってしまった今、初めて訪れる町で宿を探すとどれほどの時間がかかるか分からない。
ということで私は野宿をすることに決めた。幸い町のすぐ近くなので地形はなだらか。明日の朝まで過ごすのに特に問題は無いだろう。
イルミネーションツリーがある公園から離れ、また街道へとやってきた私は、野宿の場所を探すためそこから少し街道を外れて歩いてみた。
すると、こんな濃い闇の中でも分かるくらい、一面の花畑に出くわす。町の近くだからか、こういった景観もあるようだ。
ここはもう寒い気候の地域にさしかかっているが、当然花にも寒さに強い品種がある。この花畑で生えているのはそういった草花たちだろう。
しゃがみこんで花びらをつぶさに観察する。どうやらここら一帯で生えている花は、プリムラのようだ。
プリムラはかなり多くの種類があり、花びらの色数も多い。夜闇の中でも白や赤、黄色に青など、様々な色合いが見て取れる。
「すごい、こんな場所もあるのねっ」
ライラは妖精だけあって花が好きなのだろうか、花々の上を嬉しそうに舞い飛んでいた。
辺りを見回すが、ここには人が全くいなかった。すぐ近くにイルミネーションツリーがあるから、ここは隠れた名所になっているのかもしれない。
そもそも夜に花畑を見に来る人もいないだろうし、昼は花畑、夜はイルミネーションツリーがこの近くの町の観光地となっているのかも。
月明かりもあまり無い濃い夜の中、この花畑は妙な哀愁と美しさをかもしだしている。
ライラも喜んでいるし、花畑を見て楽しいのは私も一緒だし、ここで野宿をするとしよう。
花畑の隅っこ、ちょうど花が生える場所との境界線に座った私は鞄をおろし、ひとまず夕食の準備に取り掛かることにした。
明日の朝にはすぐ近くの町に行くつもりなので、今日の夕食は軽めがいいだろう。と言っても野宿の際の夕食はいつも簡単なものだけど。
鞄をあさってミルライクの町を出る際に買っておいた食材を見た私は、夕食のメニューを決めた。
今日はパスタにしよう。ちょうど作ってみたい物があったし。
そう決めた私は、さっそく魔術で火を起こした。もちろん花畑から少し離れて、燃え移る草花がほとんどない所でだ。そもそも魔術による火なので、周囲に燃え移らないようにコントロールできるけど……注意しないに越したことは無い。
まずは調理用ケトルに水を入れ、テレキネシスで火の上に固定しお湯を沸かす。お湯が沸いたら乾燥パスタを入れて茹でていく。この時そのままだと入りきらなかったので、半分に折ってみた。まあ、折っても大丈夫だろう、多分。
そしてパスタが茹で上がるまでに七分か八分ほど。この間に、パスタ用の調味液を作ろう。
小瓶を用意し、蓋を開けておく。この小瓶はミルライクで買っておいた調理器具の一つだ。
そしてその小瓶にオリーブオイルを入れ、更にその中に細かく刻んである乾燥玉ねぎと乾燥ガーリックを入れていく。この乾燥玉ねぎとガーリックは、以前訪れた町で買っていた調理用セットの残りだ。今回これで全部使い切ってしまう。
見事小瓶にオリーブオイルと乾燥玉ねぎ、ガーリックが入ったが、これで終わりじゃない。
次に私は鞄から小さなまな板と小型ナイフ、赤唐辛子一本と乾燥ベーコン一切れを取り出した。
まな板に赤唐辛子と乾燥ベーコンを並べ、小型ナイフで適当な小ささにカットしていく。必要以上に細かくはしない。面倒だもん。
私は魔術で食材を大雑把に切ることができるので、しっかりとした包丁はもっていない。だけど、チーズを削ったりとかそういう細かい作業のために小型ナイフはもっていた。
やろうと思えば食材をテレキネシスで空中に固定し、風の刃を渦上にして切り刻む、という芸当もできるだろうけど……そういう細かい魔術の調整は中々大変なのだ。そこまでくるとこうやってナイフを使う方が楽だと思う。
それにこうして物を使って食材を切っていると、何だか料理をしている感が出る。それはきっと、私が料理初心者だからそう感じるのだろう。料理慣れてる人はこういうのにこだわらなそうだもん。
とにかく、赤唐辛子とベーコンを小さく切った後は、また小瓶に詰めていく。すると小瓶の中はオリーブオイルで満たされ、その中に玉ねぎ、ガーリック、赤唐辛子にベーコンが沈んでいた。
これでパスタ用調味液の完成だ。パスタを茹でた後この調味液を熱して絡めれば、ペペロンチーノ風パスタが出来上がるはずである。
これは調味液というよりも、パスタソースと言うべきかもしれない。でもこれをパンにつけて食べてもおいしいだろうから、何もパスタだけに用途は限られないか。
折よくパスタも茹で上がり、一端取り皿にパスタをうつし、中のお湯は捨てる。
そして空いた調理用ケトルに先ほど作った調味液を適量入れ、熱していく。ケトル自体がもう十分に温まっていたからか、中に残った水分と温まるオリーブオイルがすぐに反応し、パチパチと音がなっていた。
同時に香ばしい匂いも漂ってくる。調味液に入れた食材はどれもそのまま食べられる物だが、熱したことでより味を深めているのかもしれない。
その匂いに惹かれたのか、花畑を見て回っていたライラが戻ってきた。
「おいしそうな匂い……お腹空いちゃったわ」
「もうすぐできるよ」
ライラは私の魔女帽子のつばにちょこんと座り、料理を待ち始めた。
私自身すぐできると言った通り、あとは熱した調味液にパスタを戻して絡めれば完成だ。
まだ茹で汁を少し纏っているパスタを入れると、更にパチパチと水分がはねていく。
「あっ、あつっ、危なっ」
料理初心者の私からすれば油はねはかなり恐ろしい。ちゃんと水分を切っておくべきだった。
しかしそう後悔しても、もう遅い。私は油はねするケトルから離れ、テレキネシスで思いっきり左右に揺らして強引にパスタと調味液を絡めていった。
ある程度絡んだろうと当たりをつけ、ケトルを火から放す。そして取り皿にパスタを盛った。
ほかほかと湯気が上がるパスタからは、同時に香ばしいオリーブオイルの匂いが漂ってくる。
「結構うまくできたんじゃないかな」
調味液自体が変な仕上がりになっていることは無いだろうし、味はちゃんとしているはずだ。
ライラと一緒に、熱々のパスタを口に運んでみる。出来立てなのでとても熱いが、ガーリックの風味に赤唐辛子の辛さ、ベーコンの香ばしさが感じられ、ちゃんとペペロンチーノ風になっていた。
これはおいしい。自分で作ったから採点は甘目だけど、ピリっとくる辛さのおかげで次々口に運びたくなるおいしさだ。
辛くて香ばしくて、でもオリーブオイルの柔らかな風味もちゃんとあって。それがしっかりパスタに絡んでいるのだから、おいしくない訳がなかった。
この調味液、乾燥玉ねぎやベーコンも入っているから、色んな食材に絡めるだけで一品料理が完成するんじゃないだろうか。我ながら、野外料理で色々活用できそうな良い物を作ったものだ。なんて自分を褒めてしまう。
私とライラはあっという間にパスタを食べ終えてしまう。食後のお茶を淹れるべく再度お湯を沸かしながら一息ついた。
「今日のは明らかにおいしかったわよ、リリア。前のビスケットとは違って、すごく料理してるって感じだったわ」
「でしょ。自分でも驚いている。やっぱり意外に料理の才能があるのかな私」
「それはないと思うわ」
ばっさりと切り捨てられ、私は苦笑を返した。
今回は紅茶でなくハーブティーを淹れることにした。ハーブは、リラックス効果のある匂いが特徴的なラベンダーだ。食後のなごりにぴったりだろう。
ラベンダーはその紫色の花びらが特徴的だが、市販のラベンダーティーだと色抜きをしていて薄黄色をしていることが多い。でも今回は私が摘んで乾燥させていたラベンダーの花びらをそのまま使ったので、鮮やかな薄紫色をしている。色の濃さが違うが、いつぞやのリリスのハーブティーっぽい見た目だ。
でも当たり前だが匂いは全然違う。リリスの花で作ったハーブティーは変な匂いがしたが、ラベンダーは落ち着くいい香りがする。
しかし飲んでみると……味はそんなに大差なかったり。でもリリスの時より苦みも渋みも少ないので、まだ飲みやすい。やっぱり匂いがメインかな、この手のお手製ハーブティーは。
「こういうお茶もいいわね。私は好きよ」
ライラは以前リリスのハーブティーを喜んでいたので、ラベンダーティーも結構好きなようだ。もしかして花で抽出してたら何でも喜ぶんじゃないかこの子。妖精って花が好きだろうし。
「ん……? なんだろう、あれ」
ラベンダーティーを飲みながら夜の花畑を眺めて目と鼻を楽しませていると、花畑の一角がほのかに発光しているのに気付く。
まさかイルミネーションツリーのように花畑もライトアップされるのだろうかと思って目を凝らしたら、そこには妖精が数人舞い飛んでいた。
淡い光を放つ妖精三人ほどが、花畑の一角の上でくるくると舞い飛んでいる。驚いてそれを見ていたら、どこからか次々と妖精たちが集ってきていた。
数人が十数人になり、更に数を増し数十人に。小さな妖精がこの広い花畑に突然集まりだして、楽しげにダンスをしていた。
「……ライラ、何あれ。妖精がいっぱい集まってるんだけど」
「珍しいものを見られたわね、リリア。あれはダンスパーティーよ。妖精はたまに、素敵な花畑に集って踊り合うの」
なるほど、ダンスパーティーか。確かに花畑の上で舞う妖精たちは互いに息を合わせてダンスのセッションをしているように見える。
一人がくるりと輪を描くように回れば、もう一人がその輪の中を進み、その二人が向かい合って片手を合わせてくるくる回りだす。
同時に舞い合う妖精たちは数を増し、数十人規模に及ぶ複雑なダンスを繰り広げていた。
花畑で繰り広げられる幻想に、魔女の私もさすがに驚いて見守るしかない。
「……もしかしてあの中にライラの友達とかいるんじゃない?」
妖精に友達という概念があるのか分からないけど、私は聞いてみた。
「どうかしら? 見知った子は結構いるけど」
さすがに数十人もの妖精の群れから友達がいるか探すのは難しかったのだろう、ライラは首を傾げてダンスパーティーを見やる。
ライラはしかし、突然思いついたとばかりに目を見開き、私を真っ直ぐ見つめた。
「そういえばリリアって魔女のお友達はいるの? 弟子以外で」
私がライラに妖精の友達がいるのか疑問を持ったように、彼女もその疑問を思いついたようだ。
ふと、私の脳裏にとある二人の顔が浮かぶ。
「魔女の友達か……うーん、一応いるかな」
「なんだかあいまいな言い方ね」
「友達っていうか……幼馴染が二人いるんだよね。子供の頃からの付き合いだし、友達って言うのがむしろしっくりこないかも」
そういえば、あの二人は今どうしているのだろうか。急に旅を始めたせいもあって、連絡を取る機会は無かった。そもそも私もそうだが、皆魔女として立派にやっていっているから、簡単に会えたりはしない。最後に会ったのは数年前くらいだろうか。
「……ライラ、せっかくだから一緒に踊ってきたら? 友達いるかもしれないんでしょ?」
「え? ええ、そうね。偶然居合わせただけとはいえ、挨拶するのもレディのたしなみかしら」
ライラは赤い髪をなびかせながら羽ばたき、妖精たちの集いに向かう。だが、その途中ではたと振り向いた。
「リリアは行かないの?」
「いいよ、妖精ってあれで警戒心強いから、びっくりさせるかもしれないし。ここで見てる」
「ふーん、別に大丈夫だと思うけどね、リリアなら」
ライラは気を取り直して妖精たちの輪へ入っていった。たくさんの妖精の中、ライラの姿はすぐに見失ってしまう。だけど、光の渦の中でライラは友達と一緒にダンスしているのだろう。
花畑で繰り広げられる妖精たちのダンスパーティー。それを見ながら、私は幼馴染二人の顔を思い出していた。
0
あなたにおすすめの小説
俺とエルフとお猫様 ~現代と異世界を行き来できる俺は、現代道具で異世界をもふもふネコと無双する!~
八神 凪
ファンタジー
義理の両親が亡くなり、財産を受け継いだ永村 住考(えいむら すみたか)
平凡な会社員だった彼は、財産を譲り受けた際にアパート経営を継ぐため会社を辞めた。
明日から自由な時間をどう過ごすか考え、犬を飼おうと考えていた矢先に、命を終えた猫と子ネコを発見する。
その日の夜、飛び起きるほどの大地震が起こるも町は平和そのものであった。
しかし、彼の家の裏庭がとんでもないことになる――
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる