魔女リリアの旅ごはん

アーチ

文字の大きさ
150 / 185

150話、お菓子の食べ歩き

しおりを挟む
 ベルストの町二日目は、市場を物色しつつお菓子の食べ歩きをする事となった。
 もともとはベアトリスがお菓子を買いたいと言いだしたのが切っ掛けだったのだが、この町のお菓子はとにかく凝っている物が多い。

 その為、あまり日持ちしないのが多いのだ。だから今買い置きするよりも、この町を出発前に買った方が良いと私達は早々に理解した。
 そこでここは目的を少し変え、いざ町を出発する時にどんなお菓子を買うか迷わないよう、色々と食べ歩きしながら物色しようとなったのだ。

 ベルストは紅茶とお菓子に力を入れている町だ。だからか、市場にはお菓子売り場がずらっと並ぶ一角があり、そこを歩いているだけでこの町で有名なお菓子はほぼ網羅できる。
 甘い匂いが充満するお菓子市場は、その名もベルストフェアリー。妖精すら寄ってくるベルスト自慢のお菓子という意味合いらしい。

「確かに、この甘い匂いは妖精も大好きよ」

 正真正銘の妖精であるライラは、このお菓子の甘い匂いに酔っているのか、ふわふわふらふら飛び回っていた。
 ライラのこの様子からすると、ベルストフェアリーという名は正鵠を得ているらしい。もっとも、私達意外にライラの姿は見えないので、市場の人々はそれを理解できないだろうけど。

 ベルストフェアリーは大きな一本道の左右に様々なお店が立ち並ぶ。そこでは袋詰めのお菓子の他、作りたての生菓子まで販売していた。
 行き交う人々を見ていると、大体の人が紅茶の入った紙カップ片手に生菓子を購入してはつまんでいた。この町ではどうやらお菓子の食べ歩きが結構な観光スポットのようだ。

 おあつらえ向きに、ほとんどの店では紅茶を販売している。さすがは紅茶とお菓子に力を入れる町。私達も他の人々にならい、紅茶を買って早速ベルストフェアリーを観光する事にした。

「やっぱり生菓子が多いわね。買い置きに向かないお菓子で気になるのがあったら、今のうちに食べないと後悔しそうだわ」

 歩きだして一歩目で足を止めたベアトリスは、台座に並べられた生菓子をしげしげと眺めながらそう言った。
 そこにあったのは小さなカップケーキ。それもただのカップケーキとは少し違っていて、バタークリームがたっぷり乗ったゴージャスな感じ。

 チョコやクッキーなどの袋詰めお菓子もあるにはあるが、やはり人気なのは出来たての生菓子系。
 ベルストフェアリーでは食べ歩きしやすいように一口サイズの物が多く作られている。もちろん持ち帰り用は大きいサイズのお菓子もあった。

 早速私達は一口サイズのバタークリームカップケーキを購入し、食べることに。
 ケーキ部分はチョコケーキで、その上に真っ白なバタークリームが渦を描くように盛られている。紙カップの側面をぺりっと剥がし、豪快に一口で食べてみた。

「んっ、甘っ」

 これはすごい甘さだ。チョコケーキ部分もしっかり甘いが、バタークリームの濃厚な甘さがそれ以上。
 口の中が蕩けてしまいそうなバター感に、目が覚めるような甘さの中、紅茶を一口。ちょっと渋めで香りがすっきりとした紅茶を飲むと、甘さが流れていって口の中に少し苦みが残る。

 こうなってくると、自然とまた甘いお菓子が欲しくなってくる。うーん、この渋くもすっきりした紅茶と甘いお菓子の組み合わせはすごい。延々食べられそう。

「次はあれ食べましょう、あれっ」
「私、あっちのも食べたいわ!」

 ベアトリスとライラもすっかりこの組み合わせの妙にやられたのか、率先してお菓子を見繕いだした。
 そしてそれは私も同じだ。こうなったら、このベルストフェアリーで売られている主要なお菓子を一日でコンプリートする勢いで食べていこう。

 次に食べたのは、ベアトリスが食べたいと主張したスポンジケーキ。
 これもただのスポンジケーキではない。一般にスポンジケーキと言えばふわふわとした生地だが、これはまるでパウンドケーキのようなどっしりした感じ。正式名称はベルストスポンジケーキで、この町名産の独特なスポンジケーキらしい。

 ベルストスポンジケーキは、生地を真横に半分に切り分け、その間にバタークリームとラズベリージャムがたっぷりと入っているのだ。

「ん~~~♪ ラズベリ~~~♪」

 そのスポンジケーキにかぶりついたベアトリスは、満面の笑みだった。うん、絶対ラズベリージャムが入ってたからこれを選んだよね。
 でも、ベアトリスが満面の笑みになったのはラズベリージャムのおかげだけではない。バタークリームの濃厚さに、ラズベリージャムの甘酸っぱさ、そしてしっとりしつつもバター風味が香る甘いスポンジケーキ部分。甘くて甘酸っぱくて、口の中に幸せが満ちていく。そんなお菓子だ。

「リリア、これっ。これが気になるわっ。このプルプルしたやつ」

 ライラが気になっているのは、小さなカップに入ったクリーム色のゼリーみたいなお菓子だ。品名はゼリーではなくババロアとなっている。

「ババロアって、ムースみたいな物だっけ?」

 ベアトリスに聞くと、すぐに返答が帰って来た。

「似ているけど別よ。ムースは泡立てた卵白や生クリームで、ババロアはゼラチンで固めたものよ。プリンとも似ているけど、プリンは卵の性質で固めているの。まあ、どんな成分で固まっているかの違いね」
「へえー」

 こういう時ベアトリスの料理知識が役立つ。そんな細かい違いなんだなぁ。
 疑問が氷解したところで、早速ババロアを頂くことに。
 ベアトリスがプリンに似ていると言った通り、器に入ったミルク色のババロアは確かにプリンのようだ。しかし紙スプーンの先をババロアに投入してみると、その感触が違う。

 プリンは柔らかいが、ババロアはぷるっとした感じ。ちょっとゼリー感がある。ゼラチンで固めているからゼリーに近いのだろう。
 一口ちゅるんとすすってもぐもぐ。
 味は甘いミルク味。生クリームともまた違った感じで、プリンともまた違う。ムースが更に固めになった物って言うのがしっくりくるかも。

「こってりしたゼリーって感じだね。おいしい」

 ムースともプリンとも違ったその食感と味は、結構気に入った。ライラも同じようで、ぷるぷるしたババロアをおいしそうに食べている。

「リリアは食べてみたいのないの?」

 ライラに言われて、そうだなぁと周りを見渡した。
 私が好きなお菓子はクッキーとかスコーンとか結構素朴なやつだ。特にスコーンは好きで、元々紅茶を良く飲む私はスコーンをお供にする事も多い。

 三人目の弟子リネットと共に暮らしていた時は、お手製のスコーンを焼いてもらってたっけ。
 でもスコーンは昨日食べたばっかり。できれば違うのがいいかな。この町特有のって感じのやつ。
 そういう思いでうろうろしていると、なんだか素朴なお菓子を発見できた。

「ショートブレッド……」

 それは長方形のクッキーの塊みたいなお菓子だった。
 ブレッドと言うがパンという感じではない。やっぱり大きなクッキーといった見た目だ。
 この素朴な風情に引かれた私は、早速購入して食べて見ることにした。

 一口噛むと、サクっとした食感。クッキーっぽいけど、クッキーよりは中の生地がしっとりしている。
 サクサクしっとり系で、味はクッキーよりも濃いバター味。クッキーとは明らかに違う、でもパンでもない。スコーンでもなければケーキでもない。

 甘いバター味でどことなく落ち着く不思議な味。色んなお菓子を毎日食べていたら、やっぱり最終的にこの味に落ちついた。そんな雰囲気漂う素朴さだ。
 ベアトリスもライラもショートブレッドをサクサク食べ始める。

「うん、おいしいわねこれ。日持ちもしそうだし、出発前に買うならこれがいいかも」
「そうね。お茶とも合うし、小腹が空いた時につまむのにもよさそうじゃない」

 ベアトリスとライラもわりとこの素朴さに引かれたのか、好感触だ。
 ショートブレッド一本を食べ終えた私は、紅茶をぐびっと飲む。
 そうして口内を洗い流した後息をついた。

「おいしいけどさ……私が惹かれたのだけちょっと地味じゃない?」

 おいしいけど、見た目長方形のただの焼き菓子だ。ベアトリスが惹かれたベルストスポンジケーキはジャムも入っていて色鮮やかだったし、ライラが惹かれたババロアはぷるぷるしてて面白かったのに。
 特に素朴な味に引かれるっていうのが、また弟子達におばあちゃん扱いされそうで嫌というか。

「おいしいから良いじゃない別に。ほらこれ、この町伝統のお菓子で一番人気らしいわよ」

 ベアトリスに言われるも、何だか釈然としない気持ちだった。
 こういう時にもっと魔女感だしたチョイスをするべきだったかもしれない。ベアトリスなんてさりげなくラズベリーアピールしてたしさ……。

 なんて、妙な対抗心を抱く私は、何か面白いお菓子は無いのかと目を光らせて歩きはじめるのだった。
 ……結果からいうと、そんな変なお菓子は無かった。全部普通においしかった……。当たり前だよね。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

俺とエルフとお猫様 ~現代と異世界を行き来できる俺は、現代道具で異世界をもふもふネコと無双する!~

八神 凪
ファンタジー
義理の両親が亡くなり、財産を受け継いだ永村 住考(えいむら すみたか) 平凡な会社員だった彼は、財産を譲り受けた際にアパート経営を継ぐため会社を辞めた。 明日から自由な時間をどう過ごすか考え、犬を飼おうと考えていた矢先に、命を終えた猫と子ネコを発見する。 その日の夜、飛び起きるほどの大地震が起こるも町は平和そのものであった。 しかし、彼の家の裏庭がとんでもないことになる――

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

処理中です...