魔女リリアの旅ごはん

アーチ

文字の大きさ
154 / 185

154話、カカオの村とカカオ料理

しおりを挟む
 お昼過ぎのティータイムを終え、更に歩くこと数時間。日が陰り夕暮れ時を迎え始めた頃、私達の前にはとある村が見えていた。
 この広い平原地帯には大きな川が隣接している。その川沿い近くは自然と多湿な環境となり、様々な植物が自生していた。そのせいで平原というには、やや背が高い植物が密集している。

 私達がやってきたその村は、その背が高い木々の中にひっそりと構えていたのだ。
 村の名前はカカオの村。もう名前から分かるように、特にカカオを産出している村だ。
 しかしこの村で収穫されるカカオは、元々自生していた物らしい。カカオは環境を選ぶ植物で栽培が難しい。そこをこの村は、野生カカオの群集地に村を設ける事で強引に解決したのだろう。

 カカオと言えばチョコ。なのでベルストと同じくお菓子が豊富な村なのかなと思って村の中を観光していたのだが、どうもそんな雰囲気はない。収穫したカカオ豆が開けっ広げな倉庫にごろごろ転がっていたが、チョコを製造する工場的なのはなかった。
 もしかして収穫して出荷するだけで、二次製品は他の町に任せているのでは。そう思って、村人の何人かに尋ねてみる。すると、こんな答えが返って来た。

「ああ、この村ではカカオ豆は料理に使ってるんだよ。チョコとかは作ってないし、あれは邪道だと思うね」

 ……チョコが邪道ってどういう事だろう。カカオ豆ってチョコにしているイメージしかない。
 だがベアトリスは思い当たるふしがあったらしい。

「そういえばカカオ料理って聞いたことあるわね」
「そんなのあるんだ?」
「一応豆だからね。料理の用途としては幅広いと思うわよ」

 チョコのイメージが強いけど、意外と料理でも使うらしい。少なくともこの村ではそっちの方が一般的なようだ。

「この村にお店もあるし、良い時間だから食べていく?」

 ベアトリスの問いかけを聞き、ライラが魔女帽子の上からひょこっと逆さまに顔を出して私の顔を覗いてきた。

「私、カカオ料理興味あるわ。せっかくだから食べていきましょうよ」

 好奇心旺盛なライラの弾んだ声。それに後押しされたという訳ではないが、私は頷きを返した。

「そうだね。私も気になる」

 カカオ料理、どんなのだろう。
 小さな村だが、数軒料理店が並んでいる。そのうちの一つを適当に選び、入店。小さな店内なので、カウンター席しかない。なのでベアトリスと肩を並んで着席した。
 壁にかけられた木札のメニューを眺める。カカオ料理以外にも色々あったが、それに目移りしてはいけない。今日はカカオを食べるのだ。

「カカオと赤ワインの牛肉煮が良さそうね。赤ワイン煮ならベースの味はよく知ってるし、カカオの風味がより味わえそうだわ」
「へえ~……じゃあ私もそれ」
「あとはカカオ豆とレンズ豆のサラダでも頼みましょう。カカオ豆その物を食べられるのが珍しいわ」
「じゃあそれで」

 ぽんぽんとベアトリスが決めていくので、私は完全にそれに乗っかった。お互い別のを頼んでシェアするというのもありだけど、同じのを食べて感想を共有するのも楽しいのだ。あと単純にカカオ料理にピンと来てないので、人任せにしてしまった。
 注文を終えて一息つくと、店内が結構香ばしい匂いなのに気づいた。香ばしくもどことなく嗅いだ事ある匂い。そう、チョコとかココアに似た匂いだ。きっとこれがカカオ豆本来の匂いなのだろう。

 チョコのせいで甘いイメージがあったが、考えればチョコは砂糖をたくさん入れているはず。現に糖分を抑えてカカオ成分を前に出した、ほろ苦いチョコも結構あるのだ。
 そう考えると、料理には色々と使いやすいのかもしれない。結構期待が持てそうだ。
 そうして待っていると、まずはカカオ豆とレンズ豆のサラダが出てきた。大きな皿にたっぷりと入っていて、小皿が二つ。もともと複数人で取り分ける前提の料理らしい。

 ライラとは同じ皿で食べればいいかと思ったので、追加の小皿は頼まなかった。
 カカオ豆とレンズ豆のサラダは、まさに豆尽くし。他に余計な野菜は入ってない。カカオ豆はなんだか周りに白いゼラチンのような物が付着していて、豆というより植物の果肉のように見えた。

 小皿に取り分けて早速一口。カカオ豆は、見た目通り柔らかい食感だ。やっぱり果肉に近い。多分種に果肉が付着しているのをそのまま出しているのだろう。味は結構素朴。やや苦みがあるが、カカオの匂いが香って風味良し。レンズ豆がぽりぽりした食感でバランスも良い。

「うん、カカオ豆結構おいしい」
「そうね、独特な味と食感で面白いわ」

 私とベアトリスが食べていると、ライラも惹かれたのか近寄ってきて一口食べた。もぐもぐ咀嚼してごっくん。そして一言。

「チョコとは全然違うのね」

 そう、チョコとは全然違う。なんていうか、この豆から大分加工してチョコになるんだなっていうのが分かる。
 カカオ豆のサラダをもしゃもしゃ食べていると、メインであるカカオと赤ワインの牛肉煮がやってきた。私とベアトリスの前に置かれた皿を前にして、思わず呟く。

「……黒っ」

 カカオと赤ワインの牛肉煮は、見た目まっ黒。お皿の真ん中に鎮座した牛肉の塊の上に、溶かしたチョコみたいに黒いソースがかかっている。
 そして香りはカカオの独特な匂い。はっきり言うとチョコ系の匂いだ。

 見た目もそうだが、匂いも相まってチョコレートを牛肉にかけているかのように見えた。そのせいですごく甘そうな料理に感じられる。
 ちょっと恐る恐るナイフで切り分け、一口大の牛肉を食べてみた。

「……ああ~、なるほど」

 自分で言っていて、何がなるほどなのか。思ってたよりは甘く感じない。でもほのかに甘さは感じられて、カカオの香ばしいほろ苦さもある。牛肉は柔らかく、噛むと繊維がほどけて旨みが溶け出すような感じ。
 確かにこれはカカオだ。カカオ料理だ。
 私と同じく一口食べたベアトリスは、うんうんと頷いていた。

「初めての味だけどおいしいわね。甘く感じられるのは赤ワインのせいかしら? カカオ自体が香ばしいから、煮られているのにローストしたような風味があるわ」

 ……食通の意見かな?
 確かにカカオと赤ワインの牛肉煮はおいしい。だけど、単体で完結してしまっているというか、完成度が高すぎるというか。
 パンと合うとは思えないし、ごはんと合うとも思えない。付け合わせなんて必要ない。単体で完結した完成度の高級料理。そんな印象だ。

 逆にこの村でのカカオ豆を使った家庭料理はどんな物なんだろう。やっぱりそっちが気になってしまう私だった。
 ちなみに、この料理を食べたライラはと言うと。

「……おいしいけど、なんだかチョコっぽいけどチョコじゃない味で、頭が混乱するわ」

 との事だった。
 ……それだ。私も何だか違和感あったけど、匂いのせいでチョコに引きずられて実際の味との差異で驚いてしまう。
 料理って、意外と先入観によって感じ取る味が変わってしまうのかもしれない。そう考えると、このカカオと赤ワインの牛肉煮は面白い料理だった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...