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156話、ウィッチカジノと七面鳥のロースト
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町中に特殊な外灯が設置され、日夜煌びやかな光が耐えない町、オラクル。
その町は歓楽街が特に栄えていて、中でも有名なのがウィッチカジノと呼ばれるアミューズメント施設だ。
名称にカジノと付いているが、賭け事をしているわけではない。
現金で特殊なコインを購入し、そのコインを使って遊ぶという趣旨の健全な施設だ。
そしてウィッチという名が示すように、このカジノのオーナーは魔女なのだ。
その魔女は魔術を使った様々な娯楽遊戯を開発したらしく、それを利用してこのウィッチカジノを開催しているという話だ。
私の幼馴染モニカはショー用に作られた魔術を扱ってマジックショーを行っているが、それに近いのだろう。
そしてこのオラクルという町に来た私達は、早速このウィッチカジノとやらに足を運んでいたのだ。
カジノでは、まず出入り口に受け付けがあり、そこで特殊なコイン、その名もウィッチコインを購入する。
このコインにも魔術がかけられており、このカジノ内にある器具に投入する事で魔術が発動し、遊ぶ事ができるようだ。
……中々とんでもない魔術の活用法だ。
魔女には伝統を重んじる派閥と魔女としての新しい生き方を推奨する派閥があるが、このウィッチカジノを作った魔女は確実に後者だろう。
魔法薬を作る私は広義の見方をすれば伝統派。
鑑賞用の魔術でショーをするモニカは革新派と言える。
でも昔ならともかく、今は別にその両派閥でのいさかいなんてほとんどない。
伝統派も、魔女の伝統的な生き方を絶やさないように主張しているだけで、古来からの魔女の生き方に憧れる魔女が属しているだけだ。
ちなみに、私が伝統派、モニカが革新派と例えたが、あくまで例え。
私達はこれら派閥に属しているわけではない。
ほとんどの魔女はこの辺りの派閥なんて意識せず、自分なりに魔女として生きているだけだったりするのだ。
だからこんな魔術の使い方をするカジノのオーナーにも、特に悪印象はない。
むしろ良く考えるなーと感心してしまう。
で、このウィッチコインを使ってどんな遊びができるのか。
このウィッチカジノでも特に人気の遊戯をまずは遊んでみる事にした。
それは……マジックスロット。
これは鉄製の大きな箱で出来ており、コイン投入口にコインを入れてレバーを下げると魔術が発動、鉄箱の前面に様々な色の光が駆け巡る。
それが段々と一つの形にまとまっていき、やがて絵柄が現れる。
その絵柄によって、対応した倍率のコインが払い戻されるという仕組みだ。
「とりあえず一回やってみるか……」
ベアトリスとライラが見守る中、マジックスロットにコインを投入。
レバーをがちゃんと降ろす。
すると鉄箱の前面にある真四角にへこんだ部分から光が溢れる。
粒子状の光は様々な色に移り変わりながら動き、色んな姿を形作った。
星、魔法陣、箒、クッキー、白鳥に竜。
どうやら竜の絵柄が一番倍率が良いらしく、百倍のコインが払い戻されるようだ。
やがて粒子の動きが徐々にゆっくりになっていく。星型から竜の姿へと変わっていった。
「あら、これ来るんじゃない?」
「そうよリリア! 竜よ竜!」
背後に控える二人がテンションを上げてきゃいきゃい騒いでいるが、私は冷静だった。
というか、こういうのは水物というか……同じ魔女が開発した物だし、そうそう夢中になっていられるはずがない。
やがて、光の粒子が動きを止めた。先ほどと変わらず、竜の姿のままで。
大当たり……と思った瞬間。
ばーん! なんて大きな音と共に粒子がばらけ、一瞬にして違う姿を形作った。
それは箒。
払い戻し無しの外れだった。
「……なんでだよぉっ!?」
思わず私は叫んでいた。
完全に我を忘れた。
いやここは当たる流れでしょう?
あえて欲を消して無になる事で大当たりを引き寄せてたのに!
というかほぼ当たってたのにっ!
ギリギリで外れになるってひどくない!?
「ど、どういうこと!? 今当たってた! 当たってたよね!?」
思わず振り向いてベアトリスとライラに訴える。
しかし二人はさっきと違って冷静だった。
「……まあまあ、落ちつきなさいよ」
「そうよ、そう簡単に大当たりするはずないじゃない。冷静になって、リリア」
……なんだこのテンションの差。
さっきまで二人の方が高かったじゃん。
しかし私も心の中で反省する。
そうだ、うろたえてはダメだ。
同じ魔女が作った物でこんな右往左往していては魔女の名前が廃れる。
そう、私は魔女。
魔女が作った娯楽遊戯なんかで我を忘れない、クールな魔女。
だから私はもう一度スロットを回した。
光の粒子が視界の中を踊りまわる。
箒、星、竜。箒、星、竜。箒……星……竜……。
ゆっくりゆっくり光の動きが鈍くなっていき、やがて完全に動きを止めた。
絵柄は竜……! 今度こそ大当たり!
と思った瞬間。
ばばーん! なんて大げさな音がなり、絵柄が箒に切り替わった。
「さっきと同じじゃんかよぉ!」
私はまた我を忘れた。
しかしすぐに背後の二人の視線を感じ、はっとする。
マジックスロットは危ない。私のキャラが崩壊する。
いつもの私を取り戻さなければ。
私は数度深呼吸してなんとか笑顔を作り、二人に振り向いた。
「……とりあえず、ごはんでも食べてかない?」
「……顔、すごく引きつってるわよ」
まだ大外れの衝撃を引きずっている私の強張った笑顔を、ベアトリスが指摘した。
このウィッチカジノで手に入るウィッチコインの使い道だが、それらは全て施設内での食事に使われる。
どうやらこのカジノのオーナーである魔女は、あくまでアミューズメント施設として運勢したいらしく、景品との交換は徹底してやっていなかった。
食べ物だったら交換しても後に残ったりしない。
楽しく遊んでごはんを食べて帰る。
そんな健全施設がこのウィッチカジノだ。
だからこの町もこの施設を観光地として押している。
ちなみに、ウィッチコインが無くても現金で食事をする事もできる。
このウィッチカジノ内のお店で提供される料理はかなりおいしいらしく、それ目当てにやってくる客も居るようだ。
スロットで我を忘れた私は、その事実すらを忘れる為、今日は奮発したごはんにした。
私が頼んだのは七面鳥のロースト。
一人で食べるには量が多いが、三人いれば大丈夫だ。
頼んだ七面鳥のローストが私達が座るテーブル席にどんと置かれた。
「……リリア」
ベアトリスが小声で囁く。
「なに?」
「この七面鳥のロースト、カジノで大当たりした人くらいしか食べないらしいわよ」
「へえー、そうなんだ」
「……多分あんな大外れした人で食べるのはあなたが初めてじゃない?」
関係ない。
あのスロットの結果は関係ないんだ。
私はただ、七面鳥のローストという縁起が良い食べ物が食べたかっただけなんだ。
「さあ、食べよう。七面鳥だよ七面鳥! 絶対おいしいって!」
私の勢いに、ライラはちょっとびくついていた。
「ねえ、リリアの目、ちょっと血走ってない?」
「血走っているというか……目がすわっているというか……」
ぼそぼそ囁く二人を置いて、私は七面鳥に手を伸ばす。
七面鳥のローストは、七面鳥の形を維持しながらも、しっかり切れ込みがあって切り取りやすい。
ごそっと大きなブロック肉を皿に乗せ、勢いよくかぶりついた。
表面の皮は香ばしく焼きあがってパリっとしている。
中の肉はジューシーで肉厚。
噛みしめると肉汁がじわっと溢れ出る。
七面鳥の中にはハーブが入れられており、じっくりローストする事でハーブの良い香りがうつっていた。
おいしい。
そして縁起がいい。
七面鳥のローストなんて、何か節目が無いと食べられないものだ。
私が前に食べたのは、独り立ちして自分のお店を持つ時だったかな。
母がわざわざ取り寄せて焼いてくれたんだ。
懐かしい……。昔代々我が家が秘蔵して保管していた不老不死の魔法薬を勝手にがぶ飲みした時は死ぬほど怒られたけど、なんだかんだ両親は私に甘かったな。
いつか暇があったら故郷に帰って久しぶりに会ってみよう。
ごくりと七面鳥のローストを飲み下し、思い出と共に私は立ち上がった。
まだ食べていたベアトリスとライラが驚いて私を見る。
「どうしたの? もう食べないの?」
ベアトリスに言われ、私は頷いた。
「今からもう一度スロットしてくる。残りは後で食べるよ。大当たりしたコインを手にしながらね!」
私は颯爽と風を切って歩き出した。
今の私は七面鳥の幸運と家族との思い出を背負っている。
外れるはずがない。絶対に当たる。
そして私は、意気揚々とスロットを回した。
……。
……。
……。
……。
コイン全部無くなった。
そのあと冷めた七面鳥食べた。
もうこのスロットしない。
その町は歓楽街が特に栄えていて、中でも有名なのがウィッチカジノと呼ばれるアミューズメント施設だ。
名称にカジノと付いているが、賭け事をしているわけではない。
現金で特殊なコインを購入し、そのコインを使って遊ぶという趣旨の健全な施設だ。
そしてウィッチという名が示すように、このカジノのオーナーは魔女なのだ。
その魔女は魔術を使った様々な娯楽遊戯を開発したらしく、それを利用してこのウィッチカジノを開催しているという話だ。
私の幼馴染モニカはショー用に作られた魔術を扱ってマジックショーを行っているが、それに近いのだろう。
そしてこのオラクルという町に来た私達は、早速このウィッチカジノとやらに足を運んでいたのだ。
カジノでは、まず出入り口に受け付けがあり、そこで特殊なコイン、その名もウィッチコインを購入する。
このコインにも魔術がかけられており、このカジノ内にある器具に投入する事で魔術が発動し、遊ぶ事ができるようだ。
……中々とんでもない魔術の活用法だ。
魔女には伝統を重んじる派閥と魔女としての新しい生き方を推奨する派閥があるが、このウィッチカジノを作った魔女は確実に後者だろう。
魔法薬を作る私は広義の見方をすれば伝統派。
鑑賞用の魔術でショーをするモニカは革新派と言える。
でも昔ならともかく、今は別にその両派閥でのいさかいなんてほとんどない。
伝統派も、魔女の伝統的な生き方を絶やさないように主張しているだけで、古来からの魔女の生き方に憧れる魔女が属しているだけだ。
ちなみに、私が伝統派、モニカが革新派と例えたが、あくまで例え。
私達はこれら派閥に属しているわけではない。
ほとんどの魔女はこの辺りの派閥なんて意識せず、自分なりに魔女として生きているだけだったりするのだ。
だからこんな魔術の使い方をするカジノのオーナーにも、特に悪印象はない。
むしろ良く考えるなーと感心してしまう。
で、このウィッチコインを使ってどんな遊びができるのか。
このウィッチカジノでも特に人気の遊戯をまずは遊んでみる事にした。
それは……マジックスロット。
これは鉄製の大きな箱で出来ており、コイン投入口にコインを入れてレバーを下げると魔術が発動、鉄箱の前面に様々な色の光が駆け巡る。
それが段々と一つの形にまとまっていき、やがて絵柄が現れる。
その絵柄によって、対応した倍率のコインが払い戻されるという仕組みだ。
「とりあえず一回やってみるか……」
ベアトリスとライラが見守る中、マジックスロットにコインを投入。
レバーをがちゃんと降ろす。
すると鉄箱の前面にある真四角にへこんだ部分から光が溢れる。
粒子状の光は様々な色に移り変わりながら動き、色んな姿を形作った。
星、魔法陣、箒、クッキー、白鳥に竜。
どうやら竜の絵柄が一番倍率が良いらしく、百倍のコインが払い戻されるようだ。
やがて粒子の動きが徐々にゆっくりになっていく。星型から竜の姿へと変わっていった。
「あら、これ来るんじゃない?」
「そうよリリア! 竜よ竜!」
背後に控える二人がテンションを上げてきゃいきゃい騒いでいるが、私は冷静だった。
というか、こういうのは水物というか……同じ魔女が開発した物だし、そうそう夢中になっていられるはずがない。
やがて、光の粒子が動きを止めた。先ほどと変わらず、竜の姿のままで。
大当たり……と思った瞬間。
ばーん! なんて大きな音と共に粒子がばらけ、一瞬にして違う姿を形作った。
それは箒。
払い戻し無しの外れだった。
「……なんでだよぉっ!?」
思わず私は叫んでいた。
完全に我を忘れた。
いやここは当たる流れでしょう?
あえて欲を消して無になる事で大当たりを引き寄せてたのに!
というかほぼ当たってたのにっ!
ギリギリで外れになるってひどくない!?
「ど、どういうこと!? 今当たってた! 当たってたよね!?」
思わず振り向いてベアトリスとライラに訴える。
しかし二人はさっきと違って冷静だった。
「……まあまあ、落ちつきなさいよ」
「そうよ、そう簡単に大当たりするはずないじゃない。冷静になって、リリア」
……なんだこのテンションの差。
さっきまで二人の方が高かったじゃん。
しかし私も心の中で反省する。
そうだ、うろたえてはダメだ。
同じ魔女が作った物でこんな右往左往していては魔女の名前が廃れる。
そう、私は魔女。
魔女が作った娯楽遊戯なんかで我を忘れない、クールな魔女。
だから私はもう一度スロットを回した。
光の粒子が視界の中を踊りまわる。
箒、星、竜。箒、星、竜。箒……星……竜……。
ゆっくりゆっくり光の動きが鈍くなっていき、やがて完全に動きを止めた。
絵柄は竜……! 今度こそ大当たり!
と思った瞬間。
ばばーん! なんて大げさな音がなり、絵柄が箒に切り替わった。
「さっきと同じじゃんかよぉ!」
私はまた我を忘れた。
しかしすぐに背後の二人の視線を感じ、はっとする。
マジックスロットは危ない。私のキャラが崩壊する。
いつもの私を取り戻さなければ。
私は数度深呼吸してなんとか笑顔を作り、二人に振り向いた。
「……とりあえず、ごはんでも食べてかない?」
「……顔、すごく引きつってるわよ」
まだ大外れの衝撃を引きずっている私の強張った笑顔を、ベアトリスが指摘した。
このウィッチカジノで手に入るウィッチコインの使い道だが、それらは全て施設内での食事に使われる。
どうやらこのカジノのオーナーである魔女は、あくまでアミューズメント施設として運勢したいらしく、景品との交換は徹底してやっていなかった。
食べ物だったら交換しても後に残ったりしない。
楽しく遊んでごはんを食べて帰る。
そんな健全施設がこのウィッチカジノだ。
だからこの町もこの施設を観光地として押している。
ちなみに、ウィッチコインが無くても現金で食事をする事もできる。
このウィッチカジノ内のお店で提供される料理はかなりおいしいらしく、それ目当てにやってくる客も居るようだ。
スロットで我を忘れた私は、その事実すらを忘れる為、今日は奮発したごはんにした。
私が頼んだのは七面鳥のロースト。
一人で食べるには量が多いが、三人いれば大丈夫だ。
頼んだ七面鳥のローストが私達が座るテーブル席にどんと置かれた。
「……リリア」
ベアトリスが小声で囁く。
「なに?」
「この七面鳥のロースト、カジノで大当たりした人くらいしか食べないらしいわよ」
「へえー、そうなんだ」
「……多分あんな大外れした人で食べるのはあなたが初めてじゃない?」
関係ない。
あのスロットの結果は関係ないんだ。
私はただ、七面鳥のローストという縁起が良い食べ物が食べたかっただけなんだ。
「さあ、食べよう。七面鳥だよ七面鳥! 絶対おいしいって!」
私の勢いに、ライラはちょっとびくついていた。
「ねえ、リリアの目、ちょっと血走ってない?」
「血走っているというか……目がすわっているというか……」
ぼそぼそ囁く二人を置いて、私は七面鳥に手を伸ばす。
七面鳥のローストは、七面鳥の形を維持しながらも、しっかり切れ込みがあって切り取りやすい。
ごそっと大きなブロック肉を皿に乗せ、勢いよくかぶりついた。
表面の皮は香ばしく焼きあがってパリっとしている。
中の肉はジューシーで肉厚。
噛みしめると肉汁がじわっと溢れ出る。
七面鳥の中にはハーブが入れられており、じっくりローストする事でハーブの良い香りがうつっていた。
おいしい。
そして縁起がいい。
七面鳥のローストなんて、何か節目が無いと食べられないものだ。
私が前に食べたのは、独り立ちして自分のお店を持つ時だったかな。
母がわざわざ取り寄せて焼いてくれたんだ。
懐かしい……。昔代々我が家が秘蔵して保管していた不老不死の魔法薬を勝手にがぶ飲みした時は死ぬほど怒られたけど、なんだかんだ両親は私に甘かったな。
いつか暇があったら故郷に帰って久しぶりに会ってみよう。
ごくりと七面鳥のローストを飲み下し、思い出と共に私は立ち上がった。
まだ食べていたベアトリスとライラが驚いて私を見る。
「どうしたの? もう食べないの?」
ベアトリスに言われ、私は頷いた。
「今からもう一度スロットしてくる。残りは後で食べるよ。大当たりしたコインを手にしながらね!」
私は颯爽と風を切って歩き出した。
今の私は七面鳥の幸運と家族との思い出を背負っている。
外れるはずがない。絶対に当たる。
そして私は、意気揚々とスロットを回した。
……。
……。
……。
……。
コイン全部無くなった。
そのあと冷めた七面鳥食べた。
もうこのスロットしない。
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