魔女リリアの旅ごはん

アーチ

文字の大きさ
180 / 185

181話、野外で冷やしそうめん

しおりを挟む
 午前中、乾燥地帯を歩き続けていると、段々と遠目に黄色い景色が見えるようになってきた。
 熱気が揺らめき、陽炎が浮かび上がっているように見えるのは、私達が目指す砂漠地帯だ。

「うへ……あんなところに行ったら私死んじゃうわよ……」

 午前中とはいえ、昼に近づけば近づくほど気温は上がっていく。朝は涼しかったのに、今はもう気温三十度はあるだろうか。

 一応私も魔術をかけて周囲を涼しくはしているが、それでもこれほどの熱気は完璧にシャットダウンできない。ベアトリスは、その暑さですでに大分参っていた。
 ただでさえ真っ白い肌が青白くなっており、肩を落として俯きながら歩く姿は吸血鬼というよりゾンビみたいだった。

「休む……もう休むわよリリア。こんな真昼間に砂漠に突入したら、焼け吸血鬼になってしまうわ……」
「うん……わかった」

 焼け吸血鬼とやらが何なのかは分からなかったけど、ベアトリスがやばそうだったので、ちょっと早めのお昼休憩に入る。
 まだ乾燥地帯とはいえ、砂漠が間近に迫ると木々などはまったく生えていない。よしんば生えていても、ろくに葉を付けていないので、直射日光を遮る役には立たない。

 それでも枝の間にうまいことベアトリスの日傘を引っかければ、小さいながらも休憩できるスペースが生まれる。
 そこでぺたんと座り込むベアトリスは、ハンカチで頬を伝う汗をぬぐっていた。

「冷たいのが食べたいわ……」
「よし、それじゃあ冷やしそうめん食べよっか」

 さすがにベアトリスはグロッキーなので、今日の昼食は私が準備しよう。
 この暑い野外で冷やしそうめんが食べたかったので、町で材料を買い揃えておいたのだ。

 ベアトリスは休ませておいて、早速冷やしそうめんの準備に取り掛かる。
 といっても、かなり簡単なものだ。

 まずはいつものように火を起こし、鍋で水を沸騰させる。
 水が沸騰したら、買っておいた乾燥そうめんを投入。そのまま数分茹でていく。

 この間に用意するのは、これまた町で買っておいたノリだ。すでに細切りにされているタイプで、まさにそうめん用って感じ。
 他にも刻まれた状態で売っているネギも買っておいた。冷やしそうめんは冷たい出汁のつゆにつけて食べるタイプなので、薬味でちょっと味を変えていくのが飽きないコツでもある。

 薬味とは違うが、ハムもある。これは魔術で細切りにして、そうめんと絡めて食べやすいように。
 あとは大葉。独特の酸っぱさと匂いがあり、この暑い中でも食欲がわくはずだ。

 それら薬味と具材を小皿に盛りつけ、ちょうど茹で上がったそうめんを別のお皿に取り上げる。
 このままだと熱々なので、ここでベアトリスのクーラーボックスを拝借し、中に入っていた手の平サイズのブロック氷を投入。

「それ……めちゃくちゃ重かったわ。もう全部使って……」

 ブロック氷を見て、ベアトリスが力なく言っていた。
 今日のお昼は冷やしそうめんにしたいと私が提案したので、ベアトリスは買った氷をクーラーボックスで保管してくれたのだ。でもその重さに後悔はしてたらしい。ごめんベアトリス。そしてありがとう。

 最初こそ、そうめんの熱で氷は解けていたが、段々といい具合に冷えてきた。解けた氷による水も冷たくなって、そうめんが潤ってちょうどいい。
 後は、沸騰したお湯にカツオ出汁の元を入れて、醤油も適量入れる。これで濃い目のつゆを作り、氷で薄めつつ冷やせば完成。

「よし、できたよっ! 冷やしそうめんっ!」

 空から熱気が降り注ぐ中、ようやく完成した冷え冷えのそうめん。
 そう、これだ。これが食べたかった。

 グロッキー気味のベアトリスも、この冷えたそうめんに引き寄せられてか、のそのそ近づいてきた。その肩にはライラが座っている。

「ほら、冷たいから食べると体も冷えるよ」

 ベアトリスのために、つゆにそうめんを入れて渡す。するとちゅるちゅるっとすすって食べ始めた。

「……ん、冷たくておいしい」
「薬味もあるよ」

 薬味と具材が入ったお皿を差し出すと、ベアトリスはネギとノリを入れて食べ始めた。

「私も食べるー」

 ライラも気ままに食べ始めたので、私も早速食べることにする。
 まずはそのままで。そうめんをつゆにつけてちゅるっとすする。

「ん……つゆ濃い目だけどおいしいな」

 汗をかいて塩分を失っているのか、濃い目のつゆがちょうどよく感じた。
 次は薬味を入れてみる。さっぱりと大葉でいこうかな。

 細切りの大葉を入れて、そうめんとからめて食べる。すると、すすっただけで大葉のさっぱりした匂いが感じられ、さっきとはまた違う風味になった。
 さっぱりした感じで、この暑さでも無限に食べられそうだ。

 ハムも入れて食べると、食べごたえがぐっと増す。薬味と具材のおかげで、一口ごとに味が変わって楽しい。
 暑い時に食べる冷やしそうめんは良い。たまらない。

 この熱気ちらつく乾燥地帯でも、食欲が戻ってきてたくさん食べることができた。
 たくさん茹でたそうめんはあっという間になくなり、体が冷えたのかベアトリスの顔色も良くなってきた。

「はぁ……大分楽になったわ」

 ベアトリスは、ぱたぱたと手で顔を仰ぎながら、遠くに見える砂漠をじっと睨みつける。

「もう見ただけで暑くなってくるわ、あの砂漠。どうにかして冷やせないかしら。やっぱり夜に進みましょうよ」
「……一応言っておくけど、砂漠って夜はかなり冷えるよ」

 砂漠の寒暖差はかなりすごい。なのでうっかり夜に砂漠を進むと、今度は寒さで凍えることになるのだ。
 それを教えると、ベアトリスはがっくりうな垂れた。

「厄介なところね……砂漠。リリア、もうあなたの箒で我慢するから、さっさと町まで飛びましょう」

 ついにベアトリスは私の箒まで当てにし出していた。あんなに怖いからもう乗らないって言ってたのに……。

 でも、砂漠を行くには遅かれ早かれ箒に頼ることになるだろう。
 ベアトリスほどじゃないけど、私も暑いのいやだもん……。

 遠巻きに見える砂漠には、相変わらず陽炎が揺らめいていた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...