もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ

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第19話 「神々の晩餐会・前準備開始」

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 振り返ると、赤いショートヘアを揺らしながら、レイアが全力で走り込んできた。

「やっと来れた……!! リアルの予定長引いちゃって……! コナタに会いたくて死ぬかと思った……!!」

「レ、レイア……!?」

 そのまま抱きしめられる。

「ちょ、ちょっと……!」

「三日ぶりだよ!? コナタ不足で倒れるかと思ったんだからね!?」

「二日前にリアルで会ったよね!?」

「あれは現実! こっちはゲーム!! この世界のコナタ分がゼロだったの!!」

「理論が……わからない……!」

 シエルが「きゅっ!?」と鳴き、モカが「ふがっ!?」と驚いた声を上げる。

 レイアは強く抱きしめた後、ようやくコナタを離し、

「……ふぅ……癒された」

「今の数秒で!?」

「当たり前でしょ。コナタは可愛いんだから」

「かわ……っ!?///」

 顔が熱くなる。
 レイアは満足そうに笑い、コナタの髪を優しく撫でた。

「それで? なんか大変なことになってるって聞いたけど?」

「あ、それが──」

 説明を始めようとすると、レイアはぽかんと口を開けた。

「神々の晩餐……? 招待状……? 使者が直来訪……? ……は?」

「うん……多分……そういうことに……」

「…………」

 レイアは五秒固まったあと、叫んだ。

「ちょっとほんとに何してたのコナタぁぁぁ!!?」

「な、なにも……! 料理してただけ!」

「料理しただけで神様からスカウト!? どういう才能!!?」

「わぁぁ言われてもわかんない!!」

 わちゃわちゃ。
 シエルとモカも一緒にばたばた。

 そこへ──

「ただいま戻ったーー!」

 ゼクトの声。
 続いてユリウスも姿を見せる。

「最高素材、そろえたよ」

 そしてレイアを見るなり、二人の表情がぴしっと固まる。

「……あ、きたんだね」
「……遅かったじゃん」

 レイアもふんっとそっぽを向いた。

「アンタらに任せてたら、コナタ泣かされそうで怖いんだよ」

「泣かせねぇよ!!」
「むしろ泣かされてるのは僕たちのほうなんだけど……?」

 三人が同時に言い合いながらも、視線は全部コナタへ。

 その中心で、コナタはまるで宝物のように扱われていた。

 そして──

「……コナタ。準備、始めようか」

 ユリウスが優しく言うと、全員の視線がコナタに集まった。

 胸の奥で、ゆっくりと期待と緊張が膨らんでいく。

「……うん。みんなで、最高の料理作ろう!」

 シエルが「きゅっ!!」
 モカが「ふがっ!!」

 四人と二匹の視線が交わり、あたたかな光に満ちた一つの円ができあがった。








その日の朝、コナタはまだ少し寝ぼけ眼だった。
 しかし、部屋にはもう全員が揃っていた。

「おはよ、コナタ! さぁ、準備の時間だぞ!」
 ゼクトが元気いっぱいに声を張り上げる。雷剣士らしい力強さが、部屋中に響いた。

「ふぁ……まだ頭が回ってないけど……はい」
 コナタはシエルを肩に乗せ、モカを膝に抱えながら返事をする。

 モカは「ふがっ」と鼻を鳴らし、早く動けと催促している。
 シエルも「きゅっ!」と小さく声をあげ、尻尾をぴょこぴょこと揺らしている。

「……二日前にリアルで会ったばかりなのに、こうしてまた一緒にゲームで集まれるなんて、すごいな」
 コナタが微笑むと、レイアも赤みを帯びた顔で頷く。

「ほんとよ。現実では少し会えたけど、こっちではまだまだコナタ不足だったの」
 レイアは小さく肩をすくめた。
 その仕草は無防備で、いつもの落ち着いた雰囲気とは違い、コナタの胸をくすぐる。

「さて、まずは素材リストを確認だな」
 ユリウスが広げた巻物には、金文字で必要食材が並んでいた。

◆ 必須素材
• 《虹幻草》:昼夜で色が変わる光の森の薬草
• 《サラマンダーの上質尾肉》:火蜥蜴の希少部位
• 《月雫きのこ》:満月の夜にしか採れないきのこ
• 《神気の宿る果実》:存在は謎多き伝説の果実
• 《風鳥の羽根(調理用)》:料理に混ぜると香りが飛躍的に向上する

「……どれも高ランク指定か」
 ゼクトが眉を寄せる。

「それぞれの素材には採取条件や危険地帯がある。コナタ、今回の主役はあなたよ」
 レイアが静かに、しかし確信のある声で告げる。

「えっ……僕が?」

「当然でしょ。神々相手に料理を出すのは主役だからね」
 ユリウスは得意げに胸を張る。

 シエルは「きゅっ!」と小さく跳ね、モカも「ふがっ!」と鼻を鳴らしている。
 どちらもやる気十分だ。

「じゃあまず《虹幻草》を取りに行こう」
 ゼクトが拳を握る。

「私が採取ポイントや危険情報をサポートするわ」
 レイアはメモを広げ、各素材の特性をチェックし始める。

「僕は盛り付けや調理用の下準備を考えながら追随する」
 ユリウスは歩きながら、早速手際よく下ごしらえのプランを口にする。

 コナタは小さく深呼吸をする。
 背中にはシエル、膝にはモカ、そして友人3人が揃っている。
 怖さよりも、胸の奥に安心感が広がった。

「……よし、行こう。みんなで最高の料理を作ろう!」

「きゅっ!!」

「ふがっ!!」

 声がぴったり重なり、空気が一瞬で和やかになった。
 こうして、神々の晩餐会に向けた前準備作戦──コナタと友人、従魔たちによる祝福の料理創りは幕を開けた。

 ◇

 光の森に到着すると、朝露に濡れた草木が輝いている。
 虹幻草の葉先が太陽の光に反射し、淡く虹色に揺れた。

「ここだ……!」
 コナタの目が輝く。

 ゼクトは剣を手に、森の中の危険な生物を警戒しながら進む。
 ユリウスは料理用の小道具を整えつつ、あらゆる香りをチェック。
 レイアはデータを走らせるように、効率的な採取ルートを即座に計算している。

 シエルは草むらを飛び跳ね、モカは木の根元を嗅ぎ回る。
 まるで自然と一体になったチームのようだ。

「……よし、あれが虹幻草の群生地」
 レイアが指さす方向に、淡い光を帯びた葉の群れが揺れていた。

 コナタは一歩踏み出す。
 風が頬を撫で、草の香りが鼻をくすぐる。
 いつもより深く息を吸い、気持ちを整える。

「さあ、始めよう……!」

 シエルが背中でぴょこぴょこと跳ね、モカも膝から降りて匂いを追う。
 友人たちは自然にコナタの周りを固め、森の中で一つの輪を作る。

 こうして、神々の晩餐会・前準備の第一歩が静かに、しかし確実に踏み出されたのだった。
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