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しおりを挟む異世界の店舗を閉じて帰宅した夜。
咲は自室で、ホットカモミールティーをすすりながら明日の予定を手帳に書き込んでいた。
「ふぅ……今日はなかなかに賑やかだったなぁ」
異世界側では子どもたちの来訪が増え、特にギフト用のハンドクリームが人気に。
(これは、そろそろ本格的に“詰め合わせ”を作った方がいいかも)
ベッド脇に積んである紙袋には、帰りに100円ショップで買ってきた木箱や造花、タグラベル、ワックスペーパーなどがぎっしり。
「ラッピングで雰囲気アップして、贈り物文化を根付かせる……作戦!」
しかも最近、異世界のお客さんたちから「手が荒れる」「良い香りのものが欲しい」といった声も増えてきた。
咲はノートにペンを走らせながら、イベントの企画を立てていく。
春のハンドケアセット発売
お試しプレゼントキャンペーン(1日10名限定)
ギフト箱を買うとスタンプ1個(3つで選べる景品つき!)
美容講座:保湿と香りの基礎編
「今度こそ、ちゃんとチラシ作って貼っておこう……あ、異世界の紙ってどうだったっけ」
咲は苦笑しながら、印刷用に使える「異世界用の用紙在庫リスト」も確認した。
すると、リビングから母の声が聞こえる。
「咲~!お風呂先に入っちゃっていい?」
「うん、お願いー!」
──現代に帰ってきても、家の中は安定の“実家”空間。
就職もまだ決まっていない身ではあるけれど、こうして毎日なにかに追われるように忙しくて──でも、心は軽い。
「ねえ、異世界の人たちも、お母さんの声が聞こえる夜ってあるのかな」
咲はぼそっと、そんなことをつぶやいた。
───
翌日。雑貨の仕入れと調査を兼ねて、咲は自転車で近所をめぐる。
今日は特に、新しい商品候補として「紙石けん」「ヘアオイル」「入浴剤タブレット」を探していた。
(このラベンダーのタブレット、めちゃくちゃ香りいい……!異世界の人、びっくりするかも)
ドラッグストアの隅でふわっと笑みを浮かべていたそのとき──書店前のベンチに座る男の子が目に留まる。
(……あれ?リクくん?)
中学生くらいの年齢で、ファンタジー小説を熱心に読んでいる。時折、ページの隅にペンで何か書き込んでいるのが見えた。
(うわ、やっぱり……どこかで見たことあるって思ったの、気のせいじゃなかった)
彼は咲に気づかないまま、店内へ入っていった。
声をかけようとしたけど、今日はやめておく。
カナトくんの存在と関係あるかもしれないし、まずは様子を見よう。
───
その夜。異世界の店舗では、ギフト用のディスプレイを準備中。
「木箱にワックスペーパー敷いて、造花と一緒にハンドクリーム……うん、かわいい!」
並べたセットは「母の日」や「お祝い」用としてぴったりな雰囲気。
(アランくんたちが、お母さんにプレゼントしたくなるような商品を並べたいんだよね)
イグラムくんやデュランくんも、贈る喜びや伝える楽しさを、きっと覚えていってくれる。
「明日は“ギフトフェア”ってことで、試供品も作っておこうっと。あと、美容講座の内容も考え直さないと……」
咲は、香りつきの新しいアイテムを取り出して、笑顔になる。
“誰かのために選ぶ”──そんな気持ちを大切にしてもらえるように。
そして、地球側で見かけたリクくんのことが、心のどこかで静かに引っかかっていた。
「やっぱり……あの子も、カナトくんと同じ?」
その答えは、もうすぐ明らかになるかもしれない。
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