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第3話「もふもふと、はじめてのおでかけ」
しおりを挟むモフリが現れて三日。
その間にも、僕の部屋には“新しいもふもふ”がひとつ、またひとつと現れはじめた。
最初に来たのは、ゲームで2体目にテイムした、オレンジ色の小さな丸い子。
見た目はモフリより少し大きくて、まるでぽかぽかの湯たんぽみたいな存在。名前はポン。スキルは「体温調整(小)」。
その名の通り、寒い朝にポンを布団の中に入れておくと、ちょうどいいぬくもりが持続する。湯たんぽのように熱すぎることもない。
ポンは基本的におっとりしていて、常にぼんやりした顔をしてる。でもご飯を食べるときだけ、ものすごく素早くなるのがちょっと面白い。
次に来たのは、昨日の夜だった。
青みがかったクリーム色の、ぷるぷるした毛玉。ふわふわではなく、どこか水を含んだような質感で、まるでスライムと綿毛を足して割ったような不思議な見た目。
ゲームでの名前はユラ。スキルは「湿度調整(微)」。
部屋が乾燥していると、ユラのまわりだけしっとりした空気に変わる。僕の咳が減った気がするのは偶然じゃないと思う。
「……これ、ただの癒し系ペットじゃなくて、完全に生活便利グッズだよな……」
僕はベッドの上でモフリを膝に乗せながら、ぽつりとつぶやいた。
でも、それは確かに嬉しい“変化”だった。
事故の後、誰にも会いたくなくなっていた僕の世界は、もふもふたちのおかげで静かに広がっていっていた。
SNSでは例の投稿が10万リツイートを超え、「リアル召喚系男子」「癒しの神童」などと呼ばれ、ネット記事にも取り上げられた。
驚いた出版社の人やゲームメディアからもDMが届いたけれど、今はまだ断っている。
“これは僕だけの時間だ”という感覚を、簡単に手放したくなかった。
ただひとつ、日々感じていたのは——
「そろそろ、外に出てみたいかもな」という気持ちだった。
もちろん、車椅子だ。歩けるようになったわけじゃない。
でも、あれ以来ずっと家にこもっていた僕の中に、どこかで「この子たちと一緒なら」という希望が芽生えていた。
「お母さん、ちょっとだけ、外……行ってみてもいい?」
朝食の後、モフリとポンとユラを膝に抱えたまま、勇気を出して言ってみた。
母は一瞬きょとんとした顔をした後、目を見開いて、すぐに微笑んでくれた。
「うん、行こうか。今日は天気も良いし、お花も見に行こう」
準備を手伝ってもらって、僕は玄関前まで移動した。
いつもならこの時点で疲れていたけど、今日は違う。胸がどこかふわふわしている。まるで、モフリの毛の手触りみたいに。
玄関を開けた瞬間、春の風が吹き込んできた。
まだ少し冷たいけれど、日差しがあたたかくて、光が柔らかくて、なぜか涙が出そうになった。
「……ひさしぶり、だな……」
モフリが「ぴい」と鳴いた。ポンは僕の膝の上でまるくなり、ユラは僕の足元にぴたりと寄り添っていた。
まるで護衛みたいにぴしっと並ぶその姿に、母が「ふふっ」と笑った。
「じゃあ、公園まで行ってみよっか」
住宅街を抜けて、ゆっくりと車椅子を押してもらいながら、僕たちは小さな公園へ向かった。
道すがら、すれ違う人々が僕を二度見してくる。モフモフたちの存在に驚いているのだろう。
「ねえ、それ……ぬいぐるみ? 動いてない?」
「えっ、なにこれ……触っていいの? うわ、ほんとに生きてる……!」
子どもたちも、大人たちも、最初は驚いて、そして笑ってくれる。
「SNSで見たことある!」と声をかけてくれた人もいた。
何人かには、写真を撮らせてもらった。ただし、顔は絶対に写らないように。
それでも、「見れて嬉しい」と言ってくれる人がいるだけで、心がじんわりと温かくなった。
公園では、ベンチに座って、モフリたちとおやつを分け合った。
というか、僕が食べようとしたものを、彼らが当たり前のように横取りしていったんだけど。
モフリはポッキーを、ポンはパンの端っこを、ユラは……水をすするだけだったけど、幸せそうだった。
空は青くて、木々の芽はほころび始めていた。
日常の中の、ちょっとした奇跡。僕のまわりには、今日も、もふもふがいる。
そう思うだけで、昨日より、明日が少し楽しみになった。
──その夜。新たにログインしたゲームの森の中で、ふと出会った黒いもふもふは、明らかにほかとは違っていた。
目が金色に輝いていて、どこか人の心を読んでいるような表情。
《?????:あなたの“願い”を叶えますか?》
画面にそんな文字が浮かんだところで、僕の意識はふっと切れた。
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本日2作品目の新作嬉しいです
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