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三章『お留守番』
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しおりを挟む土下座を慣行してから数秒足らずでローレルに抱き起され、彼女の顔を恐る恐る見ると、少し焦った様な表情が浮かんでいたが、きっと急に私が土下座をしたので驚いたのだろう。
この世界に土下座という言葉と行為があるのかも解らないので、この驚き加減を見るにひょっとしたら無いのかもしれない。
まぁそれは置いといて、とんでもない状況に陥ってしまってはいるが、取り合えずやりだした事はちゃんと最後までやり遂げなければ行けない。
取り合えず掃除をしたいという事をジェスチャーで何とか伝えて、掃除をやりだすと脱衣所から退出してくれたので伝わったという事にしておこう。
それから暫く、無心でお風呂掃除を行い、片付いた所で現実に引き戻される。
ローレルの機嫌を取る。
とは言っても、ローレルが好きな物なども知らないし、一体どうすれば?
結論から言って、私の考えの行きついた先は、取り合えずゆっくりとして貰おう。
という事だ。そしてローレルの言う事に絶対服従する。
そうと決まれば取り合えず午後のお茶を出そうと思う。
この世界は紅茶が主流の様で、茶葉等は常備されている。
コーンスープを作った時の残りであるミルクがあるので、ミルクティーを入れよう。
それと、昨日アリスと買い物に行った時に見つけて、買ってもらったクッキーがある。
今日アリスと午後のお茶を飲むときに出そうと思っていたが、アリスは出掛けてしまったのでそれもお出ししよう。
アリスが帰ってきたら一緒に食べようと思っていたけど、賞味期限なんかも解らないし、どれぐらいで帰ってくるのかはっきりした事が解らない為、ローレルの機嫌を取ろう作戦に一役買ってもらう事にする。
そうと決まれば早速と、お風呂場から出て来た私の姿を見て、ソファーに座っていたローレルが立ち上がり、キッチンへと向かって茶葉等を取り出し始めたので、慌ててそれを止めて私がする旨をジェスチャーで伝える。
少し渋られたが、何とか手を引いてソファーに座ってもらい、エプロンを装着してミルクティーを入れた。
後は、棚から秘蔵のクッキーを出してお皿に出し、ソファーの前の机へとお出しした。
『午前中より何だか至れり尽くせりが強まっている様な……。何か勘違いしてる気がしますね……。さっき脱衣所で凄い勢いで謝っていましたし……。まぁでも折角アシュリーが入れてくれたお茶ですし、頂きますね。ありがとう、アシュリー』
「ふへへ」
お礼を言って頭を撫でられる。
顔も笑顔が見えるので、どうやら機嫌がいいぞ。これは午後のお茶作戦成功か。
このままさっきの脱衣所での出来事を記憶の彼方へ封印してくれれば……。
なんて、そんな都合のいい話は無いか……。
これから始まるローレルとのお留守番。
その間、というかそれが終わっても私はローレルの言う事に否という言葉が出ることは無いだろう。
……良く考えると、この出来事が無くてもそれは変わらないか。
何だかそう考えると少し気持ちが楽になったな。
まぁ軽蔑されて避けられている様な雰囲気も皆無なので、何とかなるかもしれない。
ローレルも優しい。ひょっとしたら見なかった事にしてくれているのかも。
変わらず接してくれるというのならそれは私にしては非常に有難い事だ。
このままローレルの機嫌を損ねたり、嫌われたりすることが無ければきっと大丈夫。
そう自分で都合の良い様に結論付けた所で、何だか気持ちも楽になったので私もお茶を頂こう。
自分のお茶を入れてソファーに戻ってくると、ローレルに手招きされたので言われるままに隣へと腰かけた。
『アシュリー、今日はホントによく働いてくれましたね。よしよし、お疲れ様でした』
「ふへへへ」
何だか良く解らないが褒められた。
余程午後のお茶が気に入ったのかもしれない。いやぁいい仕事した。
『ふふふ、ホントにアシュリーは可愛いですね。あ、そうだ』
「???」
『ね、ねぇアシュリー。今日はアリスが居ないから、私と一緒にお風呂に入りましょうね?』
「っ!?お風呂、一緒?」
『あら、お風呂は解るのですね。一緒という言葉も覚えていたのでちゃんと伝わりましたか。そうですよー。今日は私と一緒にお風呂に入りましょうね?』
「ん……」
断った方がいいと全力で何かが伝えてくるが、ここで断るという選択肢は今現在の私に許された選択では無いのだ!
確かに脱衣所の件が無ければ断る事も可能だったかもしれない。
しかし、もしもこの申し出を断った場合、ローレルの機嫌を損ねる可能性がある。
その可能性がある以上、危ない橋は渡れない。
アリスとも一緒に入っているのだ。きっと今の私なら乗り越えられる、はず……。
私がコクリと頷くと、更に機嫌が良くなった様に見えるローレルを横目に、これから訪れるであろう試練に今からドキドキと動悸がはげしくなる私であった……。
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