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三章『お留守番』
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しおりを挟むはい。
穴があったら入りたい私です。
まさか昨日の間に二度も失態を演じる事になるとは思ってもいなかった。
いや、痴態と言い換えたほうがいいかも知れない……。
断る選択肢は無かったとは言え、お風呂に一緒に入ると聞いた時に言いようのない無い不安に襲われたのは恐らくアレを示唆していたのだろうか。
いや、まぁそんな事は後だから言える事には違いない。
後悔は先には立たない。後から私は自分の失態を悔いておるのです……。
なぜあの時トイレに入ったのに用を足さなかったのか、あの時の私を全力で殴り飛ばしてやりたいよ……。
あれは全面的に百パーセント私が悪い。それなのにローレルにあんなに申し訳なさそうな顔をさせてしまうとは……。
くっ……。
そして何時もの時間に目が覚めた途端に、こんな私に天国が待っているなんて……。
現在私は絶賛抱き枕中です。身動きは取れません。
今日の抱き枕選手権は予選敗退です。動くと変に刺激してしまうのは解りきっている程に密着しております。
と、とても柔らかいです。
しかし危険だ。
目が覚める前はどうやって息をしていたのか。現在ローレルの胸に埋まっている私は、非常に息苦しいです。
まぁ頑張れば何とか息は出来ると思う。や、柔らかいからね……。
でもその為には少し動かなければならない。
仕方ない。これは不可抗力だ少し首を動かすだけだから、頭を少し動かせば息できるから……。
フニュッ……。
『あんっ……』
「っ!!!!??」
違うんですっ。不可抗力ですっ。ワザとじゃないんですっ。
少し動いた事によって私の頬に生じた新たな境地と、耳に届いたローレルの妙に色っぽい声に心臓がバクバクと速くなる。
咄嗟に心の中で言い訳を連呼していたが、どうやらそれ以上の動きは無い。
起きては居ない様だと解り、ホッと胸を撫で下す。
それにさっきの刺激で少し腕が緩んだ様で、今なら抜け出せそうだ。
天国からの脱出は非常に残念なのは言うまでもないが、今の私にこんな天国
を貰う権利は無いのです。
そして、何とか最小限の刺激で抱き枕を抜け出す事に成功した。
「はぁ……」
今日は何時もとは違い、アリスの自室からではなくローレルの自室から出た私は一人階段を降りながら小さく溜息を吐いた。
昨日の失態を演じた件が天国から脱出した事によってぶり返して来たのだ。
あの後、私は自己嫌悪というか羞恥心というか、色んなものが綯い交ぜになった様な心境に陥って、鬱陶しいぐらい落ち込んでいた。
特別仲の良い友達等で無ければあの状態に陥った人に関わるのは誰だってウザイと感じる事だろう。
しかし、そんなウザイ状況の私を、目の前で痴態を晒してしまった私を、ローレルは優しく慰めてくれた。
何なんだろう。え、ローレルって女神様だったの?
今の私にはローレルに後光が見えます。
あんなに無条件に優しくされると、勘違いしちゃいますよね。
アリスに対しても散々弱みを見せてしまっているが、ローレルに対しては弱みというか、酷い失態を見せてしまっている。
それに対して二人共が寛容で、私に優しくしてくれる。
最初はアリスと一緒に居たいという一心だったが、今では少し違ってきている。
ローレルとももっと仲良くなりたいな。
中々あれほどの痴態を受け入れてくれる様な人は居ないだろう。
そうだ。今は丁度ローレルと二人でお留守番中という願っても無い好機だ。
アリスとお留守番していた時と同様に、今は彼女の為に出来る事を頑張ろう。
そうと決まれば、さっそくトイレでちゃんと用を足して……。
顔を洗って歯を磨いて、エプロン装着!
今日も朝ご飯を作るよ!
今日のメニューはチーズパンと、ベーコンを焼いて付け合わせに野菜を茹でた物を付ける。
コンソメスープの素が切れているので、今回はスープは諦めてホットミルクを出そうか。
チーズパンはローレルが起きてきてから仕上げをしよう。
トースターが無いので、少し火で炙って溶けて来たところでパンの上に乗せれば完成だ。
さて、朝ご飯が出来た所で、今日はローレルを起こしに行くよっ。
ドアを開けてローレルの自室へと入ると、未だ規則正しく寝息を立てるローレルの姿が目に入る。
ゆっくりと近づいて、布団を少し引っ張りつつ声を掛ける事にする。
「ローレル、ローレル」
『ん~……、アシュリー……?』
「ローレル、おはようっ」
『んっ、んぅ~……、おはようございます、アシュリー』
私の呼びかけにローレルは直ぐに目を覚まし、体を起こしてベットの端に腰かけて伸びをしている。
起こすと寝惚けて私に抱きついたりしてくるアリスとは違って、ローレルは寝惚けた様子等は無く、非常に寝起きが良い様だ。
それにしても、この世界の寝間着は基本薄着なのだろうか、アリスと同じく上着はシャツだけで下は下着のままだ。その姿は目の保養にはなるが、私には朝から聊か刺激が強い。
凝視する訳にも行かず、視線を反らして暫し待つ。
『おや、アシュリーから良い匂いがしますね。ひょっとしてまた朝ご飯を用意してくれたのですか?』
「???ごはん!」
ご飯という単語が聞こえたので、そうだとばかりにご飯と告げる事にする。
朝ご飯作ったよ!
『本当に良い子ですねぇ。アシュリーは、よしよし、ありがとうございます』
「ふへへへ」
伝わったのか、頭を撫でられつつお礼を言われた。
ふふふ、朝から幸先が良いスタートだ。このまま着実に仲良くなっていくぞ。
『ん~……、あ、アシュリー?』
「ん???」
『お、おはようのキスなんて、してないですよね……アリス。いやひょっとしたらしてるかも……、私にもしてくれるでしょうか……。アシュリー、おいで~』
暫く頭を撫でられていた所で、何かを考える素振りをした後に名前を呼ばれたので彼女の方を見上げると、何やらブツブツと独り言を喋った後においでおいでと手招きされた。
深く考えずに近づくと、急に体を浮遊感が襲い、私は徐にベットに腰かけたままのローレルに抱きあげられ、その膝の上にお尻で横向きに着地する。
「わっ……」
『アシュリー、おはようの、キスしてくれませんか?解るでしょうか……』
「んん????」
何やら私に聞いている様だ。何か動き、ジェスチャーが無いかと観察してみるが良く解らない。
暫く首を傾げていた所で、ローレルの指が頬へと向かい、ちょんちょんとその場所を突いている。
それで何となく理解した。
この世界の朝の挨拶だ。あれだ、アリスに教えてもらっていたおはようのキスってやつだっ。
し、しろと言うのなら、仕方ない。
意を決してその頬へとキスをする。
「ちゅっ……、お、おはよう」
『っ!?ほ、ほんとにしてくれました!アリス、こんなに羨ましい生活をしていたのですねっ!』
「!?!?」
何やら目を見開いて何かを言っている。アリスの名前が聞こえた気がしたが気のせいだろうか。
『ま、まぁその恩恵が私にも現在進行形で還元されているのですから、強くは言えませんね……。うふふふ……、アシュリー、おはようございます。ちゅっ……』
「ふへへ……」
キスを返された。やはり少し照れる。照れ隠しに笑いが漏れてしまった。
『んんんんっ、可愛いです!アシュリー!大好きですよっ!ちゅっ!』
「っ!?」
今、ギュッと抱きしめられてもう一度飛来したキスと一緒に、『好き』という単語が聞こえた。
私の名前も一緒に。
アリスに引き続き、ローレルにまで面と向かってそんな事を言われるとは思いもよらなかった。
勿論ライクだって解ってますよ。解ってますとも。
でも、すごくうれしい。
いやしかし空耳かもしれない。一応聞いてみる?
「アシュリー、す、好き?」
『あらあらあらっ!?好きという言葉が解るのですね?!えぇ!アシュリーの事が大好きですよ!』
満面の笑顔で返された。
空耳じゃなかったんだ。
「ふへへっ……、ローレル、好き好きっ」
『っ!?な、何でしょう、この破壊力……。胸がキュンとっ、苦しくっ……』
「好き、好き」
何だか連呼してしまった。
これ程テンションが上がった時が未だかつてあっただろうか。
いや、まぁアリスに言ってもらった時にこんな状態だったから二回目だね。
無意識の内に腕も首に回してギュッとしがみ付いてしまっている。
自分でも知らなかったが、私には甘え癖でもあるのだろうか。我に返ると急激に恥ずかしさが押し寄せてくるけど、現状、ローレルには更に強くギュゥッと抱きしめられているので離れようがない。
ならまぁ、もう少しこのままでもいいかな。
『あぁ……、これはアリスに並んだと言う事でいいですか?いいですよね?可愛すぎます、アシュリー……、大好きですよっ』
そのまま暫く、この甘い包容を堪能する私であった……。
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本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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