忍ばない探偵

Primrose

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小鳥の歌

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 時は戦国時代。
 武将に仕え、己が主に害を成す者を討ち取り、敵の秘密を盗み取る、影の立役者。
 最も重要な役で在りながら、最も表に立つことが許されない役でもある。
 そしてそんな世界で、最も名を馳せた一族がいた。その名も『猿飛家』。
 彼らは真田幸村に仕え、彼に与えられた命令を全て成功させる、日ノ本最高の忍の一族である。
 忍の道に進む少年少女に師範として忍術と忍びの心構えを教え、教えを説いた者の中にも、優秀な忍びとして世に出ている者もいる。
 そんな忍びの頂点に立つ猿飛家にも、後継ぎとなる人間はいる訳だが・・・



 この音色はホトトギスだろうか。
 美しくさえずり、風の音と共に飛び去る影が見えた。
 我が家には訓練場を兼ねて1500坪あまりの庭園があるが、そこには憩いの場を求める鳥獣が訪れては、我々に美しい音色を届ける。
 そんな音色を楽しむのは、猿飛家師範代が一人、我こと猿飛佐助である。
 まあ師範代と言っても、弟子も門下生も取らない、師範代とは名ばかりではあるが、それがまかり通るのは、我のもう一つの肩書の恩恵だろう。
 我には、『猿飛家次期頭首』という、忍の世界において、『猿飛家頭首』に次いで二つ目に大きな肩書があるからこそ、我がこの様に縁側で寝転んでも許されるのだろう。
 他の師範代がこのような姿を晒せば、丸太に括り付けられて手裏剣の生きた的に変えられてしまうだろう。まあ一部の者はそこから抜け出す事など造作もないだろうが。
「猿飛師範代、そこ邪魔です」
 縁側でくつろぐ我をないがしろに出来るのは、同じ道場の師範代の中でも限られる。我が妹である猿飛忍もその一人だ。
「妹よ、兄にはここから索敵を行い、敵を食い止めるという任務が・・・」
「兄上こそどうかしたのは無いですか? 向こうにあるのは堀と10尺2m超えばかりある特殊な塀ですよ? 我らの門下生でも、あそこから侵入するのは不可能です」
 冷静に侵入者の存在を否定する忍。だが、妹は周りをあまり見ず、常識のみで物事を片付ける節がある。
 だからこそ、周りを見てその先の事を考えようとしない。
「妹よ、では聞きたいのだが、なぜ先程から?」
「っ‼」
 我が指摘に、妹もようやく気が付いたらしい。
「ですが、獣の可能性も・・・」
「屋敷の周辺に獣の通れる抜け道は無い。それに先程、貴様自身も言っていただろう」
 我が門下生でも無理なら、たかが獣があの塀と堀を越えられる訳が無い。
「十中八九、甲賀の刺客であろうな。 まあ、侵入を悟られる時点で、刺客とは呼べぬがな」
 我は懐から苦無クナイを取り出すと、一直線に放った。
 すると声も出さずに、忍びの格好をした何かが茂みから現れる。
「門下生に掃除させておきます」
「ああ、頼んだ」
 我は苦無を回収して忍の元に戻ると、本題を尋ねる。
「それで? その文は誰からの物だ?」
 懐に忍ばせたつもりだろうが、我にはお見通しなのだよ。
 精一杯隠したつもりなのか、忍はつまらなそうな顔をしながら文を取り出す。
「城下町の質屋からです。なんでも、店主が殺されたんだとか」
「それで我にか?」
「ええ、『忍』ではなく、『探偵』としての貴方に」
 なるほど、それなら早速、件の質屋に出向くとしよう。
「さあ、探偵の時間だ」
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