忍ばない探偵

Primrose

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知りたがりの兄妹

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 文に示された場所は、この街一番と謳われる質屋だった。
 福の字が円で囲われた暖簾は、この店の看板として機能しているはずだった。
 だが来てみれば、暖簾は仕舞われ、蠟燭一つ灯していないのか、店内は闇に隠されていた。
「呼びつけてこれですか」
 忍は冷めた眼で店を見つめる。
 だが我には別の物が見えていた。
「そこのご夫人、話を聞きたい」
 我の呼びかけで、店の奥から弱々しく夫人が現れた。
「もしや、猿飛家の方ですか?」
「ええ、私が猿飛家次期頭首、猿飛佐助で間違いない。こちらは妹で、猿飛家師範代の忍になります」
「どうも、猿飛家師範代筆頭、猿飛忍です」
「どうも、私は福谷質店の店主の妻、咲と申します」
 福谷夫人の自己紹介に、我らは首をかしげる。
「妻? この時代にですか?」
「ええ、あまり良く思われてはいませんが」
 福谷夫人は袖で涙をぬぐいながら言った。
 戦国の世の結婚は、武家の契りの為に行われる事が多く、それを忌避する者も少なくない。それを公にしたくないからか、遊郭で子を成し、そのまま家に引き込む事例も起きてしまう。
 互いに合意の下なら問題は無いが、無理やり事を進めてそれを偽装、合意の下に行ったと偽る例も増えている。
 その様な情勢もあり、大多数は結婚を渋る事が多い。
 だがそんな中、この夫人は福谷殿と結ばれて、今の様子を見るに心から愛していたのだろう、涙も隠さずに我らの前に立っている。
「すみません、この様な不躾な事を聞いてしまい」
「いいえ、構いません。立ち話も何です。茶を出すますので」
 そう言って夫人は店に戻り、室内の明かりを灯していった。
 それに我らも応じ、店に踏み込んだ。
 店は棚以外、ごくごく普通の家屋となっており、茶釜を熱する炎が部屋を照らしていた。
「では改めて、この文を送ったのは貴女ですね?」
 忍は文を示しながら、依頼人であるか確認した。
 それに福谷夫人は、頭を縦に振って答える。
「それでは、遺体を見つけたのも?」
 今度は我が尋ねる。
 夫人はまたも頭を縦に振る。
 確かに文に『朝起きたら、福谷質店の店主が死んでいる。あなたに調べてほしい』とあった。
「では、現場を見ても?」
「はい、そこの障子の奥です」
 示された部屋は、見たところ遺体が見つかってから、余り物を動かしていない様だ。
 遺体はないが、布団も触れていないのか、刃物で殺されたらしく、刃物の通った跡を中心に赤く染まっていた。
「件の状況から、あまり動かしていないようですね」
「ええ、捜査はありましたが、その後は同じ場所に戻して頂きました」
 確かに細かく見ると、棚や机の跡がズレているのが分かる。
「なるほど。では忍、福谷夫人から話を聞いておいてくれ。我はこの部屋を調べる」
「承知しました。では夫人、そちらで話を聞いても?」
「え、ええ。分かりました」
 二人が部屋を出たのを確認すると、我は調べられる場所を隅々まで調べる。
 棚は衣類が残っているが、特に目ぼしい物はない。
 机も特に遺書らしき書類も無いので、自決の可能性も無い
 しかし、この様な上質な家具を揃えるあたり、福谷質店は相当評判が良かった様だ。
 窓は物干しも何も無く、ここから入るのは無理だろう。
 建物は二階建てで、一階は店、二階は住居となっている様だ。上を見上げると、瓦の屋根が覗いていた。
 だが瓦の一つが取れたのか、下から見るとへこみの様な欠けがあった。
「見てみるか・・・」
 何かあると感じた我は、窓から屋根の上へ登る。
 一般人は無理でも、この猿飛佐助には造作もないことだ。
 屋根の上には、特に異変は感じられない様に見える。
 だが瓦の色で見えにくいが、瓦の一つに何かを刺したようなヒビが見つかった。
 だがこれだけでは何も分からない。今は、一応覚えておく程度で収めておこう。
 我が部屋に戻ると、ちょうど忍が部屋に入った。
「上はどうでしたか?」
「まあ、確実な手掛かりはなかった」
「そうですか。それで聞き取りの結果ですが、夫人が気になる事を少々。それと、容疑者と思われる人物も。店主は人が良かったようで、揉め事を者はかなり少なかったですね」
 どうやら忍の方は、有力な情報を手に入れた様だ。
「なるほど、では情報を整理しよう」
 我々の情報をまとめると、件の日に起きた主な事は二つ。
 一つ目は火事。二つ先の家が燃えたらしい。火事自体は何の変哲も無かったらしく、すぐに部屋へ戻ったらしい。まあ、さほど気にする事ではない。
 二つ目は物音。火事の最中、何か陶器が割れる音がしたとのこと。恐らく、その時に瓦が割れたのだろう。
 その日あったことは終わり。次は容疑者だ。
 一人目は、この辺りで商売の競争相手となっていた、天野質店の店主。
 二人目は、以前共に商売をしていた男。今は店を離れ、親族の経営していた金物屋を継いだとの事。
 三人目は福谷殿の弟。この質屋を狙っている節があったらしく、店主を手にかけてもおかしくないそうだ。
「これで全員か」
「はい、全員この城下に暮らしているらしいので、話を聞きに行くのも可能です」
 なるほど、それは好都合だ。
「なら行こう。知る事が出来るなら全てを知りたい」
 我らは店を後にし、三人の下に向かった。
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