忍ばない探偵

Primrose

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思いやる兄

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 この城下には、質屋、金物屋、八百屋と、様々な店が並び、そこには様々な人が集まっていた。
 ある者は安値の野菜を狙い、ある者は店主と持ち込んだ品の値上げを頼み込む。十人十色を体現したかの様な、美しい街だった。
「ここからだと、城がよく見えますね」
 確かに忍が言う様に、ここから見ると、我らが主である真田幸村の本拠たる城、上田城がそびえたっていた。
 天守には赤い柵と金の鯱が飾られ、ここから見ても鮮やかさを感じさせる。
「この美しい城下を守りたい。兄上がいつもそう仰っていましたね」
 そう、我が忍びの身でありながら、探偵という行為を行うのは、この城下に、平和の華を咲かせたい。そう願っているからに他ならない。
 我らを産み育ててくれたこの街に、そして我らを頼ってくださる真田様に、一生分の御恩を返したい。それが我の悲願だ。
「御恩を返したいのなら、忍として仕えるのも悪くないのではありませんか?」
 忍はそう言うが、忍びの役割とは何か。それは敵の情報を盗み、敵の主を打ち取る。そうする事で戦乱を治めることも可能だろう。
「だが、その結果悲しむ者も出てこよう」
 敵の城主には、後継ぎとして子を持っていることが多い。そんな幼子は、親が突然この世を去り、平然としていられるか。
 否。誰だって、大切な者がいなくなるのは、どんな者であれ辛いはずだ。福谷夫人がそうであったように、だれだってあの様に悲しむ。
 猿飛家だって、身内の不幸に悲しまぬように訓練はされていない。現頭首も『身内の死を悲しまなければ、遂に人間でなくなってしまう』と仰っていた。
 俺は、命を奪って平和をもたらす方法はしたくないのだ。
「あ、ここですね」
 容疑者の一人がいる金物屋に着いた。
 店はきちんと整備されており、調理器具や工具が規則正しく並べられていた。
「いらっしゃい。若い子が来るなんて珍しいね」
 奥から現れた店主は、明るい笑顔で我らを迎えた。
「初めまして。我々は福谷夫人から依頼を受けて、福谷殿が殺害された件について調べているんです」
 隠すことも無く、忍が代表して自己紹介をする。
 すると店主はため息をついた後、笑顔を剥がして態度を豹変させた
「アイツが死んだのは聞いた。けど俺は何も知らんぜ」
「そうですか? 貴方なら、簡単に刃物を仕入れられるのではありませんか?」
 我が問うと、店主は態度を変えずに聞き返した。
「なんだ? 俺を疑ってるのか? なら聞きたいんだが、アイツを殺して俺になんの得がある?」
「貴方が犯人でないと言うなら、それを証明するためにも、我々に協力してください」
 我が説得すると、店主は奥へ招いた。
「そういや、俺の自己紹介がまだだったな。俺は銀次。叔父貴の金物屋を二年前に継いだ。アイツと決別したのもその時だな」
 銀次殿は白湯を出しながら、我らの聴取に応じた。
「なぜ決別なさったのですか?」
「そらあ、何と言うか、まあ小さいことだ。売り上げの配分とかその辺で何度ももめて、俺の方が痺れを切らして出て行っちまった」
 店先の態度から店主の事を嫌っていたのかと思ったが、どうやらそうでも無いらしい。
 店主の表情から、自分も申し訳なく思っているのが伺える。
「今は、福谷殿の事をどう思っているのですか?」
 忍の問いに、銀次殿は一瞬渋ったと、ゆっくりと口を開いた。
「まあ、正直言って、俺が悪かったとは思ってる。けど気まずかったし、顔を出す勇気がなかった」
 なるほど。動機もないし、彼は関係あるまい。
「では、これから後二人、競争相手の質屋と、福谷殿の弟の元へ行こうと思うのですが、お二方について何か知りませんか?」
「そうだな。弟はともかく、あの店の店主は殺ってもおかしくないだろうね」
「なるほど。ご協力ありがとうございます」
 聞けることは聞いたので、我らは礼を言って店を出る。
「次は質屋の店主ですかね」
 忍も考える事は同じだった様で、揃って質店に向かった。
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