忍ばない探偵

Primrose

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交錯する思考

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 福谷殿殺害事件の捜査をする我らの目の前にあるのは、質屋だったものの残骸だった。
 しかもその残骸は黒く焼け焦げている。
「まさか火災現場がこの質屋だったとは・・・」
 容疑者の経営する質屋が、まさか燃えていたとは。
 ていうか誰もその事を言わないのはどうなんだろう。
 だがこれでは話が聞けないではないか。
「おい、そこに何の用だい?」
 豊満な男が、細い目をさらに細めながら聞いてきた。
「もしや、天野質店の店主殿ですか?」
 忍が尋ねると、男はいかにもといった表情で答えた。
「ああ、私が天野質店の店主、天野輝彦だ」
 天野殿はそう言っているが、肝心の質屋は既に崩壊している。
 そう言えば、今はどこで暮らしているのだろう。
 恐らく家もここにあっただろうが、見たところ不自由はないようだが。
「福谷殿が殺害された件で、二、三ほどお話を聞きたいのですが・・・」
「ああ、すぐそこに借りている部屋がある。そこで話そう」
 以外にも快く応じてくれた天野殿に付いて行き、借家の一室に案内される。
 やはり街二番とはいえ稼いでいるようで、かなり上等な家を借りていた。
「で、彼の事で聞きたい事とは?」
 我らと向き合い、仕事人特有の真剣な眼差しで尋ねる天野殿。
 それに我らも、真剣な眼差しで応じる。
「先程も言いましたが、福谷殿が殺害された件でお話を聞きたく思い、貴方を尋ねることになりました」
 我の説明を聞くと、天野殿は少しの間熟考した後、顔を上げた。
「すみません。協力はしたいのですが、有用な情報はありませんね」
 その言葉に、我らは首をかしげる。
 今まで聞いた者は皆口をそろえて『天野殿なら有り得る』と言っていた。
 なのに当の天野殿は、『心当たりはない』と言う
 何故ここまで食い違いが起きているのだろう。
「申し訳ありませんが、今まで話を聞いた方々は皆、貴方を疑っておりましたが、それについて心当たりは?」
 忍が問うと、天野殿は気まずそうに黙ってしまった。
「何かあるなら教えてください。何も言わなければ、貴方は疑われるままです」
「ですが・・・」
 忍の言葉を聞いても、天野殿は渋っていた。
 だが覚悟を決め、我らに話してくれた。
「実は、私は前科がありまして。既に更生したつもりですが、そのせいで噂をされる事もありまして。恐らくそれを真に受けてしまったのでしょう」
 そう言われて注意深く見ると、天野殿は腕の入れ墨を反対の手で隠していた。
 その入れ墨は犯罪者に入れられるもので、化粧でも隠しにくい。
 そして犯罪者は、更正しても偏見や差別を受ける事がある。
「なるほど。では次に、貴方から見て怪しいのは?」
 忍が問うと、天野殿が逆に質問を返した。
「逆に今までで、誰が容疑者になってる?」
 その問いに正直に答えると、天野殿はため息を吐いた。
「君たち、一番怪しい者を忘れているぞ」
 その言葉の意味が、我らは分からなかった。
 だがすぐに、天野殿が言わんとする人物が理解できた。
「福谷夫人、ですね?」
 俺が確認すると、忍もハッとして顔を上げた。
 確かに、我らは何故気が付かなかったのだろう。状況的に最も犯行が可能なのは彼女だ。
 なのに我らは、第一発見者であるという事、主人の死を悲しむという姿から、自然と容疑者から外してしまっていた。
「そう思うのは何故です?」
「証拠はない。だが、彼女も福谷を殺しうる立場にある。それだけは覚えておいてくれ」
 我らはその後も聞くべきことを聞いて、夕刻となった空の下を歩いていた。
 正直、天野殿の言葉で、いろいろな事が崩れてしまった。
 何かが割れたらしき音、もしかしたらあれは、夫人の作り話なのかも。
 そう思うと、思わず顔をしかめてしまう。
「兄上、顔が強張ってますよ」
 忍の指摘で顔を緩めると、今までの状況を改めて整理する。
「まず、容疑者は夫人を入れて四人。そして金物屋の銀次殿は白に近い。天野殿も同じく。夫人は動機が見えないが、情況的に実行は可能。そして不明なのは、福谷殿の弟」
「ええ、少々厄介ですね」
 犯人が絞れたと思ったら、また犯人が現れる。
 どうやら今回は、予想以上に大きな事になりそうだ。
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