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絡まない糸は無い
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福谷質店の店主夫人に依頼された、福谷質店店主殺害事件。
容疑者を絞るために行った聴取で、起きたのは犯人が増えるという事態。
謎が減って謎が現れる。この様な複雑怪奇な事件は初めてだ。
だがどの様な事件でも、我は解決せねばならない。
それが我、猿飛佐助の使命なのだから。
三人目の容疑者、福谷殿の弟の住む家に来たのだが・・・
「不在ですね」
「ああ」
家は明かりが灯っておらず、戸を叩いても何の返事も無い。
改めて来る事にしよう。そう諦めて帰ろうとした時だった。
「そこの男になんか用かい?」
着物を着たご老人が問う。
見たところ隣の家の住人らしく、この方からも話を聞こうと考え、事情を話す。
「なるほど、お兄さんがねえ。でもまあ、あの男なら殺しかねないねえ」
ご老人は心配というよりも、軽蔑の目で彼の家を見ていた。
「と言うと?」
忍の問いに、ご老人は彼の家を見たまま話した。
「アイツは、少し先の花街に行っては、博打を打ったりしてる野郎だ。家の前で、お兄さんと金を貸せと口論もしてた」
金を貸さずに困っていた。動機は一応ある。
それに店主の弟という立場上、彼を殺して店を継ぐ事も可能ではある。動機から見ればもっとも怪しい人物だ。
「オイ、何の用や?」
そうこうしていると、福谷殿の弟と思われる男が現れた。
「我々は、貴方の兄が殺害された件で、話を聞きに来たんです」
「話す事は無い、帰れ‼」
そう言って彼は家に入ってしまった。
その時、一瞬火消し棒と長い鉢巻が見えた。
「貴方は消防士なのですね。なら、当日にあった火事の事を聞かせてください」
「何の話だ?」
「六日前、福谷質店の近所にあった、天野質店という店が火事にあったんです」
「あんな店知らん。それよりも、アイツを疑った方が良いんじゃないか?」
「何故です? 彼には大きな動機が無いのに」
我が問うと、彼は苛立ちと共に答えた。
「アイツに話を聞いたか? あの野郎は家が燃えても裕福な暮らしをしてやがった。なんでだと思う?」
「金庫を持っていたそうです。その中に金銭を保管していたんだとか。まあ、相当珍しい事ですが」
「なら、アイツの妻子が死んだのは?」
「ほう、初耳です」
彼は俺の反応を見ると、ニヤリと笑みを浮かべて続ける。
「ヤツはほぼ無傷で、妻子は死んだ。おかしいとは思わんのか?」
「・・・なるほど、ありがとうございます」
彼とご老人に礼を言って去る。
それに付いて行く忍は、確信を持った顔だった。
「犯人は弟ですね」
「ああ、天野殿には妻子などいない。恐らく、適当な事を言って騙せるとでも思ったのだろう」
犯人は分かった。
だがなんだろう。何か、何かを忘れている気がする。
依頼人に報告するため、福谷質店に向かうと、福谷夫人が珍しい物を持っていた。
「それは魚ですか?」
我が聞くと、夫人は美しい笑顔を浮かべた。
「ご贔屓にして下さる漁師さんから貰ったんです。この間も主人が嬉しそうに食べておりましたから」
「ご主人も食べたんですか?」
「ええ、それはもう美味しそうに。・・・それで、捜査の進展は?」
夫人に問われた後、我はどう言うか悩んだ。
弟が犯人でほぼ確実だった。だが証拠はない。証言はあるが、確実に彼を犯人と示すものが無い。
それに、我はどこか見落としている気がする。まだ分かっていないことが多い。
「申し訳ない。まだ分かっていないのです。もうしばらく時間を頂きたい」
「そうですか。分かりました」
夫人が部屋に戻ると、我らも家に戻る。
「兄上、何故分からないと言ったのです?」
その後も進展はなく、そろそろ床に就こうとした時だった。
忍は犯人が分かったのに、と不満そうだった。
だが我には、まだ知らねばならないことがある気がして仕方がなかったのだ。
「なんでしょう、騒がしいですね」
外が騒がしく思った忍が、窓を開けて様子を見る。
そうやら外で、酒に酔った男達が騒いでいるようだ。
「全く、迷惑ですね。これでは眠れないではありませんか」
「忍、今なんと?」
忍の呟きで、何かに気が付いた気がした。
「え? いや、迷惑ですね、と」
「違う、その次だ」
「これでは眠れ・・・な・・・あれ?」
忍も違和感を覚えたらしく、顎に手を当てて黙り込んだ。
福谷殿は、、布団の上から刺されていた。つまり、布団をどかしたりせず、眠っている間に殺されたろ言うことだ。だがあの日は、火事に何かが割れた音と、絶対に騒がしかった筈だ。なのに・・・
「「福谷殿は起きていない?」」
そう、あれ程の騒ぎがあっても、福谷殿は起きていない。
「それほどまでに熟睡していたのでしょうか?」
その忍の一言で、複雑に絡まった糸がほどけた。
天野質店の火事。
割れた瓦。
何かの跡の付いた屋根。
そして珍しい魚。
「・・・犯人も、この事件の真相も、何もかも解けた‼」
容疑者を絞るために行った聴取で、起きたのは犯人が増えるという事態。
謎が減って謎が現れる。この様な複雑怪奇な事件は初めてだ。
だがどの様な事件でも、我は解決せねばならない。
それが我、猿飛佐助の使命なのだから。
三人目の容疑者、福谷殿の弟の住む家に来たのだが・・・
「不在ですね」
「ああ」
家は明かりが灯っておらず、戸を叩いても何の返事も無い。
改めて来る事にしよう。そう諦めて帰ろうとした時だった。
「そこの男になんか用かい?」
着物を着たご老人が問う。
見たところ隣の家の住人らしく、この方からも話を聞こうと考え、事情を話す。
「なるほど、お兄さんがねえ。でもまあ、あの男なら殺しかねないねえ」
ご老人は心配というよりも、軽蔑の目で彼の家を見ていた。
「と言うと?」
忍の問いに、ご老人は彼の家を見たまま話した。
「アイツは、少し先の花街に行っては、博打を打ったりしてる野郎だ。家の前で、お兄さんと金を貸せと口論もしてた」
金を貸さずに困っていた。動機は一応ある。
それに店主の弟という立場上、彼を殺して店を継ぐ事も可能ではある。動機から見ればもっとも怪しい人物だ。
「オイ、何の用や?」
そうこうしていると、福谷殿の弟と思われる男が現れた。
「我々は、貴方の兄が殺害された件で、話を聞きに来たんです」
「話す事は無い、帰れ‼」
そう言って彼は家に入ってしまった。
その時、一瞬火消し棒と長い鉢巻が見えた。
「貴方は消防士なのですね。なら、当日にあった火事の事を聞かせてください」
「何の話だ?」
「六日前、福谷質店の近所にあった、天野質店という店が火事にあったんです」
「あんな店知らん。それよりも、アイツを疑った方が良いんじゃないか?」
「何故です? 彼には大きな動機が無いのに」
我が問うと、彼は苛立ちと共に答えた。
「アイツに話を聞いたか? あの野郎は家が燃えても裕福な暮らしをしてやがった。なんでだと思う?」
「金庫を持っていたそうです。その中に金銭を保管していたんだとか。まあ、相当珍しい事ですが」
「なら、アイツの妻子が死んだのは?」
「ほう、初耳です」
彼は俺の反応を見ると、ニヤリと笑みを浮かべて続ける。
「ヤツはほぼ無傷で、妻子は死んだ。おかしいとは思わんのか?」
「・・・なるほど、ありがとうございます」
彼とご老人に礼を言って去る。
それに付いて行く忍は、確信を持った顔だった。
「犯人は弟ですね」
「ああ、天野殿には妻子などいない。恐らく、適当な事を言って騙せるとでも思ったのだろう」
犯人は分かった。
だがなんだろう。何か、何かを忘れている気がする。
依頼人に報告するため、福谷質店に向かうと、福谷夫人が珍しい物を持っていた。
「それは魚ですか?」
我が聞くと、夫人は美しい笑顔を浮かべた。
「ご贔屓にして下さる漁師さんから貰ったんです。この間も主人が嬉しそうに食べておりましたから」
「ご主人も食べたんですか?」
「ええ、それはもう美味しそうに。・・・それで、捜査の進展は?」
夫人に問われた後、我はどう言うか悩んだ。
弟が犯人でほぼ確実だった。だが証拠はない。証言はあるが、確実に彼を犯人と示すものが無い。
それに、我はどこか見落としている気がする。まだ分かっていないことが多い。
「申し訳ない。まだ分かっていないのです。もうしばらく時間を頂きたい」
「そうですか。分かりました」
夫人が部屋に戻ると、我らも家に戻る。
「兄上、何故分からないと言ったのです?」
その後も進展はなく、そろそろ床に就こうとした時だった。
忍は犯人が分かったのに、と不満そうだった。
だが我には、まだ知らねばならないことがある気がして仕方がなかったのだ。
「なんでしょう、騒がしいですね」
外が騒がしく思った忍が、窓を開けて様子を見る。
そうやら外で、酒に酔った男達が騒いでいるようだ。
「全く、迷惑ですね。これでは眠れないではありませんか」
「忍、今なんと?」
忍の呟きで、何かに気が付いた気がした。
「え? いや、迷惑ですね、と」
「違う、その次だ」
「これでは眠れ・・・な・・・あれ?」
忍も違和感を覚えたらしく、顎に手を当てて黙り込んだ。
福谷殿は、、布団の上から刺されていた。つまり、布団をどかしたりせず、眠っている間に殺されたろ言うことだ。だがあの日は、火事に何かが割れた音と、絶対に騒がしかった筈だ。なのに・・・
「「福谷殿は起きていない?」」
そう、あれ程の騒ぎがあっても、福谷殿は起きていない。
「それほどまでに熟睡していたのでしょうか?」
その忍の一言で、複雑に絡まった糸がほどけた。
天野質店の火事。
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そして珍しい魚。
「・・・犯人も、この事件の真相も、何もかも解けた‼」
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