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幸運か悪運か
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翌日、姫野純恋は重い足を上げて学校に来た。
その理由は勿論、昨日の百崎花梨との一件だ。
純恋の触れた者に恋する呪い。昨日彼女に触れた事で発動してしまい、出会って一日も経っていない彼女に恋心を抱いてしまった。
純恋はそんな自分に毎度毎度嫌気がさしていた。一日が終われば呪いはリセットされるが、それでも記憶は残る。訳もなく人を好きになった自分の記憶は、辛く恨めしい物だった。
記憶に苦しみながらも教室に入り、席に着いて身支度を整える。
それからまもなく花梨も入室し、純恋に軽く手を振る。
「おはよう、昨日は大丈夫だった?」
「あ、いや、まあ、うん」
久しく人と話していないからか、ぎこちない返答をしてしまう。
実際大丈夫ではあったが、理由となった彼女に聞かれると何かむず痒い物を感じる。呪いについて話していないから仕方がないと言えば仕方がないのだが。
「あ、消しゴム落ちてるよ」
花梨はしゃがんで何かを拾うと、それを純恋に差し出した。確かに純恋を消しゴムだ。
「あ、ありが……」
それを受取ろうとした時、手が触れてしまわないかと懸念して手を止めてしまう。
純恋の呪いは、例え指先でも地肌で触れてしまえばそれで発動してしまう。そして一日が終わるまでの間、相手に抑えようのない好意を抱いてしまう。昨日は放課後ふだから良かったものの、今触れてしまうと非常に都合が悪い。
「……そこ置いといて」
「? うん」
急な要求を疑問に思いながらも、花梨が机に消しゴムを置く。
そして担任も到着し、ホームルームが始まった。
「―――さて。報告はこれで以上ね。あと、百崎さんと姫野さん、悪いんだけど、資料を運ぶのを手伝ってくれる?」
「分かりました」
担任と共に資料七へ向かい、目的の段ボールを抱える。
「えっと、これで最後ですか?」
「多分そうね。私は先にこれを運んでおくから、貴女達もそれを持って教室に戻ってね」
担任は一足先に戻る中、二人は高所に置かれた資料に苦戦していた。
「そこのパイプ椅子、取ってもらえる?」
花梨は差し出されたパイプ椅子に乗り、資料を引っ張る。
「これを取れば……うわ‼」
バランスの悪いパイプ椅子に乗った結果、花梨は案の定バランスを崩して落ちてしまう。
だが幸いだったのが、その先に純恋がいた事だろうか。
「ちょ……‼」
純恋が下敷きになって受け止める事で、なんとか無事で済んだ花梨。だが彼女を受け止めたという事はつまり、肌で触れたと言う事。
「ん……」
「ごめん、大丈夫?」
そう心配する花梨を、純恋は恋する乙女の様な目で見ていた。頬は赤く染まり、心臓は過剰に動いている。息が荒くなり、視線が外せなくなる。
「あの、本当に大丈夫?」
「……」
長い紫色の髪が乱れながらも、それを気にする程の余裕はどんどんと失われていく。肌で感じる体温、髪や衣服から発せられる香り、そして幼げな容姿。その全てが、純恋の思考を鈍らせていく。
だが端から見れば、頭を打って何かしらの症状だ出たのではと疑う所だろう。花梨もその一人。
「ねえ、本当に大丈夫? 顔赤いよ? 無理してない?」
好きな人間に心配されると、過剰に反応するのが人間の性だ。
「だい、だ、だいじょう、ぶ、れす……」
呂律も回らなくなり、いよいよマズイ事態になって来た。
「ちょっと、はなれて……くれる?」
「あ、ごめん」
花梨が退いても、純恋は立ち上がれそうに無かった。
「大丈夫? 起きれる?」
花梨は純恋に手を差し出す。
それをそっと握ると、なんとか体を起き上がらせる。だがまだ頭は回らず、足元がおぼつかない様子。ふらつく足が崩れそうになると、花梨にもたれかかる。
「おっと、保健室行く? 無理はしないでね」
心配する姿勢を崩さないまま、花梨は純恋に肩を貸す。
「ごめん……」
「大丈夫ですよ。元はと言えば私が悪いし」
そこからなんとか資料を運び、二人は教室に戻る。
「おかえり、遅かったね……て、大丈夫?」
戻った二人、特に純恋は頬を赤らめたままで、まともな状況とは思えない
「いや、私は……」
「すみません、さっき転んじゃって。純恋さんを保健室に連れて行くこで、先に授業を進めてくさだい」
「え、でも……」
「それじゃあ後で‼」
花梨は純恋を引っ張って、そのまま保健室まで連れて行った。
「あら、貴女確か転校生の……百崎さん?」
「はい、でも用があるのは彼女です」
花梨は引っ張って来た純恋を保健室の先生に引き渡すと、そのままベッドへ送った。花梨は残って純恋の様子を見ている事にするらしい。
「別にちょうしわるい訳じゃ……」
「良いの。休んでれば良いの。私も残るから」
是が被でも彼女をベッドに縛り付けたいらしい花梨は、お目付け役を兼ねてここに残ると言う。彼女は相当に面倒見が良いのか、それとも勘違いの罪悪感か。
これ以上は無駄だと感じた純恋は、大人しく眠りにつくことにした。早寝は日々のサボりで培っている為得意中の得意だ。
「そう言えば、まだ純恋さん? の事は、あまり知らないね」
「まあ、出会って初日だからね」
横になりながらも話を聞いておく。
「まあ、君が転校した理由とかも聞いてないけどね」
何気なく純恋が呟くと、花梨は今までに無い神妙な面持ちで黙り込んだ。
「言いたくないなら聞かないけど」
「ああ、いえ、良いよ。信じるか分かんないし」
まるで自分がエイリアンだとでも言いたげな前置きだ。
だが言った方が良いと考えたのか、向き合って口を開いた。
「私は、直接触った人を好きになるんです」
「……え?」
その理由は勿論、昨日の百崎花梨との一件だ。
純恋の触れた者に恋する呪い。昨日彼女に触れた事で発動してしまい、出会って一日も経っていない彼女に恋心を抱いてしまった。
純恋はそんな自分に毎度毎度嫌気がさしていた。一日が終われば呪いはリセットされるが、それでも記憶は残る。訳もなく人を好きになった自分の記憶は、辛く恨めしい物だった。
記憶に苦しみながらも教室に入り、席に着いて身支度を整える。
それからまもなく花梨も入室し、純恋に軽く手を振る。
「おはよう、昨日は大丈夫だった?」
「あ、いや、まあ、うん」
久しく人と話していないからか、ぎこちない返答をしてしまう。
実際大丈夫ではあったが、理由となった彼女に聞かれると何かむず痒い物を感じる。呪いについて話していないから仕方がないと言えば仕方がないのだが。
「あ、消しゴム落ちてるよ」
花梨はしゃがんで何かを拾うと、それを純恋に差し出した。確かに純恋を消しゴムだ。
「あ、ありが……」
それを受取ろうとした時、手が触れてしまわないかと懸念して手を止めてしまう。
純恋の呪いは、例え指先でも地肌で触れてしまえばそれで発動してしまう。そして一日が終わるまでの間、相手に抑えようのない好意を抱いてしまう。昨日は放課後ふだから良かったものの、今触れてしまうと非常に都合が悪い。
「……そこ置いといて」
「? うん」
急な要求を疑問に思いながらも、花梨が机に消しゴムを置く。
そして担任も到着し、ホームルームが始まった。
「―――さて。報告はこれで以上ね。あと、百崎さんと姫野さん、悪いんだけど、資料を運ぶのを手伝ってくれる?」
「分かりました」
担任と共に資料七へ向かい、目的の段ボールを抱える。
「えっと、これで最後ですか?」
「多分そうね。私は先にこれを運んでおくから、貴女達もそれを持って教室に戻ってね」
担任は一足先に戻る中、二人は高所に置かれた資料に苦戦していた。
「そこのパイプ椅子、取ってもらえる?」
花梨は差し出されたパイプ椅子に乗り、資料を引っ張る。
「これを取れば……うわ‼」
バランスの悪いパイプ椅子に乗った結果、花梨は案の定バランスを崩して落ちてしまう。
だが幸いだったのが、その先に純恋がいた事だろうか。
「ちょ……‼」
純恋が下敷きになって受け止める事で、なんとか無事で済んだ花梨。だが彼女を受け止めたという事はつまり、肌で触れたと言う事。
「ん……」
「ごめん、大丈夫?」
そう心配する花梨を、純恋は恋する乙女の様な目で見ていた。頬は赤く染まり、心臓は過剰に動いている。息が荒くなり、視線が外せなくなる。
「あの、本当に大丈夫?」
「……」
長い紫色の髪が乱れながらも、それを気にする程の余裕はどんどんと失われていく。肌で感じる体温、髪や衣服から発せられる香り、そして幼げな容姿。その全てが、純恋の思考を鈍らせていく。
だが端から見れば、頭を打って何かしらの症状だ出たのではと疑う所だろう。花梨もその一人。
「ねえ、本当に大丈夫? 顔赤いよ? 無理してない?」
好きな人間に心配されると、過剰に反応するのが人間の性だ。
「だい、だ、だいじょう、ぶ、れす……」
呂律も回らなくなり、いよいよマズイ事態になって来た。
「ちょっと、はなれて……くれる?」
「あ、ごめん」
花梨が退いても、純恋は立ち上がれそうに無かった。
「大丈夫? 起きれる?」
花梨は純恋に手を差し出す。
それをそっと握ると、なんとか体を起き上がらせる。だがまだ頭は回らず、足元がおぼつかない様子。ふらつく足が崩れそうになると、花梨にもたれかかる。
「おっと、保健室行く? 無理はしないでね」
心配する姿勢を崩さないまま、花梨は純恋に肩を貸す。
「ごめん……」
「大丈夫ですよ。元はと言えば私が悪いし」
そこからなんとか資料を運び、二人は教室に戻る。
「おかえり、遅かったね……て、大丈夫?」
戻った二人、特に純恋は頬を赤らめたままで、まともな状況とは思えない
「いや、私は……」
「すみません、さっき転んじゃって。純恋さんを保健室に連れて行くこで、先に授業を進めてくさだい」
「え、でも……」
「それじゃあ後で‼」
花梨は純恋を引っ張って、そのまま保健室まで連れて行った。
「あら、貴女確か転校生の……百崎さん?」
「はい、でも用があるのは彼女です」
花梨は引っ張って来た純恋を保健室の先生に引き渡すと、そのままベッドへ送った。花梨は残って純恋の様子を見ている事にするらしい。
「別にちょうしわるい訳じゃ……」
「良いの。休んでれば良いの。私も残るから」
是が被でも彼女をベッドに縛り付けたいらしい花梨は、お目付け役を兼ねてここに残ると言う。彼女は相当に面倒見が良いのか、それとも勘違いの罪悪感か。
これ以上は無駄だと感じた純恋は、大人しく眠りにつくことにした。早寝は日々のサボりで培っている為得意中の得意だ。
「そう言えば、まだ純恋さん? の事は、あまり知らないね」
「まあ、出会って初日だからね」
横になりながらも話を聞いておく。
「まあ、君が転校した理由とかも聞いてないけどね」
何気なく純恋が呟くと、花梨は今までに無い神妙な面持ちで黙り込んだ。
「言いたくないなら聞かないけど」
「ああ、いえ、良いよ。信じるか分かんないし」
まるで自分がエイリアンだとでも言いたげな前置きだ。
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