Dark Angel

Primrose

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 神聖歴3024年、7月18日。猛暑の昼間の事だった。
 神と人が共に手を取り合い、長きにわたり共存してきた世界。
 神々は人々に異能チカラを貸し、人々は神々に知恵と技術を教えた。そうやって彼らは、今まで2000年もの間繁栄してきた。
 だがある日、平和に大きく深い亀裂が入ってしまった。
 ある日神に仕える科学者が、核融合に代わる新たなエネルギー生産方法を開発した。
 それは重力を自在に操ることで、発電から兵器転用まで、様々な事に使えると期待されている代物だった。
 だがそれを知った人類は、兵器転用を恐れ、そして技術の独占と装置の強奪を狙い、あろうことか宣戦布告ののち、神々の街を数か所壊滅させたのだ。
 神もそれを受け入れる程優しくはなく、一人一人が戦闘機並みの戦力を有するとされる天使を200人も動員。その圧倒的な戦力を持って、彼らは17の国を落とす事に成功した。
 それが開戦となり、以降4年間、戦争が続くこととなった。



 開戦から4年経った、神聖歴3028年。
 神聖国アトランティスは、死神、天使、神々や魔人といった様々な種族が共存する国であり、この世界で最も進んだ技術を持つとされる国でもある。
 国境は巨大な城壁と大砲がそびえており、自動車や交通機関は全て完全自動運転で制御されていて、貧富の差も殆どない。この国に住む者は皆、笑顔を絶やさない。
 そんな国にすく天使の少女がいた。名前はウリエル。
 金髪に青目で、肌は程よく白い。
 彼女は今年で15才の高校生になるのだが、身長が低いからか良く年下と思われる事がとても多かった。
 その上彼女は、そこまで生活態度が良いわけではない。少々大雑把で面倒くさがりなところがある。その上家事は何もできなというオマケ付き。
 その様に粗暴が悪いせいか、親に全寮制の学校である国立グリトニル学園に入学させられる事となった。
 この国立グリトニル学園が、主に神々や天使といった種族が通う一貫性の学校で、幼稚園から大学まで併設されている。
 この学校はこの国でトップの進学率を誇っており、大企業のトップや政界の重鎮の子も通っている。そしてウリエルもその一人だ。
 エノク家は最も古くから存在している家の一つで、この国で最も有名な家でもある。
 何を隠そう、重力制御装置を作ったのは、ウリエルの叔父なのだ。
 だがその技術は戦火により焼失し、設計図や論文も人類に奪われてしまった。
 それでもエノク家の技術力は凄まじく、彼らがいたからこそ、アトランティスはここまで発展することが出来た。
 だがそんな名家も、ウリエル以外に跡取りがおらず、名門たるグリトニル学園で成長することを願っての事だったのだが、果たしてどうなることやら。
「はあ、体が重い・・・」
 ウリエルは重い足を上げて、校門をくぐる。
 巨人でも楽々入れるほどに大きい。ウリエルと同じように門をくぐる者の中には、死神、天使、巨人、悪魔、小人といった様々な種族が、男女統一の赤い制服を身にまとっていた。
 彼女達は揃って体育館に入っていき、並べられた椅子に座る。
 ウリエルが荷物を置いて椅子に座ると、隣の少女が声をかけてきた。
「君も新入生?」
 少女はウリエルの顔を覗きながら言った。
 少女は東洋の出身なのか、月夜の様な瞳に夜闇の様な黒く輝く髪。女性であるウリエルから見ても、惚れ惚れする容姿だった。
「え、あ、うん」
 突然声をかけられて動揺してしまうが、なんとか返事を返す。
「私は月夜見夜刀つくよみやとのよろしく」
「あ、私はウリエル・エノク。こちらこそよろしく」
 ウリエルの自己紹介を聞くと、夜刀が目を丸くした。
「え、エノクって、あのエノク家の?」
「え、あ、いや・・・うん」
 ウリエルは夜刀の質問にたじろぐ。
 ウリエルは自分の家の事を言われるのがとても苦手なのだ。家族に大した思い出が無く、ただ有名な家というだけで褒められるのにうんざりしていた。
「へえ、すごい。私の家は別に裕福でもないから、羨ましいなあ」
 そう言って目を輝かせる夜刀に、ウリエルは表情を暗くする。
 自分が嫌い、何でもないと思っていることを、彼女は羨ましく思っている。それに対して、ウリエルの中でどこか複雑な感情が渦巻いていた。
「別に、そこまで幸せでもないよ」
「そうなの? ・・・あ、開会式が始まる」
 二人は前を向きなおすと、檀上から生徒が出てきた。
「新入生のみなさん、こんにちは。私は生徒会長のエイル・ヴァルキュリアです」
 生徒会長の自己紹介から始まった、この学校の詳細な説明を、誰一人よそ見せず真剣に聞いていた。
「我々の技術が奪われてからというもの、我々は厳しい生活を余儀なくされました」
 生徒会長の一言に、思わずウリエルが顔をしかめてしまう。
 それに気づいた夜刀が、ウリエルを小声で励ました。
「君のせいじゃないよ、大丈夫」
「でも・・・」
「そんな昔の事気にしすぎると、この先辛くなるだけだよ」
「そう・・・かな・・・」
 夜刀の励ましを聞いても、ウリエルの顔は暗いままだった。
 その後は事務的な内容が続いた後、一端寮に行く運びとなった。
「はい、君の部屋は3階の318号室だよ」
「ありがとうございます」
 寮監に部屋の鍵を受け取り、指定された部屋に向かう。
 大きな荷物は既に運び込まれているので、リュックサックを背負って階段を上る。
 318号室に着くと、鍵を開けて扉を開く。
「あ、初めま・・・て、ウリエルさん?」
「ああ、夜刀さんだ」
 なんと部屋の中にいたのは、入学式で隣に座っていた夜刀だった。
 夜刀は荷解きの手を止めると、ウリエルに駆け寄った。
「偶然だねえ。あ、君の荷物はそこにあるよ」
 そう言って夜刀は、部屋の奥に置かれた荷物の山を指さす。
「あ、うん。ありがと」
 ウリエルは荷物の下に向かうと、夜刀と同じように荷解きを始めた。
 数十分後、荷解きを終えた二人は、一緒に寮と学園の中を回ることになった。
「あ、初等部の子かな」
「ホントだ。この学校大学まであるから、長い間お世話になりそうだね」
「そうだねえ。わあ、綺麗な池」
 二人は庭園に造られた多きな池に感動していた。
 東洋から移植したという松の樹がそびえ、同じく東洋に生息する魚型の魔物が優々と泳いでいた。
「懐かしいなあ」
「夜刀さんって東洋の出身なの?」
「うん、こんな景色を見たのは十年ぶりだなあ」
 そう言う夜刀の表情は、本当に故郷を懐かしんでいるようだった。
 ウリエルは生まれてからずっとこの国で暮らしているため、あまりこういった景色に触れる機会も無いのだ。
 だがそんなウリエルから見ても、この景色はとても美しいと思えるものだった。
 それからも校内を回り、これから寮に戻ろうとした時だった。
「さてと、そろそろ帰ってご飯の仕度を・・・」
「キャー――‼」
 奥から大きな悲鳴が聞こえたのだ。
 それが耳に入った夜刀は、声のした方に走っていった。
「あ、待って!!」
 ウリエルもそれについていく。
 そしてたどり着いた場所で広がる光景に、二人は絶句した。
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