The another face

Primrose

文字の大きさ
1 / 4

破れた覆面

しおりを挟む
 怪物の存在が科学的に証明されたのは、中世の魔女狩りが流行した時代だった。
 というよりも、怪物―――魔物が実証されたからこそ、その疑いがある魔女を処刑していった。
 怪物は人の姿を取り、条件を満たすと信の姿を表す。
 《人狼ウェアウルフ》、《吸血鬼ヴァンパイア》、《腐人ゾンビ》、《魚人マーマン》、そして《大蜥蜴ドラゴン》と、怪物は世界各地にいる。
 だがある日、かの有名なアーサー王は言った。
『彼らといがみ合わずに、手を取って助け合おう。後世にこの様な恥ずべき歴史を残してはならない』
 各国、そして人と怪物は手を取り、一つの『人類』として結束した。
 それから四百年。未だに差別思想は消えていないが、彼らと我々は手を取り合い、平和に暮らしていた。
 いや、平和に暮らしているはずだった。



 皮肉な事に、この自動掃除機は、戦争に使われた地雷探知機が元となっているらしい。
 戦争で使われた物が再利用され、俺たちの平和な暮らしに使われている。どうやら、争いで国が栄えるのは本当の事らしい。
 だが今は、魔物との争いが終わり、国々は平和を形成しつつある。
 最近は魔物からも著名人が現れつつあり、学校でも吸血鬼のタレントが話題になっている。
 そんな中、俺―――関崎王牙は、一人でずっと本を読む毎日を送っていた。
 友達は作ろうとしたが、コミュ障である俺に話しかけられても、周りにとって俺は巨大なゴキブリ扱いされているらしく、軽蔑の眼差しで見られていた。
 それが何年も続けば、慣れて一人っきりのなろうと考えるのは当たり前なのだろう。
 周りで恋人が出来ても我関せずを貫き、羨ましいという感情を押し殺す毎日にも慣れてしまっている。それに虚しさを感じるのは当たり前なのだろうか。
 まあ、俺は人とは違うから、仕方がないと言われれば仕方がないのかもしれない。
 体育の授業中も、一人でやるか先生と組むかの二択に絞られていた。
 そこまでは普通だったが、この日は他とは違った。
 正門から少女が侵入して、特殊警察のものらしきヘリから逃亡していた。
『逃げても無駄だ。お前はすでに包囲されている』
 ヘリから高圧的な声が届くと、少女は足を止めてあたりを見渡す。
 すると少女が止まった隙を付いて、あちこちから装備を身に着けた大人が侵入する。
 情況を見るに彼女は魔物で、何か不詳事をやらかして、対魔物のエキスパートである特殊警察に追われているのだろう。
「私が何をしたって言うんですか」
 そう思っていたが、少女の言動にどこか違和感がある。
 もしや少女は、何も法を犯してはいないのではないのか。軍は理由も無く、ただ魔物であるから少女を追っているのではないか。
「お前を捕らえるのに理由がいるのか?」
 隊長らしき男の発言で、その疑いは決定的になった。
「面倒ごとは嫌いなんだけどな」
 俺は仕方なく、隊長らしき男に近づいていった。
 男もそれに気づいて俺に話しかける。
「なんだお前、お前もコイツの仲間か?」
「いいや、初めて会った。でも一つ聞きたいんだが、彼女を追う理由は?」
「理由がいるのか?」
 さも当然の様に答える男に、俺はため息をついた。
 こいつらは相当腐っているらしい。
 俺は頭を掻きむしると、片手で男を吹き飛ばす。
 その行動に特殊警察は俺に銃を向ける。
「あんたらは本当に腐ってるな。本当に」
 俺の言葉が終わると、風が吹き荒れ、嵐が起き、俺にも異変が起こった。
 皮膚から体毛が現れ、体の形が変わっていく。
 それはまるで《大蜥蜴》の姿の様で、その内完全に《大蜥蜴》に変わっていった。
『死にたくなければ逃げろ』
 俺は咆哮と共に、特殊警察に警告する。
 それだけで特殊警察は全員逃げていったが、少女はそのまま残っていた。
『ここから離れたいなら、背中に乗って』
 少女はそれに応じ、ゆっくりと背中に乗った。
 俺はそれを確認すると、翼を大きく広げて飛翔した。
 それから少し飛んで、山中の開けた場所に降りた。
 少女が下りたのを確認すると、今度は《大蜥蜴》の体が霧に変わって消滅した。
「あ、あなたは一体・・・」
 少女が恐る恐るといった表情で聞く。
 それい俺は、正面を向いて真剣に答えた。
「俺は《覆面アナザー》、その一人だよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...