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冷酷な英雄
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王牙達が逃亡して数時間。特殊警察の大隊長―――犹守判造が、運動場に到着した。
「犹守大隊長、お疲れ様です」
隊員の挨拶に応じながら、調査員の集まるテントに向かう。
中は巨大な機材で囲まれており、数人の調査員が現場の調査をしていた。
「状況は?」
犹守の問いに答えるのは、この場を仕切る主任研究員の男だった。
「犹守さん、こんな魔物初めてだよ」
主任の言葉に、犹守は目を細める。
「珍しいな。主任がそんなに曖昧な事を言うとは」
「いや、正直なんで存在してるのかも分からない位だ」
主任は資料を見せて、これまでとは全く違う事案であることを強調する。
「と言うと?」
犹守の質問に、主任はモニターを示しながら解説する。
「まず監視カメラの映像と生徒の証言を纏めたところ、少年は人間から体毛のある《大蜥蜴》に変異したとの事だ」
その言葉に、犹守も驚愕の表情を浮かべる。
人間から変異しただけなら、《人狼》の例があるのでそこまで気にはならない。だが大蜥蜴は本来、硬質の鱗に覆われている。それが今回の《大蜥蜴》を覆っていたのは、なんと体毛だったというのだ。
「突然変異では?」
犹守の意見に、主任は首を横に振って答える。
「ただ体毛が生えただけなら、突然変異で片付けられたが、コイツは人の姿から変異したんだ。突然変異とは思えん。それに、人間の形態で分隊長を吹き飛ばしたそうだ」
「あの大男をか? 信じられんな」
映像を見ている犹守に、主任が気まずそうに自分の見解を出す。
「何の実証も無いし、これは研究者の戯言として聞いてくれ」
「? ああ」
犹守が頷いたのを確認すると、主任は自分の仮説を語り始めた。
「コイツは恐らく、人工的に作られた魔物だ」
その一言に、犹守どころかテント内の全員が声を上げた。
だが主任はそれを無視して、話を進める。
「恐らく人間から《大蜥蜴》に変身したのは、《人狼》の変異能力を利用したものだろう。体毛も《人狼》から来たものだと思われる」
《人狼》の変身能力を使えば、人から別の何かに変異する事は可能かもしれない。だがそんな物が自然発生する訳がない。
となると考えられるのは、遺伝子操作を利用した人造人間、《複合生物》であると思われる。
そう主任が締めくくる頃には、テント内は誰も動かずに黙り込んでいた。
言い出した主任も、あり得ないことを言ったと黙ってしまう。
だがその沈黙は、犹守によって崩される。
「可能性はあるのか?」
そう問われた主任は、苦虫を嚙んだような顔で答えた。
「それなりのモノを揃えれば、可能ではある」
その答えを聞いた犹守は、顎に手を当てて熟考する。
その後結論を出した犹守は、更に主任に尋ねる。
「我々でも作れるか? その《複合生物》は」
それを聞いた主任は、異常としか思えない犹守の言葉に、一応言葉を返す。
「ああ、時間と死亡率を度外視すれば・・・可能だ」
「ならやれ。特殊警察の被収容者を使えばいい」
再びの異常な言葉に、主任は目ふぁ飛び出そうな程見開いた。
犹守の命令は、国際法を大きく逸脱した違法行為だ。
「犹守さん、アンタは俺たちに国際法を犯せと?」
「ああ」
さも当然の事の様に肯定する犹守に、主任は頭を抱えて考える。
主任たちの今の任務は、《大蜥蜴》に変異した少年の逮捕だ。そして少年は、並みの隊員では太刀打ちが出来ない。それこそ、少年と同じ存在を創らなければならない程に。
「・・・分かった」
主任が賛同すると、犹守はテントを出て基地に戻った。
「主任、良かったんですか?」
研究員の一人が尋ねると、主任は頭を抱えた。
「良い訳ないだろう。だが、あの少年を逮捕するためには、彼の言う方法を取るしかない」
こうして、たった一人の少年を捕らえるために、怪物の軍団が創られる事になった。
「犹守大隊長、お疲れ様です」
隊員の挨拶に応じながら、調査員の集まるテントに向かう。
中は巨大な機材で囲まれており、数人の調査員が現場の調査をしていた。
「状況は?」
犹守の問いに答えるのは、この場を仕切る主任研究員の男だった。
「犹守さん、こんな魔物初めてだよ」
主任の言葉に、犹守は目を細める。
「珍しいな。主任がそんなに曖昧な事を言うとは」
「いや、正直なんで存在してるのかも分からない位だ」
主任は資料を見せて、これまでとは全く違う事案であることを強調する。
「と言うと?」
犹守の質問に、主任はモニターを示しながら解説する。
「まず監視カメラの映像と生徒の証言を纏めたところ、少年は人間から体毛のある《大蜥蜴》に変異したとの事だ」
その言葉に、犹守も驚愕の表情を浮かべる。
人間から変異しただけなら、《人狼》の例があるのでそこまで気にはならない。だが大蜥蜴は本来、硬質の鱗に覆われている。それが今回の《大蜥蜴》を覆っていたのは、なんと体毛だったというのだ。
「突然変異では?」
犹守の意見に、主任は首を横に振って答える。
「ただ体毛が生えただけなら、突然変異で片付けられたが、コイツは人の姿から変異したんだ。突然変異とは思えん。それに、人間の形態で分隊長を吹き飛ばしたそうだ」
「あの大男をか? 信じられんな」
映像を見ている犹守に、主任が気まずそうに自分の見解を出す。
「何の実証も無いし、これは研究者の戯言として聞いてくれ」
「? ああ」
犹守が頷いたのを確認すると、主任は自分の仮説を語り始めた。
「コイツは恐らく、人工的に作られた魔物だ」
その一言に、犹守どころかテント内の全員が声を上げた。
だが主任はそれを無視して、話を進める。
「恐らく人間から《大蜥蜴》に変身したのは、《人狼》の変異能力を利用したものだろう。体毛も《人狼》から来たものだと思われる」
《人狼》の変身能力を使えば、人から別の何かに変異する事は可能かもしれない。だがそんな物が自然発生する訳がない。
となると考えられるのは、遺伝子操作を利用した人造人間、《複合生物》であると思われる。
そう主任が締めくくる頃には、テント内は誰も動かずに黙り込んでいた。
言い出した主任も、あり得ないことを言ったと黙ってしまう。
だがその沈黙は、犹守によって崩される。
「可能性はあるのか?」
そう問われた主任は、苦虫を嚙んだような顔で答えた。
「それなりのモノを揃えれば、可能ではある」
その答えを聞いた犹守は、顎に手を当てて熟考する。
その後結論を出した犹守は、更に主任に尋ねる。
「我々でも作れるか? その《複合生物》は」
それを聞いた主任は、異常としか思えない犹守の言葉に、一応言葉を返す。
「ああ、時間と死亡率を度外視すれば・・・可能だ」
「ならやれ。特殊警察の被収容者を使えばいい」
再びの異常な言葉に、主任は目ふぁ飛び出そうな程見開いた。
犹守の命令は、国際法を大きく逸脱した違法行為だ。
「犹守さん、アンタは俺たちに国際法を犯せと?」
「ああ」
さも当然の事の様に肯定する犹守に、主任は頭を抱えて考える。
主任たちの今の任務は、《大蜥蜴》に変異した少年の逮捕だ。そして少年は、並みの隊員では太刀打ちが出来ない。それこそ、少年と同じ存在を創らなければならない程に。
「・・・分かった」
主任が賛同すると、犹守はテントを出て基地に戻った。
「主任、良かったんですか?」
研究員の一人が尋ねると、主任は頭を抱えた。
「良い訳ないだろう。だが、あの少年を逮捕するためには、彼の言う方法を取るしかない」
こうして、たった一人の少年を捕らえるために、怪物の軍団が創られる事になった。
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