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第三章 復讐編

第124話 好奇心は猫をも殺す

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 相手が貴族だろうが、皇族だろうが、そして皇帝だろうが、心さえ折ればその後は問題はない。大切なのは己の思うがままに振る舞い、鬼畜、傲慢と言われようが気にしない。

 それが悪役の務めであり、ロールプレイの鉄則だ。

「どんな事があっても国の王には手を出さないと思ったか? 相手はスラム街に巣食う悪党共の親玉だ、護衛を控えさせるのなら目に見えるところに置くべきだ」

 そもそも、認識が間違っている。一国の王ならば命を狙われる危険を自ら作ってはいけないし、信頼関係を全く構築していない相手と密室で会うなど正気を疑うレベルだ。

「ど、どうするつもりだ……」

「口の聞き方に気をつけろ、そして言っただろ?」

 クロはノブナガに向けて手を翳す。

「グラビティ」

 バキッ!

「ぐうっ!」

 ノブナガの座っていた椅子が重力により壊れ、身体が床に落ちる。

「頭が高けぇ」

 魔法により無理矢理平伏させると頭を踏みつける。

「陛下! クロ殿! 我々はスラム街に対して今後一切干渉はせぬ! 陛下を……ノブナガ様を殺すのは!」

「ベンゲル殿、そうは言うがこのケジメはどう付ける? 俺は一国の王に刃を向け、頭を踏みつけなければならない程の怒りを与えられたのだよ?」

「……十分ではないかっ! 頭髪を剃られ、権威も尊厳も踏み躙られ平伏している! これ以上の罰とは!?」

「足りない」

「はっ?」

「足りない」

「しかしっ!」

【うるさいなあ~もう食べちゃう?】

「や、やめろ!?」

 ヴィトはベンゲルの首筋に歯を突き立てる。

「ヴィト、下がってろ」

 ヴィトは残念そうにベンゲルを解放し下がる。

「そ、そうだ!? テレサ! テレサを貴様にくれてやろう! これで貴様も皇族の仲間入りだ! こ、これ以上の褒美はないだろう?」

 ノブナガは頭を踏みつけられながら、見当違いな考えでさらにクロをイラつかせる。

「三度目だ」

 クロは怒りにまかせ、ノブナガ頭をさらに強い力で踏みつける。

「や、やめっ! つ、つぶれ……」

「渾身の力で踏み抜こうとした時、ベンゲルがクロの足にしがみ付き懇願する。

「どうか! どうか収めてくだされ!」

「そこまで庇うほどの価値がある男か?」

「貴殿の言いたい事は良くわかる、分かるがこれでも帝国を治める皇帝なのだ!」

(引き際か? だが、織田信長を騙った罪は大きい)

 織田信長かもしれないというワクワク感を台無しにした事は万事に値する。

「皇帝か……だから? 死は皆に等しく訪れるだろ? さあ神に祈れ!」

 クロは剣を大きく振りかぶり、ノブナガに向け振り下ろす。

「やめてくれっ!」

 ガキンッ!

「そこまで!」

「誰だお前」

 振り下ろした剣は突然現れた男により防がれた。

「誰でもよいだろう」

「良くねえよ」

 剣を切り返し、鍔迫り合いになる。

「ミスミ殿!」

「ノブナガ殿を……」

 突然現れた男はベンゲルにノブナガを安全なところへと指示をし、クロに対して何度も切り結ぶと距離を取る。

「侍か」

 この世界には不釣り合いの着物を着こなしたミスミという男は、日本刀を携え居合の構えを取る。

「いざ尋常に!」

(全く……ノブナガの偽物が出たと思ったら、今度は侍の異世界人かよ!)

「ノブナガ殿には行き倒れた拙者を手厚く保護して下さった恩義がござる、これ以上は命のやり取り! 御覚悟を!」

 ミスミという名には覚えがない。無名の武士が迷い込んだのだろう。

「ほう……居合術か」

 部屋に緊張が走る。

(侍かっけぇ! 一宿一飯の恩義に命をかけるか……天晴れだな)

「興が削がれた、今回はあんたのその美しい大和魂に免じて引こう」

「其方とは違う形で出会いたかったでござるな」

 ミスミは警戒を解き、柄から手を離す。

「純粋さが眩しくて吐き気がするわ」

 クロは亜空間をミスミの周りに展開し、刃の嵐を降らすと、ふいをつかれたミスミに無数の刃が身体を貫く。

「卑怯なっ! それでも武士か!」

ミスミは膝から崩れ落ちる。

「武士じゃねえよ、ただの悪い人だ」

「無念っ!」

「武士の情けだ介錯してやろう! 武士じゃないけど」

「下郎の世話にはならぬわ!」

 ミスミは震える手で脇差しを抜き、喉を一突きし絶命した。

「お見事!」

 クロはそのまま首を落とすことはせず、開いた目を手で閉じた。これは武士に対するクロなりの敬意だ。

「さて、皇帝よ……皇帝?」

 ノブナガはヴィトにより逃げ切る事は叶わず、黒い念糸のような物で二人を拘束していた。

「もが、もがもがもが! もがが……」

「良かったな皇帝、ミスミという男の武士の一分で命を拾ったぞ?」

 ノブナガとベンゲルは拘束をされながらも安堵し、涙を流した。

「俺と対峙して命を拾った事を感謝しろ! ヴィト行くぞ」

【主ぃ~待って~】

 クロとヴィトは窓を開け放ち、外へと飛び降りた。

「あっ! 畜生! 暗黒龍飛翔天河閃を見せるの忘れてたぁぁぁぁ!」

 クロの無念の叫びが、夜の城に響き渡る。

 クロが去るのを見届けたファルマルは、二人をヴィトが作った念糸のようなモノを腰に付けた剣で切り裂くと、一先ず自身を落ち着かせるべく配膳されていた水を一飲みする。

「ハァハァハァ! 誰が陛下を!」

 ノブナガはクロに刺された箇所から血がとめど無く流れ、瀕死の状態になっていた。

「これを」

 ファルマルが手持ちのポーションをノブナガに与え何とか一命を取り留めた。

「ファルマル! 貴様はなぜ動かなかった!」

 一連の騒動の最中、ファルマルは微動だにせずことの成り行きを見守っていた。実の父が殺されかけているのにも関わらず、止めにも入らない息子にノブナガは苛立った。

「父上、俺が動いたところで状況は変わりません。寧ろ悪化していたどころか命はなかったでしょう。結果的には命を拾いましたが、その場合俺は無駄死にです」

「……貴様!」

 自業自得とは言え、ファルマルに対しての憤りを抑える事が出来ない。

「あれを殺せる者……」

「陛下! あれは関わるべきではありません! ミスミ殿ほどの手練が呆気なく殺され、部屋に仕込んでいた暗部の者も、貴重な鑑定スキル持ちの者も無慈悲に葬られてもまだわかりませんか!?」

 ベンゲルからの諫言にぐうの音も出ないノブナガだった。

 好奇心は猫をも殺す

 この日を境に、アースハイド帝国皇帝ノブナガは一気に老け込み、皇帝の座から降りる事になるが、それはまた別のお話。
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