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第13話 『トレーニングゴースト』
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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第13話
『トレーニングゴースト』
とあるトレーニングジム。そこに二人のマッチョがやってきていた。
「パイセン、なかなか良い筋肉ですね」
「そうだろォ、だが、お前の筋肉もなかなかだぞ。車がぶつかってこようと、その筋肉なら無傷なんじゃないか?」
「ハッハッハ~、流石に車には敵いませんよ。しかし、ライオンになら勝てる気がしますけどね!」
「どこの格闘技者だよ」
二人はお互いの筋肉を褒め合いながら、ダンベルの並べられているエリアに向かう。
どのダンベルで筋トレをしようかと選んでいる中、後輩があるものを発見した。
「パイセン、このダンベルお札してありますよ」
「ん、本当だな」
そこには異質なオーラを放つお札の貼られたダンベルが置かれていた。
「トレーナーさん。このダンベルはどうしたんだ? 前回はなかったよな」
先輩が近くにいるトレーナーに話しかけてダンベルのことについて質問をする。すると、トレーナーは首をかしげる。
「なんだ、このダンベル。うちのじゃないな?」
「え、そうなんですか?」
トレーナーはダンベルを見ると、そこに書かれているマークに注目した。
「これ、ナドキエのロゴだろ。うちはジェイナス製の道具だけで揃えてるから、ナドキエの製品はないはずなんだ」
それを聞いた後輩は不思議がる。
「じゃあ、なんでこんなところに?」
「さぁ、誰かの忘れ物なのか。ま、そのうち持ち主が持って帰るだろ。こうやって置いてあるんだし、興味があれば使ってみれば」
トレーナーはそう告げた後、他の会員の元へとアドバイスをしに向かった。
「パイセン、どうします?」
「今日はもう使うの決めてるしな」
「俺もです。じゃあ、そのままにしておきますか」
それから数日。そのダンベルの持ち主は現れることはなかった。
最初は持ち主に遠慮して使われていなかったダンベルだったが、いつしかそのことも忘れられて使う会員達が現れる。
だが、
「トレーナーさん、なんだか最近人少なくないですか?」
後輩がトレーナーに聞くと、トレーナーは少し悩んだ後、事情を説明する。
「それが最近、例のダンベルを使った会員の方が次々と倒れていて、噂だとあれは呪われているダンベルだってぃれてるんだ……」
「例のダンベル?」
「持ち主不明のダンベルだよ。ほら、あそこにある」
トレーナーがそう言ってダンベルの置いてある場所を見る。するとそこでは先輩がそのダンベルを持ち上げていた。
「パイセン!?」
「いやー、悪くないな、このダンベル。良い具合に筋肉をいじめられる」
後輩とトレーナーは先輩の元へと駆け寄る。
「呪いのダンベル、使っちゃったんですか……」
「呪いのダンベル?」
トレーナーは先輩にさっきと同じ説明をした後、付け足しの情報を加える。
「そのダンベルを使った人は、その夜に悪夢を見て。一週間後には筋肉が全て死滅するって噂です」
「なっ!? 俺の筋肉が死滅する!?」
先輩はショックを受けながらダンベルを上下させる。
「パイセン、続けて大丈夫なんですか?」
「俺の筋肉が死滅するわけないだろ。大丈夫だよ、ハッハッハー!!」
「楓さん、それはなんですか?」
「あ、リエちゃん。これはね」
楓ちゃんはそう言って家から持ってきた筋トレ道具をリエに見せる。
「こうやって腕の筋肉を鍛える道具なの」
「私もやってみたいです!」
「良いよ」
楓ちゃんは一番軽そうな道具をリエに渡すが、リエは力を入れているが全然動かない。
私は冷蔵庫から棒アイスを咥えて二人の元に戻ってきた。
「楓ちゃん、いつもそんなに持ち歩いてるの?」
「いえ、今日は部活休みだったので、持ってきただけです」
私はアイスを食べながらソファーに座る。
「あれ、休みだったの? 休日で部活ない日は朝から来るのに、今日遅かったじゃん」
「それはですね~」
楓ちゃんは床に置いてあるバックの方へと行き、中をゴソゴソと漁り出す。
「これを買ってきたんです!」
楓ちゃんの手には最近テレビのCMでよく見かける高級な猫缶があった。
それを見たリエが筋トレ道具を元あったテーブルの上に置いて反応する。
「あ、それ知ってます! 旨旨ですね!」
楓ちゃんの持つ猫缶をリエもCMで見たことあるようで興味を持つ。
「それって美味しいんですかね?」
「食べてもらって感想聞かないとね!」
楓ちゃんは猫缶を手に玄関の方を見る。玄関の床では黒猫が平べったくなって寝っ転がっていた。
「師匠~、猫缶買ってきたんですけど、食べますかー?」
黒猫は寝っ転がったまま、ダラけた感じで答える。
「俺じゃなくてミーちゃんに聞けよ」
「師匠だったら、ミーちゃんの気持ち分かりますよね。聞いてみてください」
「……しょうがねーなー。ミーちゃん、飯食うか?」
楓ちゃんに説得されたタカヒロさんが自分の身体の中にいるミーちゃんに聞く。しばらくすると解答があったようで、
「今いらないらしいぞ」
「そうですか」
ミーちゃんに断られた楓ちゃんは残念そうに猫缶を台所の棚の上にある段ボールの中にしまう。
「楓ちゃん、立ってるならついでにこれ捨てて」
私は食べ終わったアイスの棒を楓ちゃんに渡す。
楓ちゃんは私に渡されたゴミを台所にあるゴミ箱に捨てる。
「あ、楓さん、私もアイス欲しいです」
立っているのを良いことにリエも楓ちゃんにお願いする。
楓ちゃんは文句ひとつ言わずに、冷蔵庫を開けてリエと自分の分のアイスを持って、戻ってくる。
そしてリエにアイスを渡すと、リエの座る席の反対側にある椅子に座ってアイスを食べ始めた。
「そーいえば、楓ちゃん。この前の新聞部の子はどうなの? まだ怖がってるの?」
私はソファーの背もたれに寄りかかり、楽な体勢になりながら楓ちゃんに聞いた。
「石上君はあれ以降幽霊の存在は信じるようになったみたい。怖がりも治ってきて、カメラを持って校内を駆け回ってたよ」
それを聞いたリエが楓ちゃんに聞く。
「それじゃあ、また楓さんを付き纏ってたり……」
「う~ん、今のところはないかな。読者の求める記事を作るのがジャーナリストの務めだって、今は心霊じゃなくて別のものを追ってるみたい」
「別のもの? なんなんですか?」
「さぁ? 僕は校内新聞読まないし、僕達に関係がなければ、問題はないかな」
「それもそうですね」
そんな会話をしていると、インターホンが鳴らされて外から声が聞こえる。
「すみません!! 助けてください!!」
男性の怯えた声。結構ヤバい状況で依頼に来たのだろうか。
二人はアイスを食べてるし、私は立ち上がって玄関の方へと向かう。
「はいはーい、今出ますよ」
私が玄関に向かうと、黒猫は立ち上がって靴箱を経由して私の肩に飛び乗る。
「なんで乗るのよ……」
「肩に黒猫乗ってた方が雰囲気出るだろ。それに俺も依頼人の顔見れるし」
ちょっと重たいが、タカヒロさんの言う通り、雰囲気は出る。
私は黒猫に言いくるめられて、そのまま玄関の取手に手をかけて開けようとする。
そのタイミングで扉の向こうから聞こえる。
「俺の筋肉が、俺の筋肉が来週に死滅してしまう!!」
震える男性の声でそんな言葉が聞こえてきた。
私は取手を握りしめたまま、肩に乗っている黒猫を見る。すると、黒猫のコチラを見ていたようで目があった。
「ねぇ、今のどういうこと?」
「それは俺が聞きたい」
「…………」
「とにかく開けてみろ」
私はゆっくりと扉を開ける。そして扉の先には……
「俺の筋肉を救ってください!!」
「パイセン、泣かないでくださいよ。大丈夫です。きっと筋肉は助かりますよ!」
そこには二メートル近い身長のタンクトップを着たマッチョが二人立っており、一人は鼻水を流しながら泣いており、一人はそれを慰めていた。
「何この状況……」
「だから俺に聞くな……」
二人のマッチョを事務所に入れて、二人のパイプ椅子に座らせる。椅子が足りなかったので、私は台所の冷蔵庫の裏にしまってある椅子を取り出して二人の反対側に座った。
「それで事情をお聞きして良いでしょうか?」
黒猫を肩に乗せた状態で私は聞く。すると、マッチョの後輩が答えた。
「それがですね。俺達の通っているジムに不思議なダンベルがありまして、そのダンベルを使うと呪われるという噂があるんです」
また呪い系か……。前回は怪人の呪い。連続で呪い系の依頼が来るなんて、バランスが悪すぎないだろうか。
「呪いのダンベルですか。どういったことが起きるんですか?」
「そのダンベルを使うと、一週間後に筋肉が死滅します」
「え、今なんて?」
「一週間後に筋肉が死滅します」
私は首を動かし肩の上にいる黒猫を見る。黒猫も目を丸くしている。
筋肉が死滅するってどういうこと!?
後輩が説明を終えると、先輩が身体を丸くして泣き始める。
「うおおおおおおおおおおお!! 俺の筋肉よォォォォォ、お前達がいなくなるなんて、嫌だァァァ」
後輩は泣き喚く先輩を宥めながら依頼内容を告げる。
「パイセンはそのダンベルを使ってしまったんです。どうか、パイセンの筋肉を助けてあげてください!!」
「筋肉を助けろって……まぁ、依頼だからやるしかないけど」
先輩が泣き止むと、台所で飲み物の用意をしていた楓ちゃんがお茶を持ってやってくる。
「どうも。パイセン、お茶飲んで落ち着いてくださいね」
「うん」
先輩がお茶を啜る中、楓ちゃんと一緒に宙を浮いてコチラの様子を見に来たリエに聞く。
「これって本当に呪い? 筋肉がーっとか聞いてると、ふざけてるようにしか聞こえないんだけど」
「呪いですよ。あのマッチョの方の一人から霊力を感じます。完全に呪われてますね……でも、気になるのは……」
リエはそう言うとマッチョの二人が持ってきた荷物の上まで飛んでいく。そしてその荷物の真上に着くと、
「この中からもっと強力な霊力を感じますよ。その呪いと同様の霊力を」
「それってまさか……」
リエの話を聞いて私は依頼人の二人に聞く。
「その呪いのダンベル持ってきてるんですか!?」
「え?」
後輩の方はキョトンとした顔で困ったような返事をした。しかし、お茶を飲み終えた先輩はおっとりした顔で
「ええ、持ってきましたよ」
と答えた。
「パイセン!? 何やってんですか!! あれは危険だから捨てるんじゃなかったんですか!?」
「その予定だったんだが、なぜか捨てられなくて、気づいたら持ってきていてたんだ」
それを聞いたリエは小さく呟く。
「誘導されましたね」
「リエちゃん、どういうこと?」
お盆を脇に挟んだ楓ちゃんが依頼人にバレないように小さな声でリエに聞く。
「呪いの元はより強い怨念ってことです。呪ったものを誘導して、さらに呪いを広めようと動く、この手の呪いは厄介ですよ」
リエの説明を聞き、私は依頼人にお願いをする。
「そのダンベルを見せてもらっても良いですか?」
「はい、分かりました」
先輩は持ってきたバックの元へと行くと、しゃがみ込んで中からダンベルを取り出した。
10キロのダンベルが二本。銀色でしっかりとした作りのものだ。しかし、不自然なものが貼られていた。
ダンベルの中央にある持つ部分。そこに巻かれるようにお札が貼られていた。大量のお札が二本ともにギッチリと貼られている。
そのダンベルを先輩がテーブルまで持ってきて置く。近くで見ると私でもはっきりと分かった。
これには不気味な力が宿っている。
「なんでこんなダンベルを使ったんですか?」
「引き寄せられるように……使っちゃったんです」
ダンベルを見て分かった。この依頼人が言っていることは事実だ。
不気味であるが、なぜか近づきたくなる不思議な魅力を感じる。これがリエの言う呪いの効果なのだろうか。
「そのダンベルを使った夜です。変な夢を見たんです」
「変な夢?」
「見知らぬジムで筋トレをしている男性が、動けば動くほど筋肉がなくなって痩せていくんです。そして俺に気づくと、俺のことを指差して…………そしたら俺の同じように痩せていったんです」
「何かのメッセージかしら……」
私はテーブルの上で逆さになってダンベルを凝視しているリエに聞く。
「そうですね。その可能性が高いです」
私はテレビの方を見て視線を送る。それを見たリエが察して答えた。
「この前みたいに映してですか。それは無理ですね。この前の怪人さんは一人相手に取り憑いていたので、簡単に引き摺り出せました」
リエはフラフラと浮いて、依頼人の頭の上を浮遊する。
「今回は取り憑くというよりも呪いです。呪いをかけた本人を探して、その根本を解決しないことにはこの呪いを打ち消すことはできません」
「そう、かなり厄介なのね……」
私がそうリエに返すと、その声が依頼人にも聞こえたのか不思議な顔をする。
「ゴホン、なんでもないですよ。……依頼は引き受けましょう。しかし、少々時間がかかるよう……かかります。このダンベルはこちらで預かるので、今回は解散になります」
私が立ち上がると、依頼人も立ち上がる。
「そうですか。どうか、俺の筋肉を救ってください」
「はい、お任せください」
著者:ピラフドリア
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とあるトレーニングジム。そこに二人のマッチョがやってきていた。
「パイセン、なかなか良い筋肉ですね」
「そうだろォ、だが、お前の筋肉もなかなかだぞ。車がぶつかってこようと、その筋肉なら無傷なんじゃないか?」
「ハッハッハ~、流石に車には敵いませんよ。しかし、ライオンになら勝てる気がしますけどね!」
「どこの格闘技者だよ」
二人はお互いの筋肉を褒め合いながら、ダンベルの並べられているエリアに向かう。
どのダンベルで筋トレをしようかと選んでいる中、後輩があるものを発見した。
「パイセン、このダンベルお札してありますよ」
「ん、本当だな」
そこには異質なオーラを放つお札の貼られたダンベルが置かれていた。
「トレーナーさん。このダンベルはどうしたんだ? 前回はなかったよな」
先輩が近くにいるトレーナーに話しかけてダンベルのことについて質問をする。すると、トレーナーは首をかしげる。
「なんだ、このダンベル。うちのじゃないな?」
「え、そうなんですか?」
トレーナーはダンベルを見ると、そこに書かれているマークに注目した。
「これ、ナドキエのロゴだろ。うちはジェイナス製の道具だけで揃えてるから、ナドキエの製品はないはずなんだ」
それを聞いた後輩は不思議がる。
「じゃあ、なんでこんなところに?」
「さぁ、誰かの忘れ物なのか。ま、そのうち持ち主が持って帰るだろ。こうやって置いてあるんだし、興味があれば使ってみれば」
トレーナーはそう告げた後、他の会員の元へとアドバイスをしに向かった。
「パイセン、どうします?」
「今日はもう使うの決めてるしな」
「俺もです。じゃあ、そのままにしておきますか」
それから数日。そのダンベルの持ち主は現れることはなかった。
最初は持ち主に遠慮して使われていなかったダンベルだったが、いつしかそのことも忘れられて使う会員達が現れる。
だが、
「トレーナーさん、なんだか最近人少なくないですか?」
後輩がトレーナーに聞くと、トレーナーは少し悩んだ後、事情を説明する。
「それが最近、例のダンベルを使った会員の方が次々と倒れていて、噂だとあれは呪われているダンベルだってぃれてるんだ……」
「例のダンベル?」
「持ち主不明のダンベルだよ。ほら、あそこにある」
トレーナーがそう言ってダンベルの置いてある場所を見る。するとそこでは先輩がそのダンベルを持ち上げていた。
「パイセン!?」
「いやー、悪くないな、このダンベル。良い具合に筋肉をいじめられる」
後輩とトレーナーは先輩の元へと駆け寄る。
「呪いのダンベル、使っちゃったんですか……」
「呪いのダンベル?」
トレーナーは先輩にさっきと同じ説明をした後、付け足しの情報を加える。
「そのダンベルを使った人は、その夜に悪夢を見て。一週間後には筋肉が全て死滅するって噂です」
「なっ!? 俺の筋肉が死滅する!?」
先輩はショックを受けながらダンベルを上下させる。
「パイセン、続けて大丈夫なんですか?」
「俺の筋肉が死滅するわけないだろ。大丈夫だよ、ハッハッハー!!」
「楓さん、それはなんですか?」
「あ、リエちゃん。これはね」
楓ちゃんはそう言って家から持ってきた筋トレ道具をリエに見せる。
「こうやって腕の筋肉を鍛える道具なの」
「私もやってみたいです!」
「良いよ」
楓ちゃんは一番軽そうな道具をリエに渡すが、リエは力を入れているが全然動かない。
私は冷蔵庫から棒アイスを咥えて二人の元に戻ってきた。
「楓ちゃん、いつもそんなに持ち歩いてるの?」
「いえ、今日は部活休みだったので、持ってきただけです」
私はアイスを食べながらソファーに座る。
「あれ、休みだったの? 休日で部活ない日は朝から来るのに、今日遅かったじゃん」
「それはですね~」
楓ちゃんは床に置いてあるバックの方へと行き、中をゴソゴソと漁り出す。
「これを買ってきたんです!」
楓ちゃんの手には最近テレビのCMでよく見かける高級な猫缶があった。
それを見たリエが筋トレ道具を元あったテーブルの上に置いて反応する。
「あ、それ知ってます! 旨旨ですね!」
楓ちゃんの持つ猫缶をリエもCMで見たことあるようで興味を持つ。
「それって美味しいんですかね?」
「食べてもらって感想聞かないとね!」
楓ちゃんは猫缶を手に玄関の方を見る。玄関の床では黒猫が平べったくなって寝っ転がっていた。
「師匠~、猫缶買ってきたんですけど、食べますかー?」
黒猫は寝っ転がったまま、ダラけた感じで答える。
「俺じゃなくてミーちゃんに聞けよ」
「師匠だったら、ミーちゃんの気持ち分かりますよね。聞いてみてください」
「……しょうがねーなー。ミーちゃん、飯食うか?」
楓ちゃんに説得されたタカヒロさんが自分の身体の中にいるミーちゃんに聞く。しばらくすると解答があったようで、
「今いらないらしいぞ」
「そうですか」
ミーちゃんに断られた楓ちゃんは残念そうに猫缶を台所の棚の上にある段ボールの中にしまう。
「楓ちゃん、立ってるならついでにこれ捨てて」
私は食べ終わったアイスの棒を楓ちゃんに渡す。
楓ちゃんは私に渡されたゴミを台所にあるゴミ箱に捨てる。
「あ、楓さん、私もアイス欲しいです」
立っているのを良いことにリエも楓ちゃんにお願いする。
楓ちゃんは文句ひとつ言わずに、冷蔵庫を開けてリエと自分の分のアイスを持って、戻ってくる。
そしてリエにアイスを渡すと、リエの座る席の反対側にある椅子に座ってアイスを食べ始めた。
「そーいえば、楓ちゃん。この前の新聞部の子はどうなの? まだ怖がってるの?」
私はソファーの背もたれに寄りかかり、楽な体勢になりながら楓ちゃんに聞いた。
「石上君はあれ以降幽霊の存在は信じるようになったみたい。怖がりも治ってきて、カメラを持って校内を駆け回ってたよ」
それを聞いたリエが楓ちゃんに聞く。
「それじゃあ、また楓さんを付き纏ってたり……」
「う~ん、今のところはないかな。読者の求める記事を作るのがジャーナリストの務めだって、今は心霊じゃなくて別のものを追ってるみたい」
「別のもの? なんなんですか?」
「さぁ? 僕は校内新聞読まないし、僕達に関係がなければ、問題はないかな」
「それもそうですね」
そんな会話をしていると、インターホンが鳴らされて外から声が聞こえる。
「すみません!! 助けてください!!」
男性の怯えた声。結構ヤバい状況で依頼に来たのだろうか。
二人はアイスを食べてるし、私は立ち上がって玄関の方へと向かう。
「はいはーい、今出ますよ」
私が玄関に向かうと、黒猫は立ち上がって靴箱を経由して私の肩に飛び乗る。
「なんで乗るのよ……」
「肩に黒猫乗ってた方が雰囲気出るだろ。それに俺も依頼人の顔見れるし」
ちょっと重たいが、タカヒロさんの言う通り、雰囲気は出る。
私は黒猫に言いくるめられて、そのまま玄関の取手に手をかけて開けようとする。
そのタイミングで扉の向こうから聞こえる。
「俺の筋肉が、俺の筋肉が来週に死滅してしまう!!」
震える男性の声でそんな言葉が聞こえてきた。
私は取手を握りしめたまま、肩に乗っている黒猫を見る。すると、黒猫のコチラを見ていたようで目があった。
「ねぇ、今のどういうこと?」
「それは俺が聞きたい」
「…………」
「とにかく開けてみろ」
私はゆっくりと扉を開ける。そして扉の先には……
「俺の筋肉を救ってください!!」
「パイセン、泣かないでくださいよ。大丈夫です。きっと筋肉は助かりますよ!」
そこには二メートル近い身長のタンクトップを着たマッチョが二人立っており、一人は鼻水を流しながら泣いており、一人はそれを慰めていた。
「何この状況……」
「だから俺に聞くな……」
二人のマッチョを事務所に入れて、二人のパイプ椅子に座らせる。椅子が足りなかったので、私は台所の冷蔵庫の裏にしまってある椅子を取り出して二人の反対側に座った。
「それで事情をお聞きして良いでしょうか?」
黒猫を肩に乗せた状態で私は聞く。すると、マッチョの後輩が答えた。
「それがですね。俺達の通っているジムに不思議なダンベルがありまして、そのダンベルを使うと呪われるという噂があるんです」
また呪い系か……。前回は怪人の呪い。連続で呪い系の依頼が来るなんて、バランスが悪すぎないだろうか。
「呪いのダンベルですか。どういったことが起きるんですか?」
「そのダンベルを使うと、一週間後に筋肉が死滅します」
「え、今なんて?」
「一週間後に筋肉が死滅します」
私は首を動かし肩の上にいる黒猫を見る。黒猫も目を丸くしている。
筋肉が死滅するってどういうこと!?
後輩が説明を終えると、先輩が身体を丸くして泣き始める。
「うおおおおおおおおおおお!! 俺の筋肉よォォォォォ、お前達がいなくなるなんて、嫌だァァァ」
後輩は泣き喚く先輩を宥めながら依頼内容を告げる。
「パイセンはそのダンベルを使ってしまったんです。どうか、パイセンの筋肉を助けてあげてください!!」
「筋肉を助けろって……まぁ、依頼だからやるしかないけど」
先輩が泣き止むと、台所で飲み物の用意をしていた楓ちゃんがお茶を持ってやってくる。
「どうも。パイセン、お茶飲んで落ち着いてくださいね」
「うん」
先輩がお茶を啜る中、楓ちゃんと一緒に宙を浮いてコチラの様子を見に来たリエに聞く。
「これって本当に呪い? 筋肉がーっとか聞いてると、ふざけてるようにしか聞こえないんだけど」
「呪いですよ。あのマッチョの方の一人から霊力を感じます。完全に呪われてますね……でも、気になるのは……」
リエはそう言うとマッチョの二人が持ってきた荷物の上まで飛んでいく。そしてその荷物の真上に着くと、
「この中からもっと強力な霊力を感じますよ。その呪いと同様の霊力を」
「それってまさか……」
リエの話を聞いて私は依頼人の二人に聞く。
「その呪いのダンベル持ってきてるんですか!?」
「え?」
後輩の方はキョトンとした顔で困ったような返事をした。しかし、お茶を飲み終えた先輩はおっとりした顔で
「ええ、持ってきましたよ」
と答えた。
「パイセン!? 何やってんですか!! あれは危険だから捨てるんじゃなかったんですか!?」
「その予定だったんだが、なぜか捨てられなくて、気づいたら持ってきていてたんだ」
それを聞いたリエは小さく呟く。
「誘導されましたね」
「リエちゃん、どういうこと?」
お盆を脇に挟んだ楓ちゃんが依頼人にバレないように小さな声でリエに聞く。
「呪いの元はより強い怨念ってことです。呪ったものを誘導して、さらに呪いを広めようと動く、この手の呪いは厄介ですよ」
リエの説明を聞き、私は依頼人にお願いをする。
「そのダンベルを見せてもらっても良いですか?」
「はい、分かりました」
先輩は持ってきたバックの元へと行くと、しゃがみ込んで中からダンベルを取り出した。
10キロのダンベルが二本。銀色でしっかりとした作りのものだ。しかし、不自然なものが貼られていた。
ダンベルの中央にある持つ部分。そこに巻かれるようにお札が貼られていた。大量のお札が二本ともにギッチリと貼られている。
そのダンベルを先輩がテーブルまで持ってきて置く。近くで見ると私でもはっきりと分かった。
これには不気味な力が宿っている。
「なんでこんなダンベルを使ったんですか?」
「引き寄せられるように……使っちゃったんです」
ダンベルを見て分かった。この依頼人が言っていることは事実だ。
不気味であるが、なぜか近づきたくなる不思議な魅力を感じる。これがリエの言う呪いの効果なのだろうか。
「そのダンベルを使った夜です。変な夢を見たんです」
「変な夢?」
「見知らぬジムで筋トレをしている男性が、動けば動くほど筋肉がなくなって痩せていくんです。そして俺に気づくと、俺のことを指差して…………そしたら俺の同じように痩せていったんです」
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私はテレビの方を見て視線を送る。それを見たリエが察して答えた。
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世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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