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第45話 『海の秘宝と恐怖の海域』

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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?



著者:ピラフドリア



第45話
『海の秘宝と恐怖の海域』




「レイさ~ん。これどこにしまいますか?」



「あ、それはテレビの横の棚よ」



 私とリエが部屋の中を整理していると、部活を終えた楓ちゃんがやってくる。



「あれ? 何やってるんですか?」



「模様替えよ。またには雰囲気変えようかなぁって」



 私は腰に手を当てて自慢げに説明する。部屋の状態を見た楓ちゃんは首を傾げる。



「どこが変わったんですか?」



「え!?」



 楓ちゃんの反応に私とリエが驚く。その様子をソファーの上で丸くなって寝ていた黒猫が嘲笑った。



「そんな違い、分かるやついるかよ」



「師匠、知ってるんですか?」



「ほら、呪いのダンベルの近くに置いてあったガラクタあったろ。あれとテレビの横の
棚にしまってあったものを取り替えただけだ」



「言われてみれば、変わってますね」



「言われないと分からない。その程度の模様替えだよ」



 黒猫は大きくあくびをする。私は黒猫に近づくと、黒猫のお腹を触って撫で始めた。



「ならあんたも手伝いなさいよ」



 黒猫は嫌そうな感じではなく、逆にお腹を広げて撫でられる。



「嫌だよ。俺もミーちゃんも変化は嫌いなんだ。慣れた部屋ってのが落ち着くんだよ」



「そう言いながらサボりたいだけでしょ、こちょこちょ~」



「やめ、やめろ~、ほんとだほんと~」



 黒猫と私が遊んでいるのを楓ちゃんは羨ましそうに見つめる。



「レイさ~ん、これはどこですか~?」



「それはあっちぃ~!」







 模様替えも終えてひと段落。紅茶でも飲もうとお湯を渡していると、インターホンが鳴らされた。



「あれ? 依頼かな。楓ちゃん、お願いして良い?」



「はい! 任せてください!」



 楓ちゃんに客さんの対応を任せ、コップをもう一つ追加して、お客さんの分も増やす。
 私が全てのコップに注ぎ終わった頃、対応を終えた楓ちゃんが依頼人を連れてリビングに入ってきた。



「レイさん、依頼人でしたよ!」



「うん、じゃあ、いつものところに座ってもらって」



 私はお盆にコップを乗せて、依頼人のいるテーブルへ向かう。
 私が台所から顔を出し、依頼人の顔を見ると、私は思わず声を出してしまった。



「え……」



 左手は蟹の手で、髑髏のマークの入った黒い帽子を被った男性。
 右目には大きな傷があり、目は閉じられていた。



「レイさん、この方が依頼人のクラブ船長です」



「海賊だァァァ!!!!」






 私は紅茶を出して向かいの椅子に座った。



「すみません。大きな声を出してしまって」



「ガハハハ!! 気にするな。よくあることだ!」



「それで本物の海賊さんなんですか? コスプレイヤーとかじゃなくて」



 クラブ船長は腕を組む。片腕が蟹の手であるために苦戦していたが、問題なく出来たようだ。



「本物の海賊だ!!」



 私がショックで言葉が出ないでいる中、私の後ろでリエが興奮した様子でウキウキしている。



「本物の海賊! 凄いです!!」



 リエがあれだけ騒いでいるが、クラブ船長は反応しないということは、リエの姿は見えていないのだろう。



「それで依頼ってなんですか?」



 私が尋ねると、クラブ船長は古そうな巻物を取り出した。
 そしてそれをテーブルに置いて広げる。



「これは……」



 そこには球体の絵が描かれていた。周りには解説のような文字が書いてあるが、私には読めない文字だ。



「これは海の星と言われる秘宝、マリンスターだ」



「マリンスター?」



「海底のどこかにあると言われているが、その実態は未だに掴めていない伝説のお宝。今、俺の海賊団はこれを狙っている」



「凄そうなお宝を狙ってるんですね……」



 そんな話をされても私は興味はない。だが、私以外のメンバーは、



「師匠~、お宝ですって」



「ああ、これは凄そうだな。リエ!」



「はい!!」



 みんなノリノリだ。



「クラブ船長さんがお宝を狙ってるのは分かりましたが、なぜ、ここへ?」



 私はクラブ船長に尋ねる。



 お宝を狙ってるのは分かったが、肝心な依頼内容が分からないのだ。
 すると、クラブ船長は大きく口を開けて笑う。



「ガハハハ!! 心配するな。しっかり依頼に来ている!!」



 するともう一つ巻物を取り出してそれをテーブルに広げた。そこには大きな三角マークとその中に髑髏マークが書かれていた。



「バミューダトライアングルって知ってるか?」



「え、ええ一応。三角形の怖い海でしょ、船が消えるとかの……」



「ガハハハ!! 分かってるな。そう、バミューダトライアングルは大西洋にある三角形の海域で、船や飛行機の乗客が消えるという噂のある場所だ。だが、こいつは少し違う!」



「違う?」



 私が首を傾けると、クラブ船長は自慢げに語りだす。



「俺達、船乗りに伝わる伝説の動く海域。バミューダよりも小さいが、動くことができる海域、それがこの地図に載っている、ウォーキングトライアングルだ」



「歩いちゃってるけど!?」



 クラブ船長はテーブルに手をついて身を乗り出す。



「移動するウォーキングトライアングル。そこにマリンスターがあると俺は睨んでる! そしてその海域が明日、東京の近くに来る。俺達はそこに行きたい!!」



「行けばいいんじゃないですか?」



「危険な海域だ。だからこそ、幽霊に関するスペシャリストが必要だ。力を貸してくれ!!」



 どうやらその海域が怖いから、私たちについて来てほしいということらしい。
 怖い顔してるのに、幽霊が怖い海賊ってどうなのだろうか。



「ちょっと待っててください。相談してきますね」



 私はみんなを連れて台所に集合する。そしてどうするかの相談を始めた。



「どうする? あんな海賊について行ったらどこに連れてかれるか分からないよ。というか、本当に海賊なのか怪しいし!」



 私が疑う中、リエは手を上げる。



「私は行ってもいたと思いますよ。面白そうですし」



「僕も良いですよ。沈没しても僕なら泳いで帰れます」



「いや、それは無茶ですよ……」



 リエと楓ちゃんは依頼を引き受けても良いらしい。



「でもなぁ……」



「俺は反対だ。あんな怪しい海賊は信用できない。それに海に出るってことはあいつの船に乗ってことだ、どうなるか分からんぞ」



 タカヒロさんは反対派らしい。



 意見が割れて依頼を引き受けるかどうかで迷う。
 迷っていると、リビングにいるクラブ船長がその場から私達に話しかけてきた。



「ガハハハ!! 船に乗ってもそんな遠くまではいかん。日帰りの依頼だ」



 依頼内容をクラブ船長は追加する。



「日帰りですよ、大丈夫じゃないですか?」



 リエは黒猫を説得しようとする。黒猫は心配そうに私の方を見てきた。



「はぁ、いつまでも迷っているわけにもいかないしね。引き受けることにしましょうか」



 クラブ船長も私達のことを必要としているし、そこまで遠い場所ではないという話だ。
 私達は依頼を引き受けることにした。










 依頼を引き受けて翌日。私達は桜木町から歩き、赤レンガ倉庫にやって来ていた。



「昨日、待ち合わせ場所って言ってたのはここよね」



「そうですね」



 私達は建物の横を通り、海の見える場所まで来た。しかし、そこには海賊船のようなものなど見えない。



「あれじゃないか?」



 私の頭に乗っている黒猫が遠くに見える大きな船を指す。



「いや、あれは違うでしょ」



 遠くに見える船はどう見ても海賊船というよりも、普通の客船だ。あれじゃないのは確かだろう。



 海を見渡して海賊を探していると、楓ちゃんがモジモジしながら話しかけてきた。



「あ、あの……」



「どうしたの?」



「お手洗い行って来ていいですか? ちょっと我慢できそうになくって」



「分かったよ」



 楓ちゃんを見送ると、黒猫が呟いた。



「お前は良いのか?」



 私は無言で頭を海に近づけてお辞儀して、落とすフリをして黒猫を驚かせた。



「レイさん。レイさん、あれ見てください!」



 ちょっと目を離したうちに、リエが何かを発見して戻って来た。



「なに?」



「遊園地ですよ!!」



「さっきからあったじゃない」



 リエが来た方向を見ると、そこには遊園地が見えている。



「レイさ~ん、行きたいです~!!」



 リエは私にしがみついて譲ってくる。



「あ~、分かった。分かったよ、今度ね、今度~」



 適当にあしらってリエを黙らせる。



 しばらくして楓ちゃんが帰ってくると、楓ちゃんと一緒に海賊帽子を被った男性も歩いて来た。



「トイレでばったり会いました。大きい方してましたよ」



「報告しなくて良いよ!!」



 やっとクラブ船長と合流できた。クラブ船長は現れたが、肝心の海賊船と船員達が見当たらない。



「クラブ船長? 船はどこなんですか?」



 私が心配そうに聞くと、クラブ船長は大きく口を開けて笑い、帽子の中から無線機を取り出した。



「ガハハハ!! 安心しろ、船はこれから現れる!!」



 そう言ってクラブ船長は無線で仲間に連絡をする。
 私達は海の向こうから船が現れるのだと思っていた。しかし、



「おい、見ろ!」



 海面が大きく揺れ、海の底から黒い影が現れる。海を割り、水中からマストが顔を出す。そしてそれに続いて、船の全面が姿を現した。



「いつの時代も海賊は肩身が狭い。港に止めることができないからな、うちの潜水機能付きで水中に止めるんだ」



「えぇーー!!!!」



 船が現れると、船内から海賊達が現れた。まるで時代を超えて来たかのような、海賊っぽい衣装を身につけた人達。
 こうやって船に乗ってなければ、ただのコスプレだろう。いや、乗っていてもほぼコスプレだ。



 クラブ船長は船員が投げたロープの梯子を手に取る。



「さぁ、お前達も乗れ、これより出航する!!」








 船が出航し、私達の船の旅が始まった。



「オロロロロロロロ~」



 リエと楓ちゃんが盛大に口から液体を吐き出す。



「あなた達……大丈夫?」



「こ、これが大丈夫そうに、見えます、か……オロロロロロロロ~!!」



「見えないね」



 私は船酔いでやられている二人の背中を摩る。船が出航して一時間、二人はすでに疲れ切っている様子だ。



「そういうお前は大丈夫なのか?」



 私の頭に乗っている黒猫は、二人の様子を見て聞いて来た。



「私は大丈夫よ。基本乗り物酔いはしないしね。そういうあんたはどうなのよ?」



「俺か。俺も問題ない方だ。だが…………うっ、うげぇ」



「人の頭で毛玉吐かないでよ!!」



 私は黒猫を下ろして、毛玉を海に捨てて頭を洗う。
 色々と悲惨な状態の中、クラブ船長がマストの上から降りて来た。



「ガハハハ!! 海の旅、大変そうだな!」



「海の旅っていうか、私は猫の世話が大変なんですけどね」



「ガハハハ!! 動物の世話は大変だな。命を預かってるわけだしな!!」



 陽気に笑うクラブ船長。クラブ船長は私達に並んで船の甲板に立つと、



「オロロロロロロロ~!!!!」



 盛大に液体を吐き出した。



「あんたも船酔いしてるのかよ!!」



「ガハハハ……。こういう揺れるものに弱いんだ。赤ん坊の頃はベビーカーでも吐いたらしい」



「船乗り向いてないよ」



 そんなことをしていると、船の前方を見張っていた船員が叫ぶ。



「船長、見えて来ました!!」



「ついに来たか!!」



 クラブ船長が船の先端へ走る。私達もクラブ船長を追いかけて、船の前の方へ向かった。



「あれがウォーキングトライアングル…………」



 私達のいる真上は快晴だ。だが、前方に巨大な雷雲が上空を塞いでいた。
 さらには雲の下の海は大きく荒れており、雲の上と外で大きく変化しているのが、見た目で判断できる。



 クラブ船長は船の先頭に立ち、振り向くと船員を見渡す。そして大きく息を吸い、



「これより俺達はあそこに行く!! 気を引き締めろ、お前達!! ……オロロロロロロロ~」







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